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第一章 半妖の退治人
細い月が見える部屋での折檻
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高層ビルが建ち並ぶ街の片隅に紛れる古めかしい木造建築、あやかし退治人結社「青雲」第一支部危険集団制圧班の社屋。その一室で、ジクはくすんだ窓に映る細い月をぼんやりと眺めていた。
「今夜もご苦労だったな」
窓の前には白い服を着たプライドの高そうな男が、満足げな笑みを浮かべて立っている。
「あやかしなんぞは一匹のこらず塵に帰すべきなんだ。だいたい、あの汚らわしいやつらは……」
男は陶酔した表情で、あやかしに対する憎悪を語り出す。ジクはそれを聞き流しながら、ときおり隣に立つセツに金泥色の目を向けた。
処理を手伝ってもらったおかげで、身体の昂ぶりは落ち着いた。しかし、愛想笑いを浮かべた顔が視界に入るたびに身体を貪り尽くしたいという衝動と、優しく頭をなでてほしいという願望が同時に生まれてくる。
そんな胸の内を知ってか知らずか、薄灰色の目は窓辺に立つ男から視線を動かさない。
少しはこっちを見てくれてもいいのに。心の中で呟くと、不意に雑言を吐きつづける口元から満足げな笑みが消えた。
「おい、ジク。なにをボサッとしているんだ?」
まずい。そう思ったときにはすでに、目の前に短鞭の先が突きつけられていた。
「家畜の分際で人の労いを無視するなど、随分と偉くなったものだな」
「……すみません、シキ班長。考え事をしていたので」
謝罪の言葉に、シキと呼ばれた男の表情が更に険しくなる。
「考え事ぉ? 気色悪いバケモノの混ざり物のお前に、物を考える知性などあるわけないだろう?」
「……」
煽るような言葉にジクは鋭い牙を食いしばった。
「なんだその目は? 逆らうなら班員たちを集めて血祭り、いや、いっそのこと塵に返してやってもいいんだぞ」
「……口答えしてしまい、すみませんでした。どうか出来の悪い僕を躾けなおしてください」
「そうだ。それでいい」
プライドの高そうな顔に満足げな笑みが戻った。
「素直に謝れた褒美だ」
歪んだ笑顔が、鞭を持つ手をゆっくりと振り上げる。
「望み通り、躾けなおしてやるとしよう!」
「……っ!」
衝撃と痛みに備え、金泥色の目がきつく閉じられた。
「シキ班長」
しかし、どこか楽しげな声が鞭が振り下ろされるのを遮った。
「え……?」
戸惑うジクの横で、セツが愛想のいい微笑みを浮かべながら首をかしげる。
「少し質問したいことがあるのですが、よろしいですか?」
「……なんだ?」
「まあまあ、そんなに怒らないでくださいよ」
あからさまに不機嫌になった表情を前にしても、愛想笑いは崩れない。
「いいから、早く質問とやらを言え」
「では失礼して。えーとですね、上長の高説を聞き流すのはよろしくないことですが、鞭打ちというのはいささか罰が重すぎるのでは?」
「うるさい。ここでは俺の言うことが絶対だ。いくら本部からの出向とはいえ、今は貴様も俺の部下だ。口答えは許さんぞ」
「いえ、口答えだなんて滅相もございません。私はただ本部の上官から受けた、『第一支部危険集団制圧班の人間関係を円転滑脱にすべし』という命を果たしたいだけですよ」
「なら、なおのこと黙っていろ。そいつのような出来の悪いバケモノを躾けることこそが、その命を果たすための最善策なのだから」
「しかしながら、組織図上は私もジクの上司になったわけですからね。部下の教育という大仕事をシキ班長一人に押しつけてしまうのは忍びないと言いますか、なんと言いますか」
「そんなことを貴様が気に病む必要は……」
シキは言葉を止めると、舐めるような視線を華奢な身体へ向けた。
「……いや、貴様の言うとおり部下の失態は上司の責任でもあるな。ならばセツ、貴様がコイツのかわりに罰を受けろ」
「なっ!? 待ってくださいシキ班長!」
下卑た言葉に、金泥色の目が見開かれた。
「罰なら僕が……」
「ジク。待て、だ」
「っ!?」
落ち着いた声とともに、辺りに甘い香りが漂う。その途端に、ジクは声を出すことも身体を動かすこともできなくなった。
「よし。上司の言うことをちゃんと聞けていい子だな」
白い手袋をはめた手が赤銅色の髪を優しくなで、薄く微笑む唇が「大丈夫だから」と微かな声をこぼした。
「お待たせいたしました。どうぞ、私を罰してください」
「いい返事だ。ならばまずそこに跪け」
「仰せのままに」
華奢な身体が所々に赤黒いシミが残る硬い床に膝をつく。欲情に血走った目がその姿を楽しげに見下ろた。
「まずはそうだな……、この鞭を舐めろ」
黒い短鞭の先が白い顔に突きつけられる。
「かしこまりました」
「その貧相な身体を存分に可愛がってやるのだから、丁寧にな」
「はい」
軽く開かれた唇から伸びた赤い舌が、鞭を下から支えるようにしながらゆっくりと前後に動きだした。舌はそのまま絡みついていき、ときに先端をはじくように刺激する。
「ずいぶんと慣れているじゃないか! そのあさましくうねる舌は本部で生きるために、さぞかし役に立っているんだろうなぁ!」
下卑た笑みを浮かべる顔を食いちぎってやりたい。ジクがそう思うたび、薄灰色の目がチラリと視線を送り、銀髪の頭が微かに左右に振れる。
「さて、上手くできた褒美をくれてやろう」
「んむっ!?」
不意に鞭がセツの薄い唇を割って、口の中に突き入れられた。
「ぐっ……ぅ……んっ♡」
柔らかな口蓋をなでられ、薄い肩がビクリと跳ねる。
「はは、口をいじられただけでそんな反応をするとは」
「……ぇ♡」
鞭が口からズルリと引き抜かれ、首筋をなぞりながら胸へと移動した。
「貴様のようなはしたないやつには、もっと罰をくれてやらないとな」
「……っぁ♡」
唾液で濡れた先端が服の上から突起の周りをゆっくりとなで、ほのかに赤みを増した唇から甘い声が漏れる。
「どうだ、罰がほしいか?」
「は、い♡、どうかお願いし……っぃ♡!?」
返事を待たずに右胸の突起を弾かれ、セツは白い喉を晒して嬌声をあげた。
「なら望みどおりにしてやろう!」
「くぅっ♡、やっ……♡、っぁ♡、ぁ♡、あっ♡」
今度は抉るように押し込まれ、腰の震えと短い喘ぎが止まらなくなる。
「ははは! いいざまだな! 望みを叶えてやった礼はどうした?」
「っぁりが……っ♡、と、ぉごっ♡、ざぃぁ……あぅっ♡」
「このくらいでなにを惚けている? ほら、さっさとその邪魔な上着を脱げ」
「はい……♡」
白い上着とシャツが脱ぎ捨てられ、陶器のような胸の上で赤く充血した突起が露わになった。それにズボンの中で窮屈そうに勃ち上がっている性器も。
「ははは、随分と淫らな胸だな。この鞭で直接打たれたら、どうなってしまうんだろうなぁ?」
「うぅ……♡」
触れるか触れないかの距離で動かされる鞭に、固くなった乳首が物欲しそうに震える。
「期待しているのか? あさましいやつめ。ならくれてやろう!」
「あぁぁあぁあぁあ♡♡♡!」
鞭が乾いた音を立て乳首を殴打し、華奢な身体が弓なりになりながらガクガクと震える。ズボンの股間には薄らとシミができた。その様子に気をよくしたシキが間髪入れずに再び鞭を振るった。
「なにを悦んでいるのだ、この淫乱!」
「ひぅっ♡!?」
「腰が揺れっぱなしではないか!」
「まってくだ……や、ぁっ♡!」
「ほら、鳴いてばかりではなく許しを請ってみろ!」
「も、しわけござ……っぅ♡!」
殴打されるたび乳首は赤く染まり、ズボンのシミが大きくなっていく。
「はっ♡、はっ♡、はっ♡」
「ははは、呼吸がままならないくらい悦ぶとは、まるで発情期の犬だな! さて……」
鞭がゆっくりと振り上げられ、今までとは違う場所に狙いを定める。それに気づいたセツは眉を寄せて、上目遣いにシキを見つめた。
「おまち……く、ださっ……♡、それだけは……♡」
「ははは! そんな顔でなにが待てだ! この嘘吐きめ!」
バシィィンッ
「ひぐぅぅぅぅっ♡♡♡!?」
盛大な音を立てながら鞭が股間に振り落とされ、薄灰色の瞳がグルリと上を向き、性器がズボンの中で脈打ちながら精液を吐き出した。
「あ……♡、ぁ……♡」
うわごとのような嬌声を上げながら、華奢な身体が床の上に崩れ落ちた。
「おい! 誰が寝ていいと言った!?」
「いっ!?」
しかし、すぐに銀色の髪を鷲掴みにされて、上体を起こされた。機嫌をそこねたプライドの高そうな顔に、頬を紅潮させたヘラリとした笑みが向けられる。
「も……、しわけ……、ござぃません♡」
「ふん、さっきから口先で謝罪してばかりではないか。ならもっとしっかりと躾けて……、おや?」
不意に欲情に濡れた目が視線を別方向に移した。
「おい、ジク。随分な顔をしてるなあ?」
「……っ!?」
予想外の言葉に、セツは瞬時に真顔に戻って振り返った。
「ふー……っ、ふー……っ」
動けないはずのジクが険しい目付きで牙を剥き、刀に手をかけている。
「ははは、どうした? コイツの痴態に残虐なバケモノの本能でも刺激されたか?」
「だ……、まれ……」
「ほう? 俺にそんな口を聞くのか。よほど塵に帰されたいらしいな」
シキも腰に差した短剣に手をかけ、部屋の空気が一気に張り詰める。
「ジク、待てと言っただろ」
不意に、穏やかな声とともに甘い香りが再び立ち込めた。
「っ!?」
途端に金泥色の目が見開かれ、抜刀しようとする手から力がぬけていく。
「……どうした? 今さら怖気付いたのかバケモノ」
「……!」
嘲る声に反論することもできない。
「はっ、今さら反省しても飼い主に手をあげようとした罪は消えないぞ。少し惜しいが処分……」
「ねえ、シキ班長」
物騒な言葉を艶っぽい声が遮った。
「……なんだ?」
「部下の失態は上司の責任、なんですよね?」
妖艶な笑みを浮かべながら、セツがゆっくりと立ちあがる。
「……そうだ」
「なら、これも私の責任ですよね? でしたら……、ん♡」
薄い唇が不機嫌そうに曲がった口を塞ぐ。そのまま長い舌が入り込み、鞭を舐めていたときと遜色のない動きで、わざとらしくチュプチュプと音をたてながら這い回った。
「……ぷは♡、シキ班長に愚かな私をもっと罰していただきたいです♡」
「ほう?」
「ジクの動きは止めてありますので、どうか……、どうか私だけを……♡」
「……ははは! 良い心がけではないか!」
「んむっ♡」
今度はシキの方から唇を塞ぎ、厚い舌で口内を荒らし回った。
「……ふぱ♡」
「ほら、惚けていないで罰の続きだ」
「はい♡ お願いいたします♡」
華奢な身体が、下卑た笑みに乱暴に抱き寄せられる。
「……」
ジクは刀を抜こうとしたが、指を動かすどころか瞬きさえもままならない。
結局、金泥色の目は罰を最後まで見つめ続けることしかできなかった。
※※※
「ふん、なかなか楽しかったぞ」
「それは何よりです」
「今後も誠心誠意、本部からの命を果たすことだな」
「はい。仰せのままに」
一通り好き勝手をしたシキは、上機嫌で部屋を出ていった。
廊下からの足音が聞こえなくなると、セツが大きなため息を吐いてから床に散らばった服をかき集める。
「まったく。本部でもウワサは聞いていたが、アイツは本当にろくでもないな。なあ、ジク?」
「……」
呼びかけられても、ジクは重苦しい表情でうつむいたままだった。
「ジク? おい、大丈夫か?」
「……ごめんなさい。僕のせいで」
ようやく声を絞り出すと、薄灰色の目が穏やかに細められた。
「気にするな、こういうのは慣れているから。それよりも、痺れ香が効きすぎたわけじゃなくてよかったよ」
「痺れ、香……?」
「そうだ。今シキに危害を加えられると、ちょっとだけまずくてね。まあ、ともかくだ。これからは、上司の話はちゃんと聞いているフリをしような」
「わかった……」
「よし、いい子だ」
白い手袋をはめた手が、赤銅色の髪を優しくなでる。
「それじゃあ、今日はもう帰って休むとしよう。ジク、お前の部屋まで案内してくれ」
「わか……っえ?」
突然の言葉に、金泥色の目が見開かれた。
「えっと、僕の部屋?」
「そうだ。本部の上官からお前の生活の調査および報告も命じられているからな」
「そんな話、聞いてないし」
「あ、そういえば……これはシキ経由でも言ってなかったかも……、いやあ悪い悪い」
「悪いと思うなら、他の所にしてよ。誰かを泊められるような部屋じゃないから、狭いし何もないし」
「でも、荷物はもうそっちに届いているはずだし、こんな時間から宿を探すの面倒だから泊めてくれ」
「そう言われても……」
「なら仕方ない。シキの部屋にでも押しかけて、さっきの仕返しに睡眠時間やらなんやらをことごとく奪ってやろうかな」
「……分かった。でも、本当に狭くて何もないからね」
「大丈夫、大丈夫。ヤキモチ焼きの部下がいれば、他に何もなくてもそれなりに楽しめるから」
「そういうのいいから。早く行くよ」
「はいはい」
大げさに足音を立てながら部屋を出るジクの後を、セツがヘラヘラと笑いながら軽やかな足取りで追いかけていく。
いつのまにか、窓に浮かぶ月は見えなくなっていた。
「今夜もご苦労だったな」
窓の前には白い服を着たプライドの高そうな男が、満足げな笑みを浮かべて立っている。
「あやかしなんぞは一匹のこらず塵に帰すべきなんだ。だいたい、あの汚らわしいやつらは……」
男は陶酔した表情で、あやかしに対する憎悪を語り出す。ジクはそれを聞き流しながら、ときおり隣に立つセツに金泥色の目を向けた。
処理を手伝ってもらったおかげで、身体の昂ぶりは落ち着いた。しかし、愛想笑いを浮かべた顔が視界に入るたびに身体を貪り尽くしたいという衝動と、優しく頭をなでてほしいという願望が同時に生まれてくる。
そんな胸の内を知ってか知らずか、薄灰色の目は窓辺に立つ男から視線を動かさない。
少しはこっちを見てくれてもいいのに。心の中で呟くと、不意に雑言を吐きつづける口元から満足げな笑みが消えた。
「おい、ジク。なにをボサッとしているんだ?」
まずい。そう思ったときにはすでに、目の前に短鞭の先が突きつけられていた。
「家畜の分際で人の労いを無視するなど、随分と偉くなったものだな」
「……すみません、シキ班長。考え事をしていたので」
謝罪の言葉に、シキと呼ばれた男の表情が更に険しくなる。
「考え事ぉ? 気色悪いバケモノの混ざり物のお前に、物を考える知性などあるわけないだろう?」
「……」
煽るような言葉にジクは鋭い牙を食いしばった。
「なんだその目は? 逆らうなら班員たちを集めて血祭り、いや、いっそのこと塵に返してやってもいいんだぞ」
「……口答えしてしまい、すみませんでした。どうか出来の悪い僕を躾けなおしてください」
「そうだ。それでいい」
プライドの高そうな顔に満足げな笑みが戻った。
「素直に謝れた褒美だ」
歪んだ笑顔が、鞭を持つ手をゆっくりと振り上げる。
「望み通り、躾けなおしてやるとしよう!」
「……っ!」
衝撃と痛みに備え、金泥色の目がきつく閉じられた。
「シキ班長」
しかし、どこか楽しげな声が鞭が振り下ろされるのを遮った。
「え……?」
戸惑うジクの横で、セツが愛想のいい微笑みを浮かべながら首をかしげる。
「少し質問したいことがあるのですが、よろしいですか?」
「……なんだ?」
「まあまあ、そんなに怒らないでくださいよ」
あからさまに不機嫌になった表情を前にしても、愛想笑いは崩れない。
「いいから、早く質問とやらを言え」
「では失礼して。えーとですね、上長の高説を聞き流すのはよろしくないことですが、鞭打ちというのはいささか罰が重すぎるのでは?」
「うるさい。ここでは俺の言うことが絶対だ。いくら本部からの出向とはいえ、今は貴様も俺の部下だ。口答えは許さんぞ」
「いえ、口答えだなんて滅相もございません。私はただ本部の上官から受けた、『第一支部危険集団制圧班の人間関係を円転滑脱にすべし』という命を果たしたいだけですよ」
「なら、なおのこと黙っていろ。そいつのような出来の悪いバケモノを躾けることこそが、その命を果たすための最善策なのだから」
「しかしながら、組織図上は私もジクの上司になったわけですからね。部下の教育という大仕事をシキ班長一人に押しつけてしまうのは忍びないと言いますか、なんと言いますか」
「そんなことを貴様が気に病む必要は……」
シキは言葉を止めると、舐めるような視線を華奢な身体へ向けた。
「……いや、貴様の言うとおり部下の失態は上司の責任でもあるな。ならばセツ、貴様がコイツのかわりに罰を受けろ」
「なっ!? 待ってくださいシキ班長!」
下卑た言葉に、金泥色の目が見開かれた。
「罰なら僕が……」
「ジク。待て、だ」
「っ!?」
落ち着いた声とともに、辺りに甘い香りが漂う。その途端に、ジクは声を出すことも身体を動かすこともできなくなった。
「よし。上司の言うことをちゃんと聞けていい子だな」
白い手袋をはめた手が赤銅色の髪を優しくなで、薄く微笑む唇が「大丈夫だから」と微かな声をこぼした。
「お待たせいたしました。どうぞ、私を罰してください」
「いい返事だ。ならばまずそこに跪け」
「仰せのままに」
華奢な身体が所々に赤黒いシミが残る硬い床に膝をつく。欲情に血走った目がその姿を楽しげに見下ろた。
「まずはそうだな……、この鞭を舐めろ」
黒い短鞭の先が白い顔に突きつけられる。
「かしこまりました」
「その貧相な身体を存分に可愛がってやるのだから、丁寧にな」
「はい」
軽く開かれた唇から伸びた赤い舌が、鞭を下から支えるようにしながらゆっくりと前後に動きだした。舌はそのまま絡みついていき、ときに先端をはじくように刺激する。
「ずいぶんと慣れているじゃないか! そのあさましくうねる舌は本部で生きるために、さぞかし役に立っているんだろうなぁ!」
下卑た笑みを浮かべる顔を食いちぎってやりたい。ジクがそう思うたび、薄灰色の目がチラリと視線を送り、銀髪の頭が微かに左右に振れる。
「さて、上手くできた褒美をくれてやろう」
「んむっ!?」
不意に鞭がセツの薄い唇を割って、口の中に突き入れられた。
「ぐっ……ぅ……んっ♡」
柔らかな口蓋をなでられ、薄い肩がビクリと跳ねる。
「はは、口をいじられただけでそんな反応をするとは」
「……ぇ♡」
鞭が口からズルリと引き抜かれ、首筋をなぞりながら胸へと移動した。
「貴様のようなはしたないやつには、もっと罰をくれてやらないとな」
「……っぁ♡」
唾液で濡れた先端が服の上から突起の周りをゆっくりとなで、ほのかに赤みを増した唇から甘い声が漏れる。
「どうだ、罰がほしいか?」
「は、い♡、どうかお願いし……っぃ♡!?」
返事を待たずに右胸の突起を弾かれ、セツは白い喉を晒して嬌声をあげた。
「なら望みどおりにしてやろう!」
「くぅっ♡、やっ……♡、っぁ♡、ぁ♡、あっ♡」
今度は抉るように押し込まれ、腰の震えと短い喘ぎが止まらなくなる。
「ははは! いいざまだな! 望みを叶えてやった礼はどうした?」
「っぁりが……っ♡、と、ぉごっ♡、ざぃぁ……あぅっ♡」
「このくらいでなにを惚けている? ほら、さっさとその邪魔な上着を脱げ」
「はい……♡」
白い上着とシャツが脱ぎ捨てられ、陶器のような胸の上で赤く充血した突起が露わになった。それにズボンの中で窮屈そうに勃ち上がっている性器も。
「ははは、随分と淫らな胸だな。この鞭で直接打たれたら、どうなってしまうんだろうなぁ?」
「うぅ……♡」
触れるか触れないかの距離で動かされる鞭に、固くなった乳首が物欲しそうに震える。
「期待しているのか? あさましいやつめ。ならくれてやろう!」
「あぁぁあぁあぁあ♡♡♡!」
鞭が乾いた音を立て乳首を殴打し、華奢な身体が弓なりになりながらガクガクと震える。ズボンの股間には薄らとシミができた。その様子に気をよくしたシキが間髪入れずに再び鞭を振るった。
「なにを悦んでいるのだ、この淫乱!」
「ひぅっ♡!?」
「腰が揺れっぱなしではないか!」
「まってくだ……や、ぁっ♡!」
「ほら、鳴いてばかりではなく許しを請ってみろ!」
「も、しわけござ……っぅ♡!」
殴打されるたび乳首は赤く染まり、ズボンのシミが大きくなっていく。
「はっ♡、はっ♡、はっ♡」
「ははは、呼吸がままならないくらい悦ぶとは、まるで発情期の犬だな! さて……」
鞭がゆっくりと振り上げられ、今までとは違う場所に狙いを定める。それに気づいたセツは眉を寄せて、上目遣いにシキを見つめた。
「おまち……く、ださっ……♡、それだけは……♡」
「ははは! そんな顔でなにが待てだ! この嘘吐きめ!」
バシィィンッ
「ひぐぅぅぅぅっ♡♡♡!?」
盛大な音を立てながら鞭が股間に振り落とされ、薄灰色の瞳がグルリと上を向き、性器がズボンの中で脈打ちながら精液を吐き出した。
「あ……♡、ぁ……♡」
うわごとのような嬌声を上げながら、華奢な身体が床の上に崩れ落ちた。
「おい! 誰が寝ていいと言った!?」
「いっ!?」
しかし、すぐに銀色の髪を鷲掴みにされて、上体を起こされた。機嫌をそこねたプライドの高そうな顔に、頬を紅潮させたヘラリとした笑みが向けられる。
「も……、しわけ……、ござぃません♡」
「ふん、さっきから口先で謝罪してばかりではないか。ならもっとしっかりと躾けて……、おや?」
不意に欲情に濡れた目が視線を別方向に移した。
「おい、ジク。随分な顔をしてるなあ?」
「……っ!?」
予想外の言葉に、セツは瞬時に真顔に戻って振り返った。
「ふー……っ、ふー……っ」
動けないはずのジクが険しい目付きで牙を剥き、刀に手をかけている。
「ははは、どうした? コイツの痴態に残虐なバケモノの本能でも刺激されたか?」
「だ……、まれ……」
「ほう? 俺にそんな口を聞くのか。よほど塵に帰されたいらしいな」
シキも腰に差した短剣に手をかけ、部屋の空気が一気に張り詰める。
「ジク、待てと言っただろ」
不意に、穏やかな声とともに甘い香りが再び立ち込めた。
「っ!?」
途端に金泥色の目が見開かれ、抜刀しようとする手から力がぬけていく。
「……どうした? 今さら怖気付いたのかバケモノ」
「……!」
嘲る声に反論することもできない。
「はっ、今さら反省しても飼い主に手をあげようとした罪は消えないぞ。少し惜しいが処分……」
「ねえ、シキ班長」
物騒な言葉を艶っぽい声が遮った。
「……なんだ?」
「部下の失態は上司の責任、なんですよね?」
妖艶な笑みを浮かべながら、セツがゆっくりと立ちあがる。
「……そうだ」
「なら、これも私の責任ですよね? でしたら……、ん♡」
薄い唇が不機嫌そうに曲がった口を塞ぐ。そのまま長い舌が入り込み、鞭を舐めていたときと遜色のない動きで、わざとらしくチュプチュプと音をたてながら這い回った。
「……ぷは♡、シキ班長に愚かな私をもっと罰していただきたいです♡」
「ほう?」
「ジクの動きは止めてありますので、どうか……、どうか私だけを……♡」
「……ははは! 良い心がけではないか!」
「んむっ♡」
今度はシキの方から唇を塞ぎ、厚い舌で口内を荒らし回った。
「……ふぱ♡」
「ほら、惚けていないで罰の続きだ」
「はい♡ お願いいたします♡」
華奢な身体が、下卑た笑みに乱暴に抱き寄せられる。
「……」
ジクは刀を抜こうとしたが、指を動かすどころか瞬きさえもままならない。
結局、金泥色の目は罰を最後まで見つめ続けることしかできなかった。
※※※
「ふん、なかなか楽しかったぞ」
「それは何よりです」
「今後も誠心誠意、本部からの命を果たすことだな」
「はい。仰せのままに」
一通り好き勝手をしたシキは、上機嫌で部屋を出ていった。
廊下からの足音が聞こえなくなると、セツが大きなため息を吐いてから床に散らばった服をかき集める。
「まったく。本部でもウワサは聞いていたが、アイツは本当にろくでもないな。なあ、ジク?」
「……」
呼びかけられても、ジクは重苦しい表情でうつむいたままだった。
「ジク? おい、大丈夫か?」
「……ごめんなさい。僕のせいで」
ようやく声を絞り出すと、薄灰色の目が穏やかに細められた。
「気にするな、こういうのは慣れているから。それよりも、痺れ香が効きすぎたわけじゃなくてよかったよ」
「痺れ、香……?」
「そうだ。今シキに危害を加えられると、ちょっとだけまずくてね。まあ、ともかくだ。これからは、上司の話はちゃんと聞いているフリをしような」
「わかった……」
「よし、いい子だ」
白い手袋をはめた手が、赤銅色の髪を優しくなでる。
「それじゃあ、今日はもう帰って休むとしよう。ジク、お前の部屋まで案内してくれ」
「わか……っえ?」
突然の言葉に、金泥色の目が見開かれた。
「えっと、僕の部屋?」
「そうだ。本部の上官からお前の生活の調査および報告も命じられているからな」
「そんな話、聞いてないし」
「あ、そういえば……これはシキ経由でも言ってなかったかも……、いやあ悪い悪い」
「悪いと思うなら、他の所にしてよ。誰かを泊められるような部屋じゃないから、狭いし何もないし」
「でも、荷物はもうそっちに届いているはずだし、こんな時間から宿を探すの面倒だから泊めてくれ」
「そう言われても……」
「なら仕方ない。シキの部屋にでも押しかけて、さっきの仕返しに睡眠時間やらなんやらをことごとく奪ってやろうかな」
「……分かった。でも、本当に狭くて何もないからね」
「大丈夫、大丈夫。ヤキモチ焼きの部下がいれば、他に何もなくてもそれなりに楽しめるから」
「そういうのいいから。早く行くよ」
「はいはい」
大げさに足音を立てながら部屋を出るジクの後を、セツがヘラヘラと笑いながら軽やかな足取りで追いかけていく。
いつのまにか、窓に浮かぶ月は見えなくなっていた。
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父親より小柄なものの、整った顔立ちをしているイケメンで周囲からの人気も高い。
だが父である和志に対して恋心と劣情を抱いているため、そんな周囲のことには興味がない。
受け:和志(かずし) 43歳
学生時代から筋トレが趣味で、ガタイがよく体毛も濃い。
元妻とは15年ほど前に離婚し、それ以来息子の優人と2人暮らし。
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