130 / 191
第二章 フカフカな日々
しっかりな一日・その二
しおりを挟む
魔王城の玄関で、シーマ十四世殿下は、「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」を操作していた。
「えーと……、これで、受注処理完了っと」
シーマはそう言いながら、ものすごく久しぶりに登場した「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」から、顔を上げた。すると、ポシェットを肩にかけたはつ江が、首をかしげた。
「シマちゃんや、ピコピコは終わったかい?」
「ああ。しばらく使わないと思うから、また、ポシェットにしまってもらえるか?」
「任せるだぁよ!」
はつ江はニッコリと笑いながら「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」を受け取り、ポシェットにしまった。そんな二人の様子を見て、扉の前に立った魔王がコクリとうなずいた。
「ふむ。では、二人とも、今日も、無理しない程度に頑張ってくるといい」
魔王がそう言うと、シーマとはつ江はニコリと笑った。
「ああ! じゃあ、いってくるよ、兄貴!」
「いってきます! ヤギさん!」
二人はそう言って魔王に手を振ると、ものすごく久しぶりに「シマちゃんのどこへでもドアみたいな魔法(はつ江談)」を使って、目的地へと向かっていった。魔王は二人を見送ると、コクリとうなずいて、城の中へ戻っていった。
魔法の扉で二人がたどり着いたのは、森の中にある小道だった。
「ほうほう、なんだか淋しい所だねぇ」
はつ江がそう呟くと、シーマは片耳をパタパタと動かしてうなずいた。
「そうだな。ビフロン長官いわく、音楽教室をしていてるから近所迷惑にならないようにこの辺に住んでる、っていうことらしいぞ」
「ほうほう、そうなのかい」
シーマが答えると、はつ江は再びコクコクとうなずいた。すると、シーマも、ああ、といいながらうなずいた。
「それじゃあ、目的地はここからもうちょっと進んだあたりだから、行こうか」
「分かっただぁよ!」
そうして、二人は手をつないでトコトコと歩き出した。
しばらく歩くと、はつ江がキョトンとした表情をうかべた。
「ところで、シマちゃんや」
「うん? どうしたんだ?」
「今日は、びふろんさんはいないんだぁね?」
はつ江が尋ねると、シーマは片耳をパタパタと動かしながらうなずいた。
「あ、うん。さっきメッセージをもらったんだけど、なんか、朝から大事な会議があるらしくて、来られないみたいだよ」
「ほうほう、そうなのかい」
はつ江がコクコクとうなずくと、シーマは尻尾の先をピコピコと動かした。
「多分、反乱分子の件について、会議になってるんじゃないかな」
「ふんふん、あの頭巾ちゃんたちのお友だちのことを話し合ってるんだぁね」
「ああ。まあ、兄貴も手荒なことはしたくないと思ってるだろうから、あんまり物騒な話にはならないと思うけど……」
シーマはそう言うと、ヒゲと尻尾をダラリと垂らした。
「やっぱり、『超・魔導機☆』が向こうの手にあるっていうのが、どうも心配なんだよな……」
「大丈夫だぁよ、シマちゃん。ヤギさんも、段田さんも、心配することはない、って言ってたじゃないか」
「まあ、そう、だよな……」
シーマが不安げに呟くと、はつ江は肉球のついたフカフカの手をさらにギュッと握った。
「そういやよぅ、頭巾ちゃんたちのお友だちは、偶然こっちに来てそのままずっと暮らしてるのかい?」
はつ江が首をかしげると、シーマはコクリとうなずいた。
「そうみたいだな」
「そんだと、家族とか、お友だちが心配してないのかね?」
はつ江の問いかけに、シーマは尻尾の先をクニャリと曲げた。
「うーん。どうなんだろうな……。兄貴いわく、悪いことをしていた奴はいない、ってことだったけど……、なんか事情があって帰りづらいと思ってるとか……」
「ほうほう、そういうもんなのかねぇ……」
二人がそんな話をしているうちに、小道の突き当たりに建った、小さなレンガ造りの家が見えてきた。
「……まあ、今回の依頼にあったヒトも、きっとそんな感じなんだろうな」
「そんじゃあ、さっそく事情を聞きに行こうかね」
「ああ」
二人はそう言うと、トコトコとレンガの家に駆け寄っていった。
家の前までたどり着くと、シーマは扉についたノッカーをトントンと鳴らした。
「おはようございまーす! どなたか、いらっしゃいますかー!」
「はーい。少々お待ちくださいね」
扉の内側から、女性の穏やかな声が聞こえてきた。
「ほうほう、女の人だったんだね」
はつ江がコクコクとうなずくと、シーマが片耳をパタパタと動かした。
「ああ。詳しい内容は聞いてなかったけど、そうみたいだな」
二人がそんな会話をしているうちに、パタパタという足音が近づいた。
「お待たせいたしました」
扉から現れたのは、深緑色のチュニックを着た、長い鳶色の髪の女性だった。
女性はシーマとはつ江の姿を見ると、鳶色の瞳をした目を軽く見開いた。
「貴方は……、シーマ十四世殿下、ですか?」
女性が尋ねると、シーマはコクリとうなずいた。
「はい。えーと、それでこっちが……」
「つきそいの、森山はつ江だぁよ!」
「あ、え、えーと……、わ、私は葉河瀨 絵美里と、も、申します!」
はつ江が元気よく自己紹介をすると、女性はワタワタとしながら自己紹介を返して、頭を下げた。
「ほうほう、絵美里さんだぁね! 今日はよろしくね!」
「は、はい、よろしく、おねがいいたし……、ます?」
元気ハツラツなはつ江に絵美里が混乱していると、シーマがヒゲと尻尾をダラリと垂らしてため息を吐いた。
「あー……、すみません。まずは、要件を言わないと、混乱しますよね」
「あ、えっと……、そ、そうですね」
ワタワタと絵美里がうなずくと、シーマは片耳をパタパタと動かした。
「今日は、霊魂庁のビフロン長官からの依頼で、こちらに来ました」
「霊魂庁の……、ビフロン長官……」
森の中には、絵美里の戸惑った声が響いた。
かくして、シーマ十四世でんかとはつ江ばあさんの、しっかりめの仕事が幕を開けたのだった。
「えーと……、これで、受注処理完了っと」
シーマはそう言いながら、ものすごく久しぶりに登場した「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」から、顔を上げた。すると、ポシェットを肩にかけたはつ江が、首をかしげた。
「シマちゃんや、ピコピコは終わったかい?」
「ああ。しばらく使わないと思うから、また、ポシェットにしまってもらえるか?」
「任せるだぁよ!」
はつ江はニッコリと笑いながら「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」を受け取り、ポシェットにしまった。そんな二人の様子を見て、扉の前に立った魔王がコクリとうなずいた。
「ふむ。では、二人とも、今日も、無理しない程度に頑張ってくるといい」
魔王がそう言うと、シーマとはつ江はニコリと笑った。
「ああ! じゃあ、いってくるよ、兄貴!」
「いってきます! ヤギさん!」
二人はそう言って魔王に手を振ると、ものすごく久しぶりに「シマちゃんのどこへでもドアみたいな魔法(はつ江談)」を使って、目的地へと向かっていった。魔王は二人を見送ると、コクリとうなずいて、城の中へ戻っていった。
魔法の扉で二人がたどり着いたのは、森の中にある小道だった。
「ほうほう、なんだか淋しい所だねぇ」
はつ江がそう呟くと、シーマは片耳をパタパタと動かしてうなずいた。
「そうだな。ビフロン長官いわく、音楽教室をしていてるから近所迷惑にならないようにこの辺に住んでる、っていうことらしいぞ」
「ほうほう、そうなのかい」
シーマが答えると、はつ江は再びコクコクとうなずいた。すると、シーマも、ああ、といいながらうなずいた。
「それじゃあ、目的地はここからもうちょっと進んだあたりだから、行こうか」
「分かっただぁよ!」
そうして、二人は手をつないでトコトコと歩き出した。
しばらく歩くと、はつ江がキョトンとした表情をうかべた。
「ところで、シマちゃんや」
「うん? どうしたんだ?」
「今日は、びふろんさんはいないんだぁね?」
はつ江が尋ねると、シーマは片耳をパタパタと動かしながらうなずいた。
「あ、うん。さっきメッセージをもらったんだけど、なんか、朝から大事な会議があるらしくて、来られないみたいだよ」
「ほうほう、そうなのかい」
はつ江がコクコクとうなずくと、シーマは尻尾の先をピコピコと動かした。
「多分、反乱分子の件について、会議になってるんじゃないかな」
「ふんふん、あの頭巾ちゃんたちのお友だちのことを話し合ってるんだぁね」
「ああ。まあ、兄貴も手荒なことはしたくないと思ってるだろうから、あんまり物騒な話にはならないと思うけど……」
シーマはそう言うと、ヒゲと尻尾をダラリと垂らした。
「やっぱり、『超・魔導機☆』が向こうの手にあるっていうのが、どうも心配なんだよな……」
「大丈夫だぁよ、シマちゃん。ヤギさんも、段田さんも、心配することはない、って言ってたじゃないか」
「まあ、そう、だよな……」
シーマが不安げに呟くと、はつ江は肉球のついたフカフカの手をさらにギュッと握った。
「そういやよぅ、頭巾ちゃんたちのお友だちは、偶然こっちに来てそのままずっと暮らしてるのかい?」
はつ江が首をかしげると、シーマはコクリとうなずいた。
「そうみたいだな」
「そんだと、家族とか、お友だちが心配してないのかね?」
はつ江の問いかけに、シーマは尻尾の先をクニャリと曲げた。
「うーん。どうなんだろうな……。兄貴いわく、悪いことをしていた奴はいない、ってことだったけど……、なんか事情があって帰りづらいと思ってるとか……」
「ほうほう、そういうもんなのかねぇ……」
二人がそんな話をしているうちに、小道の突き当たりに建った、小さなレンガ造りの家が見えてきた。
「……まあ、今回の依頼にあったヒトも、きっとそんな感じなんだろうな」
「そんじゃあ、さっそく事情を聞きに行こうかね」
「ああ」
二人はそう言うと、トコトコとレンガの家に駆け寄っていった。
家の前までたどり着くと、シーマは扉についたノッカーをトントンと鳴らした。
「おはようございまーす! どなたか、いらっしゃいますかー!」
「はーい。少々お待ちくださいね」
扉の内側から、女性の穏やかな声が聞こえてきた。
「ほうほう、女の人だったんだね」
はつ江がコクコクとうなずくと、シーマが片耳をパタパタと動かした。
「ああ。詳しい内容は聞いてなかったけど、そうみたいだな」
二人がそんな会話をしているうちに、パタパタという足音が近づいた。
「お待たせいたしました」
扉から現れたのは、深緑色のチュニックを着た、長い鳶色の髪の女性だった。
女性はシーマとはつ江の姿を見ると、鳶色の瞳をした目を軽く見開いた。
「貴方は……、シーマ十四世殿下、ですか?」
女性が尋ねると、シーマはコクリとうなずいた。
「はい。えーと、それでこっちが……」
「つきそいの、森山はつ江だぁよ!」
「あ、え、えーと……、わ、私は葉河瀨 絵美里と、も、申します!」
はつ江が元気よく自己紹介をすると、女性はワタワタとしながら自己紹介を返して、頭を下げた。
「ほうほう、絵美里さんだぁね! 今日はよろしくね!」
「は、はい、よろしく、おねがいいたし……、ます?」
元気ハツラツなはつ江に絵美里が混乱していると、シーマがヒゲと尻尾をダラリと垂らしてため息を吐いた。
「あー……、すみません。まずは、要件を言わないと、混乱しますよね」
「あ、えっと……、そ、そうですね」
ワタワタと絵美里がうなずくと、シーマは片耳をパタパタと動かした。
「今日は、霊魂庁のビフロン長官からの依頼で、こちらに来ました」
「霊魂庁の……、ビフロン長官……」
森の中には、絵美里の戸惑った声が響いた。
かくして、シーマ十四世でんかとはつ江ばあさんの、しっかりめの仕事が幕を開けたのだった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】華麗に婚約破棄されましょう。~卒業式典の出来事が小さな国の価値観を変えました~
ゆうぎり
恋愛
幼い頃姉の卒業式典で見た婚約破棄。
「かしこまりました」
と綺麗なカーテシーを披露して去って行った女性。
その出来事は私だけではなくこの小さな国の価値観を変えた。
※ゆるゆる設定です。
※頭空っぽにして、軽い感じで読み流して下さい。
※Wヒロイン、オムニバス風
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる