7 / 26
閑話 ~暴れる王女~
しおりを挟む「……ギルバートが婚約……いえ、結婚したですって!?」
「ひっ!」
「お、ユ、ユーリカ王女殿下……! お、落ち着いて下さい……」
ドュバティランド王国の王宮では、美しいと評判の姫君、ユーリカ王女が侍女相手に大暴れしていた。
「どういう事なのよーーー! わたくしそんな事を許した覚えはなくってよ!」
侍女達は、とにかく困っていた。
そもそも、ユーリカ王女は暴れると手が付けられない。
こうなった王女を宥める役目でもあり、昔からとても上手かったのが、まさに話題となっている……そして、今まさに王女が暴れる原因となっているギルバートだった。
「そもそも、わたくしは護衛騎士を辞める許可すら出した覚えはなくってよ!」
(ギルバート様……どうして辞めてしまわれたのですか……私達には手が負えません……)
侍女達は心の中で嘆き悲しむ。
今からでも構わない。ぜひぜひ、戻って来て欲しい。そしてユーリカ王女を宥めて欲しい……
それが、全侍女達の心からの願いだった。
「お、王女殿下……」
「何処の馬の骨の女ですの!?」
「は……? うま、のほね……」
すぐに自分の言いたい事を理解しない侍女にユーリカ王女はまたも苛立つ。
「ギルバートの相手ですわ! どこの馬の骨の女かと聞いているんですのよ!」
「は、はい、えっと……」
そう言われて侍女の一人は慌てて手に入れた資料を読み上げる。
「お相手は、カンツァレラ男爵家の娘の……」
「男爵家ですって!?」
王女は、まだ途中なのに話を遮って更に怒り出した。
「まさか、その芋女はこの王国一の美姫と謳われているわたくしよりも美人だとでもいうのかしら? 有り得ないわよね?」
「あ、いえ……至って普通でこれといって特徴の無い令嬢のようです……平凡……」
「……! なら、若さかしら?」
「あ、いえ……王女殿下よりも二つ年上の20歳のようです」
「若くない! むしろ適齢期が過ぎているではありませんの!! どういう事!?」
「……」
(そう言われましても……)
侍女達は返答に困る。
「なら、お金ね! お金にものを言わせてギルバートに無理やり結婚の話を……」
「あ、いえ……それがカンツァレラ男爵家は没落寸前の借金だらけのようです。むしろ、ギルバート様が借金の肩代わりをしたそうで……」
「ギルバートが借金を肩代わりですって!?」
プッツン。
王女の中の何かが切れた音がする。
侍女達はこれはマズイ……と思った。
今日の犠牲者は誰になるのか……侍女達がそんな覚悟をした時だった。
コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえる。
「「「!!」」」
天の助け! とばかりに侍女達は扉へと急いだ。
「やぁ、ユーリカ。さっきから元気な声が僕の部屋まで響いていたような気がするのだけれど、何かあったのかい?」
「お兄様!」
ドュバティランド王国の王太子、ローハンの登場だった。
先程まで、ブチ切れ寸前だったユーリカ王女の顔がパァッと喜びの顔に変わる。
(た、助かった……)
侍女達は王太子殿下の登場で自分達が命拾いした事を実感する。
「そんな事はありません。お兄様の気のせいですわ。ですが……そうですわね、ちょっと侍女達とお話していたらあまりも楽しくて、つい白熱してしまったの……ゴホッゴホッ」
「! ユーリカ! ほら、あんまり長く起きて無理してはいけないよ。君は身体が弱いのだから」
「コホコホ……ええ、お兄様……ありがとう」
ローハン王子がユーリカ王女をベッドに寝かせる。
(ちょっと生まれた時が少し病弱だったからって、お父様もお兄様も過保護なのよね~わたくしはもうすっかり元気なのに……まぁ、そのおかげでギルバートを護衛騎士に任命出来たのだけど……)
すっかり健康的な王女へと育ったはずの王女はこうして、弱いフリをしながら生きている。
「コホッコホッ……ところで、お兄様。わたくしの護衛騎士だったギルバートの事なんですけど」
「あぁ。彼は無事に伯爵家を継いだようだね」
ローハン王子は、特に気にした様子もなくそう答える。
(もう! 察しの悪いお兄様ね!)
「ねぇ、お兄様。ギルバートをわたくしの護衛騎士に戻してもらう予定はありませんの?」
「何で? 他の者じゃダメなのかい?」
「……やっぱり昔からいたギルバートでないと……わたくしの心が休まらないのです……うぅ……」
ユーリカ王女は、兄王子がとにかく弱いという上目遣いウルウル攻撃を使う事にした。
「んー、ギルは忙しいと思うよ? もしかして、ユーリカは聞いていないの? ギルは結婚……」
「聞きましたわ! それでも……ですの! ギルバートには、ぜひ! わたくしの嫁ぎ先まで着いて来て欲しいのですわ!!!」
ユーリカ王女は兄王子に縋り付くようにして頼み込む。
(芋女になんか絶対に彼を渡さないわ! )
「んー……それは、サティアン殿下が嫌がるんじゃないかな?」
ローハン王子が顔を顰める。
サティアンと言うのは、この度、ユーリカ王女が婚約した隣国の王子。
マメに手紙を王女宛に送ってくれているものの、肝心の王女が返事を返した様子は一度も無い。
ローハンからすれば、これ以上、関係を悪くする様な事は遠慮願いたい。
「……そんな事は関係ありませんわ。わたくしはどんなに反対されてもギルバートは連れて行きます!」
「いや、だからギルは結婚……」
「そんなの! 何か理由があるに決まっていますのよ!」
「理由?」
「ええ! ですからギルバートの結婚は愛の無い結婚に決まっています!」
「……ユーリカ? 何を言って……?」
(あの、バカ正直で実直な男が愛の無い結婚? 無理だろう。相手にすぐバレるに決まっている)
それでも、もしもギルがユーリカの言うように、本当に愛の無い結婚をしたと言うのなら、それは相手の令嬢が超がつくほどの鈍感か、もしくは風変わりな令嬢だった場合のみだろう……
(そんな令嬢がその辺に都合よく転がっていたとは思えない)
だから、ローハンは可愛い妹が何を言っているのか分からず困惑した。
しかし、王女の方は間違いないと確信していた。
(だって、ギルバートが愛しているのは、“わたくし”なの! 芋女は絶対に違いますの!)
────なぜなら。
この国の誰もが知る有名な“恋物語”…………その主役は、わたくし……ユーリカ王女なのだから。
75
お気に入りに追加
4,814
あなたにおすすめの小説
王子様、あなたの不貞を私は知っております
岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。
「私は知っております。王子様の不貞を……」
場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で?
本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。
契約婚しますか?
翔王(とわ)
恋愛
クリスタ侯爵家の長女ミリアーヌの幼なじみで婚約者でもある彼、サイファ伯爵家の次男エドランには愛してる人がいるらしく彼女と結ばれて暮らしたいらしい。
ならば婿に来るか子爵だけど貰うか考えて頂こうじゃないか。
どちらを選んでも援助等はしませんけどね。
こっちも好きにさせて頂きます。
初投稿ですので読みにくいかもしれませんが、お手柔らかにお願いします(>人<;)
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
あなたの1番になりたかった
トモ
恋愛
姉の幼馴染のサムが大好きな、ルナは、小さい頃から、いつも後を着いて行った。
姉とサムは、ルナの5歳年上。
姉のメイジェーンは相手にはしてくれなかったけど、サムはいつも優しく頭を撫でてくれた。
その手がとても心地よくて、大好きだった。
15歳になったルナは、まだサムが好き。
気持ちを伝えると気合いを入れ、いざ告白しにいくとそこには…
殿下が私を愛していないことは知っていますから。
木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。
しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。
夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。
危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。
「……いつも会いに来られなくてすまないな」
そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。
彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。
「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」
そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。
すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。
その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。
あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです
あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」
伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?
【完結】どうかその想いが実りますように
おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。
学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。
いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。
貴方のその想いが実りますように……
もう私には願う事しかできないから。
※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗
お読みいただく際ご注意くださいませ。
※完結保証。全10話+番外編1話です。
※番外編2話追加しました。
※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる