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第三章 仔猫殿下と、はつ江ばあさん
仔猫殿下と、はつ江ばあさん・その十三
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色々なメンバーが旧カワウソ村に進み出したころ、はつ江ばあさんたちも順調に道中を進んでいた。
「皆さまがた! 調子はいかがでございやすか!?」
「飛行酔いは大丈夫でして!?」
「チョロちゃんとベベちゃんが安全運転してくれるおかげで、全然問題ないだぁよ!」
「お空を飛ぶのはすっごく楽しいよ! ね、ミミちゃん!」
「みーみみー!」
「多少風が乱れても、体勢が崩れることは一切なしか……、やっぱ、ムラサキダンダラオオイナゴの飛行能力はスゲーな……」
「大丈夫。今私を抱えてるのは、虫の脚じゃなくて鉄パイプ的ななにか……、だめだ、ギザギザした突起が、どう見ても虫の脚……、いや、でも、ほら、蟹だって脚ちょっとギザギザしてるし……、あれ? もしかして、蟹って……虫だったりする?」
……もとい、ブツブツと呟く緑ローブの正気度以外は、順調に道中を進んでいた。
「あれまぁよ! みどりちゃんや、顔が真っ青になってるじゃなかい!」
「あ……、はい……、ちょっと色々と考えたら、気分が優れなくなって……」
「それは大変だぁよ! ハッカあめ、食べるかい?」
「えーと……、じゃあ、いただきます……」
緑ローブの答えを聞くと、はつ江はニッコリと微笑んで、エプロンのポケットから緑色の紙に包まれたアメを一つ取り出した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、ございます……」
緑ローブはゲンナリとした表情のままアメを受け取り、片手で器用に包み紙をむいて口に放り込んだ。その様子を、モロコシとミミが目をキラキラとさせながら、見つめた。
二人の視線に気づいた緑ローブは、キョトンとした表情で首をかしげた。
「……なに? ちびっ子たちも、アメ欲しいの?」
「ほうほう。じゃあ、モロコシちゃんと、ミミちゃんにもあげようね」
緑ローブとはつ江の言葉に、モロコシとミミはハッとした表情を浮かべた。それから、二人はすぐに、首をブンブンと横に振った。
「ううん、そうじゃないんだ!」
「みみん、みみーみ!」
「あら、そうなの?」
「じゃあ、どうしたんだい?」
「えーとね、緑のおねーさんは、すごいなーって思ったんだ。ね、ミミちゃん」
「みーみー」
仔猫コンビの言葉を受けて、緑ローブは怪訝な表情で再び首をかしげた。
「え? 私が、すごい?」
「うん! だって、ハッカあめって、すっごくからいでしょ?」
「みーみみみー」
「まぁ……、からいっていうか、スースーするっていうか……、刺激はあるね」
「そうそう! それなのに、食べられるなんて、すっごく大人でカッコイイよ! ね、ミミちゃん!」
「みみみみー!」
「それは……、どうも……」
「ひょっとして、緑のおねーさんは、ご飯の好き嫌いしない人?」
「みー、みみみみ?」
「あー……、まあ、大抵のものは食べられるし……、誰かに出されたものなら多少苦手でも、残さず食べるようにはしてるよ」
「すごーい! 緑のおねーさんは、立派な大人なんだね!」
「みみ! みみみみみー!」
「ああ……、どうも……」
キラキラした目の仔猫たちに褒められ、緑ローブは脱力しながらも返事をした。
「褒めてくれるのはいいんだけどさ……、なんか、こう、実は魔術の才能がものすごかっただとか……、実は誰よりも魅力的な女性だったとか……、そう言う方向で褒められたかったっていうか……」
力なく緑ローブが呟くと、はつ江がカラカラと笑い出した。
「わはははは! そう落ち込まなくても、好き嫌いしないっていうのは、すっごくいいちゃあむぽいんとだぁよ!」
「……そうですか? ただ、食い意地が張ってるだけって言われたんですけど……」
「あれまぁよ!? そんな意地悪、誰に言われたんだい!?」
「……結婚間近だった、恋人です。野菜嫌いを直そうとして、料理に色々と工夫してたんです。でも、こっちに来る前に、それが原因で大げんかになったときに……」
「ほうほう、そうだったのかい。でも、そんな意地悪は気にしなくていいだぁよ!」
「そう、ですかね……?」
「そうだぁよ! みどりちゃんは、出されたものなら苦手でも食べるし、野菜嫌いを治そうとするし、相手のことを考えられるいい子じゃないかい」
「でも、そういうところも押し付けがましい、って言われて……」
「きっと、恋人さんは疲れてるかなんかして、虫の居所が悪かったんじゃないのかい?」
「ああ……、そういえば、しばらく帰りが遅い日が続いてたかも……」
「そんなら、今頃は落ち着いて、みどりちゃんに酷いこと言っちゃったって、後悔してるはずだぁよ」
「そう、でしょうか……」
「きっと、そうだぁよ。それに、みどりちゃんが急にいなくなっちゃって、すっごく心配してるんじゃないかねぇ」
「……」
はつ江の言葉に、緑ローブは目を伏せて、口をつぐんだ。
そんな様子を見て、はつ江はにこりと微笑み、首をかしげた。
「こっちで、頑張ろうとするのもいいのかもしれないけど、まずは恋人さんとゆっくりお話ししてみても、いいんじゃないかね?」
「……ケンカのときに、私も酷いこと言い返しちゃったんですが、大丈夫ですかね?」
不安げに緑ローブがたずねると、はつ江はカラカラと笑い出した。
「わははは! そんぐらい大丈夫だぁよ! 私だって、じいさんとケンカしたときは、『ワラジ虫!』だの、『ペンペン草』だの言い合ったもんなんだから!」
「ず……、ずいぶん独特な罵りかたですね……」
赤い空には、緑ローブの苦笑いが混じった声が響いた。
かくして、緑ローブが魔界に来た経緯の詳細が語られながらも、はつ江ばあさんたちは着実に旧カワウソ村へ近づいていったのだった。
「皆さまがた! 調子はいかがでございやすか!?」
「飛行酔いは大丈夫でして!?」
「チョロちゃんとベベちゃんが安全運転してくれるおかげで、全然問題ないだぁよ!」
「お空を飛ぶのはすっごく楽しいよ! ね、ミミちゃん!」
「みーみみー!」
「多少風が乱れても、体勢が崩れることは一切なしか……、やっぱ、ムラサキダンダラオオイナゴの飛行能力はスゲーな……」
「大丈夫。今私を抱えてるのは、虫の脚じゃなくて鉄パイプ的ななにか……、だめだ、ギザギザした突起が、どう見ても虫の脚……、いや、でも、ほら、蟹だって脚ちょっとギザギザしてるし……、あれ? もしかして、蟹って……虫だったりする?」
……もとい、ブツブツと呟く緑ローブの正気度以外は、順調に道中を進んでいた。
「あれまぁよ! みどりちゃんや、顔が真っ青になってるじゃなかい!」
「あ……、はい……、ちょっと色々と考えたら、気分が優れなくなって……」
「それは大変だぁよ! ハッカあめ、食べるかい?」
「えーと……、じゃあ、いただきます……」
緑ローブの答えを聞くと、はつ江はニッコリと微笑んで、エプロンのポケットから緑色の紙に包まれたアメを一つ取り出した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、ございます……」
緑ローブはゲンナリとした表情のままアメを受け取り、片手で器用に包み紙をむいて口に放り込んだ。その様子を、モロコシとミミが目をキラキラとさせながら、見つめた。
二人の視線に気づいた緑ローブは、キョトンとした表情で首をかしげた。
「……なに? ちびっ子たちも、アメ欲しいの?」
「ほうほう。じゃあ、モロコシちゃんと、ミミちゃんにもあげようね」
