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第一章 人柱の少女

犬と散歩紐とミミズクともるすぁ的な何か

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 着ていくものが決まってから、日々家事をしたり、玉葉様が選んだ着物を着てみたり、文車さんが選んだ蘭服をきてみたりしてるうちに、花火大会の日になった。

 家事が終わってから、木槿の着物に着替えて簪も刺したけれど……

「うん。すごく似合ってるよ、明」

「そうだねー、可愛いよー」

「明! おめかし似合う!」

「あ、ありがとうございます……」

 ……なんだか落ち着かない。
 
 皆さんは気を使ってくれてるけど、着物や簪ばかりが悪目立ちしているんじゃないかな……。

「さてと、明のおめかしも終わったことだし、二人もおでかけ用の格好になろうか」

「分かったよー」

「うん! 分かった!」

 ……化け襷さんと、暴れ箒さんのおでかけ用の格好?

 生地に模様がついたり、柄に飾りがついたりするのかな?

「えーい」

「えい!」

  ポフン

 かけ声とともに白い煙が上がった。

 そして……

「変化完了だよー」

「俺、上手く化けた! わん!」

 ……散歩紐をつけた箒っぽいかんじのワンちゃんが現れた。

 これは……。

「すごく、可愛い……」

「本当!? やった! わん!」

「あの、撫でても良いですか?」

「うん! いいよ! わん!」

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 ちょっとガシガシした毛並みの首を撫でると、暴れ箒さんは毛羽だった尻尾をブンブンと振った。

「……」

 ずっと撫でてたいけど、何かジトっとした視線を感じるような……。

「明ー、そろそろねー、離れないとねー、玉葉様がねー、拗ねちゃうよー」

「……え?」

 化け襷さんの言ったとおり、玉葉様がジトっとした目をこちらを見てる。

「す、すみません! お出かけ前に、グズグズしてしまって!」

「暴れ箒ばっかり、ズルい。僕のことも撫で撫でしてくれたって、いいじゃないか」

「……へ?」

 何か、ものすごく予想外の方向で、叱られてしまったような……。

「そうだ。僕も犬に化ければ、明に撫でてもらえるよね?」

「あ、あの、えーと」

「玉葉様ー、もうすぐねー、文車もねー、来るからねー、話をねー、ややこしくねー、しちゃダメだよー」

「……たしかに、出かける前に文車とイザコザするのは得策じゃないか。明には、また別の機会に色々とたくさん撫でてもらおう」

 軽いため息とともに、髪を崩さないように頭を撫でられた。
 納得してくれたのはよかったけど、なんか後半の言葉が不穏だったような……。

「ん? 明、どうしたのかな?」

「あ、いえ別に……、ところで、文車さんはいつごろいらっしゃるのですか?」

「そうだね、文車も花火大会に丁度いい格好に着替えてるはずだから……、そろそろ来るんじゃないかな」

「そう、ですか」

 文車さんのおめかしか……、きっとすごく華やかで綺麗なんだろうな……。

 あれ?
 でも……

  宦官が主君の妻を
  奪おうだなんて

 ……あの言葉が聞き間違いじゃなければ、文車さんは男性なのかな?
 それじゃあ、着流とかを着てくるのかもしれない。

 ……あ。
 そうだとだとしたら、お風呂に入れていただいたときに、男性に裸を見せてしまったことになるんだ。
 今更そんなことを気にするような身じゃないのかもしれないけど、少しだけ気にかかるかも……。


「玉葉様、お待たせいたしました」

「おや、いらっしゃい」

「あ! 文車! いらっしゃい! わん!」

「文車ー、準備バッチリだねー」

 縁側から文車さんの声が響いた。

 一体、女物と男物、どっちを着て……


「おう。これなら、夜目が効くからな」


 ……というような次元じゃなく、縁側にいたのは、真っ白なミミズクだった。

「うん? どうした、明。そんなに見つめて」

「えっと、その格好は……?」

「ああ。花火大会は結構混むからな。誰かがはぐれちまったときに、空からも探せるようにいつもこの格好に化けてるんだ」

「そう、なんですね……」

 男性か女性かはよくわからない。でも、そんなことよりも……。

「すごく、可愛いです」

「お? この格好気に入ってくれたか? なら、撫でてくれても構わないぞ」

「本当ですか!!? では、失礼します!!」

 首のあたりを撫でてみると、文車さんは心地よさそうに目を細めた。

 ずっと撫でていたくなるくらい、すごくフワフワだ。

「……」

 でも、また何かジトっとした視線を感じる。

「あー……、明ねー、玉葉様がねー、本格的にねー、拗ねちゃってねー……」

「……あ、すみません! またグズグズしてしまって……え?」

 玉葉様の首から上が、ジトっとした目のミミズクのような何かに変わってる……。

「ほら、明。僕も可愛くてフワフワだから、たくさん撫でてくれていいんだよ」

「えーと……」

 可愛いというか、むしろ威圧感があるような気がする。

「……なに、馬鹿なことしてるんですか」

「ふふ、酷い言いようだね、文車。そうだ、明が撫でてくれるまでこの姿でいようかな」

「そんな、奇妙奇天烈摩訶不思議な格好で、人混みに繰り出そうとすんな! この耄碌!」

「えーん、文車がいじめたー。明、撫で撫でしてー」

「えーと……」

「俺も! 俺も! もっと撫でて!」

「えーと……」

 なんだか、早くも収拾がつかないかんじになってしまった。

「……とりあえずねー、撫で撫ですればねー、落ち着くと思うからねー、してあげるといいと思うよー」

 散歩紐になった化け襷さんが、今日も全体的にグンニャリする。

「そう、ですね……」

 失礼にならないかちょっと心配だけど……、花火大会に向かうためにも、フカフカさせてもらうことにしよう。
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