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19. バッドエンドへの道 ①

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 27歳にもなって、たくさん泣いてしまい、めちゃめちゃ恥ずかしかった朝、こっそりそろっと起きて小さな声で「おはよう」と言った俺をバルさんはよしよしと小さな子にするように頭を撫でてくれた。
 そこで俺はもしかして、とふと思い、バルさんに聞いた。

「俺のこといくつだと思ってます?」

 バルさんはニコニコ笑って、「15、6くらいだろうか?」と首を傾げた。
 子ども扱いしてるかどうか、微妙な年を言われてしまい、「子ども扱いしないでください!」と言いにくくて、俺はバルさんの年齢を聞いた。

「んー……24ってことになってるけど本当の年齢は覚えてない。多分もう少し上かな」

 バルさんの答えは曖昧なもので、普通に年齢教えてもらえると思ったから、コメントしにくくて、もしかしてバルさんにも色々あるのかなとかアホみたいに考えながら、俺は「俺も多分そのくらいかと」と言ったらバルさんが目を見開いた。

「……成人まであと何年かあると思って、記憶がない間の保護者になるつもりでいた」

 いや、俺なんてバルさんの腕にぶら下がれそうだもんな。昨日なんて子どもみたいに泣いて、本当にそりゃそう思われてもおかしくないけど、バルさんの「保護者になるつもり」という言葉にまた涙腺を刺激された。
 俺を心配してくれる人が、ここに、一人でもいる。
 子ども扱いされてるけど、確かに俺を保護してくれる存在が、俺の不安を拭ってくれる。

「俺大人だけど記憶ない分子どもよりひどいかも……バルさんにすごい迷惑かけてて、本当に申し訳ないよ……」

 ここの生活どうしていいか全くわからないまま、バルさんの厚意に甘えている。俺はバルさんがいなかったらきっと森で丸裸でドラゴンに食われて死んでただろう。
 落ち込んだ俺の頭を、バルさんはまたポンポンと大きな手で撫でると、朝食の席に俺を座らせた。

「大丈夫だ。いつまででもいていい。迷惑だとか気にしないで何でも聞いてくれ」

 バルさんの言葉はまっすぐ響いて、俺はそれだけで大丈夫なような気がした。
 できたての朝食が並んだテーブルに、俺は大変なことに気づいた。

「あっ……俺、起きるの遅かった……」

 全然何も考えていなかった。俺は早起きをして朝食の準備でも、肉屋の仕事でも、掃除でも、何でも手伝うべきだったのだ。

「そんなのいいよ。ほら食べて!」

 温かいスープと、美味しそうな肉が挟まったサンドイッチ。スープはテールスープみたいな感じで肉が浮かんでる。

「何の肉かな……」

 俺がつぶやくと、バルさんはニコッと笑って「グリフォンのテールスープだよ!」と言った。ひええ。

「明け方に狩ってきたばかりだよ」

 グリフォンってあれ?? 狩れるの?
 俺の頭の中には、何かのカードゲームのキャラクターのグリフォンがモワワーンと思い出された。
 下半身ライオンじゃん。ライオンのテールじゃん。
 てことは、このサンドイッチの肉は、グリフォンのどこかの肉ですね。もう俺にはわかった。

「サンドイッチにはグリフォンの手羽先唐揚げ挟んでるよ」

 手羽先って言い方で一気に鶏っぽくなったから、そう思えば大丈夫。手羽先は一番良く食べてたし大丈夫。ただ、グリフォンを狩って捌くとか、バルさんすごすぎないか。ここでは普通のことなのかもわからなくて、俺はどこまで反応すべきかわからなかった。

「グリフォンって……その辺にいるの?」

 とりあえずドキドキしながら聞いたら、バルさんは「乗り物として飼う人もいるし、狩ってきたのは野生のグリフォンで、店にも出すぞ」って言うから、俺はひえってなりながら、バルさんに「他にも狩って店に出すの?」って聞いた。

「んー、仕入れたりもするけど、狩ってきた方が新鮮だしな。明け方に狩りに行ったり、店を早めに閉めて行ったりもするな」

 バルさんはニコニコ楽しそうに話してくれる。
 俺は狩りは流石に手伝えないな。
 店番くらいなら教えてもらえば何とかなるかも。
 俺はグリフォンをモグモグ食べながらそんなことを考えていた。
 テールスープみたいなやつは、ホッとする味だった。俺は安心して飲み干した。バルさんは「おかわりあるぞ」って言ってくれたけど、俺は遠慮した。
 バルさんは「狩りをするとお腹が空くんだ」とモリモリ肉を食べていた。良質なタンパクがバルさんの筋肉を作っているんだな、と俺はぼんやり思っていた。



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