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第三章 仔猫殿下と、はつ江ばあさん
仔猫殿下と、はつ江ばあさん・その二十三
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反乱分子との会談を仕切り直したシーマ十四世殿下一行だったが……
「勝手にもってっちゃうなんて、酷いのだ……、くすん……」
……魔王に日記の鍵を持っていかれちゃったプルソンの登場によって、再びゴタゴタした事態になっていた。
そんな中、モロコシとミミは、鍵を握りしめて涙目になるプルソンの肩をポフポフとなでた。
「プルソンさま、泣かないでー」
「みーみー」
「べ、別に……、泣いてないのだ……、くすん……」
涙をぬぐいながら強がるプルソンを見て、はつ江はぷんすかした表情を魔王に向けた。
「これ、ヤギさんや! お友だちの物を勝手にもってっちゃ、ダメじゃないかい!」
「うん。機転を利かせるのは大事だけど、さすがに日記の鍵を勝手に持っていくのは、どうかと思うぞ……」
はつ江に続いて、やや脱力気味のシーマも、魔王に苦言を呈した。すると、魔王はションボリとした表情でプルソンに向かい頭をさげた。
「その件については、悪かったよ……。ほら、でも、仮にも魔界を統治したいって言っているような子たちにとって、プルソンの日記はすごくいい教材になると思ったから……」
魔王の言い訳に、プルソンは尻尾をバンと縦に振った。
「だからって、勝手にもってっちゃダメなのだ!」
「そうだな……、すまなかった……」
魔王は再びシュンとしながら、プルソンに向かって頭を下げた。すると、ゴルトがどこかふてくされた表情で、ため息をついた。
「魔界の統治権を渡すつもりなんてないくせに、よく言うよ……」
ゴルトの言葉に、魔王は気まずそうな表情で頬を掻いた。
「まあ、たしかに。魔界全土を任せるつもりはないよ。ただ、なんだかんだ反乱分子の子たちから慕われてるし、リーダーとしての資質はあるとは思うんだ」
「……え?」
意外な言葉にゴルトがキョトンとすると、魔王はコクリと頷いた。
「ああ。短時間で人の心を掴んでまとめ上げるっていうのは、なかなか希有な才能だと思うよ。だから……」
魔王はそこで言葉を止めると、パチリと指を鳴らした。すると、テーブルの上にリーフレットが数枚、バサバサと落ちてきた。それを見たシーマが、尻尾の先をクニャリと曲げて首をかしげた。
「『よい子が魔界で生活したり、就職したりするための訓練学校』……、兄貴、なんなんだ、これは?」
「ああ。迷い込んじゃった系の子でこっちで暮らしていくことを希望する子の中には、思い描いていたものと現実のギャップにショックを受けて、自暴自棄になっちゃう子が結構いるみたいだから」
魔王の答えに、ゴルトがビクリと肩を震わせた。
「そもそも、そういうギャップを作らないために、魔界の法律だとか、魔術の基礎だとか……、暮らしていくために必須なことをしっかりと時間をかけて学ぶ場を設けようと思って」
「説明して資料渡したら終わり、っていう対応よりは、双方にとって色々といいことがある……、のかな?」
シーマが尻尾の先をクニャリと曲げたまま呟くと、魔王は難しそうな表情で頭を掻いた。
「まあ、前例がないから、手探りでやっていくしかないんだが……、生徒をまとめて要望やら意見やらをこっちに伝えてくれる、生徒会長的な役割をムツキ君にになってもらえれば、円滑に運営できるんじゃないかなと……、ということで、どう?」
いきなり話を振られ、ゴルトは再びびくりとかたを震わせた。
「え、いや……、いきなり、どうといわれても……、ついさっきまで対立してたわけだし……」
ゴルトの言葉に、魔王はコクリとうなずいた。
「うむ。たしかに反乱騒動には、けりをつけないといけないな。まあ、『魔界全史籍』に書いてあった『魔王一派が圧勝する』っていう部分は、プルソンが大暴れしてくれたおかげでクリアできたっぽいし……」
魔王が後半のセリフの音量を下げると、プルソンがバンと机を叩いた。
「魔王! まさか、反乱分子の制圧に我が輩を利用するために、『一日一善日記』の鍵をもってっちゃったのか!?」
プルソンがプンスカすると、魔王は苦笑を浮かべた。
「あははは、ごめんて。当初はリッチーにお願いしようと思ってたんだけど、他のことをお願いすることになったから……、ほら、お前なら、どんなに切羽詰まってても、相手を傷つけるようなことはしないだろうし」
「それならそうと事前に言ってくれれば、もっとちゃんと強力したのだ!」
イザコザする二人を横目に、シーマは尻尾の先をピコピコと動かしてため息をついた。
「とりあえず、兄貴たちのことは置いておいて……、生徒会長的な仕事の件、どうするんだ?」
「ムッちゃんは学級委員長さんもやってたし、きっと上手くやれるだぁよ!」
「え! ムッちゃんさん、学級委員長さんだったの!? すごーい!!」
「みみーみ!」
シーマからの質問と、ばあちゃんと仔猫ちゃんズによる励ましと褒め言葉に、ゴルトはタジタジとして視線を動かした。
「えーと……、考えてみてもいいけど……、こっちに反感を持ってる人も結構いるって、さっき聞いたし……」
その言葉に、魔王がイザコザをいったん止め、顔を向けた。
「そうそう、その件でね、リッチーに強力してもらうことにしたの」
「リッチーに?」
「徒野さんにかい?」
「りっちーさんに?」
「みっみーみんみ?」
魔王の言葉に、シーマとモロコシは尻尾の先をクニャリと曲げ、尻尾の短いミミと尻尾のないはつ江はキョトンとした表情で首をかしげた。
一方その頃、旧カワウソ村の役場跡には……
「ふーふんっふふーふー、ふふふふふー♪」
……燕尾服を着た銀髪ポニーテールの美女が、キャリーバッグを片手に近づいていた。
かくして、仔猫殿下とはつ江ばあさんたちによる旧カワウソ村でのイザコザは、最終局面にさしかかったのだった。
「勝手にもってっちゃうなんて、酷いのだ……、くすん……」
……魔王に日記の鍵を持っていかれちゃったプルソンの登場によって、再びゴタゴタした事態になっていた。
そんな中、モロコシとミミは、鍵を握りしめて涙目になるプルソンの肩をポフポフとなでた。
「プルソンさま、泣かないでー」
「みーみー」
「べ、別に……、泣いてないのだ……、くすん……」
涙をぬぐいながら強がるプルソンを見て、はつ江はぷんすかした表情を魔王に向けた。
「これ、ヤギさんや! お友だちの物を勝手にもってっちゃ、ダメじゃないかい!」
「うん。機転を利かせるのは大事だけど、さすがに日記の鍵を勝手に持っていくのは、どうかと思うぞ……」
はつ江に続いて、やや脱力気味のシーマも、魔王に苦言を呈した。すると、魔王はションボリとした表情でプルソンに向かい頭をさげた。
「その件については、悪かったよ……。ほら、でも、仮にも魔界を統治したいって言っているような子たちにとって、プルソンの日記はすごくいい教材になると思ったから……」
魔王の言い訳に、プルソンは尻尾をバンと縦に振った。
「だからって、勝手にもってっちゃダメなのだ!」
「そうだな……、すまなかった……」
魔王は再びシュンとしながら、プルソンに向かって頭を下げた。すると、ゴルトがどこかふてくされた表情で、ため息をついた。
「魔界の統治権を渡すつもりなんてないくせに、よく言うよ……」
ゴルトの言葉に、魔王は気まずそうな表情で頬を掻いた。
「まあ、たしかに。魔界全土を任せるつもりはないよ。ただ、なんだかんだ反乱分子の子たちから慕われてるし、リーダーとしての資質はあるとは思うんだ」
「……え?」
意外な言葉にゴルトがキョトンとすると、魔王はコクリと頷いた。
