44 / 57
44. 後悔しても遅いのです
しおりを挟む思っていたよりも光が強かったので私は吃驚していた。
(もしかして強化しすぎたかも……)
───そんなシオン様の魔力の光に対する皆の反応は様々だった。
「なっ!?」
「……ほう」
あまりにも眩しい光に動揺する陛下。
何かを納得したように頷く王妃様。
エイダン様は向こうで呆けた顔をしているわね。ちょっと間抜けだわ。
そして、なんだこの光は……と騒ぎ出す人々。
同じく何ごとだ? と驚いた顔をしてキョロキョロするお兄様の横でポヤンとした顔を崩さないお父様。
(えぇっと……お父様。なぜ、あなただけそんなに変わらないのです……?)
私がシオン様に告白している時にクワッと開かれていたはずの目はお兄様の尽力のおかげなのか今は閉じられていた。
陛下に退位すると頷かせた後は、絶対に一発は殴らせてもらって最後はシオン様の“力”を見せつけるのだと決めていた。
だけど、この眩しい光……どうやら強化しすぎたのか相当な力が発揮されてしまったみたい。
「?? ……フ、フレイヤ、これはどういうこと? 僕の手から光が出てる……」
「……あ」
肝心のシオン様が大きく戸惑っている。
そうしているうちに、眩しかった光はたんだん薄くなりやがて消えてしまう。
「───なっ! これはど、どういうことだ! 今の光はなんだ!」
元陛下が顔を引き攣らせたまま私とシオン様の顔を見て怒鳴る。
「どういうことも何も、今の光とご自分の姿を見てお分かりにならなかったのでしょうか?」
私はにっこり微笑む。
本当は完全に傷を治さずにもう少し痛みに苦しんでもらいたかったけれど……
(……王妃様に後でもう一回くらい殴って貰えばいいかしらね)
王妃様もきっと一発では足りなかったと思うし。
後でこっそり相談しましょう。
「わ、分かる……だと? はっ! 傷が……」
元陛下はようやく自分の傷が癒えている事に気付いた。
「ええ、そうです。これが、元陛下。あなたが弱いからとあっさり切り捨てたシオン様に秘められていた力ですわ」
「え! 僕の?」
陛下より先に隣でシオン様が驚きの声を上げている。
そして、陛下はなぜか更に真っ青になっていった。これは殴られた時よりも顔色が悪いかもしれない。
「う、そだ! その“力”は! な……なぜ、シオンがっ! あ、有り得ん……!」
元陛下はかなりパニックを起こしているのか、両手を見たり、頭を抱えたりと忙しない。
「だ、だが……確かに王妃に殴られた傷も……フレイヤ嬢に殴られた傷も癒え…………くっ! そんな……!」
「……」
───シオン様のこの治癒の力は、かなり特殊な力なのかも? とは思っていたけれど。
これは相当、稀な力なのかもしれない。
「これが……僕の力?」
シオン様が自分の両手を見つめながら呆然とした顔で呟く。
「そうですよ。シオン様の持っている力を私が強化して引き出しました。一時的にですけれど」
「フレイヤが? ああ、なるほど」
そう言ってシオン様は再び自分の掌を見つめる。
「…………僕に力、あったのか。弱すぎて何も無い……そう思っていた」
「シオン様が、私の右手を労わって擦ってくれた時に感じ取りました」
「あ、あの時? そっか……そうなんだ、これが僕の…………」
「……」
最後に小さく何か呟いたシオン様の心の中にはお母様……アーリャ妃がいるような気がした。
「……シオン様。あの」
「フレイヤ、ありがとう。分かっているよ。魔力があっても無くても僕は僕。これまでと何も変わらない」
「シオン様……」
「それに、フレイヤの助けのが無いと弱いままみたいだしね」
シオン様は少しおどけた様子でそう言った。そして、私に微笑みかける。
「──だから、フレイヤ。“この力”が本当に必要になる時は君の力を貸してくれる?」
「ええ! もちろんです!」
私の力が役に立てるのなら、こんな嬉しいことはない。
今まで強化する事に特化した私の力……使い所があまり分かっていなかったけれど、もしかしたらシオン様の為にあるのかも……そう思いたくなった。
だから私は笑顔で大きく頷いた。
そうして、ほっこりした空気が流れたけれど──
そんな中で大きなショックから一人だけ立ち直れていない人がいた。
「嘘だ……なぜ、なぜシオンに! シオンは身分の低い母親のせいで魔力の弱い子どものはずで……授かるはずがない……こんなのは有り得ん、有り得ん、有り得ん!」
(元陛下……相当、錯乱しているわね……)
「嘘だ嘘だ嘘だ……アーリャ……わ、私は……」
元陛下の頭の中ではかつて、恋人だったアーリャ妃の姿が浮かんでいるのかもしれない。
でも、記憶を失くしたアーリャ妃が元陛下に向かって微笑むことは二度とないだろう。
(傷ついた彼女を守りもせずにあっさり捨てたこと……今更、後悔しても遅いのよ!)
「ああ───シオン! 何故だ! なぜお前に“その力”が……その力は最強の……!」
元陛下がシオン様に縋りつこうとする。
「お前は私の息子だ! 私の息子に……治癒の……これは奇跡だ!」
(今更、何を言っているの?)
急に今までの冷遇をなかった事にしようとするその無神経さに非常に腹が立つ。
シオン様は当然のようにその手を払い除けた。
「触らないでくれますか? 僕はもうあなたを父親だとすら思いたくない!」
「な、何を言うんだ! お前は私とアーリャの……」
「気安く母上の名前も呼ぶな! あなたにそんな資格はない!」
「し、資格はないだと? 父親に向かって……!」
怒りを滲ませる元陛下に向かってシオン様は怒鳴った。
「父親らしいことなんて何一つしなかったくせに今更、父親面をするな!」
「なっ!」
「僕を育てたのは母上だ! そして、僕に生きる力と場所をくれたのは王妃殿下だ! あなたは何もしていない!!」
「シオ……ン」
シオン様の完全なる拒否───
そんなシオン様の態度に元陛下は大きなショックを受けていた。
(力のことを知ってこんなにも態度を変えてくるなんて……)
シオン様の持つ治癒の力はかなり特別な力なのだと思う。
(──それならこの先、私がどんな時もシオン様を守ってみせるわ!)
私はそう決意した。
「……本当に愚かだ。情けない」
「……」
項垂れ力尽きた元陛下に近付き、王妃様が冷たく言い放ったその一言には納得しかなかった。
◇
(これで全部、終わったのね……)
ぐったりした元陛下と展開についていけず魂が抜けたみたいになっているエイダン様が別室に連れられていく様子を見ていたらシオン様が私を呼んだ。
「───フレイヤ」
「シオン様?」
「色々ありがとう」
シオン様がギュッと私を抱きしめる。
この温もりが愛しくて私も背中に腕を回してギュッと抱きしめ返す。
「これから一緒に頑張りましょうね、シオン様!」
「ああ!」
私たちは微笑み合う。
「……今日は、私たちも帰りましょう」
「そうだね」
だって、明日からは色々忙しくなる───
元陛下やエイダンさまの今後、ベリンダ嬢の処分。
……それから王妃様とは話したいことがたくさんある。
そう思った時だった。
「───フレイヤ」
「え?」
聞き覚えのある声に振り返る。
「……あ!」
(わ、忘れていた……わ!)
そこに居たのはいつものポヤン顔のお父様と何か言いたげな顔をしたお兄様────……
123
お気に入りに追加
5,153
あなたにおすすめの小説
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
性悪のお義母様をどうしても許せないので、ざまぁします。
Hibah
恋愛
男爵令嬢アンナは伯爵令息オーギュストと婚約する。結婚にあたって新居ができる予定だったが、建築現場から遺跡が発掘されてしまい、計画は白紙に。アンナはやむを得ず夫オーギュストの実家に住むことになり、性悪の義母ジョアンナから嫁いびりを受ける生活が始まる。アンナは使用人同然の扱いを受け、限界まで我慢してしまうが、ある日義母の黒い噂を耳にする。そしてついに、義母への仕返しを決意した。
私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?
日々埋没。
恋愛
公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。
「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」
しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。
「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」
嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。
※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。
またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる