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「トール、私決めた。R18ダンジョンに行く」
 相棒のセラから話があると言われて、宿の裏庭に呼び出された俺は、やっぱりこうなったかとため息をついた。
「セラはあそこがどんな所か、本当に分かっているのか?」
「だって、他に方法がない」
「諦めると言う選択肢だってある」
「トールは、私達の家が無くなってもいいの?」
 潤んだ瞳で見上げられて、俺は何も言えなくなる。
 正直、俺だって男だから、セラが行くと決めたら、本気では止められない。
 欲望に打ち勝てるほど、出来た人間じゃない。
「一人で行けるような場所じゃ無いことは、分かるよな?」
「うん。だから、トールにも、ついてきて欲しい」
「恥ずかしい姿を見られる、だけじゃ済まないんだぞ」
「……トールは、嫌?」
 嫌な訳があるか。今すぐ行きたいぐらいだ。

「セラはどうなんだよ」
「トールがどうか聞いてるの」
 セラが怒ったように聞いてきたけど、その顔は少し赤くなっていて、俺と視線が合うと恥ずかしそうに顔を伏せた。
 セラが俺にこんな顔を見せるなんて、初めてじゃないだろうか。
「嫌では、ない」 
 本当はしたくて堪らないのに、童貞特有の強がりで、何でも無い風を装ってしまう。 
「私も、嫌じゃないから……トールが嫌じゃないなら、お願い」
 顔は赤いけど、真剣な眼差しで見つめられて、俺は再びため息をついた。


 俺はずっとセラが好きだった。
 同じ孤児院で兄妹みたいに育ち、冒険者になると言うセラを必死で止めて、止められないと分かると俺も剣を取った。
 天才肌のセラはグイグイ魔法の才能を開花させていき、俺はセラの足手まといにならない様に必死で剣の修行をした。
 そうこうしてる内に、なんの進展もないままま今日まで来てしまった。
 今ここで告白するのは取ってつけた感じがするし、かと言ってこのまま二人であんな所に行ってしまったら、ただでは済まない。
 初恋を拗らせた童貞の俺は、どうしていいのか分からず、腕組みをしたままセラを黙って見つめ続けた。


「もし、そうなったら、トールの、好きにして、いいから……」
 モジモジと頬を染めながら言うセラの前に、俺は敗北を喫した。
 脳内で大きな白旗を振って、全面降伏の構えだ。
「どうなっても、知らないからな」
 俺は童貞の強がりを遺憾なく発揮する。
「トールなら、痛くしないでくれると思うし。その、私、初めて、だから……」
 なんだその謎の信頼は。俺だって初めてなのに、ハードル高いな。
 って言うか、そんな事言われたら今すぐやりたくなるだろうが。
「セラがそこまで言うなら、行こう。付き合うよ」
「ありがとう!私、がんばるね」
「あ、ああ」
 あそこでがんばる事なんて一つしかないんだが、本当に分かっているんだろうか。


 この世界にはいくつかのダンジョンがある。
 そこにはそれぞれ固有のモンスターがいて、倒せば確率でアイテムをドロップする。
 この世界はもはやダンジョンからもたらされる恩恵なくしては成り立たない。
 No.1ダンジョンからNo.17ダンジョンまでのナンバリングダンジョンと、いくつかの毛色の違うダンジョンがある中でも、R18ダンジョンだけは、極めて異質な存在だ。
 完全にある思惑に特化している。

 R18ダンジョンに男だけで行っても何も起こらない。ただの洞窟探検で終わってしまう。
 18歳以上の女がいて初めて、モンスターが出現する。
 この細かい年齢設定に、神ともダンジョンマスターとも言われる、見えざる存在の強いこだわりが感じられる。
 ダンジョンに入れるのは認可を受けた冒険者だけで、そもそも女冒険者自体多くない。
 そのため、R18ダンジョンで手に入るアイテムは、需要は高いが供給が少な過ぎてどれも高価だ。
 クエスト報酬もレベルに見合わぬ破格の設定になっている。


「本当に、いいんだな」
 ダンジョンの入口で、俺はセラに最後の確認をする。
「よくはないけど、行くしかない」
「その、俺でいいんだな」
「他に頼める人なんて、いない」
 出来ればそこは『トールがいいの』とでも言ってもらいたかった。
「じゃあ、行くぞ」
 ダンジョンの入口に冒険者証をかざして封印を解く。
 セラは大きく息を吸うと、キリリとした顔で前を見据えた。
「トール、行こう」
 相変わらず、セラは漢らしい。
 一度決めたら必ず最後までやり遂げる。
 才能と信念に満ち、物語に出てくる勇者のような性格をしている。
 見目麗しい所まで勇者っぽいけど、それでもセラは女の子だ。
 そしてこのダンジョンで、セラは女になるんだろう。
 俺はゴクリとツバを飲み込むと、ダンジョンへと足を踏み入れた。
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