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呆れてます

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 究極魔法の取得に向けて、ヒスイと一緒に近くの山でランニングをしているわけだけど……。

「さあ! 元帥! ランニングに戻りましょう!」

「限界が来てるから、あと五分だけ、休ませてくれ……」

 ……休憩のために座ったベンチから、全く立ち上がれなくなってしまった。

「大丈夫ですよ、元帥! 限界だと思ってからがスタートですから!」

「さわやかな笑顔で親指を立てながら、恐ろしいことを言わないでくれ……」

「でも、ずっとここにいるわけには、いきませんよ?」

「そうだけど……」

 さすがに今すぐミカエラ人形を抱えて走り出したら、今度こそ肺が爆発するかもしれない。でも、ヒスイはすでに準備運動を始めてるし……、なんとかして時間を稼がないと。

  ガサガサッ!

 ……ん?
 今、茂みから何か音がしたような……。

「っ!? 元帥、下がってください!」

「え? わ、分かった」

 ミカエラ人形を抱えながら、ヒスイの背後に回った。一体、何が現れたんだろう?

「……隠れていないで、さっさと出てこい。頭と身体が繋がっているうちにな」

「ふふふ……、相変わらず君は物騒なことを言うね……」

 ヒスイの言葉に、茂みから誰かの声が返事をする。でも、この声どこかで聞いたことがあるような……?

「僕はただ、美しい草木や花を愛でていただけなのに」

 そんな言葉と共に、ウェーブのかかった緑髪の男性が、リュートを抱えて現れた。えーと、こいつは、たしか……

「吟遊詩人の、スイ?」

「ええ、いかにも」

 スイはそう言うと、微笑んでお辞儀をした。

「お会いできて光栄だよ、闇のお嬢様」

「ああ、それはどうも」

 会釈を返すと、ヒスイが腕を組んでため息を吐いた。

「元帥、こんなやつに会釈をする必要なんて、ありません」

「おや、従兄に対してその言い方は、あんまりじゃないかい?」

「……え、従兄?」

 思わず聞き返してしまうと、ヒスイはため息を吐きながら、スイは微笑みながらうなずいた。

「ええ、元帥。コイツは、父方の従兄なんですよ」

「従兄といっても、同い年なんだけどね」

「そう、なのか……」

 たしかに、髪の色とか、名前とか、顔立ちとかが、色々と似ている気はしていた。でも、本当に血縁者だとは思わなかった。

「本当にコイツは……、名門に生まれながら、『軍人なんてモテない職業になりたくない』なんて言い出して……」

「おや、良いじゃないか。闇の勢力でも光の勢力でも、職業選択の自由は保証されているんだから」

「良くはない! お前、叔父様に何も言わずに家を飛び出して、勝手に光の勢力に転向しただろ!」

「ははは、そうだったね。でも、父さんたちには、ちゃんと事後報告したから」

「事後報告のどこが、ちゃんとなんだ!?」

 ……なんだか、イザコザとした感じになってるけど、止めた方がいいのかな?
 いや、でも、親戚関係のゴタゴタに第三者が入るのは、あんまりよくないか……。

「大体、お前はそんな感じで、周りを騒がせて出ていったにもかかわらず……」

 ヒスイはそこで言葉を止めて、大きく息を吸い込んだ。
 そして……


「肝心のモテたい、という大願を未だに成就させてないじゃないか!」


 ……なんとも、脱力感満載の言葉を言い放った。
 途端に、スイは顔を赤く染めて、唇を震わせた。

「な、お、お前……何を言って……」

 えーと……、今までも攻略対象キャラの意外な一面が見えたり、イメージがガラガラと崩れるようなこともあったから、大体の予想はつくけれど……。
 ためしにヒスイに視線を送ってみると、実ににこやかな表情が返ってきた。

「ええ。アイツは、モテそうだから、なんて理由で吟遊詩人になりましたが、今のところ恋人いない歴=年齢です」

「ああ、そうか。というと、つまり……」

「はい。元帥のお察しの通りです。アイツが女性なら、究極魔法を使うための条件の一つを、軽々とクリアしています」

「うん、まあ、そうか……」

 作中でも屈指のナンパキャラの意外な一面といったら、そうなるよね……。

「う、うるさいな! 僕は清廉なんだよ! 悪いか!?」

 脱力していると、スイが地面を踏みならして、大声を出した。まあ、別に悪くはないか。

「なにが清廉だ。大方この茂みに隠れて、作詩のインスピレーションを得るためとか言い訳をして、恋人たちがイチャイチャする様子を覗こうとしていたくせに」

「ほ、放っておいてくれ! 大体、人前で見せつけるようにいちゃつくヤツらが悪いんだ!」

 ああ、否定はしないのか……。まあ、野外で人目をはばからずイチャイチャする人たちも思うけど、かといって、覗くのもちょっと……。
 スイは私の視線に気づいたのか、ハッとした表情を浮かべてから、咳払いをした。

「えー、それに、今日は他の用もあって来たんだからね」

 やっぱり、覗きの件は否定しないのか……。

「それで、他の用っていうのは?」

 ヒスイが尋ねると、スイはニコリと微笑んだ。

「それはね、光のお嬢さんから、闇のお嬢さんへの伝言を預かってきたんだ」

「私に……、伝言?」

 このミカエラ人形についての、追加説明だったりするかな?

「ああ、そうだよ。闇のお嬢さんはきっと闇の城に近いこの辺りでトレーニングをするはずだから、イチャイチャするカップルを覗くついでにお願いって、たのまれてね」

 ミカエラ……、身内の覗きは止めてやらないのか……。

「どうしたんだい? 闇のお嬢さん?」

「いや、光の勢力の倫理観は色々と大丈夫なのかと、今更ながら心配になってな……」

「ふふふ、心配しなくても、バッチリ大丈夫だよ。この僕が保証するんだから」

「そうか……」

 うん、一番不安な人物に胸を張られてしまったけど……、深く追求したら負けな気がするな。

「それで、スイ。元帥への伝言というのは、何なんだ?」

「ああ、そうそう、伝言だったね」

 ヒスイの一言で、脱線しかけた話が元に戻ってくれた。

「光のお嬢さんいわく、全部私に任せてくれれば良いから、とのことだよ」

「全部、光の聖女に任せる……?」

 一体……、何を……?

「ふっふっふ、スイ、たまにはいい知らせを持ってくるじゃないか」

 不意に、ヒスイが含みのある笑顔を浮かべだした。

「いい、知らせ?」

「はい、そうですよ、元帥! 全てを光の聖女に任せる、つまりそれは……」

 ……なにか、またろくなことを言い出さないような気がする。
 でも、一応、聞き返しておこうか……。

「つまりそれは、というと?」


「はい! お二人のカップリング表記は『光×闇』で決定、ということです!」


 ……うん、ヒスイなら言い出すと思ったよ。

「ああ、たしかに。光のお嬢さんの方が、グイグイした性格だし、タチっぽいよね」

 スイはスイで、納得したようにコクコクうなずいてるし……。もう、ツッコむのも疲れるけど、訂正はしておこうか。

「だから、ヒスイ、私と光の聖女は、まだ友人だと言っているだろ?」

「しかしながら、元帥! ということは、がある、ということですよね!」

「たしかに、闇のお嬢さん情にほだされやすそうなタイプだから、ありえそうだねぇ」

「お前らな……、勝手なことを言ってくれるなよ……」

 ただ、われながら、完全否定もできない……。
 でも、仮にミカエラと付き合うなんてことになるとしても、元の世界に戻ってからになるのかな。ミカエラの話だと、究極魔法の練習中は、あんまり会えないみたいだしな……。

「元帥? ため息など吐かれて、いかがなさいました?」

「ヒスイが無茶なトレーニングを強制するから、疲れちゃったのかい?」

「ああ、いや、なんでもないよ」

 この状況で「気兼ねなく話ができる友人としばらく会えないのがちょっと淋しい」なんて言ったら、またヒスイが荒ぶりそうだから、言わないでおくことにしよう。
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