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これからどうしようか

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 うちのパーティーは、王都でも最強と謳われている。そのおかげで、国王から直々に依頼を受けることがある。
 そんなわけで、今日はパーティーの事務所を離れ一人王宮に足を運び、玉座に腰掛ける国王に謁見している。

「ベルムよ、お前のパーティーのおかげで、この王都周辺の治安は保たれているといっても過言ではない」

「ありがたきお言葉」

「特に、ルクスと言ったかな、あの弓使いの腕は本当にすばらしいな」

「ありがたきお言葉」

「もちろん、お前との連携があってこそ、だがな」

「ありがたきお言葉」

 社交辞令を口にする国王に対して、頭を垂れながら感謝の言葉を繰り返す。こうしていれば、あの嫌な顔を少しでも見なくて済むから。

「うむ。それで、今までの功績を称えて、これからもお前のところに優先的に依頼を回そう……」

「ありがたきお言……」

「と、思っていたんだがな、少し懸念事項があってな」

「……懸念事項、ですか?」

 意外な言葉に思わず顔を上げると、王は気色の悪い笑みを浮かべていた。

「なに、古い知人から、お前のところはリーダーの礼儀がなっていないから、あまり重用すると恥をかく、という話を聞いてな」

「さようで、ございますか」

 先日解雇したじいさんが、何か口出ししたのだろう。おそらく、王はあのじいさんの意見など気にもとめていないのだろうが……。

「まあ、そんな意見は間違い無く僻みだとは思うが、古い知人ということで無下にもできなくてな。ただ、お前にはあいつよりも、色々と世話になっているから、お前の方を信じてやりたいとも思っているんだよ」

「ありがたき、お言葉……」

「ははは、そうかしこまらずとも良い。ところで、最近娘がお気に入りの玩具を引きずり回して壊してしまって、酷く気を落としているんだ。誰か、遊び相手を用意してやらねばと思っていたのだが……」

 ……やっぱり、強請りに使ってきたか。それでも、ここで逃げれば、国王からの依頼を受注することは、今後一切できなくなるだろう。

「それならば、本日は他に予定もございませんので私が……」

「おお、本当か! それでは、娘の部屋に案内させよう! 存分に娘の遊び相手になってくれ!」

 遊び道具の間違いだろ。
 そんな言葉を堪えていることが分かっているからか、王は気色の悪い笑みをさらに歪ませていた。

 それから、日が落ちるまで王女の遊び相手を勤め上げ、従者たちから遠巻きに笑われながら城を後にした。完全回復薬を飲まされたから、傷も痛みも残っていない。それでも、体中を引っかき回された不快感が、まだ消えない。
 まあ、メンバー全員に仕事が行き渡るだけの量の依頼を受注できたのだから、さっさと眠って忘れてしまうことにしよう。ああ、それでも、メンバー編成の検討をしておきたいから、一度パーティーの事務所に戻らないといけないか。

 フラフラとしながら事務所の執務室に戻ると、ルクスが一人で佇んでいた。

「……ベルム、ちょっと良いか?」

「……別の機会にしてくれ」

 言いたいことは分かっている。それでも今は、仲間の口から気が滅入る言葉を聞きたくない。それに、固有スキルなんて使いたくないくらいに、疲れている。

「でも、今日こそ、辞表を……」

 それなのに、ルクスは構わずいつも通りの言葉を口に出す。
 ああ、もう。

「ふざけるのも大概にしろよ!」

 思わず声を荒らげると、ルクスは身をすくめた。まずい、スキルを使わずに引き留めるには、冷静にならないといけないのに。

「人の気も知らないで、毎回、毎回、勝手なことばかり言いやがって!」

 それでも、言葉が止まらない。

「お前は良いよな、弓の腕だけ磨いていれば、周囲が天才だの最強だのもてはやすんだから!」

 これじゃあ、ただの八つ当たりだ。

「そのおかげで、俺がどれだけ惨めな目に遭っているか……」


「知ってる。だから、ずっと辞めたいって言ってたんだよ」

「……え?」


 ルクスは、一体何を言っているんだ?

「国王がうちに依頼を出すのは、俺の弓の腕をあてにしてるからだろ?」

「……そうだ」

「なら、俺がいなくなれば、国王はうちに依頼は出さなくなる。そうすれば、お前もあんな目に遭わなくて済む」

「気づいて、たのか?」

「ああ。この目は、敵の弱点の他にも、色々と見えるから。ぼんやりと、ではあるけどな」

 思い返せば、ルクスが辞めたいと言い出したのは、マリアンとヒューゴが辞めて、王宮から声がかかるようになってからだったか。

「だから、お前も一緒に退職して、マリアンかヒューゴのところで働かないか? 二人には、もう話をつけてあるから」

「……そんなことしたら、残りのメンバーはどうなる?」

「さあ? 放っておけば良いだろ。色んな噂が流れているのに、誰一人王宮との交渉を手伝おうともしなかったやつらなんて」

「……ははは」

 ルクスの言葉に、思わず笑い声が漏れた。
 その一言で、今まで背負い込んできたものが、一気に軽くなった気がした。

 それから、俺たちは大量の依頼書だけを残して、パーティーの事務所を出て、夜行列車に乗り込んだ。向かった先は、海に近い小さな町にある小さな喫茶店だ。

「ベルム、ルクス、久しぶり!」

「二人とも、お久しぶりっす!」

 青空の下、店の前でマリアンとヒューゴが笑顔を浮かべて手を振っている。

「ああ、久しぶりだな二人とも!」

「久しぶりー」
 
 俺に続いて、ルクスも気の抜けた声で再会を喜ぶ。
 トップ二人が失踪したパーティーは今頃、混乱どころの騒ぎではなくなっているのかもしれない。それでもあいつらだって子供じゃないのだから、自分たちでどうにかするだろう。その結果、壊滅しようが今までより良くなろうが、もう知ったことではない。
 今はただ、仲間たちとゆっくりと過ごすことにしよう。
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みんなの感想(1件)

ジャック
2020.12.01 ジャック

ルクスがめちゃくちゃ良いやつだった(笑)

鯨井イルカ
2020.12.01 鯨井イルカ

お読みいただき、ありがとうございました!
ちょっとズレた所はありますが、いい奴なのですよ。

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