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会議の場
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役員会議室の椅子に座りながら、胸ポケットにしまった個人用の携帯電話を取り出した。でも、望む人からの連絡は来ていないみたいだ。
結局昨日の昼以降、京子と連絡が取れなくなってしまった。
今日もメールを送ってみたけど、まだ返事はない。山本社長が緊急入院になって色々忙しいから、返信する時間がないってだけだと良いんだけど……
「じゃあ、全員揃ったから会議を始めるよ!」
心配ごとに気をとられていると、川瀬社長の声が耳に入った。
顔を上げると、屈託のない笑みを浮かべて川瀬社長、楽しげな微笑みを浮かべた山口課長、心配そうな表情を浮かべた信田部長が目に入った。
社長から会議の要請があったのは、昨日のお昼頃だった。当初の予定では、昨日中に一度会議をするはずだった。でも、出席予定者の都合がつかなかったから、結局きょうの朝一ということになったんだよね。
営業部では、日神君、早川君、吉田、僕の四人に声がかかった。運良く、全員午前中は外出の予定がなかったから、全員揃って出席することができた。
管理部の出席者は信田部長、山口課長、三輪さんの三名。つまり、全員が出席ということになったみたいだね。三輪さんは真木花にいた頃、一条さんと仲が良かったみたいだから呼ばれたのだろう。
あとは、製品開発部の面々なんだけど……
「ところで社長、この『鬼退治』ってのは、一体どんな仕事なんすか?昨日、真木花の山本社長から直々に受注したらしいっすけど」
製品開発部の出席者に違和感を抱いていると、早川君の訝しげな声が耳に入った。たしかに、いきなり鬼退治なんて言われても、わけが分からないよね。
心の中で早川君に同情していると、川瀬社長が不敵な笑みを浮かべた。
「ふっふっふ。この間から続いてる丑の刻参り事件の解決編といったところなのだよ。早川ちゃん」
社長がどこか高圧的な口調で答えると、早川君は感心したような表情で、へー、と声を漏らした。
「分かったっす!では、詳細を教えて下さい!」
そして、早川君は凜々しい表情で、社長に説明を求めた。うん、早川君の順応力の高さには、いつも感心するけど……もうちょっとだけ、自分の置かれた状況に疑問を持ってもいいかもしれないね。なんだか、良心につけ込む類の詐欺に騙されそうで心配になるよ。いや、いつも寸借詐欺に騙されて、日神君に叱られる僕が言えたことではないかもしれないけど。
そんなことを考えていると、隣に座った日神君が小さく咳払いをした。
「社長。丑の刻参りに関係があるということは、この『鬼』というのは、一条さんのことをおっしゃっているのですよね?」
日神君が尋ねると、川瀬社長は屈託のない笑みのまま、コクリと頷いた。
「うん!そうだよ!他に、該当する子なんていないでしょ!」
川瀬社長が答えると、日神君は困惑した表情でこちらに目を向けた。
「それは、そうですけれども……」
日神君が言葉を濁すと、怪訝な表情の三輪さんがそっと挙手をした。
「ん?何かな、三輪ちゃん!」
川瀬社長が指を指すと、三輪さんがおずおずとしながら口を開いた。
「はい。あの、月見野部長が、姫ちゃ……一条さんの説得をしたんでは、なかったんですか?」
三輪さんも、誰かから話を聞いたみたいだね。多分、信田部長か、山口課長だろうか?
いや、今はそんなことを気にしている場合ではないよね。
「うん。昨日本人とお話しして、もう呪いは使わない、という話になったよ」
僕が答えると、三輪さんと日神君は安心したように表情を緩めた。一方、川瀬社長は、ふーん、と気のない声を出しながら、円卓に頬杖をついた。
「つきみん、もう呪いは使わない、の前に、何か条件つけてないよね?」
「え、じょ、うけん、ですか?」
不意に川瀬社長から質問を投げられ、たどたどしい声を出してしまった。ちょっと恥ずかしいけど、気を取り直して答えないと。
「特に、条件なんてつけていな……」
つけていない、と答えようとして、思い出してしまった。
昨日は一条さんに、誰かのためにこれ以上呪いを使わないで欲しい、と伝えた。
そして、一条さんは、肝に銘じます、と答えてくれた。
でも……
「姫っち自身のために呪いを使わない、という言質まではとってなかったんだろ?」
昨日のことを思い返していると、女性もののフォーマルスーツを着た山口課長が首を傾げた。
その声と表情から、僕に対する失望のようなものが、ひしひしと伝わった。
たしかに、詰めが甘かった。でも、一条さんが自分から呪いを使うなんてことは……
「本音なのか建て前なのかは知らんが、気に入らないから丑の刻参りをした、なんて言う状態なんだぞ?自分のために、呪いを使わない保証なんてないだろ」
「……たしかに、保証はないです。でも、あの子は……」
「……そんなことをする子じゃありません。なんて、言うつもりか?」
言おうとしていた言葉を、僕の声を真似た山口課長が口にした。あまりにも声が似ていたことに面食らっていると、山口課長は深いため息を吐いた。
「そういうことを言うのがいると、話が進まなくなりそうだから葉河瀨を外したってのに」
大げさに呆れた表情を浮かべる山口課長に、流石に苛立ちを覚えた。でも、山口課長の言うとおり、一々話を止めていても仕方がない。
一条さんが万が一思いとどまっていなかったらどう対応するか、という情報を共有しておく必要も、ないわけではないからね。多分、いや、ぜったいに思い過ごしで終わることになるけど。
「まーまー、課長もつきみんも、ケンカしないで、ね?」
「そうね。ここでいがみ合っている場合ではないわね」
苛立っていると、川瀬社長と信田部長の声が耳に入り、我に返った。
「……そうですね。失礼しました」
僕が頭を下げると、山口課長もどこか不服そうに、悪かったな、と返事をして、椅子の背もたれに寄りかかった。
たしかに、山口課長といがみ合ってる場合ではないよね。平常心を保てなくなるなんて、もっと精神を鍛錬しないとダメかな。
「じゃあ気を取り直して、本題に入ろうか!」
自分の未熟さを痛感していると、川瀬社長が楽しげな表情を製品開発部の面々へ向けた。山口課長の発言通り、葉河瀨部長の代わりに、部下の二人が出席している。
「じゃあ、助手コンビ!頼んでた仕事の、進捗具合はどうかな!?」
「川瀬社長、コイツと、一括りにしないで下さい」
川瀬社長が声をかけると、製品開発部員の一人、助川 累君が不服そうに声を出した。黒縁眼鏡に、左側が長めになっている前髪が特徴的な子だ。たしか、一昨年の新卒で入った子だったかな。いつも気難しそうな表情をしているけど、礼儀正しくて良い子だと思うんだよね。
「まあまあ助川っち、そう言うなって!ともかく、俺の担当してる分は、明日には出来上がりますよ!だから、余った時間で、助川っちのフォローに入る予定です!」
助川君に続いて、もう一人の部員、手賀沼 進君がハキハキと答えた。髪の毛を明るい黄色に染めて、白衣の下に奇抜な色のシャツを着ている。助川君と同期で、ちょっと冷や冷やする見た目をしているけど、この子も誰とでも分け隔てなく接することができる良い子だったりする。まあ、お客様のところに行くときは、身だしなみを気をつけて欲しいな、とは思うけど……いや、こういう格好のまま、お客様のところへ行ったりはしていない、よね?
「お前の手助けなんて必要ない、と言いたいが、今回は素直に力を借りることになるだろうな」
他部署の若手についてお節介なことを考えていると、助川君の落胆した声が聞こえた。
「川瀬社長、申し訳ございません。必要な情報が全て揃っていないため、まだ、着手すらできていない状態です」
助川君がはそう言うと、最敬礼で頭を下げた。すると、川瀬社長はニッコリと笑った。
「いーの、いーの!気にしないで!遅くても、今日の二十三時五十九分までには、必要な情報が揃うと思うから!そしたら、コンビで力を合わせて仕上げれば良いんだよ!」
「はい。かしこまりました!」
「了解でーす!頑張ろうな、助川っち!」
社長の言葉に、助川君と手賀沼君は声を会わせて返事をした。
うん、気持ちの良い返事だったけど、彼らは知っているんだろうか?
この仕事に協力すると言うことは、場合によっては……
「なあ、良いのかお前ら?よく分からないけど、この仕事に協力すると葉河瀨部長と対立することになる、かもしれないんだろ?」
僕の心配を早川君が代弁してくれた。
うん、一条さんを傷つけるかもしれないことに協力するんだから、葉河瀨部長はいい顔をしないと思うんだよね。
でも、こちら心配を余所に、助川君と手賀沼君は不敵な笑みを浮かべた。
「何を言うのですか、早川さん。たとえ一時対立することになろうとも、最終的に葉河瀨部長の助けになれるのならば、私達は全力を尽くすまでです」
「そうそう!だから、もの凄く怒られたりしても、俺達はこの件を進めますよ!それが、葉河瀨部長のためになるのらば!」
……個性の強い子達だけど、葉河瀨君への忠誠心は篤いみたいだね。そういえば、葉河瀨君がいずこかに発表したという論文に感銘を受けて、この会社の入社試験を受けたって話も聞いたことがあったな……
「……なんで、あんな適当な奴に、こんな素直で良い子な上司思いの部下がつくんだよ」
他部署の信頼関係に感心していると、とても悲しげな日神君の声が耳に入った。顔を向けると、日神君は声に違わず悲しそうな表情でうな垂れていた。
「まあまあ、日神く……」
「あー!酷いっすよ!日神部長!俺だって、一人で抱え込んで勝手に悪役を演じてた奴だというのに、黒い害虫が大量に蠢く場所へ助けに行くぐらいには上司思いっすよ!な、吉田!」
フォローの言葉を入れようとしたけれど、早川君の抗議の声によってかき消されてしまった。早川君に声をかけられた吉田は、小さくため息を吐いた。
「早川さん、嫌なことを思い出させないで下さいよ。でも、早川さんの言うとおり、私だって、一人で抱え込んで公私の区別すらつかなくなるくらい盛大に病んでいた方だというのに、ギリギリまで尊敬して付き従っていたくらいには上司思いですよ」
早川君に続いて、吉田も抗議の声を上げた。
うん、たしかに、二人が日神君のことを上司として慕っている、と言うことは知っているよ。
でも、二人ともちょっと言い過ぎな気もするかな。
「……お前らの、そういうところだ」
役員会議室には、日神君の憤りのような、諦めのような、悲しみのような声が響いた。
いや、多分、悲しみだよね。
まあ、これが営業部第三課の信頼関係の形なんだろうね……
結局昨日の昼以降、京子と連絡が取れなくなってしまった。
今日もメールを送ってみたけど、まだ返事はない。山本社長が緊急入院になって色々忙しいから、返信する時間がないってだけだと良いんだけど……
「じゃあ、全員揃ったから会議を始めるよ!」
心配ごとに気をとられていると、川瀬社長の声が耳に入った。
顔を上げると、屈託のない笑みを浮かべて川瀬社長、楽しげな微笑みを浮かべた山口課長、心配そうな表情を浮かべた信田部長が目に入った。
社長から会議の要請があったのは、昨日のお昼頃だった。当初の予定では、昨日中に一度会議をするはずだった。でも、出席予定者の都合がつかなかったから、結局きょうの朝一ということになったんだよね。
営業部では、日神君、早川君、吉田、僕の四人に声がかかった。運良く、全員午前中は外出の予定がなかったから、全員揃って出席することができた。
管理部の出席者は信田部長、山口課長、三輪さんの三名。つまり、全員が出席ということになったみたいだね。三輪さんは真木花にいた頃、一条さんと仲が良かったみたいだから呼ばれたのだろう。
あとは、製品開発部の面々なんだけど……
「ところで社長、この『鬼退治』ってのは、一体どんな仕事なんすか?昨日、真木花の山本社長から直々に受注したらしいっすけど」
製品開発部の出席者に違和感を抱いていると、早川君の訝しげな声が耳に入った。たしかに、いきなり鬼退治なんて言われても、わけが分からないよね。
心の中で早川君に同情していると、川瀬社長が不敵な笑みを浮かべた。
「ふっふっふ。この間から続いてる丑の刻参り事件の解決編といったところなのだよ。早川ちゃん」
社長がどこか高圧的な口調で答えると、早川君は感心したような表情で、へー、と声を漏らした。
「分かったっす!では、詳細を教えて下さい!」
そして、早川君は凜々しい表情で、社長に説明を求めた。うん、早川君の順応力の高さには、いつも感心するけど……もうちょっとだけ、自分の置かれた状況に疑問を持ってもいいかもしれないね。なんだか、良心につけ込む類の詐欺に騙されそうで心配になるよ。いや、いつも寸借詐欺に騙されて、日神君に叱られる僕が言えたことではないかもしれないけど。
そんなことを考えていると、隣に座った日神君が小さく咳払いをした。
「社長。丑の刻参りに関係があるということは、この『鬼』というのは、一条さんのことをおっしゃっているのですよね?」
日神君が尋ねると、川瀬社長は屈託のない笑みのまま、コクリと頷いた。
「うん!そうだよ!他に、該当する子なんていないでしょ!」
川瀬社長が答えると、日神君は困惑した表情でこちらに目を向けた。
「それは、そうですけれども……」
日神君が言葉を濁すと、怪訝な表情の三輪さんがそっと挙手をした。
「ん?何かな、三輪ちゃん!」
川瀬社長が指を指すと、三輪さんがおずおずとしながら口を開いた。
「はい。あの、月見野部長が、姫ちゃ……一条さんの説得をしたんでは、なかったんですか?」
三輪さんも、誰かから話を聞いたみたいだね。多分、信田部長か、山口課長だろうか?
いや、今はそんなことを気にしている場合ではないよね。
「うん。昨日本人とお話しして、もう呪いは使わない、という話になったよ」
僕が答えると、三輪さんと日神君は安心したように表情を緩めた。一方、川瀬社長は、ふーん、と気のない声を出しながら、円卓に頬杖をついた。
「つきみん、もう呪いは使わない、の前に、何か条件つけてないよね?」
「え、じょ、うけん、ですか?」
不意に川瀬社長から質問を投げられ、たどたどしい声を出してしまった。ちょっと恥ずかしいけど、気を取り直して答えないと。
「特に、条件なんてつけていな……」
つけていない、と答えようとして、思い出してしまった。
昨日は一条さんに、誰かのためにこれ以上呪いを使わないで欲しい、と伝えた。
そして、一条さんは、肝に銘じます、と答えてくれた。
でも……
「姫っち自身のために呪いを使わない、という言質まではとってなかったんだろ?」
昨日のことを思い返していると、女性もののフォーマルスーツを着た山口課長が首を傾げた。
その声と表情から、僕に対する失望のようなものが、ひしひしと伝わった。
たしかに、詰めが甘かった。でも、一条さんが自分から呪いを使うなんてことは……
「本音なのか建て前なのかは知らんが、気に入らないから丑の刻参りをした、なんて言う状態なんだぞ?自分のために、呪いを使わない保証なんてないだろ」
「……たしかに、保証はないです。でも、あの子は……」
「……そんなことをする子じゃありません。なんて、言うつもりか?」
言おうとしていた言葉を、僕の声を真似た山口課長が口にした。あまりにも声が似ていたことに面食らっていると、山口課長は深いため息を吐いた。
「そういうことを言うのがいると、話が進まなくなりそうだから葉河瀨を外したってのに」
大げさに呆れた表情を浮かべる山口課長に、流石に苛立ちを覚えた。でも、山口課長の言うとおり、一々話を止めていても仕方がない。
一条さんが万が一思いとどまっていなかったらどう対応するか、という情報を共有しておく必要も、ないわけではないからね。多分、いや、ぜったいに思い過ごしで終わることになるけど。
「まーまー、課長もつきみんも、ケンカしないで、ね?」
「そうね。ここでいがみ合っている場合ではないわね」
苛立っていると、川瀬社長と信田部長の声が耳に入り、我に返った。
「……そうですね。失礼しました」
僕が頭を下げると、山口課長もどこか不服そうに、悪かったな、と返事をして、椅子の背もたれに寄りかかった。
たしかに、山口課長といがみ合ってる場合ではないよね。平常心を保てなくなるなんて、もっと精神を鍛錬しないとダメかな。
「じゃあ気を取り直して、本題に入ろうか!」
自分の未熟さを痛感していると、川瀬社長が楽しげな表情を製品開発部の面々へ向けた。山口課長の発言通り、葉河瀨部長の代わりに、部下の二人が出席している。
「じゃあ、助手コンビ!頼んでた仕事の、進捗具合はどうかな!?」
「川瀬社長、コイツと、一括りにしないで下さい」
川瀬社長が声をかけると、製品開発部員の一人、助川 累君が不服そうに声を出した。黒縁眼鏡に、左側が長めになっている前髪が特徴的な子だ。たしか、一昨年の新卒で入った子だったかな。いつも気難しそうな表情をしているけど、礼儀正しくて良い子だと思うんだよね。
「まあまあ助川っち、そう言うなって!ともかく、俺の担当してる分は、明日には出来上がりますよ!だから、余った時間で、助川っちのフォローに入る予定です!」
助川君に続いて、もう一人の部員、手賀沼 進君がハキハキと答えた。髪の毛を明るい黄色に染めて、白衣の下に奇抜な色のシャツを着ている。助川君と同期で、ちょっと冷や冷やする見た目をしているけど、この子も誰とでも分け隔てなく接することができる良い子だったりする。まあ、お客様のところに行くときは、身だしなみを気をつけて欲しいな、とは思うけど……いや、こういう格好のまま、お客様のところへ行ったりはしていない、よね?
「お前の手助けなんて必要ない、と言いたいが、今回は素直に力を借りることになるだろうな」
他部署の若手についてお節介なことを考えていると、助川君の落胆した声が聞こえた。
「川瀬社長、申し訳ございません。必要な情報が全て揃っていないため、まだ、着手すらできていない状態です」
助川君がはそう言うと、最敬礼で頭を下げた。すると、川瀬社長はニッコリと笑った。
「いーの、いーの!気にしないで!遅くても、今日の二十三時五十九分までには、必要な情報が揃うと思うから!そしたら、コンビで力を合わせて仕上げれば良いんだよ!」
「はい。かしこまりました!」
「了解でーす!頑張ろうな、助川っち!」
社長の言葉に、助川君と手賀沼君は声を会わせて返事をした。
うん、気持ちの良い返事だったけど、彼らは知っているんだろうか?
この仕事に協力すると言うことは、場合によっては……
「なあ、良いのかお前ら?よく分からないけど、この仕事に協力すると葉河瀨部長と対立することになる、かもしれないんだろ?」
僕の心配を早川君が代弁してくれた。
うん、一条さんを傷つけるかもしれないことに協力するんだから、葉河瀨部長はいい顔をしないと思うんだよね。
でも、こちら心配を余所に、助川君と手賀沼君は不敵な笑みを浮かべた。
「何を言うのですか、早川さん。たとえ一時対立することになろうとも、最終的に葉河瀨部長の助けになれるのならば、私達は全力を尽くすまでです」
「そうそう!だから、もの凄く怒られたりしても、俺達はこの件を進めますよ!それが、葉河瀨部長のためになるのらば!」
……個性の強い子達だけど、葉河瀨君への忠誠心は篤いみたいだね。そういえば、葉河瀨君がいずこかに発表したという論文に感銘を受けて、この会社の入社試験を受けたって話も聞いたことがあったな……
「……なんで、あんな適当な奴に、こんな素直で良い子な上司思いの部下がつくんだよ」
他部署の信頼関係に感心していると、とても悲しげな日神君の声が耳に入った。顔を向けると、日神君は声に違わず悲しそうな表情でうな垂れていた。
「まあまあ、日神く……」
「あー!酷いっすよ!日神部長!俺だって、一人で抱え込んで勝手に悪役を演じてた奴だというのに、黒い害虫が大量に蠢く場所へ助けに行くぐらいには上司思いっすよ!な、吉田!」
フォローの言葉を入れようとしたけれど、早川君の抗議の声によってかき消されてしまった。早川君に声をかけられた吉田は、小さくため息を吐いた。
「早川さん、嫌なことを思い出させないで下さいよ。でも、早川さんの言うとおり、私だって、一人で抱え込んで公私の区別すらつかなくなるくらい盛大に病んでいた方だというのに、ギリギリまで尊敬して付き従っていたくらいには上司思いですよ」
早川君に続いて、吉田も抗議の声を上げた。
うん、たしかに、二人が日神君のことを上司として慕っている、と言うことは知っているよ。
でも、二人ともちょっと言い過ぎな気もするかな。
「……お前らの、そういうところだ」
役員会議室には、日神君の憤りのような、諦めのような、悲しみのような声が響いた。
いや、多分、悲しみだよね。
まあ、これが営業部第三課の信頼関係の形なんだろうね……
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