33 / 43
33. 家族の訪問
しおりを挟む(そんな呑気にお茶を飲んでる場合じゃないと思うわーーーー!?)
「ジョエル様! 本当に、ふ、踏んだんですか?」
さすがにこの話は聞かずにはいられなかった。
ドキドキしながら返事を待っていると、ジョエル様は少し考えてからポツリと言った。
「───邪魔だった」
「……!」
(そのまんま!)
とりあえず、邪魔だったことは本当らしい。
いつかの“消す”発言といいジョエル様はどこまで本気なのかしらと思う。
ジョエル様のその言葉を聞いたエドゥアルト様はうんうんと頷きながら言った。
「確か……その時の僕はジョエルを含んだ数人の子息の前で金持ち自慢をしていたんだ」
(か、金持ち自慢……)
「他の人たちは僕のことを憧れの目で見つめてくれたのに……ジョエルだけは……」
「無関心でした?」
苦笑するエドゥアルト様。
どうやら正解らしい。
「その反応が悔しくて悔しくて僕は、ジョエルにまとわりついたんだ───とにかく“凄い”とその口から言わせたくて。でも……」
「ジョエル様の口から飛び出した言葉は、凄い……ではなく邪魔だ……?」
「そういうこと」
エドゥアルト様曰く、同時に踏まれてそこで目が覚めたのだという。
「あの時、ジョエルに踏まれていなかったら今の僕はいないだろう……」
「そ、そこまで!?」
エドゥアルト様は踏まれたことで人生変わってしまったらしい。
別の意味でも心配になる。
でも……
(傲慢な性格だったと自分で言っていたからで目が覚めたのはいいこと、よね?)
そんなことを考えていたらエドゥアルト様は笑顔で椅子から立ち上がった。
「───さて、報告も終えたし、そろそろ僕は帰るかな」
「あ……」
「これ以上、ジョエルの婚約者とのデー……茶の時間を潰したら後が怖いからね───じゃあ、ジョエル、また来るよ」
「……エ、エドゥアルト様!」
私は部屋を出ようとするエドゥアルト様に後ろから声をかける。
エドゥアルト様はゆっくり振り返った。
「セアラ嬢?」
「……あ、ありがとうございました」
エドゥアルト様がいなかったら今頃、私には酷い悪評が立っていたかもしれない。
「エドゥアルト!」
そんな私の横に、いつの間にか立ち上がっていたジョエル様が並んでいた。
(い、いつの間に!?)
エドゥアルト様も少し驚いた様子で目を見張る。
「あれ? ジョエル? 見送りなんて珍し……」
「………………ありがとう」
「!」
ジョエル様が、口にした“ありがとう”という言葉に、大きく目を見開いたエドゥアルト様。
「───ジョエル!」
「……」
「ハハハ! ジョエルが僕にお礼を言う日が来るなんて……」
エドゥアルト様は、その後とっても嬉しそうに手を振って帰って行った。
そんな微笑ましい二人の様子にほっこりしていた私はジョエル様に訊ねる。
「───素敵な友情ですね?」
「……」
ジョエル様は私のその言葉に答えてくれなかった。
けれど、無表情のはずのその顔はなんとなく照れている……そんな気がした。
─────
その後、少々長くなった休憩を終え戻った私は、侯爵夫人にお姉様のパーティーでの様子の話をした。
すると、オーホホッホホーと華麗に高笑いしながら夫人は私に言った。
「つまり───シビルさんは、自ら墓穴掘ってしまったのね?」
「そうなりますね……」
「周りをチョロいと思って強気に出て大失敗だなんて。それも散々だったようね……人を陥れよようとするからよ」
夫人はそう吐き捨てた。
そして、じっと私を見つめて訊ねる。
「さて、セアラさん? こうなったらあなたのお姉さんは今後どう出てくるかしら?」
「……」
そんなの一つしかない。
「社交界に噂を広めることは諦めて……もう直接ここに来ると思います」
「目的は?」
「───元に戻る……再び自分がジョエル様の婚約者になるため……です」
私がそう答えたら、侯爵夫人はやれやれと肩を竦めた。
「……せいぜい茶番劇くらいは楽しませて貰えるといいのだけど」
「……」
そんな話をした数日後。
ワイアット伯爵家から訪問の連絡が届いた。
(慰謝料請求に関しては返答せずにただただ訪問の連絡だけを寄越してきた……)
これは、そんな金額払えない!
ではなく、
だって、払う必要ないからね!
と言っているのかもしれない。
「……」
そんなワイアット伯爵家の面々が指定した訪問日。
私は鏡を見つめながら深呼吸をする。
正直、気が重い。
(でも、大丈夫。私は一人じゃない)
私は手に持っていたジョエル様から買ってもらった髪留めを髪につけた。
「セアラ!」
着替えと髪セットを済ませた私が応接室に姿を見せると、ジョエル様が驚いた声を上げる。
その目線は髪留めにある。
私は小さく微笑んだ。
「……何にも負けない勇気が欲しくて」
「セアラ……」
「ドレスもこの髪留めに合うような色とデザインのドレスにしました」
これまでの私と違って今は全体的に華やかな装い。
「……」
ジョエル様が手を伸ばしてそっと髪留めに触れる。
「どうですか? 似合っていますか?」
「……っ! にっ…………」
「可愛いでもいいですよ?」
「かっ!?」
ちょっといたずら半分の笑顔でそう言ってみたらジョエル様の頬が赤く染まった気がした。
「ジョエル様?」
「……」
「ジョエル様ーー?」
「…………っっ」
パっッと顔を逸らしたジョエル様は、とても小さな声で“可愛い”と言ってくれた。
その後、ギルモア侯爵家にやって来た、ワイアット伯爵家の面々。
(お父様とお母様は苦々しい表情ね……お姉様は───……)
「セアラ~~」
「!」
応接室に通し挨拶もそこそこにお姉様が飛び出して来て私をギュッと抱きしめた。
「私、私ね? 本当にどうかしていたみたい……」
「!」
そして思った通りの言葉が飛び出してお姉様得意の泣き真似が始まった。
(よーし! 今こそ侯爵夫人との特訓の成果を見せる時!)
お姉様に抱きつかれている私は、お姉様に顔を見られていないのをいいことにギルモア侯爵家の面々と目を合わせる。
───演ります!
お姉様に気持ちよく本性をあらわしてもらうために頑張るわ!
「お、お姉様……」
(よし! い、いい感じに戸惑いの声を出せた気がする……!)
本当はお姉様ごとひっぺ剥がしたいけど……今は我慢!
そんなお姉様は私をキツく抱きしめながら涙を流す。
「うぅ……ごめんなさいね、セアラ……私がもっとマイルズ様からの誘いを強く拒めてさえいれば……」
「お、お姉様は悪くないわ! 悪いのはマイルズ様よ!」
(あ、今のはちょっとわざとらしかったかな?)
演技は難しい。
でも、私がそう口にした瞬間、お姉様の身体が震えた。
顔は見えなかったけれど、なんとなく嬉しそうに笑っている気がした。
4,004
お気に入りに追加
6,149
あなたにおすすめの小説
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
【完結】騙された侯爵令嬢は、政略結婚でも愛し愛されたかったのです
山葵
恋愛
政略結婚で結ばれた私達だったが、いつか愛し合う事が出来ると信じていた。
それなのに、彼には、ずっと好きな人が居たのだ。
私にはプレゼントさえ下さらなかったのに、その方には自分の瞳の宝石を贈っていたなんて…。
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
聖獣がなつくのは私だけですよ?
新野乃花(大舟)
恋愛
3姉妹の3女であるエリッサは、生まれた時から不吉な存在だというレッテルを張られ、家族はもちろん周囲の人々からも冷たい扱いを受けていた。そんなある日の事、エリッサが消えることが自分たちの幸せにつながると信じてやまない彼女の家族は、エリッサに強引に家出を強いる形で、自分たちの手を汚すことなく彼女を追い出すことに成功する。…行く当てのないエリッサは死さえ覚悟し、誰も立ち入らない荒れ果てた大地に足を踏み入れる。死神に出会うことを覚悟していたエリッサだったものの、そんな彼女の前に現れたのは、絶大な力をその身に宿す聖獣だった…!
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる