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第七話
しおりを挟む……計画?
今、お姉様は“計画”と言ったわ。
お姉様は何を考えているのかしら……?
何だか目の前のお姉様が不気味で仕方ない。
私を睨んだ後のお姉様は、今度は何やら呟き始めた。
「……で、ジーク様は…………なはず…………だったのに……」
お姉様の呟く声は小さすぎてうまく聞き取れなかった。
ジークフリート様に関係のある事を呟いているのが分かったから、どうしても気になってしまう。
そんなお姉様を黙って見ていたら、ようやく顔を上げたお姉様と再び目が合った。
「ねぇ、リラジエ? どうしてお役目を果たしてくれないの?」
「お役……目?」
突然投げ掛けられたお役目という言葉。意味が分からなくて私は戸惑う。
何の話なの?
理解出来ていない私に腹が立ったのかお姉様は怒鳴った。
「だから!! アンタは私の引き立て役なんだから、その役目を果たしなさいって言ってるの!! なんで分からないのよ」
(お姉様は何を言って……?)
「私ね? いつだったかしら? アンタを見ていて思ったのよ。私は一人でも充分過ぎるくらい美しいけど、そこに引き立て役がいたらもっともっと美しく見えるのではないかしらって」
お姉様はニッコリと毒薔薇の微笑み全開でそんな事を言った。
「だから、リラジエには私の引き立て役として、そのお役目を果たして貰わないと困るのよ。分かるでしょ?」
「…………」
余りの傍若無人な発言に私は言葉を失っていた。
──てっきり、私に元恋人を紹介してくるのは、お姉様が捨てた男の人達に笑われバカにされて相手にもされない私を見て楽しんでいるだけだと思っていた。
でも、それだけじゃなかったんだ……!
「他の男達には、うまくいったのよ」
「……」
「みーんな、アンタを紹介した後は、やっぱり私が良いって言ってくれたの……でも……」
もちろん、寄りなんて戻さないけどね! とお姉様は笑いながら言った。
お姉様はどこまで人の気持ちを弄んでいるの……?
何だか悲しくなった。
「だからね? リラジエ。今からでも遅くないと思うのよ。アンタからも言ってちょうだいな? ジーク様に私と……」
「嫌! 絶対に嫌!!」
私はお姉様の言葉を遮るかのように叫んだ。
お姉様が何を言いたいのかはよく分かったわ。
だけど、そんなの絶対に嫌!!
「私はお姉様の引き立て役なんかじゃないもの!!」
以前の私ならきっとこんな反論しなかった。
だけど、黙っていられない。
だって、ジークフリート様は、こんな私を可愛いと言ってくれた!!
たくさんお世辞……は入っているかもしれないけれど、それでも!
初めてあんなに私の事を“可愛い”と言ってくれた人の言葉を信じたい!
「………………はぁ? アンタ、何を言ってるの?」
お姉様が怪訝そうな顔を私に向ける。
「何を言われても……嫌なものは嫌!」
「だから! 口答えするんじゃないわよ! 言ったでしょ? アンタなんかに彼は無理だって!」
「……!」
「もちろん、私が言いたいのはリラジエとジーク様じゃ全然釣り合ってないって事も含めて言っているのよ? 釣り合わないのに一緒にいるのって大変だもの。だから私は心配して言ってあげてるのに。なんで分からないのかしら」
「っ!」
そんな事は言われなくても私が1番分かっているわ。
……それでも、私は……!
「ジーク様と並んでも見劣りしない女性なんて私くらいでしょ? だからアンタには無理なの。だからさっさと……」
お姉様は身勝手過ぎるわ!! そう思った。
そもそも、ジークフリート様に飽きたからと。
いらないからと言って私に押し付けようとしたのはお姉さまの方だ!
それを何を今更……!
「無理かどうかを決めるのはお姉様では無いわ!」
正直に言っても、今の私とジークフリート様の関係が何? と問われてもきっと上手く答えられない。
ただの知り合い? 友人? ……恋人候補?
分からないけど。
でも、無理だとか釣り合わないとか、そんな事はお姉様が決める事ではないもの。
私とジークフリート様の問題なのよ。
たとえ、お姉様が彼の“元恋人”という肩書きがあっても、それはもう終わった事なのだから、邪魔なんてされたくない!
「な! 生意気言うんじゃないわよっ!!」
「生意気ではありません! 本当の事を言っただけです!」
「はぁ!? ……な、な、なんなのよ! …………調子に乗って! リラジエのくせにっ!」
いつも、しぶしぶ従うか黙っているだけだった私の初めての反論に、お姉様は少し戸惑っているように見えた。
最近……いや、ジークフリート様のおかげで知ったけれど、お姉様は予想と違う事をされると、すぐうろたえる所がある気がする。今もまさにそうだった。
「…………後悔させてあげるわ」
しばらく喚いた後、お姉様が震える声で私を睨みながらそう言った。
「え?」
「え? じゃないわよ! 私に逆らった事。後悔させてあげるわって言ってるのよ!」
──覚悟しなさい!
お姉様はそう言って私をひと睨みした後、部屋に戻って行った。
(後悔させてやる? いったいどうやって?)
でも、あのお姉様の事だもの……
何を言い出し、しでかすかは分からない。
だから今までは何を言われても逆らわずに過ごして来たのに。
でも、今回の話だけは聞けなかった。
「……だって、嫌だったんだもの」
◇◇◇
「え? 私の社交界デビューのエスコート?」
お姉様の物騒な予告から、はや数日。
これと言った事も何も起きないまま、とりあえず日々だけが過ぎて行った。
そしてその日、お父様は私に言った。
「そうだ。何故か分からんが……フェルスター侯爵家のジークフリート殿がお前のエスコートをしたいと申し出ているんだ。お前、ジークフリート殿と知り合いだったのか?」
「そうですか。エスコート………………えぇ!?」
ジークフリート様!? あなたは今度は何を言い出したの……!
…………本当にジークフリート様は私の心臓を止める気なのかもしれない。
心の底からそう思った。
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