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第二章 フカフカな日々

ビックリな一日・その九

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 魔王たちが宝石博物館に向かい出したころ、シーマ十四世殿下はというと……

「セクメト様、シーマ殿下、森山殿、不審者の確保にご協力いただき、まことにありがとうございました!」

 ……警備員の格好をしたサビイロネコに、深々と頭を下げられていた。

「いえ、ボクとはつ江は特に何もしていませんよ」

「そうそう、せくめとさんが、大活躍して捕まえてくれただぁよ!」

「そうだったんですね! さすがセクメト様です!」

 シーマとはつ江とサビイロネコの言葉に、セクメトはにこりと笑った。

「ふふふ、滅相もありません。私はただ、プルソン様のお役に立ちたかっただけですよ」

「役に立ちたいだなんて、そんな、セクメト様ならプルソン様だって余裕で……」

「余裕で、なんなのだ? オリバー」

 背後から不意に声をかけられ、サビイロネコは全身の毛を逆立てて、ピョインと飛びあがった。振り返ると、プルソンが腕を組み、尻尾をバサバサと動かしていた。

「い、いつからそこにいらしたのですか!?」

「ふん、今さっきついたところなのだ。それで、さっきの言葉の続きは、いったいなんなのだ? オリバー」

「え、えっと、その……」

 耳を後ろに反らしたプルソンに睨まれ、サビイロネコ、オリバーは耳をぺたんと伏せ、尻尾を垂らして口ごもった。すると、セクメトがオロオロとしながら、プルソンに近づいた。

「プルソン様、そんなに問い詰めたら、オリバーさんが可哀想ですよ」

「セクメトは黙っているのだ! だいたい、お前たちはいったい何をしていたのだ? 館内に不審者が侵入するなど、あってはならないことなのだ!」

 プルソンに怒鳴りつけられ、オリバーはビクッと肩を震わせた。

「それは、その……、催涙魔法薬のスプレーを使われて、先輩たちが動けなくなってしまって……、僕はなんとか無事だったので、追いかけたんですけど、全然おいつけなくて……」

「警備がそんなことでどうするのだ! 来館者の安全を守るのが、お前たちの仕事だろう!」

「うう……」

 オリバーはプルソンに反論もせず、目に涙を溜めて黙り込んでしまった。

「まあまあ、プルソン様。オリバーさんも一所懸命だったみたいですし、それに、怪我人は誰も出ませんでしたから」

 またもやセクメトがオロオロとしながら、フォローをいれた。すると、プルソンは苦々しい表情で、片耳をパタパタ動かした。

「しかしだな、セクメト。一歩間違えば、お前だって危なかったんだぞ……」

「私のことなら、ご心配は無様です。プルソン様のお役に立つために、日々鍛錬していますから」

「むう、それでもだなぁ……」

 プルソンは、尻尾の先をパサパサ動かしながら、言葉を漏らした。すると、今まで不機嫌そうな表情で黙り込んでいた赤ローブが、聞こえよがしに深いため息をついた。

「あーあ、怒鳴り散らしたあげく奥さんに言いくるめられるなんて、マジで痛々しい」

 辛辣な言葉に、プルソンはピクリと耳を動かした。

「……今、何か言ったか?」

 プルソンがギロリとした目を向けると、赤ローブはヘラヘラとした笑みを浮かべた。

「弱い者にばっかり威張り散らして、自分より強い者には結局逆らえないなんて、情けなさすぎるって言ったの」

 赤ローブが挑発すると、プルソンは尻尾をバサりと振って、足を踏み鳴らした。

「なんだと! 貴様、この我が輩を愚弄する気か!? ならば、今ここで後悔させて……」

「プルソン様! 落ち着いてください!」

 攻撃魔術を唱えようとするプルソンに、セクメトがしがみついた。

「ええい! 離すのだ、だいたいこんなこと言われるのも、セクメトが無駄に強くなりすぎるのがいけないのだ!」

 プルソンの言葉に、セクメトは目を見開いた。それとほぼ同時に、プルソンもしまったと言いたげな表情を浮かべた。

「いや、あの、セクメト、今のは……」

「……差し出がましいことをしてしまい、申し訳ございませんでした。すこし、頭を冷やして来ます」

 セクメトはうつむいて、足早に休憩室を出ていった。

「ま、待つのだセクメト!」

 プルソンも大慌てで、セクメトの後を追った。そんな二人の様子を見て、赤ローブが、ぷっと吹き出した。

「あはははは! あんなに取り乱しちゃって、本当にいい気味!」

 赤ローブの心底楽しそうな声に、シーマは尻尾をウネウネと動かした。

「ひとのイザコザを見ていい気味だなんて、よく言えるな……」

 シーマが呆れた声を出すと、赤ローブは口の端を吊り上げて笑みを深めた。

「あら、だって、あのプルソンってやつには、それなりの恨みがあるもの」

 その言葉に、オリバーが尻尾の先をクニャリと曲げた。

「恨み、ですか? あの、プルソン様にですか?」

「ぷるそんが、悪いことするようには見えないけどねぇ……」

「あ、はい。森山殿のおっしゃる通り、プルソン様は格好をつけすぎたり、叱るときに厳しかったりしますが……、フォローもきめ細やかな方なので、恨みを買うようなことは……」

 オリバーとはつ江が話していると、赤ローブは不服そうな表情を浮かべた。

「それでも、私はすっごく嫌な思いをしたのよ」

 吐き捨てるような言葉を受けて、シーマが深いため息をついた。

「いったい、何をされたっていうんだよ?」

 呆れ果てたシーマとは対照的に、赤ローブは待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべた。

「ふふふ、そこまで言うなら教えてあげるわ!」

 休憩室には赤ローブの高らかな声が響いた。

 かくして、シーマ十四世殿下一行は、約百話ぶり二回目の、博物館で不審者の言い分を聞くくだりに突入するのだった。
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