168 / 191
第三章 仔猫殿下と、はつ江ばあさん
仔猫殿下と、はつ江ばあさん・その九
しおりを挟む
シーマ十四世殿下のもとへ向かう方法を模索していたはつ江ばあさんたちのもとに、バッタ屋さんのチョロとヴィヴィアンが舞い降りたのだった。
「チョロちゃんや、風邪はもう大丈夫なのかい?」
「大丈夫なの?」
「みみー?」
はつ江と仔猫ちゃんズは、心配そうな表情で首をかしげた。すると、チョロはニカッと笑って、胸をトンとたたいた。
「へい! おかげさまで、このとおり、ピンピンでございやす!」
チョロの答えをうけて、三人はホッとした表情を浮かべた。
「それなら、よかったー!」
「みー! みー!」
「本当だぁね! それで、チョロちゃんとベベちゃんは、なんでここに来たんだい?」
はつ江が問いかけると、ヴィヴィアンがパサリと翅を動かした。
「お館様から、『今日はちょっとしたイザコザがあるから、アンタたちは殿下たちのお手伝いをしてきなさい』と、命を受けましたの」
「つーわけで、お手伝いに馳せ参じたわけでございやすが……、殿下はどちらに?」
「そうですね、お姿が見えませんわね?」
ヴィヴィアンとチョロが首をかしげると、ばあさんと仔猫ちゃんズはションボリとした表情を浮かべた。
「あのね、チョロさん、実は……」
モロコシが耳をふせて、カクカクシカジカと、バッタ屋さんたちに向かって、説明をはじめた。二人は、ふんふん、とうなずきながら話を聞いた。
「……それで、殿下のところにいけなくて、困ってるんだ」
「みみー……」
「チョロちゃんや、なにかいい方法はないかい?」
落胆した三人の様子を見て、チョロは再びニカッと笑った。
「それなら、アッシらにお任せくだせぇ! ヴィヴィアン、皆様がたを乗せて行けっか?」
話をふられたヴィヴィアンは、ピョインと飛び跳ねた。
「当たり前ですわ! アタクシのことを誰だと思っていまして?」
「よっしゃ! さすが天下のムラサキダンダラオオイナゴさまだぜ! そんじゃ皆様がた、アッシらが旧カワウソ村まで、超特急でご案内いたしやすぜ!」
ヴィヴィアンとチョロの言葉を受け、はつ江と仔猫ちゃんズは目を輝かせ、ついでに、ミズタマも複眼をキラキラさせた。
「チョロちゃん、べべちゃん、本当にありがとうね!」
「二人ともありがとー!!」
「みー! みみみみー!」
「ありがとうな! ヴィヴィアンに、チョロのアネキ!」
喜ぶ一同の姿を見て、チョロは笑顔で鼻の下をこすり、ヴィヴィアンは翅をパサリと動かした。
「なぁに、困ったときはお互い様でございやすよ!」
「さあ、皆さま! 共にシーマ殿下の奪還に参りましょう!」
「そうだぁね!」
「うん! 行こう!」
「みみー!」
「俺も手伝うぜ!」
ヴィヴィアンの掛け声をうけ、ばあさんと仔猫ちゃんズwithミズタマも元気いっぱいの声をあげた。
しかし……
「あの……、ちょっと、いい?」
……緑ローブだけは、戸惑った表情を浮かべて挙手をした。
「へい、どうしやした? なんか緑色の姐さん」
チョロか問い返すと、緑ローブはヴィヴィアンにちらりと視線を向けた。
「この話の流れだと、この大きなバッタに乗っていくんだよね?」
「あら、アタクシはバッタではなく、イナゴでしてよ」
「あ、そうなんだ……、ゴメン。それで……、手伝ってくれるのはいいんだけど……、私ちょっとバッタとかイナゴとか苦手で……」
緑ローブの言葉に、チョロはつぶらな目を見開いた。
「そうでございやしたか!? そいつぁ、失礼しやした!」
「あ、うん……」
「たしかに、慣れないかたにゃ、イナゴの背に乗るのは難しいでございやすもんね!」
「うん……、うん?」
「でも、安心してくだせえ! ヴィヴィアンなら、全員抱えても平気でございやすから!」
「あ、えーとね? そうじゃなくて……」
「な! ヴィヴィアン!」
「もちろんですわ! アタクシなら、皆様を安心安全な空の旅に、ご案内することも朝飯前ですわ!」
「え、えーと……、でもほら、私ひとりだったら転移魔術で帰れるし……」
「まあまあ、遠慮しねぇでくだせぇ! そんじゃ、行くぞ! ヴィヴィアン!」
そんなこんなで、チョロはヴィヴィアンに飛び乗り……
「任せてくださいまし! とう!」
ヴィヴィアンはバサリとした羽音とともに、他の一同を抱えて飛び上がり……
「べべちゃんや! 今日もよろしく頼むだぁよ!」
はつ江は人生二回目のイナゴによるフライトにも、まったく動じず……
「ヴィヴィアンさんが連れてってくれるなら、ひとっ飛びだね!」
「みー! みみみー!」
モロコシとミミは耳をピンと立てて、ヴィヴィアンの飛行能力をほめ……
「そんな……、モロコシ様とミミさんに、そう言っていただけるなんて、恐悦至極ですわ……」
ヴィヴィアンがほんのりピンク色に染まりながら照れ……
「もぅ、マヂ、無理……」
緑ローブは苦手なイナゴに抱きしめられ、グッタリし……
「大丈夫だって、緑色のアネキ! ムラサキダンダラオオイナゴの抱擁力は魔界随一だから、途中で落とされたりはしないぜ!」
ミミの胸ポケットに戻った水玉が、フォローを入れ……
「ほうようりょくって……、そういう意味じゃ……なくない……?」
……グッタリした緑ローブが、力なく呟いた。
かくして、「ほうようりょく」の使い方に疑問がていされながらも、はつ江ばあさん一同は、仔猫殿下の救出へと向かったのだった。
「チョロちゃんや、風邪はもう大丈夫なのかい?」
「大丈夫なの?」
「みみー?」
はつ江と仔猫ちゃんズは、心配そうな表情で首をかしげた。すると、チョロはニカッと笑って、胸をトンとたたいた。
「へい! おかげさまで、このとおり、ピンピンでございやす!」
チョロの答えをうけて、三人はホッとした表情を浮かべた。
「それなら、よかったー!」
「みー! みー!」
「本当だぁね! それで、チョロちゃんとベベちゃんは、なんでここに来たんだい?」
はつ江が問いかけると、ヴィヴィアンがパサリと翅を動かした。
「お館様から、『今日はちょっとしたイザコザがあるから、アンタたちは殿下たちのお手伝いをしてきなさい』と、命を受けましたの」
「つーわけで、お手伝いに馳せ参じたわけでございやすが……、殿下はどちらに?」
「そうですね、お姿が見えませんわね?」
ヴィヴィアンとチョロが首をかしげると、ばあさんと仔猫ちゃんズはションボリとした表情を浮かべた。
「あのね、チョロさん、実は……」
モロコシが耳をふせて、カクカクシカジカと、バッタ屋さんたちに向かって、説明をはじめた。二人は、ふんふん、とうなずきながら話を聞いた。
「……それで、殿下のところにいけなくて、困ってるんだ」
「みみー……」
「チョロちゃんや、なにかいい方法はないかい?」
落胆した三人の様子を見て、チョロは再びニカッと笑った。
「それなら、アッシらにお任せくだせぇ! ヴィヴィアン、皆様がたを乗せて行けっか?」
話をふられたヴィヴィアンは、ピョインと飛び跳ねた。
「当たり前ですわ! アタクシのことを誰だと思っていまして?」
「よっしゃ! さすが天下のムラサキダンダラオオイナゴさまだぜ! そんじゃ皆様がた、アッシらが旧カワウソ村まで、超特急でご案内いたしやすぜ!」
ヴィヴィアンとチョロの言葉を受け、はつ江と仔猫ちゃんズは目を輝かせ、ついでに、ミズタマも複眼をキラキラさせた。
「チョロちゃん、べべちゃん、本当にありがとうね!」
「二人ともありがとー!!」
「みー! みみみみー!」
「ありがとうな! ヴィヴィアンに、チョロのアネキ!」
喜ぶ一同の姿を見て、チョロは笑顔で鼻の下をこすり、ヴィヴィアンは翅をパサリと動かした。
「なぁに、困ったときはお互い様でございやすよ!」
「さあ、皆さま! 共にシーマ殿下の奪還に参りましょう!」
「そうだぁね!」
「うん! 行こう!」
「みみー!」
「俺も手伝うぜ!」
ヴィヴィアンの掛け声をうけ、ばあさんと仔猫ちゃんズwithミズタマも元気いっぱいの声をあげた。
しかし……
「あの……、ちょっと、いい?」
……緑ローブだけは、戸惑った表情を浮かべて挙手をした。
「へい、どうしやした? なんか緑色の姐さん」
チョロか問い返すと、緑ローブはヴィヴィアンにちらりと視線を向けた。
「この話の流れだと、この大きなバッタに乗っていくんだよね?」
「あら、アタクシはバッタではなく、イナゴでしてよ」
「あ、そうなんだ……、ゴメン。それで……、手伝ってくれるのはいいんだけど……、私ちょっとバッタとかイナゴとか苦手で……」
緑ローブの言葉に、チョロはつぶらな目を見開いた。
「そうでございやしたか!? そいつぁ、失礼しやした!」
「あ、うん……」
「たしかに、慣れないかたにゃ、イナゴの背に乗るのは難しいでございやすもんね!」
「うん……、うん?」
「でも、安心してくだせえ! ヴィヴィアンなら、全員抱えても平気でございやすから!」
「あ、えーとね? そうじゃなくて……」
「な! ヴィヴィアン!」
「もちろんですわ! アタクシなら、皆様を安心安全な空の旅に、ご案内することも朝飯前ですわ!」
「え、えーと……、でもほら、私ひとりだったら転移魔術で帰れるし……」
「まあまあ、遠慮しねぇでくだせぇ! そんじゃ、行くぞ! ヴィヴィアン!」
そんなこんなで、チョロはヴィヴィアンに飛び乗り……
「任せてくださいまし! とう!」
ヴィヴィアンはバサリとした羽音とともに、他の一同を抱えて飛び上がり……
「べべちゃんや! 今日もよろしく頼むだぁよ!」
はつ江は人生二回目のイナゴによるフライトにも、まったく動じず……
「ヴィヴィアンさんが連れてってくれるなら、ひとっ飛びだね!」
「みー! みみみー!」
モロコシとミミは耳をピンと立てて、ヴィヴィアンの飛行能力をほめ……
「そんな……、モロコシ様とミミさんに、そう言っていただけるなんて、恐悦至極ですわ……」
ヴィヴィアンがほんのりピンク色に染まりながら照れ……
「もぅ、マヂ、無理……」
緑ローブは苦手なイナゴに抱きしめられ、グッタリし……
「大丈夫だって、緑色のアネキ! ムラサキダンダラオオイナゴの抱擁力は魔界随一だから、途中で落とされたりはしないぜ!」
ミミの胸ポケットに戻った水玉が、フォローを入れ……
「ほうようりょくって……、そういう意味じゃ……なくない……?」
……グッタリした緑ローブが、力なく呟いた。
かくして、「ほうようりょく」の使い方に疑問がていされながらも、はつ江ばあさん一同は、仔猫殿下の救出へと向かったのだった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる