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第16話 もう一人の王子様
しおりを挟む───味がしない。
美味しいはずのお茶が何の味もしない。
リュミエリーナ様の狙いをかわして、せっかくの機会だし美味しいお茶を堪能するつもりだったのに。
(あれもこれもそれも全部、あのサスティオ殿下が現れたせい……)
ヒーローである王子の異母兄なんて重要そうな存在なのに作者の私が知らない人。
そのせいで、彼が何を考えているのかさっぱり分からない。
(しかも、あれは口説かれた?)
後でゆっくり二人で過ごしたい?
そんなの冗談じゃないわ!
今、サスティオ殿下は他のテーブルを回っていて他の令嬢達と談笑しているけれど、終われば本当に私の所にやってくるつもりかもしれない。
(目的は……何?)
公爵令嬢のお茶会に顔を出してみたら、何故か一人だけ毛色の違う身分の低い男爵令嬢がいたから気になったので声をかけてみた──?
そんな単純な話では無いと思う。
私は、自分がヒロインだからモテモテなのね? モテて困っちゃうわ~!
なんて思ったりしない。
はっきり言わせてもらうと、あっちにフラフラ……こっちにフラフラする優柔不断なヒーローもヒロインも好きじゃない。
ましてや、あの王子は作者である私の知らない人……得体が知れない。
(だからこそ、サスティオ殿下のあの笑いは絶対に何かを企んでいるはずなのよ)
「それにしても、サスティオ殿下はお元気そうで良かったわね」
「本当に。あんな噂もあったし……」
「そうよねぇ……」
(あんな噂?)
「……あの、サスティオ殿下の噂って何の話ですの?」
私はおそるおそる聞いてみる。
「え?」
「あぁ、イラージュ男爵令嬢はご存知ないですものね……」
「簡単に言えば、王家の王位継承に関するゴタゴタの話ですわ」
「王位継承?」
その言葉にドキッとする。
それって、明らかにマクレガー殿下が関わってくる話じゃないの!
「そうですわ。サスティオ殿下は───……」
────
「アメリア嬢!」
「……」
各テーブルを回り終えたサスティオ殿下が私の元へとやって来た。
すると、示し合わせたかのように私のテーブルに居た他の令嬢達が「わたくしあちらの友人の所へ……」「リュミエリーナ様のところに行ってきますわ!」等と言ってそそくさと離れて行ってしまう。
(しまった! これ仕込みだったんだわ!)
気付いた時にはもう遅い。あっという間に私はテーブルに一人取り残された。
そんな私にサスティオ殿下が満面の笑みで近づいて来る。
「全員に挨拶して回ったから、もういいよね? さぁ、僕に付き合ってよ」
「……」
「うーん、何でそんな警戒するような目で見るのかなぁ? 僕は君ともっと話をしてみたい……そう思っただけなのに」
人懐こそうな笑顔で肩を竦めるサスティオ殿下。
何も知らなければ私もこんなには警戒しなかったかもしれない。
でも……
「お気持ちは嬉しいのですが、私はそう簡単に殿下とお話出来るような身分ではありませんので」
私がそう答えると、サスティオ殿下はまたまた意味深な笑顔を浮かべる。
そして、私の耳元に顔を近付けてこう言った。
「またまた~。そんな、つれない振りをしても無駄だよ。君はマクレガーの愛妾を狙って日々、アイツを垂らしこんでいる悪女なんだろう?」
「!?」
(悪女? 私が? 何の話!?)
私が驚いた顔でサスティオ殿下を見上げると彼はニヤニヤした笑いを浮かべながら更に続ける。
「どうやってあの堅物な異母弟を骨抜きにしたのか知りたいな~? 君はとんでもない悪女だよね。で、どんな手を使ったの?」
「お、仰ってる意味が分かりません……」
「いいじゃん、僕とも楽しもうよ? 一応、僕も王子だし? アイツとも似てるし悪くは無いんじゃない?」
「ですから! そういう事ではありません!」
「大丈夫、大丈夫。マクレガーには黙っておいてあげるよ」
(全然話が通じないわ!)
そう言ってサスティオ殿下が私の肩に腕を回した。
その瞬間、ゾワゾワゾワッと嫌な気持ちが生まれる。
(気持ち悪い!)
「離して下さい」
「あれぇ? ノリが悪いね。やっぱりおかしいなぁ。思っていたのとも違うし話も違う」
おかしい? 話が違う?
サスティオ殿下と私は初対面のはずなのに、その言葉が出るという事は誰かから何かを吹き込まれているという事他ならない。
(誰が──? なんて考えるまでもない!)
「リュミエリーナの話だと簡単にヤラせてくれるって事だったのに……」
───あぁ、やっぱり!!
リュミエリーナ様があることないことを吹き込んでいたんだわ!
あれ? でも待って?
(これがリュミエリーナ様の策略だとしても、何でこの王子は簡単に話に乗ってきてるの? ただのバカなの?)
「さ、行こうよ。リュミエリーナが僕達の為にこっそり部屋を用意してくれているからさ」
「……嫌です。離して下さい!」
「うーん、そんな強情なフリは要らないんだってば!」
「フリではありません!」
こうして、ベタベタ触られるのは本当に本当に気持ち悪い。
マクレガー殿下と顔は似ていても、彼といる時みたいに胸が温かくなったりドキッとしたりもしない。
あるのは嫌悪感だけ───……
「……目的は何ですか?」
「ん?」
「私を無理やり手篭めにしてマクレガー殿下から引き離す事ですか?」
私が抵抗しつつ睨み返しながらそう答えると、サスティオ殿下は一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに不敵に笑った。
「ちぇ、つまらないなぁ~……思ったより馬鹿じゃない?」
「……」
「まぁ、そうだね。リュミエリーナからも頼まれたよ。尻軽な男爵令嬢に騙されてるマクレガーの目を覚まさせたいから協力して? ってね」
「!」
尻軽ってどこから来たのよ! 失礼な!
「まぁ、そういうわけで僕とリュミエリーナは目的こそは違ったけど、君を手篭めにする──……やる事は一致したんだよ」
(え?)
目的は違った? つまり、サスティオ殿下の狙いはリュミエリーナ様とは違うという事?
(それなら彼の狙いは何……?)
目を丸くする私にサスティオ殿下はますますその怪しい笑みを深めた。
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