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第2章
side フリード⑤
しおりを挟む地下牢にいるフィーの元を訪れた後、俺は陛下……父上と母上の元に向かった。
父上にだけは、近々秘密裏に帰国する事は伝えていたが、詳しい日時は伏せたままだったので、帰国した事は知らなかったようだ。
「帰国していたのか……」
「挨拶が遅くなりましたが、明け方こちらに着きました」
「……そうか」
父上がどこか気まずそうな顔をしているのは、正直、俺に合わせる顔が無いとでも思っているのかもしれない。正直、俺も文句は沢山あるからな。
「父上」
「……」
「俺にはあんな条件を出しておきながら、スフィアとニコラスを婚約させた件で言いたい事は山ほどありますが、今はそれよりも……」
「昨夜の夜会の事か?」
俺は頷く。
ニコラスがしでかした事は当然二人の耳にも入っていた。
ニコラスが男爵令嬢に入れあげてるのも知っていただろうが、まさか、あんな事までしでかすとは思っていなかったのだろう。
二人はどこか疲れた顔をしていた。
「俺は、ニコラスを許さない」
「……フリード」
「向こうでも報告は受けていました。ニコラスの……特にここ半年の行動、言動。そして昨夜起こした出来事は、もはや王族として相応しいものでは無い」
俺のその言葉に父上にはため息を一つ吐きながら言った。
「では、ニコラスが主張した、スフィア嬢の罪はどうなるんだ?」
「全てニコラス達のでっちあげです」
「そこまで言い切るならば証拠があるのか? ニコラスはあの場で証人も用意していたようだが」
「勿論あります。なので、ニコラスの企んだ罪も同時に暴かせてもらいます」
「……」
俺はフィーとの個人的な連絡が途絶えたこの1年間、無駄に監視をつけてた訳じゃない。フィーの無実の証拠はたくさんある。
無実の罪で一人の令嬢を地下牢に繋いだニコラス達を断罪すると俺が告げた時、母上は少し動揺を見せたが、最終的に二人は静かに頷いた。
そしてこのニコラスの件に関しては、俺に全て一任するよう話をつけた。
「……父上。いや、陛下。この件を片付ける事が出来ましたら許可を求めます」
「許可?」
「俺は約束通り、カーチェラ国との外交を王女との婚姻以外の方法で深めて帰国しました。これで約束は果たせたはずです。ですから、スフィア・ランバルド公爵令嬢への求婚の許可を」
──そう。ずっと許されなかった、フィーへの求婚の許可を今度こそ。
「……そんなに。そこまでするほどお前はスフィア嬢の事が好きなのか?」
「好きです」
俺が間髪入れずに即答した事に父上は、少し驚きの様子を見せたが、やがて観念したように口を開いた。
「求婚の許可は与える……が、王命で婚約者に指名する事は出来ない。既にニコラスの件で振り回してしまっているからな。むしろ王家から解放してあげるべきではと思ってる」
「……分かっています。それでも俺は彼女を望んでいます」
「ランバルド公爵、そして当のスフィア嬢が拒否した場合はキッパリ諦められるか?」
「無理ですね。全力で口説き落とします」
「……」
俺のその答えに父上は苦虫を噛み潰したような表情になった。
自分勝手なのは分かってるさ。
それでも、俺はフィーが好きなんだ。彼女じゃなきゃダメなんだ。
「その執着心は誰に似たんだ……」
「父上じゃないですか? さて、俺はこれで失礼してスフィアを助ける為に必要な証拠品を取りに行って来ます」
「おい! 待てフリード。本当にランバルド公爵家側が拒否した場合は王命使ってでも止める事になる。無理矢理は許さん。それだけは忘れるな」
「……」
「それと、この後だが、スフィア嬢への処分をどうするか大臣達の間での話し合いが行われる事になるだろう。その処分決定までにお前が間に合わなければー……」
「絶対に間に合わせます」
俺はキッパリとそう言い切った。
絶対に間に合わせてみせる!
そして、俺は急いでランバルド公爵家に向かう。
フィーが言っていた箱を取りに行く為だ。
その中に、ニコラス達を追い詰める為の証拠品が入っている。
フィーをあそこから助け出すには、それらも使ってニコラス達を追い詰めなくてはいけない。
「フ、フリード殿下!?」
ランバルド公爵家も混乱していた。
「帰国されていたのですか!?」
「あぁ、今朝ほどな。それよりも、公爵」
「……スフィアの事でしょうか? ………申し訳ございません、殿下の想いを知りながらニコラス殿下と婚約させてしまいました。そして今回……このような……事に……」
「分かっている。だが、今はその話は後だ。スフィアを助ける為に、スフィアの部屋に用がある。誰か詳しい者はいないか?」
「はっ! ……スフィアの部屋に、ですか? それならば……サラ!」
「は、はい!」
サラ、と呼ばれた侍女がおそるおそる前に進み出てくる。
「スフィア付きの侍女か? なら、頼みがある。スフィアには、何か大事なものを入れている箱があるだろう? 今、それが必要なんだ。持ってきてくれないか?」
「えっ? あ……は、はい! 分かりました! 取ってきます」
侍女はスフィアの部屋へと走って行った。
「こ、こちらがその箱です」
「これが?」
侍女が持ってきたのは、これといった特徴のない箱だった。
「は、はい。お嬢様はこの中に、大事な物を入れて保管していました」
「そうか……」
フィーの大事な物。何だか心の中を覗くようで申し訳ない気持ちになるが、この中に証拠品が入っている以上、仕方ない。
そう思って開けようとするがー……
「恐れながら、殿下。その箱には鍵がかかっているのです」
「鍵?」
「はい……そしてその鍵はここには無く……お嬢様が持っているのではないかと」
侍女が申し訳なさそうに言う。
そう言えば、この箱の話をした時に、「鍵……」とフィーは言いかけていた気がする。
しまった! ……ちゃんと最後まで話を聞くべきだった!
では、鍵はどこにあるんだ?
地下牢に連行されて、着替えさせられたフィーの手元にはおそらく無い。
見つかったら取り上げられているはずだ。だから、もし取り上げられていたらあの時そう言っただろう。
そうでないという事は……
「どこかに隠した? もしくは……誰かに……託した?」
1つの可能性に思い当たり、俺は別の目的地を頭に思い浮かべる。
「フリード殿下……」
「公爵。慌ただしくてすまないが、今はこれで失礼する!」
「は、はい」
「スフィアは無実だ! だから、絶対に助けるから待っていて欲しい……それと、俺の気持ちは変わっていない。全てが片付いたら、今度こそ正式な話をさせてくれ。その時は、承諾の返事を貰えると嬉しいのだが」
「! ……殿下。承知しました。お待ちしております……娘を……スフィアをよろしくお願いします……」
ランバルド公爵はそう言って何度も頭を下げた。
「あぁ」
俺は急いで次の目的地へと向かう。
おそらく、鍵のある場所──スフィアが鍵を託したであろう人物に会うために──
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