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お口に合えば
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月見野様が部下の吉田さんに連れられて、謎の団体が主催するバーベキューに行ってしまわれました。多分、お昼ご飯はそちらで済ませて来るのでしょう。
そうなると、作ってきたお弁当を食べていただくのは難しいですよね……
「……一条さん。顔色が悪いですが、大丈夫ですか?」
ベンチに腰掛けて押し付けがましいことを考えていると、葉河瀨さんが私の顔を覗き込んできました。
「すみません。調子づいて速めに走ってしまったので、少しだけ疲れてしまったみたいです」
不安げな表情をされていたので、笑顔で答えると、そうですか、という言葉が返ってきました。葉河瀨さんの表情が訝しげになっているので、苦しい言い訳だったのかもしれません。
「そういえば、このスポーツウェア、凄いですね。結構汗をかいてしまったのに、もう乾いています。良い物を選んでいただいて、ありがとうございました」
心配をおかけしたたままでは申し訳ないので、話題を変えてみたのですが……葉河瀨さんは、目を見開いたまま動きを止めてしまいました。昨日今日と、不意に話しかけて葉河瀨さんを驚かせてしまうことが多い気がします。驚かせ過ぎて心臓に負担をおかけしてしてしまっていないと良いのですが……
「……いえ、一条さんの役に立ったなら何よりです」
顔を伏せて葉河瀨さんの心臓について心配をしていると、穏やかな声が返ってきました。顔をあげると、葉河瀨さんははにかんだように笑っていました。ひとまず、心臓に深刻な負担はかかっていないようなので、安心です。
「ところで、これからどうしましょう。まだ、走っていきま……」
葉河瀨さんの言葉を遮るように、ぐぅ、とお腹の鳴る音が聞こえました。そして、葉河瀨さんの顔は、見る見るうちに顔が赤くなっていきます。
えーと……これはどうやってフォローすれば良いでしょうか?
「……失礼しました。朝食をとっていなかったので」
葉河瀨さんは呟くようにそう言うと、俯いてしまいました。なんとか、フォローしないと……
「い、いえ……お気になさらずに。とても、荘厳なお腹の音だったと思います」
……荘厳なお腹の音って、何なんでしょうか?
的外れなフォローをしてしまうと、そうですか、という淋しそうな口調の言葉が返ってきました。いけません、なんとか話題を切り替えないと……
「あ、あの。ランニングはこの辺りで切り上げて、早めのお昼ご飯にしましょうか?私も朝ご飯を食べられなかったので、お腹が空いてきましたから」
「……そうですね。そうしましょうか」
あまり上手く話題を切り替えられていない気もしますが、葉河瀨さんは顔をあげて苦笑しました。少し立ち直ってくださったようで、何よりです。
「じゃあ、ひとまず着替えてきましょうか。一条さん、何か食べたい物ありますか?この時間に開いている店だと、選べる物は限られているかもしれませんが、極力ご希望に添うような所を探しますよ」
葉河瀨さんはそう言って立ち上がると、薄く微笑んでポケットからスマートフォンを取り出しました。
そうだ……葉河瀨さんには、お弁当のことちゃんと伝えていませんでした……
「すみません。今日は、皆さんの分も含めてサンドイッチを作ってきたので、良かったらそちらを」
お弁当のことを話すと、葉河瀨さんは眠たげな目を見開いてから動きを止めてしまいました。
……そうですよね。あまり親しくもない人間が作った物なんて、食べるのに抵抗がありますよね……
「……すみませんでした。急にそんなことを言われても困りま……」
「いえ。まったくもって、一切微塵も問題など存在する余地もありません」
頭を下げ謝罪の言葉を言おうとしたところ、葉河瀨さんの言葉に遮られてしまいました。気分を害していないようならば何よりですが、何故そんなにも必死そうな表情をされているのでしょうか……?
