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24. 何かを企む双子の姉はターゲットを変更する事にした
しおりを挟む「また、門前払いなの!?」
「あぁ。そうなんだよ、姉さん。思っていた以上にガードが固いよ。さすが公爵家……」
負け組その1の悪役男にはうまいことクッキーを渡せたから、次は悪役令嬢だ! そう意気込んだのは良かったけれど、悪役男と違って悪役令嬢は家から出て来ない!
(これじゃ、魅了なんて無理! 何も出来ないじゃないの!)
というわけで、もう他に方法がないので直接悪役令嬢の元を訪ねる事にしたのだけど──
(まさかの門前払い!)
こうなったら、マルセロに力を使わせて門前払いしてくる使用人を魅了して虜にして、こっそり悪役令嬢に引き合わせてもらおうと画策したけれど……
「毎回毎回、対応する人間が違うんだよ……」
「何よそれ!? どれだけ人がいるのよ!!」
「……さすが公爵家だよね」
「ちょっと! 感心しているんじゃないわよ!」
まるで力の事がバレているかのように先手を打ってきた。
……そんな事、あるはずないのに。
マルセロの力は一度会っただけの人間に効かせるには弱い。
私達に対して“好意”があれば魅了にかかりやすいと言っても、初めてかける相手なら何度か顔を合わせる必要がある。
なのでこのように毎回、対応する相手が違ったら魅了をかけて虜にして仲間に引き入れるのは難しい。
「姉さんの力なら、好感度が高ければって条件はあるけど、即効くのにね」
「……」
逆に私は食べ物を介してでないと相手を魅了出来ないハンデがあるせいか、力を込めた食べ物を相手に食べて貰えて、更に好感度さえあれば効き目はマルセロよりも断然早い。
「……こうなったら、悪役男……ドゥラメンテ公爵令息の方側から攻めていくしかないわ」
「そうだね」
悪役男は悪役令嬢と婚約をしている。
私達の手に墜ちた彼がマルセロを連れて公爵家を訪ねればきっと、悪役令嬢とマルセロは対面出来るはず!
(クッキーは食べてくれたかしら?)
次に会った時に確かめなくちゃ!
と、思っていたのだけど────……
「ジョーシン殿下、しばらく王宮に来ないでくれ? って何でですか?」
今日も私はクッキーを焼いて王宮のジョーシン殿下の元を訪れた。
また、いつこの魅了の力が揺らいでしまうのか分からないので、なるべくたくさん殿下に食べさせようと思ったのだけど……
「イザベル! 君もこの間の舞踏会で聞いただろう? あのディライトが私を蹴落として自らが王位につこうとしている!」
「え、ええ……」
「そんな事は許されない! 王位を継ぐのは私だ!」
ジョーシン殿下はこの間の事がすごくショックだったらしい。
「その為には最近、少々休みがちだった公務に力を入れて私の優秀さを周りにアピールしておく必要がある! だから、しばらく君との時間は取れそうにない──」
「……」
何だか格好良い事を言っているけれど、私は気になった事がある。
「ですが、殿下? 確かに前はそこの机の上にお仕事が沢山溜まってましたけど、今はもうそういった書類がどこにもありませんが、すでにお仕事は片付けられたのですか?」
あの仕事の山を颯爽とこなせるのなら、やっぱりこの方が王となるのに相応しい──
「いや。気付いたら仕事の山は無くなっていた。私が処理したわけでは無い」
「……え?」
「だが、この先の公務はしっかり……ってなんだ、イザベルその顔は」
「……」
(処理をしていない仕事の山が無くなっていた……ですって?)
それ、見限られたのではなくて? 今更アピールしても遅いのではないの?
優秀な王子って“設定”だったから、息抜きなら少しくらいしてもいいわよねって思って、毎日のように訪ねていたけど……ジョーシン殿下って本当はそんなに優秀じゃないのかも?
(もし、ジョーシン殿下が見限られていたなら、私のハッピーエンドはどうなるの?)
この国の王妃として崇められチヤホヤされるハッピーライフは?
冗談じゃないわよ!?
「……!」
(王妃? そうよ! それならあの悪役男側につけばいいのよ!)
彼が狙い通りに次の王となって私が彼の妃になる!
これなら完璧じゃない?
ジョーシン殿下を王位につけるために、あの二人の仲を引き裂こうと思ったけれど、一旦中止した方が良いかしら?
そもそも悪役男と悪役令嬢の婚約は、王位継承ために結ばれた婚約に違いないと思うのよ。
私やマルセロのように魅了でも使わない限り、あの化粧詐欺女と短期間で恋に落ちるなんて有り得ないからね。
だから、無事に悪役男が王位についた後は、悪役令嬢はお役御免ということにならないかしら?
そこで悪役令嬢と引き離して代わりに美しい私が王妃に収まるの!
(王位継承の為に好きでもない女と婚約しているけど、本当に好きなのは君だよ、作戦!)
その為には、今から彼をたくさん魅了しておく必要があるわね!
ふふ、これも“真実の愛”っぽくないかしら?
いえ、むしろジョーシン殿下とよりもこっちの方がそれっぽい……ふふ、ふふふ。
───これね!
私のハッピーエンドに辿り着くにはもうこれしかないの。
(幸い、悪役男の手にはクッキーも渡っている……沢山、食べさせればもう私の虜になる事、間違いなし!)
そうと決まったらこっちの無能と化した王子とはおさらばよ!
私は目にうるうるした涙を浮かべながら悲しそうに言う。
「……分かりましたわ、殿下。あなたの邪魔はもうしません」
「イザベル……」
たっぷり魅了したせいか未練あります、っていう顔をしているわね。
ふふ、私ったらなんて罪な女なのかしら。
「ジョーシン殿下、あなたが立派な王となるのを私は陰ながら応援していますわ……」
「いや、イザベル。私が王となった時は必ず君を妃にすると約束する! だから、それまで待っていてくれるか?」
「まぁ! 嬉しいです!」
(多分、殿下、あなたは見限られていると思うけどね~)
「私、待っています……ね?」
「ああ!」
(───もう、用済みよ。私は新しい“真実の愛”に生きるの)
殿下の私室を出て歩き出した所で、次のターゲットを発見した!
(あの後ろ姿は、悪役男じゃないの。何ていいところに! これはチャンス!)
このクッキーを食べさせて私に夢中にさせてみせるわ!
「ドゥラメンテ公爵令息様~!」
私はこれまで、数多の男達が私に惚れたとびっきりの笑顔で彼に声をかけた。
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