「ああ。短時間で人の心を掴んでまとめ上げるっていうのは、なかなか希有な才能だと思うよ。だから……」
魔王はそこで言葉を止めると、パチリと指を鳴らした。すると、テーブルの上にリーフレットが数枚、バサバサと落ちてきた。それを見たシーマが、尻尾の先をクニャリと曲げて首をかしげた。
「『よい子が魔界で生活したり、就職したりするための訓練学校』……、兄貴、なんなんだ、これは?」
「ああ。迷い込んじゃった系の子でこっちで暮らしていくことを希望する子の中には、思い描いていたものと現実のギャップにショックを受けて、自暴自棄になっちゃう子が結構いるみたいだから」
魔王の答えに、ゴルトがビクリと肩を震わせた。
「そもそも、そういうギャップを作らないために、魔界の法律だとか、魔術の基礎だとか……、暮らしていくために必須なことをしっかりと時間をかけて学ぶ場を設けようと思って」
「説明して資料渡したら終わり、っていう対応よりは、双方にとって色々といいことがある……、のかな?」
シーマが尻尾の先をクニャリと曲げたまま呟くと、魔王は難しそうな表情で頭を掻いた。
「まあ、前例がないから、手探りでやっていくしかないんだが……、生徒をまとめて要望やら意見やらをこっちに伝えてくれる、生徒会長的な役割をムツキ君にになってもらえれば、円滑に運営できるんじゃないかなと……、ということで、どう?」
いきなり話を振られ、ゴルトは再びびくりとかたを震わせた。
「え、いや……、いきなり、どうといわれても……、ついさっきまで対立してたわけだし……」
ゴルトの言葉に、魔王はコクリとうなずいた。
「うむ。たしかに反乱騒動には、けりをつけないといけないな。まあ、『魔界全史籍』に書いてあった『魔王一派が圧勝する』っていう部分は、プルソンが大暴れしてくれたおかげでクリアできたっぽいし……」
魔王が後半のセリフの音量を下げると、プルソンがバンと机を叩いた。
「魔王! まさか、反乱分子の制圧に我が輩を利用するために、『一日一善日記』の鍵をもってっちゃったのか!?」
プルソンがプンスカすると、魔王は苦笑を浮かべた。
「あははは、ごめんて。当初はリッチーにお願いしようと思ってたんだけど、他のことをお願いすることになったから……、ほら、お前なら、どんなに切羽詰まってても、相手を傷つけるようなことはしないだろうし」
「それならそうと事前に言ってくれれば、もっとちゃんと強力したのだ!」
イザコザする二人を横目に、シーマは尻尾の先をピコピコと動かしてため息をついた。
「とりあえず、兄貴たちのことは置いておいて……、生徒会長的な仕事の件、どうするんだ?」
「ムッちゃんは学級委員長さんもやってたし、きっと上手くやれるだぁよ!」
「え! ムッちゃんさん、学級委員長さんだったの!? すごーい!!」
「みみーみ!」
シーマからの質問と、ばあちゃんと仔猫ちゃんズによる励ましと褒め言葉に、ゴルトはタジタジとして視線を動かした。
「えーと……、考えてみてもいいけど……、こっちに反感を持ってる人も結構いるって、さっき聞いたし……」
その言葉に、魔王がイザコザをいったん止め、顔を向けた。
「そうそう、その件でね、リッチーに強力してもらうことにしたの」
「リッチーに?」
「徒野さんにかい?」
「りっちーさんに?」
「みっみーみんみ?」
魔王の言葉に、シーマとモロコシは尻尾の先をクニャリと曲げ、尻尾の短いミミと尻尾のないはつ江はキョトンとした表情で首をかしげた。
一方その頃、旧カワウソ村の役場跡には……
「ふーふんっふふーふー、ふふふふふー♪」
……燕尾服を着た銀髪ポニーテールの美女が、キャリーバッグを片手に近づいていた。
かくして、仔猫殿下とはつ江ばあさんたちによる旧カワウソ村でのイザコザは、最終局面にさしかかったのだった。
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