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30. 悪役にされた令嬢と令息は対決のためにパーティーへ向かう

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  色々な事に決着をつける事になるはずのパーティー当日。
  我が公爵家の侍女達による手で私の姿はこれでもかと綺麗に磨かれていた。

「お嬢様!  今日は前回より気合を入れてもっとふっわふわの髪にしますよ!」
「え?  ええ……」

  そう言って髪の毛がふわふわに整えられていく。

「あぁ!  楽しいわ!  美しいお嬢様を更に美しくする!  とても気持ちいい!  幸せ!」
「……」
「最近のお嬢様はますます綺麗になられましたからね!  やっぱり愛ですよね、愛!」
「……」
「これは会場に集まった人達が、ますます見惚れちゃいます!」
「……」
「ドゥラメンテ公爵令息様もメロメロ……いえ、もう愛らしすぎて片時もお嬢様の事を離さないんじゃないかしら?」

  (えっと……?)

  私の支度を整えながら、わいわいと盛り上がる侍女達の会話に全くついていけない。

  (ジョーシン様の好みだと思ってた頃の大人っぽい女性メイクをお願いしていた時は、こんなにはしゃいだり、楽しそうではなかったのに……)

  むしろ、悲しそうだった。
  勿体ない、勿体ない、勿体ない……と何かを呪っているかのような言葉を呟いていたっけ。

  (皆、自然体の私の方を好んでくれているのね)

  そう思うと嬉しさがじわじわと込み上げてくる。
 
「さぁ!  お嬢様、このドゥラメンテ公爵令息様の瞳の色のドレスを着て、二人の熱々っぷりを皆様に目一杯アピールして来て下さいませ!!」

  今日のドレスはディライト様の瞳の色の青いドレス。
  彼と婚約してから何故か青いドレスが仕立てられる事が増えた。

「殿下は美しいお嬢様にあんな装いをさせ続けた事を、生涯後悔するといいですわ!」
「お互いの色を纏い見つめ合って微笑み合う麗しの美男美女……素敵だわ!  最高!  眼福!」

  (凄く期待されている……!?)

  
 こうして、
  一度でも触れた何度でも触りたくなり、虜になってしまいそうなふわふわの髪。
  元々の美しい素材を生かしつつ、更に磨きがかかりもっと美しくなっているのに決して厚すぎないメイク。
  ───美の女神という存在が実在したらこうなるのでは?
  と誰もが唸りたくなるくらいの絶世の美女がアーベント公爵家で誕生していた。


───


「えっと……シャル……シャシャルシャルロッテ!?」
「??  どうしました?  ディライト様。私ですよ?」

  いつものように私を迎えに来たディライト様の様子がおかしい。
  玄関でカチンコチンに固まったディライト様はいつもより吃り、シャシャルシャルロッテなんておかしな呼ばれた方をされた。

「きょ、今日は……いや、今日も、かかかか可愛い!」
「ありがとうございます」
「すっごく、ぅぅううう美しい!」
「ありがとうございます」
「…………あぁぁ、駄目だ!  また俺の語彙力消えた!」

  ディライト様はそう言って頭を抱えた。

  今日のディライト様もとーーーっても格好良いのに。
  何だか発言が……今日は残念な人みたいになっている。

  しばらくして、ようやく落ち着いたのか私の目を見ながらディライト様は言った。

「今日はさ、俺が無理やり開催させる事にしたパーティーだけど」
「だけど?」
「あまりにもシャルロッテが可憐で綺麗すぎて皆に見せたくない。こんなの絶対に誘拐を企む奴が現れる……」
「誘拐って、子供じゃないんですから」

  ディライト様ったら、何の心配をしているのかしら?

「いいや!  有り得る話だ!  誘拐犯はシャルロッテを独り占めしたくなってしまい誰の目にも触れられない所に監禁してしまうんだ……」
「えっと、誘拐に監禁?  どれも全部、犯罪ですからね??  そんな大それた事を公爵令嬢にしませんよ」

   私がそう言うと、ディライト様は苦笑いをしながらギュッと私を抱きしめた。

「まぁ、俺が片時も離さなければいいだけか」
「あ、メロメロ……」
「ん?  メロメロが何だって?」

  ディライト様が私の顔を覗き込む。
  あまりの距離の近さに心臓が大きく跳ねた。
  
  (近い……近いから!)

  私は赤くなった頬を抑えながら答える。

「さっき支度を整えてくれた侍女達が、今日はたくさん着飾ってディライト様をメロメロにしないとって言っていたのを思い出しました」
「……」
「ディライト様は誘拐したくなるくらいメロメロになってくれていますか?」

  何故かディライト様はそこで黙り込むと小さな声で何かを呟く。

「当然だ!  今すぐ攫ってしまいたいに決まっている!  それで、俺の部屋に閉じ込めて……」
「ディライト様?」

  ディライト様の様子がおかしい。

「はっ!  …………俺はもう毎日シャルロッテにメロメロだし、周囲にだってこんなにバレバレなのに何故こうも本人は鈍いのか」

  ハッとした様子を見せたディライト様が今度は落ち込み始めた。

「??」
「やっぱり、ジョーシン殿下のせいなんだろうな。さすが、俺の抹殺リストの1番上に名前が書かれているだけある」
「……ディライト、様??  また、抹殺?  何の話ですか?」

  ジョーシン殿下と抹殺という言葉が聞こえて来て、自分達の目的って暗殺だったかしら?  と心配になった。さすがに命まで取る気は無い。

「いや、こっちの話だよ」

  そう言ってディライト様は私の頭を優しく撫でる。
  これ以上は話していると遅れそうなので、私達は手を繋いで馬車へと向かった。


────


「あぁ、ふわふわだ……」
「っっ!」
「この髪もこの俺の腕の中にすっぽり収まる身体も……全部……」

  パーティーに向かう馬車の中でディライト様は、私を抱き寄せ、ひたすらこの言葉を繰り返していた。

「…………それは、僕に挑発しているんですか!?」
「ははは!  そう見えるか?」
「……ぐっ」

  そう。今日のパーティーには、あの双子の片割れのマルセロ様を“力”を使う事を禁止し、変装させてこっそり連れて来ている。
  こちらの合図があるまで誰かに正体をバラしたり、力を使うなどもし約束を破ればディライト様の権限で即刑務所行きが決定しているらしく、マルセロ様は大人しく着いて来た。

  (確かに彼がいないと始まらないけど……) 

「くそっ……何だよ、めちゃめちゃ可愛い……姉さんは作り物のまがい物とか言ってたけどこれ、天然物だよ……」

  マルセロ様は向かい合う私を見ながらぐちぐち呟いている。
  監視の意味も込めて同じ馬車に乗せたのだと分かっていても、何だか……マルセロ様からの視線が……
  私はディライト様の服の裾を引っ張りながら言う。
  
「ディライト様、マルセロ様の視線がさっきから気持ち悪いです」 
「なっ!?  アーベント公爵令嬢!?  僕はその君のふわふわした様子に、か、可愛いと少し見惚れただけで……」
「……あなたからの可愛いは要らないです」
「んなっ!?」

  ディライト様がマルセロ様の視線から私を隠すようにして言った。
  
「シャルロッテ……すまない。しかし、さすが、ジョーシン殿下に次ぐ俺の抹殺リスト第2位に名を連ねる奴なだけある。だが今は我慢して欲しい。俺だって可能ならシャルロッテに見惚れるというその目を抉ってやりたい気持ちだが……」

  ディライト様の嘘か本気か分からない発言にマルセロ様は顔を引き攣らせる。

「ドゥラメンテ公爵令息様……?  その、冗談は程々に……してください」
「ははは!  何を言う?  俺はいつでも本気だが?」
「!!」

  それっきり、マルセロ様は青い顔をしたまま俯いてしまいこっちを見なくなったのでホッとした。
  その代わり、ディライト様は会場に着くまでずーっと離してくれなかった。

  そうして、馬車は目的地へと辿り着く。

「シャルロッテ」
「はい」

  ディライト様の手を取って馬車を降りる。

  ───さぁ、ジョーシン様、イザベル様、ミンティナ殿下……全てに決着をつける時よ。
  私とディライト様を悪役呼ばわりしてポイ捨てした事、後悔させてあげるわ!!

  
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