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第三章 仔猫殿下と、はつ江ばあさん

仔猫殿下と、はつ江ばあさん・その十

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 はつ江ばあさん一行が、シーマ十四世殿下の救出に向かった頃、王立博物館の一室では……

「そこまで! でござる!」

「おっけー☆」

 ……耳の母親、ヴェロキラプトルのバービーが臨時修理師採用試験の筆記科目を終えたところだった。ちなみに、試験管は、ふっかふかな柴犬の柴崎五郎左衛門だ。

「それでは、ただ今より解答用紙を回収するでござるよ」

 五郎左衛門はペコリと頭を下げて、いそいそとバービーの席に向かっていった。

「バービー殿、自信の程はいかがでござるか?」

 五郎左衛門の問いに、バービーは得意げな表情で胸を張った。

「ふっふっふ! この位の問題なら、よゆーよゆー♪」

「おお! それは、頼もしいござるな!」

「まあね! この調子で、次の実技試験も、軽くこなしちゃうよ!」

「ふむ! 拙者も応援しておりますゆえ、存分に励むのござるよ!」

「まっかせなさい!」

 かつて拳を交えた二人は、なごやかな会話を繰り広げていた。
 
 まさにそのとき!

「バービーよ、調子はいかがかな?」
「貴女にとっては、簡単すぎたでしょうか?」
「ねえ、ねえ、テスト楽しかった!?」

 試験会場のドアががらりと開いて、パグ、ボクサー、ハスキーの頭を持った鳥足の紳士……、魔界王立博物館館長のナベリウスが姿を現した。

「館長、お疲れさまでござる!」

「あ、ナベっち、お疲れー♪」

「!? ば、バービー殿! 館長に向かって、そのような呼び名は……」

 五郎左衛門がオロオロすると、中央のパグ頭、アハトが苦笑を浮かべた。

「良い良い。上に立つ者としては、親しみやすさも重要だからな」

 アハトの言葉に、向かって右側のハスキー頭、シャロップシュがブンブンと頭を縦に振った。

「うんうん! 兄ちゃんの言うとおりだよ! 俺もちっちゃい子から大人気だし!」

 シャロップシュの言葉に、向かって左側のボクサー頭、シュタインが小さくため息をついた。

「貴方の場合は、もう少し年相応の振る舞いをしてほしいところですが……」

 頭を抱えるシュタインを見て、バービーはケラケラと笑い出した。

「まあまあ、ちっちゃい子に人気があるのは、いいことじゃん! それで、館長たちが直々に会いにくるなんて、どうしたの?」

 問いかけられると、アハトがコホンと咳払いをした。

「ああ。次の試験について、説明に来たのだ」
「次の試験は、少し特殊ですからね」
「本当に受けるかどうか、ちゃんと聞いとこうと思って!」

 ナベリウス一同の言葉に、バービーはキョトンとした表情で、目をパチクリさせた。

「特殊な試験? まあ、二科目めって、実技試験だから、特殊かもしれないけど……、普通の修理師の試験だって同じじゃん?」

 バービーの言葉に、ナベリウス一同はコクリとうなずいた。

「ああ。修理の実技という点に関しては、他の試験と同じだ」
「ただし、今回は修理をお願いするものが、とても特殊なのです」
「そうそう! メチャクチャ特別なの!」

 思わせぶりな言葉に、今度は五郎左衛門が困った表情で首を傾げた。

「特別とは、一体どういうことでござるか?」

「そーそー、もったいぶらないで早く教えてよ!」

 五郎左衛門の言葉にバービーも続くと、ナベリウス一同はコクリとうなずいた。

 そして……

「次の試験内容は、『超・魔導機☆』の修理だ」
「次の試験内容は、『超・魔導機☆』の修理です」
「次の試験内容は、『超・魔導機☆』の修理だよ!」

 ……そこそこの無理難題をしれっと口にした。

「え……、マジ?」

 当然、バービーは困惑し……

「か、館長……、それは無理難題がすぎるのではござらぬか?」

 ……五郎左衛門はオロオロした。

 そんな二人に対して、ナベリウス一同は真面目な表情でコクリとうなずいた。

「うむ。難しい課題だということは、こちらも理解している。だからこそ、今回の試験の願書は、バービーにしか渡さなかったのだ」
「バービーさんの実力は、他の修理師たちと比べても、頭ひとつ抜け出ています」
「だから、きっと、この難題をクリアしてくれると思ったんだ」

「……」

 一同の言葉を受け、バービーは真剣な表情で黙り込んだ。

「バービーよ、引き受けてはもらえぬか?」
「お願いいたします、バービーさん」
「お願い! 君にしか出来ないんだ!」

「……わかった」

 バービーは短く返事をすると、鋭い牙を見せてニヤリと笑った。

「魔界中の博物館の展示品を修理しまくった元怪盗の腕、存分に見せてやろうじゃん!」

 バービーの言葉に、ナベリウス一同は目を輝かせた。

「それはありがたい!」
「バービーさん、まことにありがとうございます!」
「ありがとう! じゃあ、五郎左衛門!」

 不意にシャロップシュから声をかけられ、五郎左衛門は背筋を正した。

「は! なんでありましょうか!?」

「うむ、『超・魔導機☆』は今、少しばかり厄介な場所にあってな」
「バービーさんの護衛をお願いしたいのです」
「五郎左衛門の潜入スキルと戦闘力はうちでも随時だからね!」

「かしこまりましたでござる!」

 元気よく返事をする五郎左衛門を、バービーが肘で軽く小突いた。

「それじゃ、よろしくね、ござる☆」

「任せるでござる! でも、その『ござる』というあだ名は、やめてほしいのでござるよ……」

 室内には、五郎左衛門のちょっとションボリとした声が響いた。
 
 かくして、件の旧カワウソ村には、五郎左衛門とバービーも向かうことになったのだった。
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