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第46話 決意

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  コンラッド様と乗り込んだパーティーの後、ジャンときちんと向き合えなかったこと……心残りではあった。
  でもあんまり考えないようにしていた気がする。
  だって、もう二度と会うことはないのだろうと思っていたから。

  (そういえば、サマンサ嬢には心残りの話をしたわね……)

  だからこそ、サマンサ嬢はコンラッド様を呼び出して話がしたいと言ったのだと思っている。
  でも、わたくしはジャンと面と向かい合った場合に、なんて声をかけたらいいのか戸惑ってしまう……そんな気がする。



「会いたい……?  ジャンがそう書いているのですか?」
「うん。出来ることなら会わせて欲しいって書いてある」
「どうして……」

  そんな言葉をジャンの方から言うなんて……何故なの?
  
「クラリッサに直接そんなことを書いた手紙を送るのではなく、私を通した点はまだ評価したいところだけど……」
「けれど?」

  わたくしが聞き返すとコンラッド様は、深いため息と共に言った。

「ようやく様々な問題が落ち着いて、あとは結婚式までまっしぐらだと思ったのに、まだ邪魔が入るのか!  という気持ちしかない」
「コンラッド様……」
「それも今度は、クラリッサの元護衛騎士……クラリッサの好きだった男……」

  大変!  コンラッド様の目つきがどんどん悪くなっていくわ……!
  これはいけないと思い、わたくしは慌てて口を開く。

「あの!  わたくしはもう……」
「分かっているよ。でも、もうそれが愛とか恋とかという気持ちではなくても、クラリッサの心の中に私以外の男がいると思うとそれだけで嫉妬したくなる」
「あ……」

  コンラッド様の顔が近付いてきて、わたくしの額にチュッとキスを落とした。
  そして、わたくしの目をじっと見つめた。

「でもね?  クラリッサの気持ちに合わせるよ」
「会うな、とは言わないのですか?」

  コンラッド様はうーんと少し考えてから静かに口を開く。

「あの男が二度とクラリッサの人生と関わらないのなら、会わないで欲しいとは思っていた」
「え……?」
「でも、こうして関わって来ただろう?  そのせいであの男の存在がこれからもクラリッサの心に影を落とすことになるのは許せない!」

  (コンラッド様……!)

「それに、何かと理由をつけて今後もクラリッサに会おうとされるくらいなら、今のうちに顔を合わせてお互い言いたいことを言ってきれいさっぱり縁を切ってくれた方が嬉しい」
「……お互いが、言いたいことを……」

  チュッ
  もう一度額に優しいキスが降ってきた。

「……これはあくまでも私の意見だ。会いたくないなら会わなくても構わない。面会を断ったからと言って我が国としてそれが問題になったり、不利益になるような相手でもないしね」
「……っ!」

  コンラッド様はどこまでもわたくしの気持ちを汲んでくれようとする。

  (家族とはいつかは向き合いたいと決心をしたのに、ジャンだけ目を逸らすのはどうなの?)

「ゆっくり考えてくれて構わない」
「コンラッド様……」
「ただ、クラリッサが後悔だけはしないで欲しい」

  コンラッド様は優しくそう言ってくれた。
  
  

❋❋❋


「───初恋の男が訪ねてきたいと言っているから会うべきか、ですって?」
「ええ……」
「ちょっと待ってください、王女殿下!  それって浮気ですか?  私からコンラッドを奪っておいて浮気するつもりなのですか!?」
「えっ!  浮気!?  違います!  そういうことではないですわ!」

  とんでもないことを言われたので、わたくしは必死に否定した。


  あれから数日後。
  謹慎が解けたサマンサ嬢が早速わたくしの元を訪ねて来た。
  ここ数日、ジャンの訪問を受け入れるべきか悩んでいたせいなのか、眠れない日が続いていてサマンサ嬢に顔色が良くないと指摘されてしまった。
  それで、話をしてみたのだけど……


「───つまり、その方は王女殿下がきちんと向き合えなかったという護衛騎士のことなのですよね?」
「ええ」
「距離もあるのに、わざわざ?  文句でも言いに来るつもりなのでしょうか?  暇人なんですね」
「……暇人」

  サマンサ嬢はズバッとそう言って切り捨てた。

「ジャンがわたくしと会ってどうしたいのかは不明ですが、わたくしへの文句はたくさんあるはずです」

  わたくしのせいで人生めちゃくちゃだ!  と怒っていてもおかしくない。

「……そうは言いますけど、その彼女を選んだのはその騎士自身ですよ?」
「え?」
「仕組まれた出会いだったとしても、偽りの愛を本物の愛に出来なかったのは、その騎士と彼女の問題であって王女殿下のせいではないと思います」
「……偽りの愛を本物の愛に……出来なかった……?」

  わたくしが驚いてサマンサ嬢の顔を見つめると彼女は言った。

「私、思うのですが……王女殿下はもうそろそろ呪縛から解き放たれてもいいのではありませんか?」
「呪縛……?」
「話を聞いているだけでも、充分に罰は受けたと思います。ですから、もっとご自分の幸せを考えてもいいのでは?  ということです」
「幸せって……わたくしはちゃんと幸せになろうと……」

  サマンサ嬢がジトッとした目でわたくしを見る。

「!?」
「それなら!  先日、コンラッドが言っていたのはどういうことですか!  まだ、王女殿下に自分は片思いなのだと言っていましたよ?   何でコンラッドはそんな阿呆な勘違いをしているのですか!」
「そ、それは……」

  わたくしが想いを伝えようとすると邪魔が入ったり、偶然なのは分かっているけれどコンラッド様が言わせてくれなかったり……
  どうしてなのかいい雰囲気になって今度こそ!  と口を開こうとするけれど、その度に上手くいかない。

  (この間のパーティーの後もキスで口が塞がれて結局、言えなかったわ……)

  しかも、あの時は気がついたらコンラッド様のベッドを占領して爆睡までしていた。
  疲れていたとはいえ……なんて図々しいことを……

「見ていれば分かります!  王女殿下もコンラッドのことを好きなのでしょう!?」
「す、好き!  です……わ!」

  わたくしがそう応えると、サマンサ嬢はキッと目を吊り上げてわたくしに向かって言った。

「それならば、その元護衛騎士とやらをさっさと呼びつけて、言いたいことを言ってスッキリしてコンラッドと幸せになってください!」
「サマンサ様……」
「───なってくれないと私が困るんです!!」

  (ええ!?)

  サマンサ嬢の勢いにわたくしは頷くことしか出来なかった。





「訪問を受け入れる?」
「……そうしようと思います」

  わたくしはコンラッド様の元に向かってそう告げた。

  サマンサ嬢に言われて考えた。
  わたくしの幸せ……それはコンラッド様とこれからを共に歩んでいくこと。
  今回、ジャンに会うことを拒否して、ずっと心の中にジャンの存在が燻って残ってしまうことの方が嫌だ。

「コ、コンラッド様以外の男性のことで自分の頭の中をいっぱいにしたくないのです!」
「え?」
「ジャンがわたくしと顔を合わせた時に何を言って来たとしても…………わたくしはコンラッド様と幸せになりたい、その気持ちはもう譲れません」
「クラリッサ……?」

  コンラッド様が少し戸惑っている。
  けれど、わたくしの決意表明は続く。そして……

「ですから、コンラッド様!  あなたに一つお願いがあります!」
「お願い?」

  コンラッド様は不思議そうに首を傾げた。
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