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語り合ってます・その二
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光の聖女と少しシリアス気味の話をしていたところ、突然現れたコウによって、今までの雰囲気が全て泣き落とし作戦の一部だということが判明した。そういうわけで、二人には並んで正座をしてもらっている。
「お前たち、良心に付け込むようなことをするのは、人としてどうなんだ?」
「ふっふっふ、元帥さん、光の聖女は大好きな元帥さんのためならたとえ外道に落ちようとも純愛を貫いていくんです!」
「Web小説のタイトルみたいな台詞で開き直るな! あと、外道に落ちてる時点で、純愛じゃないだろ!」
「えー、自分の手を汚してでも好きな人を手に入れる系の主人公って、昔から一定数の女の子に、きゃー純愛ー、って騒がれてる気がするけどなー」
「コウは黙っててくれ! というか、お前はお前で、一体何をしに来たんだよ!」
問いかけると、コウはハッとした表情を浮かべた。
「いっけなーい! スッカリ忘れてた!」
コウは舌足らずな声でそう言うと、頭をコツンと叩いて舌を出した。こういったあざとい行動のせいで、ちょっと苦手、評価を受けることもあるコウだが、私はここまでくるとすがすがしいと思う。それにしても、今まで出会ってきた攻略対象キャラには意外な一面を見せられたが、コウはどうやらゲーム通りのようだ。
感心していると、コウは立ち上がり、懐から菓子折りをとりだして深々と頭を下げた。
「本日は光の聖女様が、お世話になります。こちら、つまらないものですが」
「あ、これはご丁寧にどうも」
……ん?
なにか今、変なルビがなかったか?
「こら、光の聖女様! お泊まりになるなら、ちゃんとご挨拶の品を持っていかないと駄目でしょ!」
「えー、だって、急に決まったからー」
「だってじゃありません! 本当に、光の聖女様ってば、いつもそちらで騒いで、ご迷惑をかけてばかりで……」
「あー、いや、まあ……でも、元気でいいとも思いますよ?」
「ほら、コウ、元帥さんもこう言ってるから!」
なにか、また変なルビがあったような……
「まったく、この子は……」
うん、今度はハッキリと、この子、って言ったな。
「元帥さん、いつも本当にすみませんね」
「あ、いえいえ、お気になさらずに」
フォローの言葉をいれると、コウは深いため息を吐いた。
「本当に、もう少しおしとやかに、せめて泣き落としくらいにしなさいって、いつも言っているのに……」
「もう、お母さんうるさーい」
「うるさいじゃありません! それに、光の聖女様、お泊まりセットも持たずにどうするつもりだったの!?」
「だって、お義父さんが、貸してくれるっていうからいいかなって……」
「少しは遠慮しなさい! もう、そんな調子だと、元帥さんも呆れちゃうでしょ!」
「うー、元帥さんごめんさい……」
いつの間にか、光の聖女とコウはものすごくイザコザしはじめた。
うん、なんというか、ものすごく、思春期の娘と母親という感じだな。
「あー、お母さん。泊まっていかないかと言い出したのはうちの父ですし、光の聖女も反省しているようですから、この辺で……」
「あら、そうですか、いつもすみませんねぇ」
お母さ……もとい、コウはそう言って頭を下げてから、光の聖女に顔を向け……
「光の聖女様! 寝るときにお腹を冷やさないようにしないと、駄目だからね!」
「はいはい」
「もう! はいは一回!」
「はーい」
「まったく、うちの子は……それじゃあ、僕はこれで!」
……思春期の娘とお母さんのテンプレートを一通りして、白い煙と共に姿を消した。コウがいなくなると、光の聖女は不服そうに唇を尖らせた。
「もう、コウはいつも、口うるさいんだから……」
「まあ、それだけお前のことが、心配なんだろ、きっと……」
力なく答えると、光の聖女はキョトンとした表情を浮かべて、首を傾げた。
「えーと、それで、さっきまで何の話をしていたんでしたっけ?」
「あー、ほら、泣き落としという人の良心に付け込むようなことを企んだことについての説教をと思ったけれども、説教が続くのも気が滅入るだろうからやめておこう」
「きゃあ! 元帥さんってば、やーさーしーいー! もう、大好きです!」
「いいから、飛びつかないでくれ」
なんとか腕から引き剥がすと、光の聖女は不服そうに、はーい、と返事をした。
さてと、これからどうしようか。コウが来る前の話に戻るとなると、ミカに失恋したときの話をすることになってしまう。できれば、違う話題にしておきたい。
「元帥さん、あんまんだと思って食べたものがカスタードまんだったような顔してますけど、大丈夫ですか?」
「……どんな表情だよ、それは。まあ、大丈夫だ」
「えー、でも、大好きな元帥さんが元気のない表情をすると、凄く気になりますよー」
「大好きな元帥さんね……」
ああ、そうだ。いっそのこと、並み居る攻略対象キャラの中、なぜ闇の元帥に執着するのか、聞いてみることにしようか。これなら、少しくらいは話をそらせるだろう。
「光の聖女、以前も聞いたかもしれないが、お前はなぜ私に執着しているんだ?」
光の聖女は、一瞬だけ目を見開いた。しかし、すぐに笑顔に戻ると、軽く首を傾げた。
「……元帥さんのことが、大好きだからですよ」
「いや、だから、なぜそこまで私に好意を持っているのか聞いているんだよ。こっちは、極力お前に関わらないようにしていたのに」
まあ、この世界に来る前に一番推していたのが闇の元帥だったから、とか、もともと男装の麗人が好きだったから、という理由が返ってくるのだろう。
「……元帥さんが私を選ばない理由と、同じですよ」
「……ふぇ?」
意外な答えに、思わず気の抜けた声を出してしまった。
「同じ、理由?」
「ええ、そうです」
光の聖女はそう言って、ゆっくりと頷いた。
「私もね、この世界に来る前ですけど、凄く大好きな子がいたんです。元帥さんにそっくりのね。でも、きっと迷惑がかかるからと思って、想いは伝えてなかったんです」
「そう、か。それは、お前もつらかったんだな」
「ふふふ、ご心配は無用です。告白しない代わりにその子には、そっくりな元帥さんが好きだって常々口にしてたんです。元帥さんは元いた世界でも有名人でしたから。そうやって、告白できないストレスは解消していました」
「そうか……それは、たくましいな」
「まあ、告白しないと決めたのは私自身ですからね。それくらいは、したたかにならないと」
「そうか……」
「そうですよ。それに、想いを伝えずにいることによって、親友という立場でずっとその子を独占できる、なんて考え方もできますし」
「……その気持ちは、分からなくもないな」
「ふふふ、ありがとうございます。そんなわけで、私はその子の親友という立場でずっと側にいたんです。でも……」
「……でも、どうしたんだ?」
「……あるとき、その子が私を置いて、遠くに行っちゃったんです」
「……そうか。それは、つらかったな」
「そう、ですね。その子に会えない世界なんていらない、なんて考えたりもしました。そんな風に自暴自棄になっているうちに、学校の階段で滑って頭を打って」
「学校の階段で……滑った?」
「……はい。それで、気がついたらこの世界に、光の聖女として召喚されていました」
「そうだったのか……」
「はい。それで、意識がハッキリしたときに思ったんです。元いた世界では、大好きだったあの子に告白できなくて後悔したから、この世界であの子によく似た元帥さんに想いを伝えようって」
光の聖女はそこで言葉を止めると、どこか淋しそうに微笑んだ。
「どうです? 私たち、結構似たもの同士だと思いません?」
「……そうみたいだな」
「まあ、あの子の代わりとハッキリ認識した上で好意を伝えてる分、私の方が悪役度が高いですけどね!」
「はははは、光の聖女がそんなことで威張るなよ!」
「あはははは、それもそうですね!」
「そうなると、お前のことを気遣っている分、私の方が聖女度が高いな!」
「あははは! 本当ですね! いっそのこと、役職交換しちゃいます?」
「はははは、そんなことしたら、そっちはオウギョクとムラサキ、こっちはギベオンがショックで寝込むぞ!」
「あはははは! たしかに!」
……うん。
色々と難はあるけれど、やはり光の聖女と二人で話していると会話が弾む。
「なあ、光の聖女」
「なんですか? 元帥さん」
「これから、闇の勢力と光の勢力は和平の方向に進むんだろ?」
「ええ、そうですよ」
「それなら、私たちが敵対する必要もないし……お互い、好意を持てない事情も、好意を持った事情も話した」
「そうですね」
「正直なところ、お前の好意にすぐに答えることはできない。でも、お前と二人で話していると、楽しいとも感じた」
「ええ! 私も元帥さんと二人っきりでお話しできて、凄く楽しかったですよ!」
「ならば、まずは友人として、付き合っていかないか? 意気地のない提案で、すまないとは思うが」
「うふふふ、もちろんですよ! それに、私、元帥さんのそういう純情なところも、大好きですから!」
「それは、どうも。それなら、名前を教えてくれないか? 友人を光の聖女なんて役職名で呼ぶのは、不躾だろう」
「はい! もちろん!」
光の聖女は、屈託のない笑顔で返事をした。
ひょっとしたら、知り合いの名前だったり……
「私の名前は、ミカ」
「……え?」
今のは、聞き間違い、だよ……な?
「お前たち、良心に付け込むようなことをするのは、人としてどうなんだ?」
「ふっふっふ、元帥さん、光の聖女は大好きな元帥さんのためならたとえ外道に落ちようとも純愛を貫いていくんです!」
「Web小説のタイトルみたいな台詞で開き直るな! あと、外道に落ちてる時点で、純愛じゃないだろ!」
「えー、自分の手を汚してでも好きな人を手に入れる系の主人公って、昔から一定数の女の子に、きゃー純愛ー、って騒がれてる気がするけどなー」
「コウは黙っててくれ! というか、お前はお前で、一体何をしに来たんだよ!」
問いかけると、コウはハッとした表情を浮かべた。
「いっけなーい! スッカリ忘れてた!」
コウは舌足らずな声でそう言うと、頭をコツンと叩いて舌を出した。こういったあざとい行動のせいで、ちょっと苦手、評価を受けることもあるコウだが、私はここまでくるとすがすがしいと思う。それにしても、今まで出会ってきた攻略対象キャラには意外な一面を見せられたが、コウはどうやらゲーム通りのようだ。
感心していると、コウは立ち上がり、懐から菓子折りをとりだして深々と頭を下げた。
「本日は光の聖女様が、お世話になります。こちら、つまらないものですが」
「あ、これはご丁寧にどうも」
……ん?
なにか今、変なルビがなかったか?
「こら、光の聖女様! お泊まりになるなら、ちゃんとご挨拶の品を持っていかないと駄目でしょ!」
「えー、だって、急に決まったからー」
「だってじゃありません! 本当に、光の聖女様ってば、いつもそちらで騒いで、ご迷惑をかけてばかりで……」
「あー、いや、まあ……でも、元気でいいとも思いますよ?」
「ほら、コウ、元帥さんもこう言ってるから!」
なにか、また変なルビがあったような……
「まったく、この子は……」
うん、今度はハッキリと、この子、って言ったな。
「元帥さん、いつも本当にすみませんね」
「あ、いえいえ、お気になさらずに」
フォローの言葉をいれると、コウは深いため息を吐いた。
「本当に、もう少しおしとやかに、せめて泣き落としくらいにしなさいって、いつも言っているのに……」
「もう、お母さんうるさーい」
「うるさいじゃありません! それに、光の聖女様、お泊まりセットも持たずにどうするつもりだったの!?」
「だって、お義父さんが、貸してくれるっていうからいいかなって……」
「少しは遠慮しなさい! もう、そんな調子だと、元帥さんも呆れちゃうでしょ!」
「うー、元帥さんごめんさい……」
いつの間にか、光の聖女とコウはものすごくイザコザしはじめた。
うん、なんというか、ものすごく、思春期の娘と母親という感じだな。
「あー、お母さん。泊まっていかないかと言い出したのはうちの父ですし、光の聖女も反省しているようですから、この辺で……」
「あら、そうですか、いつもすみませんねぇ」
お母さ……もとい、コウはそう言って頭を下げてから、光の聖女に顔を向け……
「光の聖女様! 寝るときにお腹を冷やさないようにしないと、駄目だからね!」
「はいはい」
「もう! はいは一回!」
「はーい」
「まったく、うちの子は……それじゃあ、僕はこれで!」
……思春期の娘とお母さんのテンプレートを一通りして、白い煙と共に姿を消した。コウがいなくなると、光の聖女は不服そうに唇を尖らせた。
「もう、コウはいつも、口うるさいんだから……」
「まあ、それだけお前のことが、心配なんだろ、きっと……」
力なく答えると、光の聖女はキョトンとした表情を浮かべて、首を傾げた。
「えーと、それで、さっきまで何の話をしていたんでしたっけ?」
「あー、ほら、泣き落としという人の良心に付け込むようなことを企んだことについての説教をと思ったけれども、説教が続くのも気が滅入るだろうからやめておこう」
「きゃあ! 元帥さんってば、やーさーしーいー! もう、大好きです!」
「いいから、飛びつかないでくれ」
なんとか腕から引き剥がすと、光の聖女は不服そうに、はーい、と返事をした。
さてと、これからどうしようか。コウが来る前の話に戻るとなると、ミカに失恋したときの話をすることになってしまう。できれば、違う話題にしておきたい。
「元帥さん、あんまんだと思って食べたものがカスタードまんだったような顔してますけど、大丈夫ですか?」
「……どんな表情だよ、それは。まあ、大丈夫だ」
「えー、でも、大好きな元帥さんが元気のない表情をすると、凄く気になりますよー」
「大好きな元帥さんね……」
ああ、そうだ。いっそのこと、並み居る攻略対象キャラの中、なぜ闇の元帥に執着するのか、聞いてみることにしようか。これなら、少しくらいは話をそらせるだろう。
「光の聖女、以前も聞いたかもしれないが、お前はなぜ私に執着しているんだ?」
光の聖女は、一瞬だけ目を見開いた。しかし、すぐに笑顔に戻ると、軽く首を傾げた。
「……元帥さんのことが、大好きだからですよ」
「いや、だから、なぜそこまで私に好意を持っているのか聞いているんだよ。こっちは、極力お前に関わらないようにしていたのに」
まあ、この世界に来る前に一番推していたのが闇の元帥だったから、とか、もともと男装の麗人が好きだったから、という理由が返ってくるのだろう。
「……元帥さんが私を選ばない理由と、同じですよ」
「……ふぇ?」
意外な答えに、思わず気の抜けた声を出してしまった。
「同じ、理由?」
「ええ、そうです」
光の聖女はそう言って、ゆっくりと頷いた。
「私もね、この世界に来る前ですけど、凄く大好きな子がいたんです。元帥さんにそっくりのね。でも、きっと迷惑がかかるからと思って、想いは伝えてなかったんです」
「そう、か。それは、お前もつらかったんだな」
「ふふふ、ご心配は無用です。告白しない代わりにその子には、そっくりな元帥さんが好きだって常々口にしてたんです。元帥さんは元いた世界でも有名人でしたから。そうやって、告白できないストレスは解消していました」
「そうか……それは、たくましいな」
「まあ、告白しないと決めたのは私自身ですからね。それくらいは、したたかにならないと」
「そうか……」
「そうですよ。それに、想いを伝えずにいることによって、親友という立場でずっとその子を独占できる、なんて考え方もできますし」
「……その気持ちは、分からなくもないな」
「ふふふ、ありがとうございます。そんなわけで、私はその子の親友という立場でずっと側にいたんです。でも……」
「……でも、どうしたんだ?」
「……あるとき、その子が私を置いて、遠くに行っちゃったんです」
「……そうか。それは、つらかったな」
「そう、ですね。その子に会えない世界なんていらない、なんて考えたりもしました。そんな風に自暴自棄になっているうちに、学校の階段で滑って頭を打って」
「学校の階段で……滑った?」
「……はい。それで、気がついたらこの世界に、光の聖女として召喚されていました」
「そうだったのか……」
「はい。それで、意識がハッキリしたときに思ったんです。元いた世界では、大好きだったあの子に告白できなくて後悔したから、この世界であの子によく似た元帥さんに想いを伝えようって」
光の聖女はそこで言葉を止めると、どこか淋しそうに微笑んだ。
「どうです? 私たち、結構似たもの同士だと思いません?」
「……そうみたいだな」
「まあ、あの子の代わりとハッキリ認識した上で好意を伝えてる分、私の方が悪役度が高いですけどね!」
「はははは、光の聖女がそんなことで威張るなよ!」
「あはははは、それもそうですね!」
「そうなると、お前のことを気遣っている分、私の方が聖女度が高いな!」
「あははは! 本当ですね! いっそのこと、役職交換しちゃいます?」
「はははは、そんなことしたら、そっちはオウギョクとムラサキ、こっちはギベオンがショックで寝込むぞ!」
「あはははは! たしかに!」
……うん。
色々と難はあるけれど、やはり光の聖女と二人で話していると会話が弾む。
「なあ、光の聖女」
「なんですか? 元帥さん」
「これから、闇の勢力と光の勢力は和平の方向に進むんだろ?」
「ええ、そうですよ」
「それなら、私たちが敵対する必要もないし……お互い、好意を持てない事情も、好意を持った事情も話した」
「そうですね」
「正直なところ、お前の好意にすぐに答えることはできない。でも、お前と二人で話していると、楽しいとも感じた」
「ええ! 私も元帥さんと二人っきりでお話しできて、凄く楽しかったですよ!」
「ならば、まずは友人として、付き合っていかないか? 意気地のない提案で、すまないとは思うが」
「うふふふ、もちろんですよ! それに、私、元帥さんのそういう純情なところも、大好きですから!」
「それは、どうも。それなら、名前を教えてくれないか? 友人を光の聖女なんて役職名で呼ぶのは、不躾だろう」
「はい! もちろん!」
光の聖女は、屈託のない笑顔で返事をした。
ひょっとしたら、知り合いの名前だったり……
「私の名前は、ミカ」
「……え?」
今のは、聞き間違い、だよ……な?
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