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最終話 嫌われ王女の手にした幸せ
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出迎えたわたくしに向かって、コンラッド様は甘く優しく微笑んでくれた。
その笑顔を見るだけでわたくしの胸はキュンとなる。
(落ち……落ち着きなさい! わたくしの心臓!)
こっそり深呼吸を繰り返していると、コンラッド様が感激した様子で口を開く。
「……クラリッサが…………起きているクラリッサが私の部屋にいる」
「はい」
「私はずっとずっとこの日を待っていた」
「コンラッド様……」
ずっとこの日を待っていた───
そう言ったコンラッド様が、わたくしの顎に手をかけて顔を持ち上げると、そっと唇にキスをする。
いつもの甘いキス。
(キスだけはたくさんして来たけれど──……)
コンラッド様はとても真面目なので、結婚する今日までわたくしにキス以上のことはしなかった。
(サマンサ嬢は、「コンラッドって、変な所で堅物なんですね」と笑っていたけれど)
全く求められないので、わたくしには女性としての魅力が足りないのかしら?
と、少しだけ心配になった時もあったけれど、結婚するまでは、としっかり節度を守ってくれていただけだったと分かりホッとする。
「ん……」
「……クラリッサ」
優しかったキスが少し激しいものに変わった。
嬉しくて幸せで……少し恥ずかしい。
そんなどこか夢心地でいたら、突然、フワッとわたくしの体が持ち上げられた。
「!?」
「クラリッサ、落ちないように気を付けて。このままベッドまで運ぶから」
「え……」
お姫様抱っこされたのだと気付いたら、一気に恥ずかしくなった。
そして、そのまま運ばれ、ポスンッとベッドの真ん中に下ろされて優しく寝かされた。
そのままコンラッド様がわたくしの上にのしかかって───
(ひぇっ!)
「ふっ……!」
緊張でガチガチに固まって動けずにいたら、コンラッド様が突然、吹き出した。
「ははは、クラリッサがこれまで見たことない顔をしている…………うん、可愛いな」
「……か、可愛いと言えば何でも許されると思わないでくださいませ!」
「! ははは、クラリッサ。本当に君って子は……」
「~~~!」
恥ずかしさを誤魔化しているのがバレバレだったようでますます笑われた。
(もう!)
「……」
「えっと、コンラッド様?」
だけど、そこで笑うのをやめたコンラッド様がそっとわたくしから離れてしまった。
そして何故か横になっていたわたくしを抱き起こす。
「???? あの……?」
「クラリッサ……」
そうして、わたくしの耳もとに口を寄せて「一つ、お願いがあるんだ」と言った。
❋
「んっ……」
「あ、ごめん。触られるの嫌だった……?」
「いえ、そうではなく……大丈夫です。ただ、誰かに触られるのは初めてでしたから」
「初めて……?」
わたくしがそう言うとコンラッド様がヒュッと息を呑んだ気配を感じた。
あいにくコンラッド様に背を向けているので表情は見えないけれど、多分、悲しそうな顔をしている……そんな気もする。
コンラッド様はわたくしの背中に残っている傷痕にそっと優しく触れながら言った。
「要するにそれって、手当もしてもらえなかったということなんだろう!?」
「…………そうですね。だから、こうして痕が残ってしまったのかもしれません」
「……!」
(ああ、表情が見えなくても分かるわ。今、きっと怒っている)
───コンラッド様の頼みごとは、わたくしが嫌でなければ背中の傷痕が見たい……だった。
初夜を迎えるにあたって、わたくしが悩んでいたのをまるで知っていたかのような頼みごとには正直、驚いた。
(でも、コンラッド様になら構わない───)
そう思えたわたくしはそっと着ていたガウンを脱いで背中を見せた。
「基本的に量刑には口を出さないと決めていたけど、あのツル……元宰相と牢番たちにだけはもっと罰を与えてくれと口を挟みたい!」
「コンラッド様……」
「これは……兄上にお願いするか」
「!」
(今も表情が見えなくても分かるわ。コンラッド様の目は本気!)
明日の朝、コンラッド様が二番目の王子殿下に直談判する姿が簡単に想像出来た。
ちなみに元宰相やわたくしを虐げて虚偽の申告をしていた牢番たちは、すでに終身刑を言い渡されている。
属国化となったランツォーネの統治に関しての意見は大きく割れた。
元王族のわたくしとコンラッド様を強く推す意見と、元王族は加わるべきでは無いという意見……
最終的には、国に戻る意思は無いというわたくしの気持ちを汲んでくれて、二番目の王子殿下に委ねることで話は落ち着いた。
そして今、その二番目の王子殿下は結婚式のためプリヴィアに帰って来てくれている。
「クラリッサ……」
「はい…………きゃっ!?」
ずっと傷痕をさすっていたコンラッド様が後ろからわたくしを抱きしめた。
そして耳元で囁く。
「私の気持ちは変わらない。愛してるよ」
「あ、ありがとう……ございます……」
「ますます君が愛しい」
「わ、私も、コンラッド様を、あ、愛してますわ!」
振り向きながらそう応えたわたくしにコンラッド様は、嬉しそうに笑うとそっとキスをした。
「……」
「え? ……あっ」
───そのキスが合図だったかのように、夫婦となったわたくしたちの甘い夜が始まった。
❋
───かつて、わたくしは、勘違いも甚だしいとんでもなく愚かな王女だった。
末っ子で、ランツォーネ国の唯一の王女。
そのせいか、国王のお父様、お母様もお兄様たちも皆、わたくしを可愛いと言っていつだって溺愛してくれた。
お城の者たちも、チヤホヤしてくれた。
だから欲しい物は何でも手に入れた。わたくしが望んだことならなんでも叶う。
───そうして、出来上がった傲慢で我儘で勘違いの激しい性格の王女クラリッサ。
誰よりも可愛いわたくしは、誰からも愛される特別な存在なのだと信じて疑わずにそう思い込み……そして痛い目を見た。
愚かだった自分を反省して、見つめ直しても、誰からも許しを貰えなかったわたくしを助けてくれたのは……他国の王子様。
邪魔者嫌われ王女となったわたくしが身を引くことを許さず、真っ直ぐな愛を向けてくれた。
────そうして、彼がわたくしにくれたものは、
ずっとずっと欲しがっていた“本物の愛”だった。
───だから、コンラッド様と過ごすこれからの日々は偽りなんかじゃない……本物の愛に溢れた幸せな日々────……
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
ありがとうございました。
これで、完結です。
まずは、お詫びから。
またしても短編詐欺となってしまい本当に申し訳ございません。
10万字超えた辺りから申し訳ない気持ちでいっぱいだったのですが、ここまで来たら書きたいと思ったことは書き切ってしまおうと開き直ってしまいました。(そして更に伸びた)
そんな調子だったのに、最後までお付き合い下さった方には心からの感謝を申し上げます。
この話は“ざまぁされたヒドイン(もしくは悪役ポジション)の子が反省して主人公になったら”
が、テーマでした。
なので、人によってクラリッサの見方が大きく変わる話だったと思います。
そんな事もあり、クラリッサの事を応援して貰えたのは本当に嬉しかったです。
また、感想コメントでもたまにありました、タグの「ざまぁ……?」に関してですが、
なぜ、ざまぁタグではなかったのかについては理由は色々あるのですが、
一番はクラリッサが“ざまぁ”をする、その資格がないからです。
だから、追い詰めるのは基本コンラッドで、クラリッサがした事はギャフンという言い方にした仕返し程度になりました。
それから、家族とはいつか雪解けの日がやってきて、アルマとジャンもそれぞれの道でそれなりに幸せを見つけて過ごす……という想像を私はしています。
(サマンサは文句なく幸せを掴み取っているでしょう)
それでは、長くなったのでこの辺で……
お気に入り登録、感想コメント、エールetc.....ありがとうございました。
感想の返信は相変わらずさっぱりで本当に申し訳ございません。
全て読んでいます。
ここまでお読み下さり本当にありがとうございました。
新作も始めています。
『どうやら転生先は、いずれ離縁される“予定”のお飾り妻のようです』
また、お付き合い頂けたらとても嬉しいです。
ありがとうございました!
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