10 / 45
10. 何かを企む双子と悪役にされた令嬢と令息のデート
しおりを挟む「はぁ? 凄い美人と、凄い美形が街にいるですって?」
「嘘じゃないんだよ、姉さん」
今日もこれから愛しの王子の元に向かおうと準備をしていたイザベルの元に双子の弟のマルセロが変な噂を仕入れて来た。
午前中、街に買い物に行っていたらしいけれど、いったい何があったのか。
「何を馬鹿な事を言っているの? 私達以上の美人と美形がいるわけないでしょう?」
自分の美貌に自信を持っているイザベルがそう答えるも、マルセロは譲らない。
「凄い人だかりでよく見れなかったけれど、皆、その二人に見惚れてばかりいた」
「それだけで、何で美人と美形だって分かるのよ?」
「だって、誰もこの僕の事を見なかったんだよ!? いつもなら僕の事を見かけると、誰だってうっとりした表情を見せてくるのに、だよ!?」
マルセロの言葉にイザベルは、はぁ……っとため息を吐く。
「そんな事あるわけないでしょう? 私達を誰だと思ってるの?」
「でも!」
「マルセロ! この世界は私達が主役なのよ? 私達以上の人間なんていないのよ!」
「分かってるよ、姉さん。でも……」
マルセロは思う。
姉さんは、街のは人達のあの様子を見ていないからそんな事が言えるのだ。
───すごい美形な二人
───溜息が出そうくらい惚れ惚れする
───今まで見た誰よりも素敵
───あんなにも美しい人達がいるものなのか
その二人を見かけたという人達から出る言葉はそんな絶賛と称賛の嵐だった。
こんなにも目立つ容姿をしているのに、街に出て自分が誰からも見向きもされないなんてマルセロにとっては初めての経験だった。
「……仮にそんな人達がいたとしても、モブでしょ! モブ!」
「そうかなぁ……」
「そんな事より。マルセロ、アレの準備は出来てるの?」
「も、勿論だよ……!」
そう言ってマルセロは“ある物”を手にする。これは欠かせない。
「姉さんこそ!」
「ふふ、私はあなたが、出かけている間に嫌ってほどクッキーを焼いたわよ」
「また? さすがに殿下も飽きるんじゃない?」
マルセロのその指摘に、イザベルはムッとする。
「クッキーが一番簡単で効率がいいのよ! 殿下はもちろん、毒味役まで口にしてくれるんだから!」
「はいはい、そうでしたー……」
「それでなくても、ジョーシン殿下はもう私にメロメロで夢中なのよ! まぁ、この美貌だから当然だけどね、ふふ」
イザベルはよく誰もが口を揃えて可愛いと褒め称えてくれる笑顔を浮かべる。
「マルセロの方こそ、ミンティナ殿下はどうなの? まだ、不完全に思えたわよ? 甘いんじゃないの?」
「うっ……」
「負け組達の婚約にミンティナ殿下は動揺していたじゃないの」
「わ、分かってるよ! ミンティナ殿下はあんなもっさり悪役令息のどこが……」
「ふんっ、それを言うならジョーシン殿下もよ。あんなケバい悪役令嬢のどこが……」
二人はそっくりな顔で同じような発言をする。
「とにかく! 私は王妃となって、あなたはミンティナ殿下を娶るのに相応しい爵位を賜わる。それで私達はハッピーエンドとなるの。これは絶対なのよ! 婚約破棄は達成したからあと少しなんだから」
「分かってるよ、姉さん……」
───双子は知らない。
マルセロが街でちゃんと顔を見る事が出来なかった、美人と美形の二人が誰なのか。
そして、その二人が何を企んでいるのか────……
───────……
しばらく無言で見つめ合っていた私達だけれど……
「と、とりあえず歩こうか」
「そ、そうですね」
視線はすごく感じるけれど、理由はよく分からないし、声をかけられるというわけでもなさそうなので気にしない事にした。
(あの日の冷たい目とは違うし)
ジョーシン様に婚約破棄を言い渡された時と違って悪意は感じないし、どちらかと言うと暖かい。
「シャルロッテ?」
「あ、いえ。行きましょう」
そうして私達は手を繋いで歩き出した。
「ディライト様は何が欲しいですか?」
私の持ってるお小遣いで足りる物でないと困るのよね、そう思った私は、ディライト様に何が欲しいのかを訊ねる事にした。
ちょっとぼんやりした様子のディライト様は即答した。
「シャルロッテ」
「……はい?」
私が聞き返すとディライト様はハッとしてコホンッと咳払いを一つすると慌てたように言う。
「…………が、選んでくれる物なら、な、何でも嬉しいよ」
「そういう答えが一番困るんですよねぇ……」
「ごめん」
ディライト様が苦笑する。
(でも、よく考えたらディライト様は公爵家の方だもの。欲しい物なんてすぐ買えてしまうわよね)
「もっと他のお礼の方が良いのかしら?」
私は小さな声でそう呟く。
「え?」
「いえ、ディライト様が欲しいと思っている物ならまだしも、そうでない物を無理やり押し付けるのもどうなのかしら? と思いまして」
「シャルロッテ……」
「だって、その……やっぱり、贈り物は心から喜んで貰いたいじゃないですか」
私が照れながらそう言うと、ディライト様が私と繋いでいない方の手で顔を覆っている。
少しだけ見える頬と耳がほんのり色付いている気がする。
「ディライト様?」
「だから……もう…………あぁぁ……」
そして、よく分からない唸り声をあげた。
「シャルロッテ!」
「はい!」
「少し早いけど、とりあえず、ご飯にしよう!」
「は……い?」
確かにもうすぐお昼の時間ではあるけれど……
「フタリデイルトダメダ、フタリデイルトダメダ、フタリデイルトダメダ……お店でも、何でもいい……人のいる所……」
「?」
ディライト様が何やら早口で呪文のようなものを唱えている。
(もしかして、そんなにお腹が空いていたのかしら?)
そうして私達は、まず食事をする事にした。
───
「シャルロッテは行ってみたいお店とかある? 食べたい物でも構わないけど」
「そうですねー……」
私はキョロキョロと周辺を見回す。
私からすれば何でもかんでも新鮮に映ってしまってしょうがない。
「あ、あれは何ですか?」
私は広場の中央に陣取っているお店にしては質素な作りの建物に指をさしながら訊ねた。
(いい匂いがするし、人も並んでいるから食べ物屋さんだと思うのよね)
「あれは屋台」
「屋台……」
「んー、何だろう移動出来るお店と言うか……」
「移動するの?」
そういう形態のお店もあるのね。と、感心する。
言われてみればどこかで聞いた事あるかも。
(行ってみたい!)
私の目が輝く。
「公爵家のお嬢様はあまり口にされない物かと……」
「そんなの構わないわ! 行きましょう? あそこに並べばいいのね!」
「こ、こら、シャルロッテ! 待て……」
本当にこれまで私が見て来た世界って狭かったんだわ、と思い知らされた。
ずっと家と王宮の往復ばかりで。
王室が招いた講師による勉強の日々……
(こんな街の世界は知らなかったわ)
誰も教えてくれなかったし、知ろうともしなかった。
ジョーシン様に捨てられなかったらきっと知らなかった世界。
(偽りじゃない本当の自分の姿で、街を歩くなんてね)
ディライト様が“デート”なんて言うから身構えてしまったけれど、こういうのが“デート”ならまたしたいと思った。
「……」
その時、一緒にいる相手はまたディライト様だったらもっと嬉しい気がする。
99
お気に入りに追加
5,581
あなたにおすすめの小説
【完結】年下幼馴染くんを上司撃退の盾にしたら、偽装婚約の罠にハマりました
廻り
恋愛
幼い頃に誘拐されたトラウマがあるリリアナ。
王宮事務官として就職するが、犯人に似ている上司に一目惚れされ、威圧的に独占されてしまう。
恐怖から逃れたいリリアナは、幼馴染を盾にし「恋人がいる」と上司の誘いを断る。
「リリちゃん。俺たち、いつから付き合っていたのかな?」
幼馴染を怒らせてしまったが、上司撃退は成功。
ほっとしたのも束の間、上司から二人の関係を問い詰められた挙句、求婚されてしまう。
幼馴染に相談したところ、彼と偽装婚約することになるが――
【完結・全7話】「困った兄ね。」で済まない事態に陥ります。私は切っても良いと思うけど?
BBやっこ
恋愛
<執筆、投稿済み>完結
妹は、兄を憂う。流れる噂は、兄のもの。婚約者がいながら、他の女の噂が流れる。
嘘とばかりには言えない。まず噂される時点でやってしまっている。
その噂を知る義姉になる同級生とお茶をし、兄について話した。
近づいてくる女への警戒を怠る。その手管に嵌った軽率さ。何より婚約者を蔑ろにする行為が許せない。
ざまあみろは、金銭目当てに婚約者のいる男へ近づく女の方へ
兄と義姉よ、幸せに。
公爵令息様を治療したらいつの間にか溺愛されていました
Karamimi
恋愛
マーケッヒ王国は魔法大国。そんなマーケッヒ王国の伯爵令嬢セリーナは、14歳という若さで、治癒師として働いている。それもこれも莫大な借金を返済し、幼い弟妹に十分な教育を受けさせるためだ。
そんなセリーナの元を訪ねて来たのはなんと、貴族界でも3本の指に入る程の大貴族、ファーレソン公爵だ。話を聞けば、15歳になる息子、ルークがずっと難病に苦しんでおり、どんなに優秀な治癒師に診てもらっても、一向に良くならないらしい。
それどころか、どんどん悪化していくとの事。そんな中、セリーナの評判を聞きつけ、藁をもすがる思いでセリーナの元にやって来たとの事。
必死に頼み込む公爵を見て、出来る事はやってみよう、そう思ったセリーナは、早速公爵家で治療を始めるのだが…
正義感が強く努力家のセリーナと、病気のせいで心が歪んでしまった公爵令息ルークの恋のお話です。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
転生モブ令嬢は転生侯爵様(攻略対象)と偽装婚約することになりましたーなのに、あれ?溺愛されてます?―
イトカワジンカイ
恋愛
「「もしかして転生者?!」」
リディと男性の声がハモり、目の前の男性ルシアン・バークレーが驚きの表情を浮かべた。
リディは乙女ゲーム「セレントキス」の世界に転生した…モブキャラとして。
ヒロインは義妹で義母と共にリディを虐待してくるのだが、中身21世紀女子高生のリディはそれにめげず、自立して家を出ようと密かに仕事をして金を稼いでいた。
転生者であるリディは前世で得意だったタロット占いを仕事にしていたのだが、そこに客として攻略対象のルシアンが現れる。だが、ルシアンも転生者であった!
ルシアンの依頼はヒロインのシャルロッテから逃げてルシアンルートを回避する事だった。そこでリディは占いと前世でのゲームプレイ経験を駆使してルシアンルート回避の協力をするのだが、何故か偽装婚約をする展開になってしまい…?
「私はモブキャラですよ?!攻略対象の貴方とは住む世界が違うんです!」
※ファンタジーでゆるゆる設定ですのでご都合主義は大目に見てください
※ノベルバ・エブリスタでも掲載
継母の心得
トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定☆】
※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロ重い、が苦手の方にもお読みいただけます。
山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。
治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。
不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!?
前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった!
突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。
オタクの知識を使って、子育て頑張ります!!
子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です!
番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません
編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。
最後に取ったのは婚約者でした。
ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる