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44. 後悔しても遅いのです

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  思っていたよりも光が強かったので私は吃驚していた。

  (もしかして強化しすぎたかも……)

  ───そんなシオン様の魔力の光に対する皆の反応は様々だった。

「なっ!?」
「……ほう」

  あまりにも眩しい光に動揺する陛下。
  何かを納得したように頷く王妃様。
  エイダン様は向こうで呆けた顔をしているわね。ちょっと間抜けだわ。
  そして、なんだこの光は……と騒ぎ出す人々。
  同じく何ごとだ?  と驚いた顔をしてキョロキョロするお兄様の横でポヤンとした顔を崩さないお父様。

  (えぇっと……お父様。なぜ、あなただけそんなに変わらないのです……?)

  私がシオン様に告白している時にクワッと開かれていたはずの目はお兄様の尽力のおかげなのか今は閉じられていた。

  陛下に退位すると頷かせた後は、絶対に一発は殴らせてもらって最後はシオン様の“力”を見せつけるのだと決めていた。
  だけど、この眩しい光……どうやら強化しすぎたのか相当な力が発揮されてしまったみたい。

「??  ……フ、フレイヤ、これはどういうこと?  僕の手から光が出てる……」
「……あ」

  肝心のシオン様が大きく戸惑っている。
  そうしているうちに、眩しかった光はたんだん薄くなりやがて消えてしまう。

「───なっ!  これはど、どういうことだ!  今の光はなんだ!」

  元陛下が顔を引き攣らせたまま私とシオン様の顔を見て怒鳴る。

「どういうことも何も、今の光とご自分の姿を見てお分かりにならなかったのでしょうか?」

  私はにっこり微笑む。
  本当は完全に傷を治さずにもう少し痛みに苦しんでもらいたかったけれど……

  (……王妃様に後でもう一回くらい殴って貰えばいいかしらね) 

  王妃様もきっと一発では足りなかったと思うし。
  後でこっそり相談しましょう。

「わ、分かる……だと?  はっ!  傷が……」

  元陛下はようやく自分の傷が癒えている事に気付いた。
  
「ええ、そうです。これが、元陛下。あなたが弱いからとあっさり切り捨てたシオン様に秘められていた力ですわ」
「え!  僕の?」

  陛下より先に隣でシオン様が驚きの声を上げている。
  そして、陛下はなぜか更に真っ青になっていった。これは殴られた時よりも顔色が悪いかもしれない。

「う、そだ!  その“力”は!  な……なぜ、シオンがっ!  あ、有り得ん……!」

  元陛下はかなりパニックを起こしているのか、両手を見たり、頭を抱えたりと忙しない。

「だ、だが……確かに王妃に殴られた傷も……フレイヤ嬢に殴られた傷も癒え…………くっ!  そんな……!」
「……」

  ───シオン様のこの治癒の力は、かなり特殊な力なのかも?  とは思っていたけれど。
  これは相当、稀な力なのかもしれない。

「これが……僕の力?」

  シオン様が自分の両手を見つめながら呆然とした顔で呟く。

「そうですよ。シオン様の持っている力を私が強化して引き出しました。一時的にですけれど」
「フレイヤが?  ああ、なるほど」

  そう言ってシオン様は再び自分の掌を見つめる。

「…………僕に力、あったのか。弱すぎて何も無い……そう思っていた」
「シオン様が、私の右手を労わって擦ってくれた時に感じ取りました」
「あ、あの時?  そっか……そうなんだ、これが僕の…………」
「……」

  最後に小さく何か呟いたシオン様の心の中にはお母様……アーリャ妃がいるような気がした。

「……シオン様。あの」
「フレイヤ、ありがとう。分かっているよ。魔力があっても無くても僕は僕。これまでと何も変わらない」
「シオン様……」
「それに、フレイヤの助けのが無いと弱いままみたいだしね」

  シオン様は少しおどけた様子でそう言った。そして、私に微笑みかける。

「──だから、フレイヤ。“この力”が本当に必要になる時は君の力を貸してくれる?」
「ええ!  もちろんです!」

  私の力が役に立てるのなら、こんな嬉しいことはない。
  今まで強化する事に特化した私の力……使い所があまり分かっていなかったけれど、もしかしたらシオン様の為にあるのかも……そう思いたくなった。
  だから私は笑顔で大きく頷いた。

  そうして、ほっこりした空気が流れたけれど──
  そんな中で大きなショックから一人だけ立ち直れていない人がいた。

「嘘だ……なぜ、なぜシオンに!  シオンは身分の低い母親のせいで魔力の弱い子どものはずで……授かるはずがない……こんなのは有り得ん、有り得ん、有り得ん!」

  (元陛下……相当、錯乱しているわね……)

「嘘だ嘘だ嘘だ……アーリャ……わ、私は……」

  元陛下の頭の中ではかつて、恋人だったアーリャ妃の姿が浮かんでいるのかもしれない。
  でも、記憶を失くしたアーリャ妃が元陛下に向かって微笑むことは二度とないだろう。

  (傷ついた彼女を守りもせずにあっさり捨てたこと……今更、後悔しても遅いのよ!)

「ああ───シオン!  何故だ!  なぜお前に“その力”が……その力は最強の……!」

  元陛下がシオン様に縋りつこうとする。

「お前は私の息子だ!  私の息子に……治癒の……これは奇跡だ!」

  (今更、何を言っているの?)

  急に今までの冷遇をなかった事にしようとするその無神経さに非常に腹が立つ。
  シオン様は当然のようにその手を払い除けた。

「触らないでくれますか?  僕はもうあなたを父親だとすら思いたくない!」
「な、何を言うんだ!  お前は私とアーリャの……」
「気安く母上の名前も呼ぶな!  あなたにそんな資格はない!」
「し、資格はないだと?  父親に向かって……!」

  怒りを滲ませる元陛下に向かってシオン様は怒鳴った。

「父親らしいことなんて何一つしなかったくせに今更、父親面をするな!」
「なっ!」
「僕を育てたのは母上だ!  そして、僕に生きる力と場所をくれたのは王妃殿下だ!  あなたは何もしていない!!」
「シオ……ン」

  シオン様の完全なる拒否───
  そんなシオン様の態度に元陛下は大きなショックを受けていた。

  (力のことを知ってこんなにも態度を変えてくるなんて……)

  シオン様の持つ治癒の力はかなり特別な力なのだと思う。
  
  (──それならこの先、私がどんな時もシオン様を守ってみせるわ!)

  私はそう決意した。

「……本当に愚かだ。情けない」
「……」

  項垂れ力尽きた元陛下に近付き、王妃様が冷たく言い放ったその一言には納得しかなかった。




  
  (これで全部、終わったのね……)

  ぐったりした元陛下と展開についていけず魂が抜けたみたいになっているエイダン様が別室に連れられていく様子を見ていたらシオン様が私を呼んだ。

「───フレイヤ」
「シオン様?」
「色々ありがとう」

  シオン様がギュッと私を抱きしめる。
  この温もりが愛しくて私も背中に腕を回してギュッと抱きしめ返す。

「これから一緒に頑張りましょうね、シオン様!」
「ああ!」

  私たちは微笑み合う。

「……今日は、私たちも帰りましょう」
「そうだね」

  だって、明日からは色々忙しくなる───
  元陛下やエイダンさまの今後、ベリンダ嬢の処分。
  ……それから王妃様とは話したいことがたくさんある。

  そう思った時だった。

「───フレイヤ」
「え?」

  聞き覚えのある声に振り返る。

「……あ!」

  (わ、忘れていた……わ!)

  そこに居たのはいつものポヤン顔のお父様と何か言いたげな顔をしたお兄様────……
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