90 / 191
第一章 シマシマな日常
ニコッ
しおりを挟む
ローブの二人組も加わったシーマ十四世殿下一行は、手巻き寿司の準備にいそしんでいた。
準備が終わったころ、魔王が疲れた表情を浮かべて、キッチンへとやってきた。はつ江は、魔王の姿を目にすると、ニッコリと微笑んだ。
「ヤギさんや、お疲れ様。お薬づくりは順調かね?」
はつ江が問いかけると、魔王も薄く微笑んで頷いた。
「ああ、今一段落したところだから、明日の夕方までにはギリギリ間に合いそうだ」
「ほうほう、それはよかっただぁよ!」
魔王とはつ江のやり取りを受けて、キッチンにいた一同はホッとした表情を浮かべた。
「そんじゃあ、丁度ご飯もできたから、ヤギさんもちょっと休憩するといいだぁよ」
「ああ、そうさせてもらおう」
魔王ははつ江の提案にコクリと頷くと、食卓へ足を進めた。
それから一同は、談笑しながら手巻き寿司を囲んだ。
「熱砂の国ではね、ナツメヤシが入ったお菓子が人気なのよ!」
「そうですね。この辺りだとあまり一般的ではないようですが、美味しくて栄養も満点なんですよ」
「……」
「ほうほう、そうなのかい!」
「へー、そうなんだ。そういえば、僕たちがこっちに来る前って、どんなお菓子が流行ってたっけ?」
「どうだったかな……たしか、女子社員がやたらとカラフルな菓子を買って、写真を撮ってたのは覚えているが……」
「ああ! あれだぁね! ほら、あの、なんとかなんとかバエっていう!」
「え!? はつ江、ハエが流行ってたのか!?」
「シーマ、お兄ちゃんの推測だが、多分ハエが流行ってたのではないと思うぞ……」
そんな他愛もない話題で盛り上がりながら、夕食の時間はなごやかに過ぎていった。
手巻き寿司を食べ終わると、一同は声を合わせて、ごちそうさま、と口にした。
「それじゃあ、私は洗い物をしてるから、バスちゃんたちは先にお風呂に入っておいで」
はつ江は運搬用のワゴンに食器を載せながら、バステトたちに声をかけた。すると、バステト、マロ、ウェネトは席を立ちペコリと頭を下げた。
「ありがとう、ございますはつ江さん。それで、お言葉に甘えさせていただきます」
「ありがとう、おばあちゃん! じゃあ、ミーティングが終わったら、お風呂に入るわね!」
「……」
マロ、ウェネトの言葉に続き、バステトが再び深々と頭を下げた。はつ江は三人の返事を聞くと、ニッコリと微笑んで、コクコクと頷いた。
「それでは、失礼いたします」
「おばあちゃん、また後でね!」
「……!」
こうして、バステト、マロ、ウェネトはキッチンを後にした。三人の姿を見送ると、魔王が、うーん、と声を漏らしながら伸びをした。
「私はまだ作業が残っているから、このまま実験室に向かうとするか」
魔王がそう言うと、シーマが尻尾の先をピコピコと動かした。
「兄貴、今回のはかなり手がかかる作業なんだろ? 何ならはつ江の手伝いが終わったら、そっちを手伝わないこともないぞ?」
シーマがソッポを向きながらそう言うと、魔王は感極まった表情を浮かべた。
「そうか……にーちゃんにーちゃんと言いながら俺の後ろついて歩いていたシーマも、助手を買って出てくれるほど成長したのか……」
「な、何を泣いてるんだよ、この、バカ兄貴!」
魔王が感涙にむせぶと、シーマが照れくさそうな表情を浮かべ尻尾の先をピコピコと動かした。そんな二人の様子を見て、はつ江はニッコリと微笑んだ。
「シマちゃんはお兄ちゃん思いの良い子だぁね」
はつ江はそう言うと、シーマの頭をポフポフとなでた。
「私の方は一人でも大丈夫だから、ヤギさんのお手伝いにいっておあげ」
「……はつ江がそう言ってくれるなら、兄貴の手伝いにいってくる。でも、大変そうだったらすぐに呼ぶんだぞ!」
シーマの言葉を受けて、はつ江はニッコリと笑った。
「それは頼もしいだぁよ! じゃあ、何かあったら頼らせてもらおうかねぇ」
はつ江の言葉に、シーマは満足げに微笑んだ。
「ああ! いつでも、このボクを頼るといい! じゃあ、兄貴、さっさと移動してキリキリ働くぞ!」
シーマはそう言うと、ふん、と鼻を鳴らし、椅子からピョインと飛び降りた。そして、目を輝かせながらキッチンを出ていった。すると、魔王がガタッと音を立てながら椅子から立ち上がった。
「あ、ちょ、ちょっと待ってくれ、シーマ!」
そして、魔王は慌てた表情を浮かべて、シーマの後を足早に追っていった。はつ江はその姿を楽しげに見送った。それからはつ江は、ローブの二人に顔を向け、ニッコリと微笑んだ。
「さてと、じゃあ頭巾ちゃんたちも、お風呂に入ってゆっくりするといいだぁよ」
はつ江が声をかけると、ローブの二人組はキョトンとした表情を浮かべた。それから、二人組は顔を合わせ、どちらともなくバツが悪そうに頬を掻いた。
「あー、えーと、おばあちゃん」
黒ローブが気まずそうに声をかけると、はつ江はキョトンとした表情で首を傾げた。
「ほいほい、どうしたのかね?」
「洗い物は僕たちがするから、おばあちゃんは先にお風呂に入ってきたら?」
黒ローブが提案すると、灰色ローブがコクリと頷いた。
「ああ。今日は外出したり、大人数向けの食事を支度したりでつかれているだろう? 俺たちはまだ大丈夫だから」
二人の言葉を受けて、はつ江は目を見開いた。それから、ニッコリと笑うと少し背伸びをして、黒ローブと灰色ローブの肩をポンポンとなでた。
「二人とも、ありがとうねぇ。それじゃあ、お言葉に甘えて、お先にお風呂をいただいてくるだぁよ」
はつ江が嬉しそうにそう言うと、ローブの二人組も穏やかに微笑んだ。
「うん! こっちは僕たちに任せて!」
「ゆっくり、してきてくれ!」
二人の言葉を受けて、はつ江は笑顔でコクコクと頷いた。
「頭巾ちゃんたちは、とっても優しい子だぁね!」
はつ江の言葉に、ローブの二人組は照れくさそうに頬を掻いた。
こうして、はつ江もキッチンを後にし、大浴場へと向かっていった。キッチンに残ったローブの二人組は、ワゴンを流し台まで運び、食器洗いに取りかかった。
それから、しばらくの間、ローブの二人組は黙々と食器や調理器具を洗っていた。
「……ねぇ」
不意に、黒ローブが灰色ローブに声をかけた。
「……なんだ?」
「今日のご飯、美味しかったし、楽しかったよね……」
灰色ローブが問い返すと、黒ローブはポツリとそう呟いた。
「ああ。手巻き寿司なんて、本当に子供のころ以来だが……楽しかったな」
灰色ローブは昔を懐かしむように、黒ローブの言葉に同意した。
「そうだよね。僕も、何だか子供のころを思い出しちゃったよ」
「そうだな」
二人はそこで会話を止めると、再び黙々と食器や調理器具を洗い始めた。
「……なあ」
それからまたしばらくして、今度は灰色ローブから黒ローブに声をかけた。
「……なぁに?」
「お前は、元の世界に、その……家族はいるのか?」
灰色ローブが気まずそうに問いかけると、黒ローブはコクリと頷いた。
「うん。でも、学生のころから一人暮らししてたし、実家から離れた所で就職したから、最近はあんまり会ってないな……」
「俺も、似たような状況だ。最近は数えるくらいしか会っていないから、俺が今ここにいることも、知らないんだろうな……」
二人はまたそこで会話を止め、黙々と食器を洗った。
「……僕たち、こっちに来てから、どのくらい経つんだっけ?」
そしてまた、黒ローブが灰色ローブに声をかけた。
「……時間の流れが同じなのかは分からないが、半年は経っているはずだ」
「半年か……それだけの間まったく連絡なしだと、実家の家族も心配してるのかな……?」
「俺の場合は、そのくらい連絡をしないことも結構あったが……今回は、借りているマンションの管理会社から、家賃の未払いが続いているうえに連絡がとれない、と言われているかもしれないからな」
「あー、たしかに。僕のところも、家賃滞納と行方不明ってことで、実家に連絡がいってるかも……」
二人は一端会話を止めると、ほぼ同時に深いため息を吐いた。
「心配してるどころの話じゃないかもね……」
「まったくだな……」
二人はそう言うと、再び同時に深いため息を吐いた。
「魔王から戦力外だって言われたときは、こっちで一から頑張ってやり直そうかな、って考えてたんだ。けどさ、何というか、気分を悪くさせるつもりはないいんだけど……」
黒ローブが言葉をにごすと、灰色ローブがコクリと頷いた。
「ああ、言いたいことは分かるし、多分、俺も同じ意見だ」
灰色ローブはそう言うと、ニコッと笑顔を浮かべた。それにつられて、黒ローブも苦笑いを浮かべた。
「うん。やっぱり、君も、僕たちが一から頑張らなきゃいけない場所はここじゃない、って思ったんだね?」
「ああ。その通りだ。だから、魔王の調薬作業が終わったら、元の世界に戻れないか相談させてもらおう」
「うん! そうだね!」
灰色ローブの言葉に、黒ローブは元気良く返事をした。しかし、すぐにハッとした表情を浮かべると、気まずそうに肩をすぼめた。
「でも、きっとその前に、リーダーたちのこと話さないとダメだよね……」
「……まあ、そうだろうな。何も説明しないまま帰る、なんて虫のいい話は、できないだろう」
「だよねー……」
二人はそう言うと、またしても同時に深いため息を吐いた。
「リーダーたちも、ここは僕たちの場所じゃないって気づけるのかな?」
「……まだ、なんとも言えない。俺としては、是非気がついて前を見て進んで欲しいし、それができるヤツだと思っているがな」
「うん、同感! リーダーも、悪いヤツじゃないもんね!」
二人はそう言い合うと、同時にコクリと頷いた。
こうして、ローブの二人組が前向きになりながら、魔王城の夜は更けていくのであった。
準備が終わったころ、魔王が疲れた表情を浮かべて、キッチンへとやってきた。はつ江は、魔王の姿を目にすると、ニッコリと微笑んだ。
「ヤギさんや、お疲れ様。お薬づくりは順調かね?」
はつ江が問いかけると、魔王も薄く微笑んで頷いた。
「ああ、今一段落したところだから、明日の夕方までにはギリギリ間に合いそうだ」
「ほうほう、それはよかっただぁよ!」
魔王とはつ江のやり取りを受けて、キッチンにいた一同はホッとした表情を浮かべた。
「そんじゃあ、丁度ご飯もできたから、ヤギさんもちょっと休憩するといいだぁよ」
「ああ、そうさせてもらおう」
魔王ははつ江の提案にコクリと頷くと、食卓へ足を進めた。
それから一同は、談笑しながら手巻き寿司を囲んだ。
「熱砂の国ではね、ナツメヤシが入ったお菓子が人気なのよ!」
「そうですね。この辺りだとあまり一般的ではないようですが、美味しくて栄養も満点なんですよ」
「……」
「ほうほう、そうなのかい!」
「へー、そうなんだ。そういえば、僕たちがこっちに来る前って、どんなお菓子が流行ってたっけ?」
「どうだったかな……たしか、女子社員がやたらとカラフルな菓子を買って、写真を撮ってたのは覚えているが……」
「ああ! あれだぁね! ほら、あの、なんとかなんとかバエっていう!」
「え!? はつ江、ハエが流行ってたのか!?」
「シーマ、お兄ちゃんの推測だが、多分ハエが流行ってたのではないと思うぞ……」
そんな他愛もない話題で盛り上がりながら、夕食の時間はなごやかに過ぎていった。
手巻き寿司を食べ終わると、一同は声を合わせて、ごちそうさま、と口にした。
「それじゃあ、私は洗い物をしてるから、バスちゃんたちは先にお風呂に入っておいで」
はつ江は運搬用のワゴンに食器を載せながら、バステトたちに声をかけた。すると、バステト、マロ、ウェネトは席を立ちペコリと頭を下げた。
「ありがとう、ございますはつ江さん。それで、お言葉に甘えさせていただきます」
「ありがとう、おばあちゃん! じゃあ、ミーティングが終わったら、お風呂に入るわね!」
「……」
マロ、ウェネトの言葉に続き、バステトが再び深々と頭を下げた。はつ江は三人の返事を聞くと、ニッコリと微笑んで、コクコクと頷いた。
「それでは、失礼いたします」
「おばあちゃん、また後でね!」
「……!」
こうして、バステト、マロ、ウェネトはキッチンを後にした。三人の姿を見送ると、魔王が、うーん、と声を漏らしながら伸びをした。
「私はまだ作業が残っているから、このまま実験室に向かうとするか」
魔王がそう言うと、シーマが尻尾の先をピコピコと動かした。
「兄貴、今回のはかなり手がかかる作業なんだろ? 何ならはつ江の手伝いが終わったら、そっちを手伝わないこともないぞ?」
シーマがソッポを向きながらそう言うと、魔王は感極まった表情を浮かべた。
「そうか……にーちゃんにーちゃんと言いながら俺の後ろついて歩いていたシーマも、助手を買って出てくれるほど成長したのか……」
「な、何を泣いてるんだよ、この、バカ兄貴!」
魔王が感涙にむせぶと、シーマが照れくさそうな表情を浮かべ尻尾の先をピコピコと動かした。そんな二人の様子を見て、はつ江はニッコリと微笑んだ。
「シマちゃんはお兄ちゃん思いの良い子だぁね」
はつ江はそう言うと、シーマの頭をポフポフとなでた。
「私の方は一人でも大丈夫だから、ヤギさんのお手伝いにいっておあげ」
「……はつ江がそう言ってくれるなら、兄貴の手伝いにいってくる。でも、大変そうだったらすぐに呼ぶんだぞ!」
シーマの言葉を受けて、はつ江はニッコリと笑った。
「それは頼もしいだぁよ! じゃあ、何かあったら頼らせてもらおうかねぇ」
はつ江の言葉に、シーマは満足げに微笑んだ。
「ああ! いつでも、このボクを頼るといい! じゃあ、兄貴、さっさと移動してキリキリ働くぞ!」
シーマはそう言うと、ふん、と鼻を鳴らし、椅子からピョインと飛び降りた。そして、目を輝かせながらキッチンを出ていった。すると、魔王がガタッと音を立てながら椅子から立ち上がった。
「あ、ちょ、ちょっと待ってくれ、シーマ!」
そして、魔王は慌てた表情を浮かべて、シーマの後を足早に追っていった。はつ江はその姿を楽しげに見送った。それからはつ江は、ローブの二人に顔を向け、ニッコリと微笑んだ。
「さてと、じゃあ頭巾ちゃんたちも、お風呂に入ってゆっくりするといいだぁよ」
はつ江が声をかけると、ローブの二人組はキョトンとした表情を浮かべた。それから、二人組は顔を合わせ、どちらともなくバツが悪そうに頬を掻いた。
「あー、えーと、おばあちゃん」
黒ローブが気まずそうに声をかけると、はつ江はキョトンとした表情で首を傾げた。
「ほいほい、どうしたのかね?」
「洗い物は僕たちがするから、おばあちゃんは先にお風呂に入ってきたら?」
黒ローブが提案すると、灰色ローブがコクリと頷いた。
「ああ。今日は外出したり、大人数向けの食事を支度したりでつかれているだろう? 俺たちはまだ大丈夫だから」
二人の言葉を受けて、はつ江は目を見開いた。それから、ニッコリと笑うと少し背伸びをして、黒ローブと灰色ローブの肩をポンポンとなでた。
「二人とも、ありがとうねぇ。それじゃあ、お言葉に甘えて、お先にお風呂をいただいてくるだぁよ」
はつ江が嬉しそうにそう言うと、ローブの二人組も穏やかに微笑んだ。
「うん! こっちは僕たちに任せて!」
「ゆっくり、してきてくれ!」
二人の言葉を受けて、はつ江は笑顔でコクコクと頷いた。
「頭巾ちゃんたちは、とっても優しい子だぁね!」
はつ江の言葉に、ローブの二人組は照れくさそうに頬を掻いた。
こうして、はつ江もキッチンを後にし、大浴場へと向かっていった。キッチンに残ったローブの二人組は、ワゴンを流し台まで運び、食器洗いに取りかかった。
それから、しばらくの間、ローブの二人組は黙々と食器や調理器具を洗っていた。
「……ねぇ」
不意に、黒ローブが灰色ローブに声をかけた。
「……なんだ?」
「今日のご飯、美味しかったし、楽しかったよね……」
灰色ローブが問い返すと、黒ローブはポツリとそう呟いた。
「ああ。手巻き寿司なんて、本当に子供のころ以来だが……楽しかったな」
灰色ローブは昔を懐かしむように、黒ローブの言葉に同意した。
「そうだよね。僕も、何だか子供のころを思い出しちゃったよ」
「そうだな」
二人はそこで会話を止めると、再び黙々と食器や調理器具を洗い始めた。
「……なあ」
それからまたしばらくして、今度は灰色ローブから黒ローブに声をかけた。
「……なぁに?」
「お前は、元の世界に、その……家族はいるのか?」
灰色ローブが気まずそうに問いかけると、黒ローブはコクリと頷いた。
「うん。でも、学生のころから一人暮らししてたし、実家から離れた所で就職したから、最近はあんまり会ってないな……」
「俺も、似たような状況だ。最近は数えるくらいしか会っていないから、俺が今ここにいることも、知らないんだろうな……」
二人はまたそこで会話を止め、黙々と食器を洗った。
「……僕たち、こっちに来てから、どのくらい経つんだっけ?」
そしてまた、黒ローブが灰色ローブに声をかけた。
「……時間の流れが同じなのかは分からないが、半年は経っているはずだ」
「半年か……それだけの間まったく連絡なしだと、実家の家族も心配してるのかな……?」
「俺の場合は、そのくらい連絡をしないことも結構あったが……今回は、借りているマンションの管理会社から、家賃の未払いが続いているうえに連絡がとれない、と言われているかもしれないからな」
「あー、たしかに。僕のところも、家賃滞納と行方不明ってことで、実家に連絡がいってるかも……」
二人は一端会話を止めると、ほぼ同時に深いため息を吐いた。
「心配してるどころの話じゃないかもね……」
「まったくだな……」
二人はそう言うと、再び同時に深いため息を吐いた。
「魔王から戦力外だって言われたときは、こっちで一から頑張ってやり直そうかな、って考えてたんだ。けどさ、何というか、気分を悪くさせるつもりはないいんだけど……」
黒ローブが言葉をにごすと、灰色ローブがコクリと頷いた。
「ああ、言いたいことは分かるし、多分、俺も同じ意見だ」
灰色ローブはそう言うと、ニコッと笑顔を浮かべた。それにつられて、黒ローブも苦笑いを浮かべた。
「うん。やっぱり、君も、僕たちが一から頑張らなきゃいけない場所はここじゃない、って思ったんだね?」
「ああ。その通りだ。だから、魔王の調薬作業が終わったら、元の世界に戻れないか相談させてもらおう」
「うん! そうだね!」
灰色ローブの言葉に、黒ローブは元気良く返事をした。しかし、すぐにハッとした表情を浮かべると、気まずそうに肩をすぼめた。
「でも、きっとその前に、リーダーたちのこと話さないとダメだよね……」
「……まあ、そうだろうな。何も説明しないまま帰る、なんて虫のいい話は、できないだろう」
「だよねー……」
二人はそう言うと、またしても同時に深いため息を吐いた。
「リーダーたちも、ここは僕たちの場所じゃないって気づけるのかな?」
「……まだ、なんとも言えない。俺としては、是非気がついて前を見て進んで欲しいし、それができるヤツだと思っているがな」
「うん、同感! リーダーも、悪いヤツじゃないもんね!」
二人はそう言い合うと、同時にコクリと頷いた。
こうして、ローブの二人組が前向きになりながら、魔王城の夜は更けていくのであった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる