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第三章 仔猫殿下と、はつ江ばあさん

仔猫殿下と、はつ江ばあさん・その十六

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 シーマ十四世殿下奪還を目指すはつ江ばあさん一行は、高高度降下低高度開傘などがありながらも、無事に旧カワウソ村への潜入に成功した。

 一方そのころ、村の北側にある、ベニヤ板やトタンで補強された役場跡の前では。

「えーと、新、入り?」

 黄色いフード付きのローブを着込んだ人物が、困惑した表情で首を傾げていた。
 前にいるのは……

「そうそう! 超・ヨロシク~」

 日に焼けた肌に白いロングヘア、目元には白いアイシャドーと重ね付けのつけまつげという出立の、露出度の高い服装の女性と……

「よろしくおねがいしますでござる!」

 ……黒い短髪と三角に整えられた眉毛、紺色の忍び装束を着込んだ男性だった。

「……なんというか、歴史を感じる服装ですね」

 黄ローブがおずおずとそう言うと、女性はケラケラと笑い出した。

「ほら、ござる、言われちゃってるよ!」

「うう……、お言葉はごもっともでござるが、この服装が一番おちつくのでござるよ……」

「あ、えーと、忍者だけじゃなくて……」

 ヤマンバギャルも、ひと昔以上前な気がします。
 
 そんな言葉をグッと飲み込み、黄ローブはこほんと咳払いをした。

「ともかく、新入りがここになんの用かな?」

「リーダーから、村の中を見学して回るようにとの命があったのでござる!」

「そーそー! あとここだけだから!」

 二人の言葉に、黄ローブは再び首をかしげた。

「え? でも、ここは最重要施設だし……、でも、リーダーが言ったなら……、いや、それでも……」

「えー? 見せてくれない感じ? まあ、そーゆーことなら……」

 ヤマンバギャルはそう言いながら、肩に小さな鞄をゴソゴソとあさり、ネイルストーンが散りばめられた爪で、ガラスの球体を取り出した。
 
 そして……

「……無理矢理にでも、通してもらうけどねっ!」

 ……勢いよく、地面に叩きつけた。
 球体は砕け散ると、中から白い煙がもうもうと湧き出した。

「うわっ!? お前ら……、いっ……、たい……」

 黄ローブはわりとテンプレートなセリフを吐きながら、その場にドサリと倒れてすやすやと眠りだした。
 ヤマンバギャルは厚底ブーツのつま先で黄ローブをつつき、起きないことを確認すると満面の笑みを浮かべた。

「よっし! 元怪盗にかかれば、ざっとこんなもんよ!」

「お見事でござる! バービー殿!」

「でしょ? でもさ、ござるの持ってきた変身薬も相当すごくない? どっからどう見ても、異界の人なんですけど」

「お褒めいただき、光栄でござる! 柴崎家は忍びの衆ゆえ、敵陣に潜入するための手段には明るいのでござるよ」

「へー、すごいじゃん♪」

「それほどでもないので、ござるよ。では、バービー殿、そろそろ……」

「うん、そーだね」

 ヤマンバギャルと忍者……、もとい、変身したバービーと五郎左衛門は真剣な表情で、コクリと頷いた。


「王立博物館専属修理師の実技試験、楽しませてもらおうじゃん」

「全力でサポートするでござるよ、バービー殿」


 こうして、バービーと五郎左衛門は役場跡へ足を踏み入れた。

 一方そのころ、カワウソ村へ続く道に設置されたバリケードの前では……

「うーん、いいお天気ね。絶好のホームラン日和じゃない」

「かっとばせー!」
「かっとばせぇ!」

 ……忠一忠二を頭に乗せたクロが、目を細めて伸びをしていた。そんな三人を見ながら、樫村が深いため息をついた。

「どんな日和だよ、それは……」

 そう言う樫村の手には、楓の木で作られた棍棒と……

「むしろ、一説によると曇りぎみでジメジメした日の方が、ホームランが出やすいようですが……」

 乾燥して直径72.93cmの球体になったポバールと……

「それなら、麻呂に任せるでおじゃる! この辺り一帯をジメジメさせることくらい、造作もないでおじゃるよ!」

 ……その上でぴょいっと跳ねるウスベニクジャクバッタのカトリーヌの姿があった。

 三人の反応を受け、クロは片耳をパタパタと動かした。

「んもう! ヒトがせっかく士気をあげようとしたのに、水をささないでちょうだい!」

「そうか。悪かったな、バッタ屋」

「も、申し訳ございません! 友あ……、いえ、マダム!」

 樫村が軽く頭を下げ、ポバールがカタカタと震えながら謝ると、クロは腕を組んで尻尾の先をパタパタと動かした。

「分かればいいのよ。あと、カトリーヌ、湿度はまだ上げなくて大丈夫よ」

「分かったでおじゃる! ならば、当初の予定通りスライムが村までたどり着いたら、じめっとさせるでおじゃるよ!」

「ええ、よろしくね、カトリーヌ」

「任せるでおじゃる!」

 クロとカトリーヌのやりとりを見て、樫村は棍棒を持った手で、器用に頭をかいた。

「しっかし、ボウラック先生、本当にこの作戦でいいのか? 乾燥した先生を、棍棒でかっ飛ばして『超・魔導機☆』のところに届けるなんてよ」

 樫村の問いかけに、ポバールはカタカタと動いた。

「ご心配には及びませんよ、樫村さん。この形態は硬度も靱性も高めですから、棍棒で打たれてもダメージはそんなにありません」

「それに、アンタ、草野球チームにいたころ、打球が落ちる位置をえげつないくらいコントロールできてたじゃない。それはもう、ヒットも犠牲フライもホームランも思いのままってくらいに」

 ポバールの言葉にクロも続くと、樫村は再び頭をかいた。

「さすがに、そこまでの腕はねぇよ。でも、まあ、今回の作戦くらいは成功させてやるさ。ほら、バッタの姫さん、危ねぇから、そろそろ先生からおりな」

「分かったでおじゃる! では、麻呂は一足先に村に向かうでおじゃるよ」

 ポバールの上からカトリーヌが飛び去っていくと、樫村は小さくうなずいた。

「よし。それじゃ、始めるとするか」

「気張りなさい樫村! 四対一、九回裏、二死満塁くらいの気持ちで!」

「ホームラン、ホームラン、カッシムラー!」
「ホォムラン、ホォムラン、カッシムラァ!」

「お前ら、あんまプレッシャーかけんな……」

 樫村はそう言いながらも、ポバールを高く放り投げ……

「……よっ!!」

 ……鬼気迫る表情で、棍棒をフルスイングし、ポバールを高々と打ち上げた。

「それでは、みなさま、行ってまいりますぅぅぅぅ……」

 ポバールはドップラー効果を伴いながら、旧カワウソ村へ役場跡へ向かって飛んでいった。

 かくして、満足げな樫村と、タオルを振り回すバッタ屋さん一同に見守られながら、「超・魔導機・改」処理班も集合しつつあるのだった。
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