上 下
55 / 57

愛する夫と可愛い子供たちと…… ②

しおりを挟む

◇◆◇


「ちちうえ、ははうえ、それでどこに行くの?」

  馬車に乗り込んですぐにイーサンが私たちに訊ねる。

「僕の……大事な知り合いに会いにいくんだよ」

  シオン様が優しくイーサンの頭を撫でながら説明する。

「だいじな知り合い?」
「そうだ。とってもとっても大事な人なんだ。イーサンもエヴァナも好きになってくれたら嬉しいな」
「ふーん」

  よく分かんないけど分かった!  と笑顔で答えるイーサンとは対照的に、何故か私の膝の上にちょこんと座っているエヴァナがおかしな顔をしている。

「ん?  エヴァナ、何か言いたそうな顔をしているけど?」
「お父さま……」

  シオン様が声をかけるとエヴァナがキッと顔を上げて、シオン様を睨む。
  愛娘に睨まれてシオン様は大きく動揺した。

「お父さま!  これは、うわき!  やっぱりうわきなのね!?」
「え……」
「だいじな人って言ったわ!  うわきよ!」
「ちょっ……ちょっと待て!  エヴァナ!  何でそうなる!」

  私とシオン様はその発言に慌てた。
 
  (いったい誰がこの子に浮気なんて言葉を教えたの……!)

「ちがうの?」
「違う!  僕は誓ってお母様……フレイヤ一筋だ!」
「お母さまをあいしてる?」
「ああ!  この先何年、いや、何十年経とうとも僕はフレイヤを愛してる!」

  シオン様は大きな声で娘に向かってそう宣言した。

「シオン様……」
「……フレイヤ」

  その言葉が嬉しくて私が頬を染めてシオン様を見つめたら、シオン様もどこか熱っぽい目で私を見つめ返してくれた。

「分かったわ、お父さま。そのことば、信じてあげる」
「ちちうえとははうえが、仲よしなのはうれしい!」
「「……」」
  
  何故か上から目線の娘と、マイペースな息子の姿に私たちは笑いあった。




  
「まあ!  陛下!  それに王妃殿下まで!」
「こんにちは、アーリャさん」
「え?  それに……そちらのお二人はもしかして!」

  シオン様の突然の訪問に驚いた様子のアーリャ妃……元側妃はイーサンとエヴァナまで一緒に来ていることに驚いていた。

「はい。僕とフレイヤの息子と娘です」
「やっぱり!  王子殿下と王女殿下ですか!?」
「まあ!  まあ!  どうしましょう!」

  当然だけれどアーリャ様は……そんなまさか!  お会い出来る日が来るなんて!  と、大きく動揺していた。

  シオン様は国王になってからも相変わらず時間を見つけてはここへと足を運んでいた。
  私も時々、一緒に訪ねていたけれど、実は子供たちを連れての訪問は今日が初めてだ。

「二人ともなんて可愛らしいの!」
「ありがとうございます……アーリャさんにどうしても会わせたかったので」
「陛下……」

  その言葉にアーリャ様が嬉しそうに微笑む。

「殿下が国王になられた時も驚きましたが、こんな可愛い子供たちのお父様に……なられて」
「また、子供扱いですか?」
「ふふ」

  シオン様とアーリャ様の関係は相変わらずだった。
  そんな二人の様子をじっと見ていたイーサンがポツリと小さな声で呟いた。

「……にてる」

  (え?  今なんて?)

  イーサンがトコトコとシオン様とアーリャ様の元に近付いて行く。
  自分たちの元に近付いてきたイーサンの姿に気付いたシオン様がそっと抱き上げた。

「どうした?  イーサン」
「ちちうえ……」
「まあ!  王子殿下……シオン陛下にそっくりですね。私はアーリャと申します、よろしくお願いします。イーサン殿下」

  アーリャ様がイーサンに向かって微笑んだ。

「……ばー…………抱っこ」

  イーサンはアーリャ様を見ながら何かを言いかけると、何故か手を伸ばして抱っこをせがんだ。

「え?  イーサン?  もしかして、アーリャさんに抱っこされたいのか?」
「うん」

  コクリと頷くイーサン。
  シオン様はアーリャ様に大丈夫ですか?  と確認したあと、そっとイーサンを渡した。

「───まさか、この私が王子殿下を抱っこする日が来るなんて!  夢みたいです!」
「それは良かった」
「ありがとうございます、陛下────……」

  最初はそんなことを言いながら、はしゃいでいたアーリャ様が突然黙り込む。

「アーリャさん、どうしました?」
「─────よく似ているわ。の小さかった頃に……ふふ、そう。いつもこんな感じで私が抱っこすると大人しくなって……」
「え?  アーリャさん?」
「私の大事な大事な……大切な私の…………子─────オン」
「!」

  (───!)

  アーリャ様の突然のその言葉にシオン様が固まる。
  気のせい?  
  聞き間違いでなければ……今、アーリャ様は“大切な私の息子、シオン”と言った?

「…………ってあら?  私ったら何を言っているのかしらね?  あら、陛下?  どうされました?」

  だけど、すぐに夢から覚めたようにハッと顔を上げる。

「い、いや……何でも……ない」
「そうですか?  でも、不思議ですね。イーサン殿下を抱いているとすごくすごく懐かしい気持ちになります」
「……」
「ずっとずっとどこかに置き忘れた大切な忘れ物が見つかった……そんな気持ちになれて──ふふ、何故かしら?」
「……っ」

  アーリャ様のその言葉に懸命に涙を堪えているシオン様の姿が見えた。

  (……完全になくなってなんかいない。シオン様と歩んできた記憶はきちんと残っている)

  イーサンの中にシオン様の面影を見つけたのか、アーリャ様の口から自然と溢れたその言葉を聞いた私は強くそう思った。
  
「むぅ!  イーサンだけずるいわ!  私も抱っこ!」
「まあ!  王女殿下まで?  嬉しいです。王女殿下はフレイヤ様……お母様にそっくりですね!」

  今度はエヴァナまで抱っこをせがんだ。
  もしかしたら、二人は本能で悟ったのかもしれない。この人が“お祖母様”なのだと。

  (そうだったらいいな……)

  アーリャ様がシオン様のことを思い出す日はそんなに遠くないのかもしれない。
  ───そんな予感がした。

  (そうね、その時が来たらアーリャ様と一緒に前国王をボコボコにしに行かなくては──!)

  和やかな空気の中、私はグッと拳を握りしめた。


─────


「……シオン様、泣いていました?」
「泣いてない!」

  夜、寝室のベッドの上で可愛い夫は昼間に泣きそうになっていた事を必死に否定する。

「強情ですねぇ……」
「……」

  プイッと顔を逸らすシオン様。
  私の夫は相変わらずだわ、と思わず笑ってしまう。

「───大好きです、シオン様」
「くっ!  フレイヤが今日も可愛い……毎日可愛い……勝てない」

  どこか悔しそうに呟いたシオン様は、優しく私を抱きしめるとそっとキスを落とした。



  ───この国の王の正妃となるべく育てられた私。  
  でもあの日、ずっと婚約していたエイダン様に「愛する人が出来た」と、突然婚約破棄されたはずなのに、やっぱり側妃になれ!  などと求められ……

  そんなめちゃくちゃな話から始まった私の運命は────
  愛する夫と可愛い子供たちと……大好きな家族に囲まれて、今日もとってもとっても幸せです!


~完~




✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼



これで完結です。
ここまでお読み下さり本当にありがとうございました。
まずは短編どころか私の書く話の中でもだいぶ長くなってしまった事をお詫び申し上げます。

アーリャ妃に子供たちと会いにいくラストシーンだけは最初から決めていたので、そこに持っていくまでに広げた風呂敷を畳もうとしたらどんどん延びてしまいました。

冒頭で夫の名を明かさなかったから、最初は元サヤかとざわつかせ、お父様とお兄様のうろ覚えで大喜利が始まり……何だかとても感想欄が賑やかだったな、と。
返事は完全にストップしてしまっていますがありがとうございました!
楽しく読んでます。

ちなみに、このお父様のうろ覚えはほんの軽い気持ちで始めたものでして……
こんなに反響があるとは……と本気で驚きました。
ベリンダという本名も、適当に名付けたものでして、決して“フリンダ”にする為の計画的な名づけではありません。全部、偶然です。
また、作者の自分が彼女の本名を忘れそうになったりと実は大変でした。
そして盛大にネタ切れも起こしていて感想欄をヒントに色々捻り出させて頂いたり……
ありがとうございました!
あ、どの名前が好きでしたか?

それから、お父様ことポヤン公爵。こちらにも熱い支持をありがとうございました。
父&母の馴れ初め話のリクエストが多くてこちらも驚いています。
新しく別連載にするほどの話ではないので、番外編として続きを書けたらいいなと思い、今、考えている所です。
一旦、完結にはしましたが、お父様ファンの方はよければこのまま続きをお待ち下さい!

一つ前の話の後書きにも書いたように、元々は別の私の書いた話、
『出来損ないと罵られ~』の主人公母と同じような境遇になった令嬢が「正妃ではなく側妃?  ふざけるな!  お断り!」という道を選ぶ。という話が書きたかっただけなのですが……
想像以上にフレイヤは強かったです。

最後までお読みくださった方に心からお礼を申し上げます。
お気に入り登録、感想、エール等々本当にありがとうございました!

次作も始めています。
『偽りの愛は不要です! ~邪魔者嫌われ王女はあなたの幸せの為に身を引きます~』

よろしければ、またお付き合い下さいませ!
しおりを挟む
感想 367

あなたにおすすめの小説

性悪のお義母様をどうしても許せないので、ざまぁします。

Hibah
恋愛
男爵令嬢アンナは伯爵令息オーギュストと婚約する。結婚にあたって新居ができる予定だったが、建築現場から遺跡が発掘されてしまい、計画は白紙に。アンナはやむを得ず夫オーギュストの実家に住むことになり、性悪の義母ジョアンナから嫁いびりを受ける生活が始まる。アンナは使用人同然の扱いを受け、限界まで我慢してしまうが、ある日義母の黒い噂を耳にする。そしてついに、義母への仕返しを決意した。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?

日々埋没。
恋愛
 公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。 「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」  しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。 「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」  嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。    ※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。  またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...