4 / 34
4. 不運が重なった結果
しおりを挟む「───本当に申し訳なかった!」
「あ、いえ……その」
「今回の件はナイジェルに念を押して確認しなかった私が悪い!」
(ひぇっ! 大物が私に頭を下げているんですけど……!)
おかげで頭痛もどこかに吹き飛んだわ……
とにかく、私はこの目の前の光景に大きく戸惑った。
私の部屋を訪ねてきたのは公爵様だった。
扉を開けた時、あまりにも公爵様の顔色が悪かったので、ナイジェル様に何かあったの!? 容態急変!?
と、思ってしまい焦ったら、そういうことではなく……
「ナイジェルは今の所は落ち着いたので大丈夫だ。医者もそう言っている」
その言葉に良かったとホッとしていたら突然、頭を下げられた。
────
「とりあえず、お茶を淹れてもらったので……どうぞ」
「す、すまない……」
公爵様はテープルに置かれたカップを手に取るとゴクッと一気にお茶を飲み干した。
この状況に戸惑った私はまず、メイドを呼びお茶を淹れてもらい興奮気味の公爵様に落ち着いてもらおうと思った。
さすが、公爵家!
気分を落ち着けてリラックス効果のあるお茶はありますか? と駄目元で聞いてみたらハーブティーが出て来たわ。
「今回の件……マーゴット嬢、いや、プラウス伯爵家には全く非の無い話だ」
「え? ですが私やお父様も手紙の宛名の確認を怠ってしまって……」
公爵家から届いた手紙は実家にあるので、今すぐ綴りの確認は出来ないけれど、宛名はマーゴ嬢宛となっていたはず───
しかし、公爵様は首を横に振った。
「違うのだ。あれは誤配達……ではなく、最初からナイジェルの相手がプラウス伯爵家の令嬢だと私が思い込み手紙を書いてしまったのだ……」
「……え?」
「だから、この件は私が全面に悪い!」
公爵様はそう言って再度深く深く頭を下げた。
「どうして……ですか?」
「──そもそも、私はナイジェルの意中の女性は“伯爵令嬢”ということまでしか知らなかった」
「そうなのですか?」
私が聞き返すと公爵様は渋い顔をした。
そしてカップを手を取るとお茶のおかわりを注ぎ、また一気に飲み干した。
「ナイジェルはどんなにいい条件の見合い話があっても全て蹴るものだから……その頃はよく喧嘩していたのだが……」
「まあ!」
「すると、ある日ナイジェルは言ったのだ。以前、一目惚れした令嬢がいる、と」
(それが、マーゴ嬢ね?)
「ナイジェルはその時に名前を言おうとしていたのだが、伯爵家の令嬢と聞いた時に私が駄目だと激怒したので、その場ではっきり名前を聞くことはなかった」
「……激怒」
フィルポット公爵様は、現国王陛下の弟───王族だ。
伯爵令嬢だと王族としてはちょっと……という思いが全面に出てしまっていたらしい。
それでも、今回は呪いに苦しむ息子のためにと踏み切ったのに……まさかの人違い!
「あの時に名前をしっかり聞いていれば……と思わなくもないが……それで、今回ナイジェルに意中の令嬢は誰なのかと聞いた」
「……」
「だが、聞いたタイミングが悪かった。今よりも呪いに苦しんでいる最中でナイジェルの発した名前の発音はどこかあやふやだった」
「な、なるほど……」
これ、最悪のパターンだわ……
「ナイジェルの様子からその相手が未だに未婚なのは分かったのだが、早くしないと誰かと婚約してしまうかもしれないという焦りもあった……」
「それは、分かるのですが……では最終的に“私”になったのはどうしてなのですか?」
まさか、そんなあやふやな発音のまま選ばれたとは考えにくい。
そう思って訊ねた。
すると、公爵の顔がズンッと分かりやすく沈んだ。
もう、その表情だけで私は色々と察した。
「……ナイジェルの発音があやふやだったから、紙に名前を書かせた……が、私はそれをプラウスと読んでしまった」
「……」
Prouse(プラウス)とProwse(プラウズ)
違いはたった一文字……
しかも、文字を書いた本人は呪われ中……字も色々と怪しかったのでは?
「……だが、最終的な決め手となったのはナイジェルの一言だ」
「はい? 一言、ですか?」
「“癒されるんだ”と言っていた」
「……あ!」
「それを聞いて、プラウス伯爵家は治癒能力に長けている家門だったのでこちらに間違いないと……私は」
(な、なんてこと……!)
もう様々な最悪な状況がこれでもかと重なった結果がこれなのね……?
「話がここまで進む前に、一度でも先に顔合わせが出来ていたなら……」
「……ナイジェルが呪いを受けていることは、限られた者たちしか知らず、世間には秘密にしているのでな、難しかった」
「あ……」
ここまでの経緯はよく分かったわ。
もう、これは誰が悪いとかそういうことではない……ので、私は気になった“現状”を確認することにした。
「えっと、状況は分かりました…………それで、私とナイジェル様の婚姻届……はどうなっています、か?」
ギクッ
公爵様の身体がとっても分かりやすく震えた。
もう、それだけで想像がついた。
公爵様は再び勢いよく頭を下げた。
「す…………すまない! それが、今、ここに来る前に確認したところ……提出済み、だった」
「!」
予想が大当たりしてるーーーー!
公爵家の皆さん、仕事が早すぎる!
「…………つまり、私はすでにナイジェル様の……妻、ですか」
「そういうことになる」
────
今後、どうするかはナイジェルも交えて話し合いたい。
公爵様はそう言って何度も何度も私に申し訳ないと言って、頭を下げながら部屋を出ていった。
「……」
私は残りのお茶を手に取るとそのまま一気にグビッと飲み干した。
(私……のことはいい)
もともと夢みたいな話で、それがやっぱり夢だっただけだから。
何よりあんなに苦しそうで辛そうなナイジェル様を責める気にはならない。
「でも、こんなにすぐ離縁して出戻ったら……お父様が悲しむわよね……」
結婚相手が大物だということを抜きにしても、お父様はこの結婚を喜んでくれた。それだけ私の結婚を心配してくれていた。
それなのに早々に出戻って“やっぱりダメな子”なんだって悲しい思いをさせたくない。
「……私は力が使えない“無能”だからダメな子なんだって周りに散々言われてきたわ……きっとまた周りにお父様が責められちゃう」
それだけは嫌だなぁ、と思った。
そして翌日。
どうにか容態も落ち着いたナイジェル様は、今朝、無事に目を覚ましたという。
よって、今後……これからの私たちはどうするのか……の話し合いの場がもたれることになった。
135
お気に入りに追加
4,841
あなたにおすすめの小説
【完結】私が貴方の元を去ったわけ
なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」
国の英雄であるレイクス。
彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。
離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。
妻であった彼女が突然去っていった理由を……
レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。
◇◇◇
プロローグ、エピローグを入れて全13話
完結まで執筆済みです。
久しぶりのショートショート。
懺悔をテーマに書いた作品です。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ
リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。
先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。
エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹?
「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」
はて、そこでヤスミーンは思案する。
何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。
また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。
最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。
するとある変化が……。
ゆるふわ設定ざまああり?です。
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる