18 / 27
15. 嫌ってたわけじゃない
しおりを挟む──レグラス様が私の事を……
なんて、そんな自意識過剰な考えに思い至ってしまった自分の思考に、そんなはずはないと慌てて打ち消す。
「セラフィーネ?」
顔を真っ赤にして黙り込む私を不思議そうな顔で見つめてくるレグラス様。
ち、近いわ! それにその顔……その顔はダメよ!
うぅ、イケメン過ぎるのよ、レグラス様は!
そんなイケメンのアップに耐えられなくなった私は思わず叫んでいた。
「そ、そもそも! レグラス様は、私の事を嫌いなんじゃないんですかっ!?」
「…………は?」
私の叫びにレグラス様がポカンとした表情になった。
なに、その顔……
「嫌い……? 僕がセラフィーネを?」
「そ、そうですよ! もしかしたら、い、今はそこまででは無いかもしれませんが、レグラス様は私の事を嫌いだったはずです!!」
えぇい! もうこうなったら勢いよ!
もう口にしてしまったんだもの。何を言われても今更傷ついたりしないもん!
「待った! 違う! 僕は、セラフィーネを嫌ってなどいない!!」
「へ?」
──そうだよ、僕は君の事が嫌いだった。
そう言われるのを覚悟していたのに予想とは違う言葉が返って来て、今度は私がポカンとするはめになった。
「あ、いや。分かってるんだ……セラフィーネがそんな風に思ったのは、そもそも僕のせいで……」
「嫌ってない……? レグラス様は私の事を嫌っていたのではないのですか? この婚約だってマルク様の婚約破棄とか遺言とか事情が事情で仕方なく……」
「違うよ! 言ったよね? 僕が大事なのは遺言じゃないって!」
確かに聞いた。聞いたけど。
「むしろ、仕方なく僕と婚約したのはセラフィーネの方だろ?」
「はい?」
私はよく分からず首を傾げる。
レグラス様はちょっと暗い顔をしながら言った。
「君こそ、僕に無理やり婚約を迫られたじゃないか」
「!」
レグラス様、あの迫り方が無理やりだったと自覚あったのね。
あまりにも強引に話を持っていったから、そんな気持ち欠片も無いのかと思ってた。
「それを言うなら僕の事を嫌いなのはセラフィーネの方だ」
「…………え?」
「セラフィーネは婚約を受け入れてはくれたけど、そもそもの初対面での僕のセラフィーネへの態度は酷かった……その後の僕の態度も。だから君はあんな態度を取り続けていた僕の事を嫌ってるはずだ」
「あの、レグラス様? ちょっと待ってください……」
「現に、これまで君はずっと僕を避けていた……」
「!!」
ど、どうしよう。レグラス様がどんどん項垂れていく。
そして、私が避けてたってバレてたの!?
いや、それはそうよね……我ながら分かりやすく避けていた自覚はあるもの。
「私、私はレグラス様を嫌っていたわけではありません……」
「え?」
私のその言葉にレグラス様は勢いよく顔を上げた。
その目は驚きで大きく見開かれている。
「レグラス様が私の事を嫌いなのだと思っていたので、なるべく近寄らないようにしていました……」
「……」
まぁ、レグラス様の私への態度で苦手意識は芽生えてしまっていたけれど、それは黙っておこう。
苦手ではあったけど嫌ってたわけじゃ……
……うん。そうよ、嫌ってたわけじゃない。
だって、この数ヶ月あなたと過ごして気付いてしまった。
私は、ずっとレグラス様が他の人には見せてる笑顔を私にも向けてくれないのが寂しかったのよ……
私にもあんな風に笑って欲しかったの……
「……セラフィーネは、僕の事を嫌ってたわけじゃない?」
小さく呟くその声に私も頷く。
「…………それは、今も?」
「婚約の話は正直、戸惑いましたけど嫌ってなどいません」
「……っ!」
私のその言葉を聞いたレグラス様が、自分の口を慌てて覆った。
その顔がほんのり赤く見えるのは……気のせいかしら?
「ごめん。僕はずっと君に嫌われてると誤解してた」
「……いえ。それは私もです。私もレグラス様に嫌われているのだと思っていました」
「違う!! それは本当に……本当に違うんだ!」
レグラス様は勢いよく首を横に振る。
「昔も今も君を嫌っていた事など1度も無い。ただ全部僕が……悪い」
「レグラス様……」
「その、昔の僕が言った言葉や取ってた態度は……ごめん。謝ってすむ単純な話ではでは無いけど……本当にすまない!」
「いえ、それは……! 私だって」
頭を下げるレグラス様に戸惑ってしまう。
誤解されるような態度を取ってたレグラス様もレグラス様だけど、私も私で勘違いしていて嫌な態度を取っていたのだから、この場合はお互い様だと思った。
そりゃ、どう考えてもレグラス様の暴言は初対面でする事では無かったとは思うけど!
「セラフィーネ……」
「え?」
名前を呼ばれたと思った瞬間、腕を取られて引き寄せられ、気付いたらレグラス様に抱き締められていた。
ドキンッ!
と大きく私の心臓が跳ねた。
本当に本当にこの人は、私の心臓に悪い事ばかりする。
「あ、のレグラス様?」
「……もう少しだけ。もう少しだけこのままでいさせてくれないか」
「?」
「……セラフィーネが僕の事を嫌っていたわけではないんだって事をしっかり感じておきたい」
「へっ!?」
よく分からない理屈でしばらくの間、抱き締められた。
だけどそれは、まるで宝物を扱うかのように優しくて、私の心臓の音はいつまでたっても落ち着いてはくれなかった。
「……君を嫌うわけないじゃないか………………こんなに好きなのに」
「……!?」
しばらくそのままの体勢でいたら、耳元でとても小さくだけど囁かれた気がした。
(え? 今……)
「……セラフィーネ」
そして、ようやくレグラス様の優しく私を抱き締めていた腕が緩んだ。
ふと、寂しさを感じてしまった事に戸惑いを覚えてしまう。
「来月の結婚式が楽しみだね」
「……!」
レグラス様が嬉しそうに、本当に心から嬉しそうな顔でそんな事を言うものだから。
私はさらに真っ赤になってしまい、そのせいで、さっき聞こえた気がした言葉を追求し損ねてしまった。
74
お気に入りに追加
3,956
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄された私が惨めだと笑われている?馬鹿にされているのは本当に私ですか?
なか
恋愛
「俺は愛する人を見つけた、だからお前とは婚約破棄する!」
ソフィア・クラリスの婚約者である
デイモンドが大勢の貴族達の前で宣言すると
周囲の雰囲気は大笑いに包まれた
彼を賞賛する声と共に
「みろ、お前の惨めな姿を馬鹿にされているぞ!!」
周囲の反応に喜んだデイモンドだったが
対するソフィアは彼に1つだけ忠告をした
「あなたはもう少し考えて人の話を聞くべきだと思います」
彼女の言葉の意味を
彼はその時は分からないままであった
お気に入りして頂けると嬉しいです
何より読んでくださる事に感謝を!
【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
アリエール
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
真実の愛の言い分
豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」
私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
愛せないですか。それなら別れましょう
黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」
婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。
バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。
そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。
王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。
「愛せないですか。それなら別れましょう」
この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。
【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。
鏑木 うりこ
恋愛
クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!
茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。
ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?
(´・ω・`)普通……。
でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。
愚者(バカ)は不要ですから、お好きになさって?
海野真珠
恋愛
「ついにアレは捨てられたか」嘲笑を隠さない言葉は、一体誰が発したのか。
「救いようがないな」救う気もないが、と漏れた本音。
「早く消えればよろしいのですわ」コレでやっと解放されるのですもの。
「女神の承認が下りたか」白銀に輝く光が降り注ぐ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる