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第三章 仔猫殿下と、はつ江ばあさん

仔猫殿下とはつ江ばあさん・その六

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 ミミの一言により、バタバタしたシーマ十四世殿下一行と緑ローブだったが……

「えーと、とりあえず……、兄貴も悪気があったわけじゃないと思うぞ、絶対」

 シーマがヒゲと尻尾をダラリと垂らして、力なくつぶやき……

「ふん! でも私は傷ついたの!」

 緑ローブが腕を組んでほおを膨らませながら、そっぽを向き……

「みみみみ」

 ミミはお手上げのポーズをしながら、ため息まじりに声をもらし……

「ちょっと! ミケネコ! 今度は呆れたでしょ!?」

 緑ローブが今度は足をダンッと踏み鳴らし……

「ミミちゃん、お姉さんは真剣なんだから、やれやれとか言っちゃダメだよ」

 モロコシが耳をペタッと伏せて、耳を諭す……、という感じで、まだ、わりとイザコザしていた。

 そんな中、不意にモロコシがキョトンとした表情で、尻尾の先をクニャリと曲げた。

「あ、でも、殿下。魔王さまって、結婚はしないの?」

「え、兄貴が結婚? ああ、そういえば、ちょっと前に……、結婚するとしたらどんな相手がいいんだ? って話になったっけかな……」

 シーマが口元に手を当ててつぶやくと、モロコシ、ミミ、緑ローブは興味津々といった表情を浮かべた。

「へー! どんな人だったの!?」

「みー! みみみみ!?」

「……まあ、どうしても話したいっていうなら、参考程度にはしてあげるけど?」

 三人の言葉を受けて、シーマは尻尾の先をクニャリと曲げた。

「そうだな……、たしか、三ヶ月くらい前に……、鉱山の国での会合から帰ってきたときに聞いた話だと……」

 そんな言葉とともに、シーマ十四世殿下の回想が始まった。


 魔王城のリビング的な部屋にて、シーマと魔王は部屋着でくつろいでいた。

「ふぅむ、プルソンとセクメトさんって相思相愛なのに、いつもなんかギクシャクしてるんだよな……」

「まあ、鉱石の国のトップと、熱砂の国の大貴族のご令嬢だし、色々とあるんだろ」

「でもさぁ、なんかじれったいっていうか……、関係が急激に進展する魔導機でも贈ってやろうかな」

「よけいなお世話になるから、やめとけよ」

「そうか……」

「そうそう。そんなことより、自分はどうなんだよ?」

「え、俺?」

「ああ。別に、ボクに気兼ねしないで妃捜しをしていいって、いつも言ってるだろ?」

「結婚か……、でも、俺、面倒くさいくらい人見知りだしなぁ……」

「自覚はあったのか……、じゃあ結婚願望とかってないのか?」

「うーん、まあ……、理想の相手像ってのは、あるっちゃあるが……」

「へー、そうだったんだ。どんな人が好みなんだ?」

「そうだな……、まずは、人見知りで引きこもりなやつに対しても優しい」

「人見知りと引きこもりは治した方がいいと思うけど……、優しいのはたしかに」

「あとは、シーマのこともあるし、フカフカが好き」

「まあ、ボクに気を遣いすぎることはないけど……、毛嫌いされてギスギスするよりはいいかな」

「だろ? あとは、ほら、公務とかも一緒にすることになるわけだから、魔力と……、体力もある程度は必要かなぁ……」

「そういう兄貴は、体力が驚きのひどさだけどな」

「う……、ま、まあ、俺の体力のことはひとまず置いておいてだな……、最後が一番重要なんだ」

「……まさか、コミュニケーション能力の高さ、とか言って、人と関わる系の仕事を全部丸投げするつもりか?」

「そ、そんなことは……、ちょっとだけ思ったけど……、それよりも、もっと大事な条件がある」

「もっと大事な条件?」


「ああ……、ハックアンドスラッシュ系のゲームで、伝説級の装備が一式揃うまで、不眠不休でステージの周回を付き合ってくれるってことだ!」


「……」

「あ、あれ、どうしてそんなジトっとした目をしてるんだ? ……あ! もちろん、付き合ってもらうだけじゃなくて、向こうの装備が揃うまで俺も付き合うぞ! たぶん千時間くらいあれば、余裕で……」

「ゲームは一日一時間にしろって、いつも言ってるだろ!」

 魔王城にはシーマのお叱りの声が響き渡った。


「……ということがあったんだよ。そのあと、兄貴は落ち込むし、駆けつけたリッチーには、『二人とも、もうお休みになる時間ですぞ!』って、ボクまで叱られるし、大変だったんだ……」

 シーマは回想を終えると、ヒゲと尻尾をダラリと垂らした。

「まあ、趣味が合うのは必要かもしれないけど……、止める人がいた方がいいと思うんだよな、ボクは」

 シーマが力なくつぶやくと、モロコシとミミが肩をポフポフと叩いた。

「うん。ゲームばっかりだと、二人とも目が悪くなっちゃうもんね」

「みーみー」

 二人がフォローをする中、緑ローブは口元に指を当てて、真剣な表情を浮かべた。

「前の三つはどうにでもなるとして……、乙女ゲームなら、累計で千時間以上は余裕してたはずだけど……、ハクスラ? たしか……、RPGみたいなやつだったわよね……」

 緑ローブがわりと前向きに四つ目の条件を検討していると、シーマはヒゲと尻尾を更にダラリと垂らした。

「あー、頼むから……、その条件だけは検討しないでくれ……」

「うん! 『ゲームは一日一時間!』だよ、お姉さん!」

「みー! みみみみみみー!」

 魔王城の庭先には、仔猫たちのお叱りの声が響いた。

 かくして、魔王の好みが暴露されつつ、仔猫殿下一行が陥った緊迫した状況のようなものは、続いていくのだった。
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