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9. 参加することにした

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 パーティーへの招待状が届いたということで、私は公爵様に参加すべきか否かの相談をした。
 ナイジェル様はとてもパーティーなんて行ける容態ではないので、一緒に行くことは出来ない。

「私、一人でも参加した方がいいものなのでしょうか?」
「……」

 公爵様は招待状を見ながら考え込んでいた。

 招待を受けたパーティーそのものは大きな規模のものではない。
 エスコートも不要という。

「まぁ、いつもの流れで我が家にも招待状をくれたのだろうが……」
「……」

 けれど、結婚したばかりの私の名前も招待状に載っている。
 つまり、相手はナイジェル様が療養中であることも、結婚したことも分かったうえで送って来ている。
 それが意味するのは……

「だが、ナイジェルの結婚について知りたい、話を聞きたい……という目的が透けて見えるな」 
「……やっぱりそうですよね?」

 そうなると、参加したらどんな目にあうかは簡単に想像がつく。
 それはそれで、少し面倒ねと思った。

「欠席しても構わないが、もしマーゴット嬢の親しい友人も参加するから会いたいというなら──」

 公爵様は、気を使ってそう言ってくれたようだけど私は首を横に振る。

「いいえ、ご安心を!  これまでの私のパーティーの過ごし方はもっぱら“壁の花”でした!  ……ですから、親しいと呼べるほどの友人は…………いません!」

 私は胸を張ってそう答えたけれど……
 どうしてかしら?  何かを盛大に間違えた気がする。

「……!  そ、そうか。す、すまない……」

(こ、これは胸を張って言うことではなかったわ……)

 公爵様が気まずそうに申し訳ないと頭を下げた。
 私はその様子を見ていて、はたと気付いた。

(ああ!  こういう時の表情とか頭の下げ方がナイジェル様とそっくり……!)

 さすが親子!

「えっと、それで今回のパーティーですが……」

 ちょっと思考が逸れてしまったけど、今回のパーティーはフィルポット公爵家にとって絶対に参加しなくてはいけない関係の相手でもなく、ただ結婚について根掘り葉掘り聞きたいだけならば無理に参加せずとも……
 そう思って断ろうかと言いかけた時だった。
 ふと、思い出す。

(そういえば──この主催者となる家の令嬢と“マーゴ嬢”は仲が良かった気がする)

 もしかして、マーゴ嬢が参加するかもしれないわ!
 これまでは互いに何となく避けてきた所があるけれど……
 私はもう、プラウス伯爵令嬢ではないのだから、紛らわしいとは言われないわよね?
 もう“じゃない方のマーゴ”ではないもの。

(それなら、彼女と話がしてみたい……)

 ナイジェル様の想い人がどんな方なのか……知りたい。
 そう思ってしまった。


「あの!」
「どうした?」
「やっぱり……そのパーティー、参加してみてもいいですか?」
「え?」

 私の言葉に公爵様は驚いた顔をした。




「……苦い」
「もう!  ナイジェル様?  また、そんな子どもみたいなことを言っているんですか?」

 今日も体力強化によいお茶を淹れてナイジェル様に手渡した。
 一口飲んだナイジェル様からはいつもと同じ言葉が返ってきた。

「苦いものは苦いんだ……くっ」
「あ!」

 そんな文句を言いながらも、ナイジェル様は今日もきっちり飲み干していた。

(やっぱり律儀な方だわ…………頑張って飲んでくれたのだから、効果があるといいのだけど)

「はぁ、身体にいいことも分かっている……が、苦い」
「申し訳ないですけど、こればっかりは私にはどうすることも出来ないです」
「……分かっている!  だが!  マーゴット嬢!」
「は、はい?」

 なぜか改まった感じで名前を呼ばれたので、少しびっくりした。

(何かしら?)

「そ、その、色々と、あ…………とう」
「!」

 ナイジェル様は顔を赤くしてプイッと顔を逸らしながらそう口にした。
 正直、最後の方はかなりの小さな声だったので、はっきり聞こえなかったけど、何を言ったかは分かったわ。

 ───ありがとう。

 少しぶっきらぼうな物言いだったけれど、胸の奥がじんわりする。

(頬が熱い……)

 なんだか照れくさくなってしまったので、話を変えることにした。

「あ、えっと……そ、それでですね?  公爵様にも話したのですが、私、今度パーティーに参加することにしました!」
「パーティー?  だが俺は……」

 ナイジェル様が驚きの声を上げた。

「あ、はい。パートナーのエスコートは必須ではないそうなので大丈夫です」
「だからと言ってさすがに一人で参加……というのは心配だ。変な輩も多いし……」

 気のせいかしら?
 ナイジェル様が過保護な父親みたいなことを言い出した。
 なんだかんだで優しいなぁ、と思う。

「それも大丈夫です。公爵様も一緒に参加してくれますから」
「父上が?」
「だから一人ではないのでご安心を」

 パーティーに参加したいと言った私に公爵様はそれなら自分も参加すると申し出てくれた。

「そ、そうか……」
「ですが、おそらくパーティーでは結婚について根掘り葉掘り聞かれるだろう……と公爵様も言っています」

 ナイジェル様はハッとして俯いた。

「……すまない」
「ナイジェル様には申し訳ないのですが、私のような冴えない女が公爵家の嫁として大々的に紹介されてしまいます」
「冴えっ!?  君はなにを言っ……!  うっ……ケホッ……」
「ナイジェル様!」

(大変!  発作!?)

 私は慌ててナイジェル様に駆け寄って背中をさする。

「す、すまな……い……ケホケホッ」
「いえ、私こそ。興奮させてしまったみたいで……」

 ずっと見ているだけだった人のそばにいる……と思うと、ついつい色々な話がしたくて喋りすぎてしまうわ。
 気を付けないと……

 そう思った私だけど、そのパーティーにマーゴ嬢も参加するかもしれない、とはナイジェル様に言えなかった。




 そして、パーティーの日。

「やはり……こうなったか。すまないな、マーゴット嬢……いや、マーゴット」
「……」

 公爵様と共に会場に入るなり、一斉に視線が私に集中した。

 ───フィルポット公爵家……
 ───突然の結婚
 ───ナイジェル殿は療養中のままらしい
 ───なぜ、プラウス伯爵令嬢が?

 やはり、これまでなんの接点もなかった私が突然、結婚相手として名前が上がったことには疑問があるらしい。
 そして、微かに聞こえる“じゃない方”という言葉───……

(この声が上がるということは。やはりマーゴ嬢はこの場にいるんだわ)

 そう思って辺りを見回してみたけれど、近くにいる様子はなかった。

「どうした?」
「いえ……大丈夫です!」

 公爵様が心配そうな顔で私のことを見たので、笑顔で大丈夫と答えた。




 その後は主催者への挨拶を終えて、自由に過ごす時間……となったのだけど。
 公爵様はあっという間に人に囲まれてしまったので、私は少し離れた所で全力で壁の花となっていた。

(すごいチラチラ……) 

 一気に質問攻めに合うかもと覚悟していたけれど、そんなことはなかった。
 ただし、視線はすごく痛い。
 おそらく皆どう話しかけようか迷っている……そんな感じがした。

 そんな時だった。

「あの……」
「はい?」

 横から可愛らしい声に声をかけられて振り向いた。

(──あ!)

 思わずそんな声を上げそうになり、慌てて自分の口を塞いだ。

「えっと、突然ごめんなさい?  プラウス伯爵家のマーゴット様……ですよね?  ご存知かもしれませんが、私はマーゴ・プラウズと言います」
「……」


 ───まさかの私への最初の突撃者はマーゴ嬢だった。

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