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バッドエンドへの道 ②

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  私はこの展開に圧倒されるばかりだった。

  (す、すごい光景だわ……)

  ゲームの中の悪役令嬢……ステミア様が断罪されるシーンですらここまででは無かった気がする……

  今、目の前で繰り広げられている光景は、本来なら集団で寄って集って一人を追い詰めるっていう、色んな意味で酷い光景のはずなのに全く同情心が湧かない事に驚いた。

  (そうよね、エルミナ様のしてきた事は許せないもの)

  それに今、リーゼ様が口にされた聖女の婚約や結婚についての話だってそうだ。
  つまり、全部嘘。そんな優遇措置など無かった。

  真偽を確かめずに噂だけ聞いてそうなのかと思い込んだ私も私だけど……
  卑怯な手ばかり考えるエルミナ様を許せそうにない。

  (街を中心に噂が流れてたのは、噂を流してたのは男爵家だったからなのね。男爵家は平民よりだもの。貴族社会に流すより簡単だったはず)

「ですけど、まぁ、その噂もなかなかおかしな噂がいっぱい流れてるみたいですけどね」
「ふふ、そうですわね」

  それを意味するのはエルミナ様の男性関係の節操ない噂の事だと思った。

「おかしな噂?  なんの事よ……?」
「……あら?  ご存知ないのね」
「その方が幸せなんじゃないかしら?  私はどっちでも構わないけれど」

  そう聞き返すエルミナ様は、本当に分かってなかったようだ。
  きっと、あの思考で攻略対象者達との噂はさぞ素敵なラブロマンスとして流れてるとでも思い込んでたのかも。

  (エルミナ様の手足となって動いてた男爵家も都合の悪い事は知らせずに黙ってたのでしょうね。余計な事を言って殿下達との交友を止められたくなかったとか……色んな思惑がありそう……)

  そんな事を考えていたら、エルミナ様が突然暴れキレだした。

「はぁ?  あんた達ね、本当になんなのよ!  何でこうなるのよ!?  おかしいでしょ?  私が変わったとか何言ってんの?  確かに王城ココに来てから、ちょっと色々思い出したわよ!  でもね、それは無理して頑張らなくても私が幸せになれる世界なんだって気付いたから振る舞いを考え直しただけよ!」

「「「は?」」」

  何人かの疑問の声が重なった。

「聖女なんてものに選ばれて面倒臭いと思ってたわ!  でも、お父様達が必死に頼むから仕方なく引き受けてやったのよ!  その後もいい子にしろって煩いから従ってただけよ!!」

  エルミナ様はまたしてもとんでもない事を言い出した。

「だけどーお城に来てみたら、なんか皆チヤホヤしてくれるし?  だから、なぁんだラッキーって思って言われたように愛想良くしてただけ!  そんな時に思い出したの!  ここが私の為の世界だってね!!  だったら無理せず好きに生きてもいいでしょ?  何しても私は皆に愛される聖女なんだから!  何かと優遇されるのは当然なのよ!!」

  エルミナ様の謎の剣幕に皆も唖然としていた。

  ──え?  なにその考え……

  つまり?  前世の記憶は確かに王城にあがってから戻ったけど、そのせいで性格なかみが変わったのではなく……

  ヒロインだから好きにしていいんだって思って、本性を出して好きに振る舞い出しただけ!?

  まさかの事実に愕然とした。

  皆も、正直何を言ってるのか分からない言葉が多いけど、男性陣は、好感が持てた当初のエルミナ様すらも幻想だったと知り言葉を失ってるようだった。
  





  少しの沈黙の後、ディーク殿下がやれやれと口を開く。

「……本当に君はどこまで最低なんだ?  もう今更何を言われても驚かない気がするよ……さて、エルミナ。そんな君には聖女認定についての疑惑が持ち上がってる」
「は?」
「君を聖女と認定したのは、虚偽だった可能性があるという事だよ」
「は?」
「心当たりはあるかい?」
「知らないわ!  知るわけないでしょ!」
「だとしてもだ。知りませんでした、で済む話だと思う?  この話の裏には君の家、男爵家が関わっているんだよ?」
「え」

  エルミナ様の顔がどんどん真っ青になっていく。

「え?  え?  やだ、ちょっと待ってこれって……」

  ディーク殿下はニッコリ微笑みながらそう口にしたけれど、目は全く笑っていなかった。
  

  こ、この展開ってまさか……


  (バッドエンド)
「……バッドエンド?」

  私の心の声とエルミナ様の声が重なった。

  そう。今まさにエルミナ様の身に起きている聖女認定の虚偽疑惑。
  これは、メインヒーローであるディーク殿下ルートのバッドエンド。

  ヒロインが聖女と認定された裏には、彼女の家であるフレアーズ男爵家が、神殿に金を積んで認定させていた事が発覚する。
  それが明らかとなり、ヒロインの聖女認定は剥奪され、男爵家も没落の道を辿るというバッドエンド。

  ヒロインは実家のした事を知らなかった。
  純粋に選ばれたのだと信じていて、まさかの急展開に地獄を見る事となる。

  なら、きっとエルミナ様もその事は本当に知らなかったのだと思う。
  そして、自分の攻略は完璧だと思い込んでいたエルミナ様は、バッドエンドの事など考えもしなかったに違いない。


  ここまでに至る道筋はかなりゲームのシナリオとは違えど、エルミナ様の失脚に関してはゲームのバッドエンド展開と同じ。

「嫌よ、嘘でしょ?  何で?  どうしてこうなるの?  私の攻略は順調にいってたはずなのに!  ねぇ、皆、私を愛してくれてたわよね!?」

  エルミナ様はこの展開が信じられないのか、酷く取り乱していた。
  そんなエルミナ様の様子を見たディーク殿下が呆れたように口を開く。

「まだ、変な事を言ってるな。攻略って、君は人の心をなんだと思ってるんだ?」
「……え」
「どうしてこうなるって……全部、君が自分で引き起こしたんだよ、エルミナ。確かに最初に君を甘やかした私達にも反省する点はもちろんある。だから君だけを責めるのは、本来なら間違ってるのかもしれない。それでも“聖女”の名を君は汚しすぎた」
「だって、私……私はこの世界の……」
「うん、さっきもそう言ってたけどね?  意味が分からないよ。そして、君は偽物の聖女だった。聖女の名を語り、その名を汚しただけの単なる犯罪者なんだよ、まぁ、他にも余罪は多そうだけどね。当然、その罪は……重い」
「はん、ざい……しゃ?」

  エルミナ様の目は驚きで大きく見開かれていた。

「僕も最初の頃の君は、魅力的でぐらつきそうになった事はあるけど、君を愛した事は無いなぁ。少なくとも今の君には全く惹かれない」
「同感ですね」

  リオン様とデシフェル様がとどめを刺しに来た。

  ……これはあれかしら?
 ディーク殿下はおそらく、以前の様子から言ってエルミナ様にかなりぐらついてたけれど、疑惑や疑念が持ち上がって調べてく内に本性を知って好感度が下がって……
  そして、残りの二人は、その言い方からしてもともとが中途半端だったのかもしれない。


  唯一と言っていい……おそらくは最高値までいってたかもしれないマルク様の事もボロボロにし、誰の好感度も最高に出来なかったエルミナ様に残ったのが、メインヒーローであるディーク殿下のバッドエンド。
  
  なるべくしてなったエンド。私にはそうとしか思えなかった。


「本当に残念だよ、エルミナ。ーーーー連れて行け!」

  ディーク殿下の合図で、騎士たちが部屋に入って来てエルミナ様を連れて行く。
  この先の展開はゲームを思い出さなくても分かる。
  エルミナ様とフレアーズ男爵家は裁判にかけられる。それまでは地下牢に収容されるのだ。
  よほど、地下牢での待遇は悪かったのか、裁判の場に現れるヒロインはボロボロとなっている設定だった。

  (現実もそうなるのかしら……?)

  だけど、バッドエンドはバッドエンドでも、私の知ってるバッドエンドとは違う。
  もしかしたら、ゲームの内容より酷い処罰が下されるのでは?
  そう思わずにはいられない。

  だって、ゲームのバッドエンドを迎えたヒロインは、“聖女”の名前を汚したなんて罪には問われて無かった。
  結果的に不正があった事でその名を汚していたとも言えるけど。罪には含まれてなかったはず。

  つまり、これはあくまでも、この現実の世界でエルミナ様が自身で引き起こした事だった。


「嫌ァァァァーーーー」


   騎士たちに引きずられていくエルミナ様の声だけが廊下に響いていた。

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