緑ローブとはつ江の言葉に、モロコシとミミはハッとした表情を浮かべた。それから、二人はすぐに、首をブンブンと横に振った。
「ううん、そうじゃないんだ!」
「みみん、みみーみ!」
「あら、そうなの?」
「じゃあ、どうしたんだい?」
「えーとね、緑のおねーさんは、すごいなーって思ったんだ。ね、ミミちゃん」
「みーみー」
仔猫コンビの言葉を受けて、緑ローブは怪訝な表情で再び首をかしげた。
「え? 私が、すごい?」
「うん! だって、ハッカあめって、すっごくからいでしょ?」
「みーみみみー」
「まぁ……、からいっていうか、スースーするっていうか……、刺激はあるね」
「そうそう! それなのに、食べられるなんて、すっごく大人でカッコイイよ! ね、ミミちゃん!」
「みみみみー!」
「それは……、どうも……」
「ひょっとして、緑のおねーさんは、ご飯の好き嫌いしない人?」
「みー、みみみみ?」
「あー……、まあ、大抵のものは食べられるし……、誰かに出されたものなら多少苦手でも、残さず食べるようにはしてるよ」
「すごーい! 緑のおねーさんは、立派な大人なんだね!」
「みみ! みみみみみー!」
「ああ……、どうも……」
キラキラした目の仔猫たちに褒められ、緑ローブは脱力しながらも返事をした。
「褒めてくれるのはいいんだけどさ……、なんか、こう、実は魔術の才能がものすごかっただとか……、実は誰よりも魅力的な女性だったとか……、そう言う方向で褒められたかったっていうか……」
力なく緑ローブが呟くと、はつ江がカラカラと笑い出した。
「わはははは! そう落ち込まなくても、好き嫌いしないっていうのは、すっごくいいちゃあむぽいんとだぁよ!」
「……そうですか? ただ、食い意地が張ってるだけって言われたんですけど……」
「あれまぁよ!? そんな意地悪、誰に言われたんだい!?」
「……結婚間近だった、恋人です。野菜嫌いを直そうとして、料理に色々と工夫してたんです。でも、こっちに来る前に、それが原因で大げんかになったときに……」
「ほうほう、そうだったのかい。でも、そんな意地悪は気にしなくていいだぁよ!」
「そう、ですかね……?」
「そうだぁよ! みどりちゃんは、出されたものなら苦手でも食べるし、野菜嫌いを治そうとするし、相手のことを考えられるいい子じゃないかい」
「でも、そういうところも押し付けがましい、って言われて……」
「きっと、恋人さんは疲れてるかなんかして、虫の居所が悪かったんじゃないのかい?」
「ああ……、そういえば、しばらく帰りが遅い日が続いてたかも……」
「そんなら、今頃は落ち着いて、みどりちゃんに酷いこと言っちゃったって、後悔してるはずだぁよ」
「そう、でしょうか……」
「きっと、そうだぁよ。それに、みどりちゃんが急にいなくなっちゃって、すっごく心配してるんじゃないかねぇ」
「……」
はつ江の言葉に、緑ローブは目を伏せて、口をつぐんだ。
そんな様子を見て、はつ江はにこりと微笑み、首をかしげた。
「こっちで、頑張ろうとするのもいいのかもしれないけど、まずは恋人さんとゆっくりお話ししてみても、いいんじゃないかね?」
「……ケンカのときに、私も酷いこと言い返しちゃったんですが、大丈夫ですかね?」
不安げに緑ローブがたずねると、はつ江はカラカラと笑い出した。
「わははは! そんぐらい大丈夫だぁよ! 私だって、じいさんとケンカしたときは、『ワラジ虫!』だの、『ペンペン草』だの言い合ったもんなんだから!」
「ず……、ずいぶん独特な罵りかたですね……」
赤い空には、緑ローブの苦笑いが混じった声が響いた。
かくして、緑ローブが魔界に来た経緯の詳細が語られながらも、はつ江ばあさんたちは着実に旧カワウソ村へ近づいていったのだった。
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