5 / 43
第1章
4. 殿下は私を振り回し翻弄する
しおりを挟む変な顔はされたけれど、私が1人で勝手に今回のフリード殿下のエスコートの申し出の理由に納得していたら、いつの間にかデビュタントの挨拶が終わっていたようで、ホールにさっきまでと違う音楽が流れ始めた。
どうやらダンスの時間らしい。
まずは、陛下と王妃様が踊られる。
両陛下のダンスに見惚れていたら、私の目の前に手が差し出された。
もちろん、その手の主はフリード殿下だ。
「スフィア嬢、俺と踊ってくれますか?」
「はい、喜んで」
私は、微笑みながら殿下の手に自分の手を重ねた。
すると、何故だろうか。ホール内はまたしてもザワザワし始めた。
『……殿下が踊るの!?』
『珍しい……』
『今日は珍しいものばかり見るなぁ』
どうやら、みんなフリード殿下がダンスをする事に驚いているようだった。
踊るだけでこんなにざわつかれる王子様とは一体……
「あ、あの殿下? 何故、皆様はあんなに驚いているのでしょうか?」
踊りながら、殿下に聞いてみる。
王子が踊るのは決して珍しい事ではない、はずなのだけど。
「うん? あぁ、俺が普段はあまり踊らないからじゃないかな? いつもは誘いを受けてもなんやかんや理由をつけて断ってる事が多かったし」
「えっ、そうなんですか?」
「そもそも、俺はこういった催しにはあんまり参加して来なかったからね。まぁ、さすがに成人したらそうも言ってられないけど」
「どうして……」
その発言を聞いて私は思わずそう呟いていた。
つまり今日は、本来なら参加しないはずの催しだったのにも関わらず、わざわざ社交界デビューする私のエスコート役を申し出てくれただけでなく、こうして滅多にしないダンスまで踊ってくれているという事になる。
そんな私の呟きが聞こえていたのか、殿下は私を見てニンマリと笑って言った。
その表情に、また7年前のあどけない少年だった頃の殿下を思い出した。
「だから、さっきも言ったよ? 今日は全部君のためだって」
たかだか7年前のイタズラの謝罪の為にここまでするの?
わざわざ贈り物までして?
よく分からないけど、さすが王子様……罪滅ぼしの規模が常人とは違う。
「謝罪……だけなら、ここまでされなくても。私はこうして社交界デビューをしましたから、殿下とお会いする機会は今後もあったかと思いますよ?」
私のその言葉を聞いた殿下が、困った表情を浮かべながらプルプルと首を横に振った。
「今日こうしているのは、さっきも言ったように、スフィア嬢の社交界デビューのエスコートを俺がしたかったってのも理由の一つではあるんだけど……」
理由の一つ? では、他にも理由があるというの?
私が首を傾げていると、殿下は更に続けて言った。
「残念ながら俺にはもうあんまり悠長にしている時間が無いんだ」
「……?」
時間が無い?
また、意味深な事を言われてしまった。
気になったけど、殿下もそれ以上は語ろうとしなかった。
それにしても、何だか私はフリード殿下に翻弄されている気がするわ。
モブのはずのフリード殿下の存在感が強すぎて、私はここが小説の中の世界だって事を忘れてしまいそうになっていた。
「それにしても、スフィア嬢はダンスの腕前もさすがだね?」
「え? いえ、殿下のリードが素晴しいからですよ」
これは謙遜では無い。殿下のリードはとても踊りやすいのだ。
このまま、もう少し踊っていたくなるくらいには。
私だって人前に出る機会は無くてもレッスンだけはきっちり受けてきた。
その中でも殿下は誰よりも踊りやすい。心からそう思った。
曲が終わり、周りの令嬢達が次は自分が殿下と踊るわっ!!
と、鼻息荒くしてこちらに近付いて来ようとするのがビシビシと伝わって来た。
ギラギラした目を向けてくる。そうね、例えるなら肉食獣。
……いや、すっごく怖いんですが。食いちぎられそう。
そんな鼻息荒い令嬢達の様子に、ちょっと怯えていると殿下に手を取られた。
「?」
「……もう1曲」
「へ?」
私が間抜けな声をあげている間に、あれよあれよと強引に連れ出され再びダンスが始まる。
「強引です……!」
「ごめん、ごめん、ちょっと牽制しておきたくて」
殿下が笑いながら謝ってくる。
牽制? あの迫って来ようとする令嬢達に?
私としては視線が痛くなっただけなんですけど? と文句を言いたい。
「ふぅ……よく分かりませんが、殿下は大変なのですね……」
そうため息と共に呟いたら、殿下は苦笑していた。
「お疲れ様、疲れてない? はい、果実水で良かったかな?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
踊り終えた後、殿下が飲み物を取ってきてくれたので、今、私達はバルコニーで休んでいるところ。
その際も、隙あらば殿下と踊りたいと令嬢達が近付いて来たけれど、殿下はその全てをバッサリと断っていた。
「私の事は気になさらず踊って来ていただいて構いませんよ?」
私がそう言うと、殿下はちょっと驚いたように目をパチパチと瞬かせた。
何故、そんな驚いた顔をするんだろう。
「いや……今日はスフィア嬢としか踊らないよ」
「えっ?」
「だから、スフィア嬢もせっかくのデビューなのに申し訳ないけど、今日は俺とだけにしてくれないか?」
殿下がそう言って飲み物を持っていない方の私の手を持ち上げ、手の甲に軽くキスを落とした。
……もちろん手袋越しだったけれど、その行動にビックリして私の心臓がドキンッと大きく跳ねた。
「……どうしても他の男とは踊って欲しくないんだ」
その言葉に、更に心臓が跳ねた気がした。
頬に熱が集まって来たのが自分でも分かる。これは絶対顔が赤くなっている!
だって、そんな動作とそんなセリフ……反則よ!!
イケメンにこんな事を言われてときめかないはずがないでしょう!?
おかげで、すっかり動揺した私は、
「わ、分かりました……! き、今日のパートナーである殿下がそこまで仰るなら仕方ありませんよね! でも、今日だけですよ!? それも、し、仕方なくですからねっっ!」
と、後からどう振り返っても、何処のツンデレだよ、としか思えないセリフを返していた。
なので、自分の発言に恥ずかしくなって下を向いてしまった私には、その返しを聞いた殿下がどんな顔をしているかは見れなかった。
ただし、殿下が笑いを堪えている事だけは身体がプルプルと震えていたので伝わって来たので、私の恥ずかしさは倍増した。
「~~~っっ!」
私の社交界デビューは、こうして殿下に振り回されて過ぎて行った。
77
お気に入りに追加
3,245
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢ってこれでよかったかしら?
砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。
場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。
全11部 完結しました。
サクッと読める悪役令嬢(役)。
逆襲のグレイス〜意地悪な公爵令息と結婚なんて絶対にお断りなので、やり返して婚約破棄を目指します〜
シアノ
恋愛
伯爵令嬢のグレイスに婚約が決まった。しかしその相手は幼い頃にグレイスに意地悪をしたいじめっ子、公爵令息のレオンだったのだ。レオンと結婚したら一生いじめられると誤解したグレイスは、レオンに直談判して「今までの分をやり返して、俺がグレイスを嫌いになったら婚約破棄をする」という約束を取り付ける。やり返すことにしたグレイスだが、レオンは妙に優しくて……なんだか溺愛されているような……?
嫌われるためにレオンとデートをしたり、初恋の人に再会してしまったり、さらには事件が没発して──
さてさてグレイスの婚約は果たしてどうなるか。
勘違いと鈍感が重なったすれ違い溺愛ラブ。
恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~
めもぐあい
恋愛
公爵令嬢として皆に慕われ、平穏な学生生活を送っていたモニカ。ところが最終学年になってすぐ、親友と思っていた伯爵令嬢に裏切られ、いつの間にか悪役公爵令嬢にされ苛めに遭うようになる。
そのせいで、貴族社会で慣例となっている『女性が学園を卒業するのに合わせて男性が婚約の申し入れをする』からもあぶれてしまった。
家にも迷惑を掛けずに一人で生きていくためトップであり続けた成績を活かし官僚となって働き始めたが、仕事内容は第二皇子の無茶振りに付き合う事。社会人になりたてのモニカは日々奮闘するが――
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
王子殿下がその婚約破棄を裁定しますが、ご自分の恋模様には四苦八苦しているようです
あとさん♪
恋愛
「ルチア・デル・テスタ嬢、君との婚約は破棄させて貰う!」
それは学園食堂で高らかに宣誓された恋に狂った馬鹿な騒動。
ベネディクト第二王子は、あんな馬鹿なこと仕出かす奴はもう友じゃないと見捨てる。と、同時に彼の護衛が任務を放り出して破棄された女生徒(ピンクブロンド)へ駆けつけるさまを見送った。
あっちもこっちも恋か。
自分に恋の女神は微笑んでくれるのだろうか。
王子はもう10年以上片思いなのですが。
その相手は許嫁なのですが。
だが、この話をしたら頑なだった許嫁の表情に変化が……?
※設定はゆるんゆるん
※現実世界に似たような状況がありますが、拙作の中では忠実な再現はしていません。なんちゃって異世界だとご了承ください。
※このお話は小説家になろうにも投稿してます。
※今作の王太子殿下のお話も始めました。
「異母妹にすべてを奪われ追い出されるように嫁いだ相手は変人の王太子殿下でした。」
こちらもよろしくお願いします<(_ _)>
※このお話のスピンオフ『結婚さえすれば問題解決!…って思った過去がわたしにもあって』もよろしくお願いします。
ピンクブロンドのルチアがセレーネさまの侍女として頑張っているお話です。
<(_ _)>
転生令嬢はのんびりしたい!〜その愛はお断りします〜
咲宮
恋愛
私はオルティアナ公爵家に生まれた長女、アイシアと申します。
実は前世持ちでいわゆる転生令嬢なんです。前世でもかなりいいところのお嬢様でした。今回でもお嬢様、これまたいいところの!前世はなんだかんだ忙しかったので、今回はのんびりライフを楽しもう!…そう思っていたのに。
どうして貴方まで同じ世界に転生してるの?
しかも王子ってどういうこと!?
お願いだから私ののんびりライフを邪魔しないで!
その愛はお断りしますから!
※更新が不定期です。
※誤字脱字の指摘や感想、よろしければお願いします。
※完結から結構経ちましたが、番外編を始めます!
悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです
朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。
この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。
そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。
せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。
どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。
悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。
ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。
なろうにも同時投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる