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14. 会いたくなかった
しおりを挟む「……? マーゴット、それはどういう意味なんだ?」
「えっと……」
どこから説明すればいいかしら。
私の力は封印されていて、でも、それが──……
「ん…………ぐっ」
「え、ナイジェル様!?」
私が無能ではなかったことについての詳細を説明しようとしたその時、ナイジェル様が胸を押さえて倒れ込んだ。
私は慌ててナイジェル様に近付く。
「大丈夫ですか!?」
「…………うっ、くっ」
(いつもの咳き込む感じとは違う!? 胸を押さえていて……苦しそう!)
「ナイジェル様! 大丈夫です、しっかりして!」
「……ぐぅっ、はっ……く……な、マーゴッ……すまな、」
「!」
(なんでこの人はこんな時まで謝るの! もう!)
どうして?
どうしてナイジェル様がこんなに苦しまないといけないの?
正式にお世話になることが決まってから、ナイジェル様が呪いを受けた経緯を公爵様から詳しく教えてもらった。
実は、ナイジェル様を呪った魔物が最後に攻撃をしたのは本当は別の人だったって。
ナイジェル様たちは手強い魔物だと分かっていたから、作戦を練っていた。
けれど、その最中に命令を無視して勝手な行動を取ってその魔物に攻撃を仕掛けた人がいて……
ナイジェル様は助けるために防御魔法を使おうとしたけれど、間に合わず捨て身でその人を庇って代わりに自分が全ての呪いを受けた……
(その人が……自分の命を投げ出してでも庇わないといけない人……王子殿下だったから)
その事実が広まると確実に王家は非難を受けるから、世間にはナイジェル様は怪我だと発表。
公爵家にも余計なことを言わないように圧力をかけ……
そのせいでナイジェル様単独の判断ミスによる自業自得なんて見方もされていて、たとえ騎士に復帰してももう騎士団長にはなれないだろう、とまで言われている。
呪いに苦しんで、圧力と世間からの目にも苦しんでいるのに……
(お願いだから───これ以上、ナイジェル様を苦しめないで!)
私はナイジェル様に思いっきり抱きついてそう強く願った。
「ぐっ…………は……ふっ……」
「ナイジェル様? 呼吸が?」
「……ふ」
ナイジェル様の様子が少し変わった気がする。
苦しそうな呻き声ではなくなり、少し落ち着いた?
「……」
(──お医者様の話、本当なんだわ!)
お医者様は封印が綻んでいるせいで、私の力は少しだけ漏れだしていると言っていた。
これなら根本的な原因の呪いをどうにかすることは出来なくても、こんな風に苦しむナイジェル様の苦しみを私の手で少しは和らげることが出来る……
でも……
「……っ」
クラリと大きな目眩がした。私の視界がグルグルと回り出した。
(気持ち悪……)
そんな頭の中でお医者様の言葉が甦る。
────奥様、いいですか? 大きすぎる力には必ず代償があるものなのです
「な、るほど…………これが……代償」
ほんの少し漏れ出している力を使っただけでもこうなるなんて。
力が封印されるのもわかる気がする。だってこんなの身体がもたない。
封印者はそれを知っていて私に施したのかも…………
「あ、駄目……意識……が……」
(ナイジェル……様)
私は自分の意識がどんどん遠くなっていくのを感じた。
目が覚めると自分のベッドの中だった。
使用人からの連絡によって駆け付けたお医者様によってナイジェル様と私はそれぞれ治療を受けたらしい。ナイジェル様も今は安定していると聞いて安心した。
そして、私はお医者様に「無茶をしてはならぬと話したばかりなのに!」と、こってり絞られた。
(だって無我夢中だったんだもの……)
だけど、毎回毎回、こんな風にいちいち倒れるわけにはいかない。
でも、私はお役に立ちたい。
ナイジェル様は心配性だから私が倒れると、きっと自分のことのように心を痛めちゃう。
そうならない為にも……
(封印のことも含めて自分の力のことを知らなくちゃ……!)
私はお医者様に公爵様とナイジェル様に“私の力”のことは自分で話すまで黙っていて欲しいとお願いして、まずは自分自身の力について調べてみることにした。
「力の封印……封印、封印について……」
その日は図書館に行って調べ物をしていた。
もちろん、この封印された力についてを調べるため。
「うーん、やっぱり封印の力も特殊能力によるものよね」
能力が勝手に封印されることはないという。
たいていは子供の頃に危険もしくは強大な能力だと判明し、封印能力を持つ人によって施され成長と共にそれに見合う魔力量や知識があれば解かれる場合もある、と、書かれていた。
「……必ずしも封印した人と解く人は同じでなくても構わない──……まぁ、確かにそうでないと困るわよね」
封印者が自分の両親や親戚などの身近な人ならいいけれど、そうでなかったら一生解くことが出来なくなってしまう。
(そういえば今、封印の力を持つ家系っていくつかあったはず────)
そう考えた時だった。
「……おや、もしやその可憐な後ろ姿……あなたはフィルポット夫人……?」
「!」
聞き覚えのある声に私の背中がゾワッとした。
それと同時に護衛が動く気配。
(ここは図書館だし、あまり大騒ぎにはしたくない)
なので護衛には目配せをして一旦落ち着くようにと合図をしてから私は後ろを振り返った。
「……御機嫌よう、プラウズ伯爵令息様」
「ああ! やはり! お会いしたかったです、夫人」
(……私は特にお会いしたくなかったです)
「あのパーティーの日からまた、貴女に会える日が来るのをどれだけ心待ちにしていたか……こんな所で会えるなんて嬉しいです、これは運命……?」
「違うと思います」
あのパーティーの日と変わらず、甘い笑顔で声をかけてくるロイド様。
私も頑張って笑顔を作ってみるけれど、どうしても引き攣ってしまう。
「ははは、夫人はつれないな!」
「……」
「だが、そこがいいですね! 夫人みたいに大人しく目立たない女性が必死に強がる姿は嫌いではないので」
「……」
(いや。ぜひ、嫌って欲しい……)
相変わらずの大袈裟なリアクション。
あと、この人、やっぱり私のことを馬鹿にしていないかしら?
そう思うと苛立ちが募る。
「それに、私のことは次にお会いした時には名前で読んで欲しいとお願いしたはずなのに……プラウズ伯爵令息と呼ぶのですね?」
「……私は夫以外の殿方と仲を深めるつもりはありませんので」
私がそう答えるとロイド様は深いため息を吐いた。
「本当にガードが固い方だ。ナイジェル殿が羨ましい」
「……特に御用がないならこれで失礼させていただきますね」
これ以上この人と話していると、気持ち悪さだけが増してくるのでさっさと切り上げようと思った。
「え、あ…夫人、待って……」
「……っ!」
腕を掴まれそうになった所を払い除けたら、手に持っていた本が落ちてしまう。
「あ、し、失礼…………ん? 力の封印?」
落ちた本を拾い上げてくれるロイド様が私が直前まで開いていたページを見て首を捻った。
どうやら本に開き癖がついてしまっていたしい。
「もしかして、夫人は封印の能力にご興味が?」
「……」
「ははは、やっぱり夫人のそれは照れ隠しなんですね? 実はそんなに私のことを気にしてくれていたなんて!」
「……は、い?」
何の話かしらと私は眉をひそめる。
私がロイド様を気にしている? どうしてそうなる───
(あ!)
そこでようやく思い出した。
プラウズ伯爵家は、封印の力を持つ家系の一つだったことを。
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