「で、ではスポーツセンターで着替えてから、近くにあった親水公園でいただきましょうか」
気圧されながらもそう言うと、葉河瀨さんはコクリと頷きました。
「はい、是非ともいただかせていただきますので、よろしくお願い申し上げます」
そして、真剣な眼差しでそう答えました。
よっぽとお腹が空いていらっしゃったんですね。もっと早く気づくことができれば良かったです……
それから、スポーツセンターに戻り、シャワー室で汗を流してから着替えをしました。スポーツセンターのロビーに出ると、着替えを終えた葉河瀨さんが待っていました。先ほどまで盛大についていた寝癖が直っているところを見ると、葉河瀨さんもシャワーを浴びていたのでしょう。
「お待たせしてしまい、申し訳ございません」
「いえ、問題無いですよ。俺も今出てきたばかりですから」
お待たせしてしまったことを謝ると、葉河瀨さんは薄く微笑みました。近づくと、バニラに似た香りが微かに漂っています。多分ボディーソープなのでしょうが、お腹が空いていることを凄く思い出す香りです……ちょっと、シュークリームを思い出す香りですし……
「……すみません。ボディーソープの香料、きつかったですか?」
「あ、いえ、そんなことないですよ!むしろ凄く美味しそうな香りだなって……」
慌てて否定したところ、また何か形容詞を間違えてしまった気がします……
はたして美味しそうというのは、こういった場合の褒め言葉として適切だったのでしょうか?
そんなことを考えていると、葉河瀨さんは、ぷっ、と吹き出しました。
「……大変、失礼いたしました」
「いえいえ。気に入っていただけたなら、良かったです。作ってみた甲斐がありました」
気にされていない用ならば、良かったです。ただ、それよりも……
「えーと……ボディーソープ、ご自分でお作りになったのですか?」
「はい。と言っても、作ったのは香料だけで、ボディーソープ本体は市販の無香料の物を使いましたが」
葉河瀨さんは謙遜するような表情でそう言いましたが、香料を自作するのは凄いことのようなきがします……
ご自宅に実験室とかが、あったりするのでしょうか?
「じゃあ、公園の方へ行きましょうか」
感心していると、葉河瀨さんは入り口に向かってゆっくりと歩き出しました。
遅れてしまっては申し訳ないので、実験室の有無については、機会があったら聞くことにして後を追いましょう。
スポーツセンターを出て、二、三分ほど歩き、親水公園にたどり着きました。川沿いを歩きながらお弁当食べられそうな場所を探すと、テーブルとベンチが設置された東屋を見つけました。ここなら、丁度良さそうですね。
「葉河瀨さん、あちらでいただくことにしましょうか」
声をかけると、葉河瀨さんは軽く頷いて、そうしましょう、と答えました。
本当ならばランニングをしていた公園の方が、お弁当を食べられそうな場所が沢山あったのですが、月見野様のお邪魔してしまってはいけませんから……
いえ、そんなことを考えていても仕方がありませんね。
「これ、全部ご自分で作ったんですか」
バスケットからお弁当を取り出していると、葉河瀨さんは感心したような表情でそう呟きました。
「あ、はい。と言っても、簡単な物だけなので恐縮ではありますが」
「いえ、とても美味そうだと思います」
蒸し鶏とトマトとレタスのサンドイッチと、フルーツサンドとミネストローネ程度なのであまり威張れる物ではありませんが、気に入っていただけたようで良かったです。
「お口に合えば良いのですが、もし気に入らない用でしたら残していただいても大丈夫ですので」
ミネストローネをスープジャーから紙皿に取り分けて差し出すと、葉河瀨さんは、いえいえ、と言って軽く頭を下げました。
「普段、ろくな物を食べていないので、ありがたくいただきますよ」
そして、そう言うとスープの入った紙皿を受け取りました。少し、頬が緩んでいるところを見ると、嫌いな物が入っているという訳では無さそうですね。
ただ、普段ろくな食事を召し上がっていないというのが、少し気になります。まさか、ブドウ糖の塊を召し上がっておしまい、とかだったりしませんよね……
「……?どうされましたか?」
若干失礼なことを考えていると、キョトンとした顔の葉河瀨さんに見つめられてしまいました。
「いえいえいえ!なんでもありません!それよりも、スープが冷めてしまわないうちに召し上がってください」
慌てながら勧めると、葉河瀨さんは釈然としない表情をしながらも、はい、と答えました。
「では、いただきます」
葉河瀨さんはそう言うと、蒸し鶏のサンドイッチを手に取り、一口召し上がりました。その途端、眠たげな目が軽く見開かれました。どうしましょう、なにか味付けを間違ってしまったのでしょうか……?
「あ、あの……お口に合いませんでしたか?」
恐る恐る聞いてみると、葉河瀨さんはハッとした表情を浮かべてサンドイッチを飲み込みました。
「……いえ、そんなことありませんよ。むしろ、凄く美味いです」
「あ……ありがとうございます」
良かった……砂糖と塩を間違えるといった、古典的な間違いはしていなかったみたいですね。
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。でも、凄いですね。パンも鶏も野菜も、丁寧に下ごしらえをされてますし」
葉河瀨さんは笑顔でそう言うと、サンドイッチの続きを食べ始めました。でも、下ごしらえに時間をかけていたことを気づいていただけるとは思いませんでした……
「いえ、今日は皆さんとのランニングということで、少しはしゃいでしまっただけなので……」
そう言って、私も蒸し鶏のサンドイッチを手に取り口にしました。確かに、これなら人様に出しても迷惑にはならない味ですね。早起きして、支度をした甲斐がありました。
でも……
本当に召し上がっていただきたかった方には、お渡しすることができませんした。
いえ、きっと月見野様も、本当は私の申し出を迷惑がっていたんです。
だから、吉田さんに誘われたバーベキューに意気揚々と向かわれたのでしょう。
迷惑な申し出を断る口実ができたから。
私は月見野様に喜んでいただきたかっただけなのですが……
……私、一人で何をしているんでしょうね。
「……っ一条さん?」
気がつくと、葉河瀨さんが慌てた顔をしてこちらを覗き込んでいました。
でも、何故でしょうか?
少し、滲んで見えるような気がします……
そうなると、作ってきたお弁当を食べていただくのは難しいですよね……
「……一条さん。顔色が悪いですが、大丈夫ですか?」
ベンチに腰掛けて押し付けがましいことを考えていると、葉河瀨さんが私の顔を覗き込んできました。
「すみません。調子づいて速めに走ってしまったので、少しだけ疲れてしまったみたいです」
不安げな表情をされていたので、笑顔で答えると、そうですか、という言葉が返ってきました。葉河瀨さんの表情が訝しげになっているので、苦しい言い訳だったのかもしれません。
「そういえば、このスポーツウェア、凄いですね。結構汗をかいてしまったのに、もう乾いています。良い物を選んでいただいて、ありがとうございました」
心配をおかけしたたままでは申し訳ないので、話題を変えてみたのですが……葉河瀨さんは、目を見開いたまま動きを止めてしまいました。昨日今日と、不意に話しかけて葉河瀨さんを驚かせてしまうことが多い気がします。驚かせ過ぎて心臓に負担をおかけしてしてしまっていないと良いのですが……
「……いえ、一条さんの役に立ったなら何よりです」
顔を伏せて葉河瀨さんの心臓について心配をしていると、穏やかな声が返ってきました。顔をあげると、葉河瀨さんははにかんだように笑っていました。ひとまず、心臓に深刻な負担はかかっていないようなので、安心です。
「ところで、これからどうしましょう。まだ、走っていきま……」
葉河瀨さんの言葉を遮るように、ぐぅ、とお腹の鳴る音が聞こえました。そして、葉河瀨さんの顔は、見る見るうちに顔が赤くなっていきます。
えーと……これはどうやってフォローすれば良いでしょうか?
「……失礼しました。朝食をとっていなかったので」
葉河瀨さんは呟くようにそう言うと、俯いてしまいました。なんとか、フォローしないと……
「い、いえ……お気になさらずに。とても、荘厳なお腹の音だったと思います」
……荘厳なお腹の音って、何なんでしょうか?
的外れなフォローをしてしまうと、そうですか、という淋しそうな口調の言葉が返ってきました。いけません、なんとか話題を切り替えないと……
「あ、あの。ランニングはこの辺りで切り上げて、早めのお昼ご飯にしましょうか?私も朝ご飯を食べられなかったので、お腹が空いてきましたから」
「……そうですね。そうしましょうか」
あまり上手く話題を切り替えられていない気もしますが、葉河瀨さんは顔をあげて苦笑しました。少し立ち直ってくださったようで、何よりです。
「じゃあ、ひとまず着替えてきましょうか。一条さん、何か食べたい物ありますか?この時間に開いている店だと、選べる物は限られているかもしれませんが、極力ご希望に添うような所を探しますよ」
葉河瀨さんはそう言って立ち上がると、薄く微笑んでポケットからスマートフォンを取り出しました。
そうだ……葉河瀨さんには、お弁当のことちゃんと伝えていませんでした……
「すみません。今日は、皆さんの分も含めてサンドイッチを作ってきたので、良かったらそちらを」
お弁当のことを話すと、葉河瀨さんは眠たげな目を見開いてから動きを止めてしまいました。
……そうですよね。あまり親しくもない人間が作った物なんて、食べるのに抵抗がありますよね……
「……すみませんでした。急にそんなことを言われても困りま……」
「いえ。まったくもって、一切微塵も問題など存在する余地もありません」
頭を下げ謝罪の言葉を言おうとしたところ、葉河瀨さんの言葉に遮られてしまいました。気分を害していないようならば何よりですが、何故そんなにも必死そうな表情をされているのでしょうか……?
「で、ではスポーツセンターで着替えてから、近くにあった親水公園でいただきましょうか」
気圧されながらもそう言うと、葉河瀨さんはコクリと頷きました。
「はい、是非ともいただかせていただきますので、よろしくお願い申し上げます」
そして、真剣な眼差しでそう答えました。
よっぽとお腹が空いていらっしゃったんですね。もっと早く気づくことができれば良かったです……
それから、スポーツセンターに戻り、シャワー室で汗を流してから着替えをしました。スポーツセンターのロビーに出ると、着替えを終えた葉河瀨さんが待っていました。先ほどまで盛大についていた寝癖が直っているところを見ると、葉河瀨さんもシャワーを浴びていたのでしょう。
「お待たせしてしまい、申し訳ございません」
「いえ、問題無いですよ。俺も今出てきたばかりですから」
お待たせしてしまったことを謝ると、葉河瀨さんは薄く微笑みました。近づくと、バニラに似た香りが微かに漂っています。多分ボディーソープなのでしょうが、お腹が空いていることを凄く思い出す香りです……ちょっと、シュークリームを思い出す香りですし……
「……すみません。ボディーソープの香料、きつかったですか?」
「あ、いえ、そんなことないですよ!むしろ凄く美味しそうな香りだなって……」
慌てて否定したところ、また何か形容詞を間違えてしまった気がします……
はたして美味しそうというのは、こういった場合の褒め言葉として適切だったのでしょうか?
そんなことを考えていると、葉河瀨さんは、ぷっ、と吹き出しました。
「……大変、失礼いたしました」
「いえいえ。気に入っていただけたなら、良かったです。作ってみた甲斐がありました」
気にされていない用ならば、良かったです。ただ、それよりも……
「えーと……ボディーソープ、ご自分でお作りになったのですか?」
「はい。と言っても、作ったのは香料だけで、ボディーソープ本体は市販の無香料の物を使いましたが」
葉河瀨さんは謙遜するような表情でそう言いましたが、香料を自作するのは凄いことのようなきがします……
ご自宅に実験室とかが、あったりするのでしょうか?
「じゃあ、公園の方へ行きましょうか」
感心していると、葉河瀨さんは入り口に向かってゆっくりと歩き出しました。
遅れてしまっては申し訳ないので、実験室の有無については、機会があったら聞くことにして後を追いましょう。
スポーツセンターを出て、二、三分ほど歩き、親水公園にたどり着きました。川沿いを歩きながらお弁当食べられそうな場所を探すと、テーブルとベンチが設置された東屋を見つけました。ここなら、丁度良さそうですね。
「葉河瀨さん、あちらでいただくことにしましょうか」
声をかけると、葉河瀨さんは軽く頷いて、そうしましょう、と答えました。
本当ならばランニングをしていた公園の方が、お弁当を食べられそうな場所が沢山あったのですが、月見野様のお邪魔してしまってはいけませんから……
いえ、そんなことを考えていても仕方がありませんね。
「これ、全部ご自分で作ったんですか」
バスケットからお弁当を取り出していると、葉河瀨さんは感心したような表情でそう呟きました。
「あ、はい。と言っても、簡単な物だけなので恐縮ではありますが」
「いえ、とても美味そうだと思います」
蒸し鶏とトマトとレタスのサンドイッチと、フルーツサンドとミネストローネ程度なのであまり威張れる物ではありませんが、気に入っていただけたようで良かったです。
「お口に合えば良いのですが、もし気に入らない用でしたら残していただいても大丈夫ですので」
ミネストローネをスープジャーから紙皿に取り分けて差し出すと、葉河瀨さんは、いえいえ、と言って軽く頭を下げました。
「普段、ろくな物を食べていないので、ありがたくいただきますよ」
そして、そう言うとスープの入った紙皿を受け取りました。少し、頬が緩んでいるところを見ると、嫌いな物が入っているという訳では無さそうですね。
ただ、普段ろくな食事を召し上がっていないというのが、少し気になります。まさか、ブドウ糖の塊を召し上がっておしまい、とかだったりしませんよね……
「……?どうされましたか?」
若干失礼なことを考えていると、キョトンとした顔の葉河瀨さんに見つめられてしまいました。
「いえいえいえ!なんでもありません!それよりも、スープが冷めてしまわないうちに召し上がってください」
慌てながら勧めると、葉河瀨さんは釈然としない表情をしながらも、はい、と答えました。
「では、いただきます」
葉河瀨さんはそう言うと、蒸し鶏のサンドイッチを手に取り、一口召し上がりました。その途端、眠たげな目が軽く見開かれました。どうしましょう、なにか味付けを間違ってしまったのでしょうか……?
「あ、あの……お口に合いませんでしたか?」
恐る恐る聞いてみると、葉河瀨さんはハッとした表情を浮かべてサンドイッチを飲み込みました。
「……いえ、そんなことありませんよ。むしろ、凄く美味いです」
「あ……ありがとうございます」
良かった……砂糖と塩を間違えるといった、古典的な間違いはしていなかったみたいですね。
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。でも、凄いですね。パンも鶏も野菜も、丁寧に下ごしらえをされてますし」
葉河瀨さんは笑顔でそう言うと、サンドイッチの続きを食べ始めました。でも、下ごしらえに時間をかけていたことを気づいていただけるとは思いませんでした……
「いえ、今日は皆さんとのランニングということで、少しはしゃいでしまっただけなので……」
そう言って、私も蒸し鶏のサンドイッチを手に取り口にしました。確かに、これなら人様に出しても迷惑にはならない味ですね。早起きして、支度をした甲斐がありました。
でも……
本当に召し上がっていただきたかった方には、お渡しすることができませんした。
いえ、きっと月見野様も、本当は私の申し出を迷惑がっていたんです。
だから、吉田さんに誘われたバーベキューに意気揚々と向かわれたのでしょう。
迷惑な申し出を断る口実ができたから。
私は月見野様に喜んでいただきたかっただけなのですが……
……私、一人で何をしているんでしょうね。
「……っ一条さん?」
気がつくと、葉河瀨さんが慌てた顔をしてこちらを覗き込んでいました。
でも、何故でしょうか?
少し、滲んで見えるような気がします……
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