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第一章 シマシマな日常
ポフン
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シーマ十四世殿下一行は、ユニットバスの中で『月刊ヌー特別号』を発見した。しかし、そのページの一部が何者かによって、切り取られていた。
一行はひとまず読書室を兼ねた客間に移動したが、オーレルは沈んだ顔をしたままだった。
「気合い入れて、暗号も解いたのになぁ……」
オーレルはテーブルの上に広げた『月刊ヌー特別号』を見つめて、深いため息を吐いた。その目には、大粒の涙が浮かんでいる。
「紙がなかったから、咄嗟に破いて使っちゃったのかねぇ?」
はつ江が困惑した表情で首を傾げると、シーマが尻尾を左右にユラユラと揺らした。
「いや、さすがに一目でオリハルコンと分かる物をトイレットペーパー代わりに使わないだろ。それに、かなり綺麗に切り取ってあるから、焦って破いたとは思えないし」
シーマが答えると、はつ江は、ほうほう、と声を漏らして、コクコクと頷いた。すると、今度はモロコシが尻尾の先をクニャリと曲げて、首を傾げた。
「バービーさん、『月刊ヌー特別号』を修理できない?」
モロコシが尋ねると、手のひらに載っていたミズタマシロガネクイバッタが、パサリと翅を広げてバービーの頭に跳び乗った。そして、ミズタマシロガネクイバッタは、カクカクと首を左右に振ってから、顔を洗う仕草をした。その仕草を見たモロコシは、ふんふんと鼻を鳴らしながらコクコクと頷いた。
「トカゲのねーちゃん、おっさんが泣いてるところは何か見てられないから、俺からも頼むぜ……って、ミズタマシロガネクイバッタさんも言ってるよ!」
モロコシは尻尾をブンブンと左右に振りながら、必死で訴えた。しかし、バービーは困惑した表情で、うーん、と唸りながら首をひねった。
「たしかに、オリハルコンの板金は、家に戻ればいくつかあるんだけど……なくなったページの内容が分からないと、修理のしようがないんだよね……」
「みー……」
バービーが肩を落としながら答えると、ミミも残念そうに声を漏らした。すると、シーマが腕を組んで、尻尾の先をピコピコと動かした。
「記事の内容が分かれば、ボクの魔法で転写することはできるんだけどな……」
シーマがそう呟くと、はつ江がハッとした表情を浮かべて、ポンと手を打った。その様子を見たシーマは、尻尾の先をクニャリと曲げた。
「どうしたんだ?はつ江」
「シマちゃんや、前に孫が遊びに来たとき、小っちゃいピコピコをポチポチしてたことがあるんだけどよ、何してるか聞いてみたら、雑誌を読んでるって言ったんだぁよ」
「えーと……いまいち状況が伝わってこないけど、そっちの世界には、本を読むための小さい端末があるってことなんだな?」
シーマが尻尾をダラリと垂らしながら問いかけると、はつ江はコクリと頷いた。
「それでね、シマちゃんの持ってる、えーと……『ニコニコよい子ぼぉど』で、『ぬぅ』を読むことはできねぇかな、って思ってよう。ほら、さっきバッタさんの図鑑も読んでたろ?」
はつ江が問いかけると、シーマは腕を組んで尻尾の先をピコピコと動かした。
「『ニコニコよい子ぼぉど』じゃなくて、『よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)』な。たしかに、『月刊ヌー』にも、通信機で読めるタイプがあるけど……冊数限定の特別号が対応してるかな?」
シーマが首を傾げると、それまでうつむいて涙をこぼしていたオーレルが、ガバッと顔を上げた。
「そうだ!それだ!」
オーレルが突然大声を上げると、シーマ、モロコシ、ミミが尻尾の毛を逆立ててピョコンと跳びはねた。
「ちょっと、おっちゃん!急に大声出したら、子供達がビックリしちゃうでしょ!」
バービーが注意すると、オーレルは袖で涙を拭いながら、悪い悪い、と呟いた。そして、オーレルはパラパラと『月刊ヌー特別号』のページを捲りだした。
「たしか、この辺に……あ、あったぞ!」
オーレルが開いたページには、「通信機で読みたいヒトは、通信機に向かってこの呪文を唱えてね!でも、呪文は他のヒトには秘密だよ!」という言葉と、呪文が記載されていた。その記事を読んだ、シーマ、モロコシ、ミミは驚いて乱れた呼吸を整えながら、オーレルに向かってニッコリと笑いかけた。
「これなら、『よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)』に、『月刊ヌー特別号』の内容を落とし込むことができますよ」
「よかったね、オーレルさん!」
「みー!」
三人に続いて、はつ江とバービーもニコリと微笑んだ。
「よかっただぁね!おおれるさん!バービーさんや、本を直してもらえるかい?」
「まっかせてー♪じゃあ、私はちょっと家に戻って、オリハルコンの板金を持ってくるね!『月刊ヌー特別号』が見つかったから、もう魔法は解けてるんでしょ?」
バービーがそう言うと、オーレルはコクリと頷いた。
「ああ。じゃあ、バビ子、悪いがオリハルコンを持ってきてく……」
持ってきてくれ、オーレルがそう言おうとした。
まさにそのとき!
「その必要はありません!」
読書室を兼ねた客間の中に、年配の男性の声が響いた。一同は驚いて、一斉に声のする方へ顔を向けた。
すると、そこには可愛らしくデフォルメされたバッタの顔をした張りぼてが、ふよふよと浮かんでいた。
「正義のマスコット、ロカスト・オ・ランタン!ここに馳せ参じました!」
ロカスト・オ・ランタンはそう言い放つと、空中でクルンと縦に一回転した。
ファンシーなマスコットが急に登場したことにより……
「あれまぁよ!可愛らしいバッタさんだねぇ!」
はつ江は目を丸くしながら、大げさに驚き……
「わぁ!可愛い!」
「みー!みー!」
モロコシとミミは目を輝かせながら、ミミと尻尾をピンと立てて喜び……
「えーと、その声はビフロ……ん?でも、なぁ……」
オーレルは困惑した表情を浮かべながら、首を傾げ……
「えーと、殿下、知り合いのヒト?」
バービーは気まずそうに頬を掻きながら、シーマに問いかけ……
「えー……まあ、何というか……ちょっと、待っててくれ……」
……シーマは尻尾をダラリと垂らして脱力した。
シーマは席を立つと、トボトボとした足取りでロカスト・オ・ランタンの元に向かっていった。
「すみません、ちょっとだけこっちに来てもらえますか?」
シーマが脱力しながら声をかけると、ロカスト・オ・ランタンはクルリと縦に一回転した。
「かしこまりました!殿下!」
そして、二人は部屋の隅へ移動した。すると、シーマが小声でロカスト・オ・ランタンに声をかけた。
「えーと、大体の事情は分かりますが、一応聞きますよ……何してるんですか?ビフロン長官」
「な、何をおっしゃるのですか、殿下!わ、私は決して魔界霊魂庁長官のビフロンではなく……ファンシーな正義のマスコット、ロカスト・オ・ランタンです!」
ビフロン……もとい、ロカスト・オ・ランタンが分かりやすく動揺すると、シーマは尻尾をダラリと垂らしてため息を吐いた。そして、視線をチラリと後ろに向けた。シーマの視線の先では、モロコシとミミが目を輝かせながら、ワクワクとした表情を浮かべていた。
「分かりました……ひとまず、子供達が喜んでいるんで、その設定でいきます……」
「ありがとうございます、殿下。実は……陛下から、殿下の気配が感じられなくなったから変装して様子を見てきてくれ、とおおせつかりました。なので、トビウオの夜についての会議を抜け出し、こちらの様子をうかがっていた次第です」
ロカスト・オ・ランタンが事情を説明すると、シーマは脱力しながらもペコリと頭を下げた。
「すみません……兄の過保護と悪ノリに付き合わせてしまって……」
「そんな、とんでもございません!正義のマスコットという大役をおおせつかり、年甲斐もなくワクワクいたしましたから!」
ロカスト・オ・ランタンは嬉しそうにそう言うと、クルンと横に一回転した。
「あと、修理に必要な材料は持って参りましたので、ご安心ください!」
「重ね重ね、ありがとうございます。じゃあ、皆のところに戻りましょうか……」
シーマがそう言うと、ロカスト・オ・ランタンはコクリと頷いた。そして、二人は一同の元に戻っていった。
「お待たせいたしました皆さん!今日は、皆さんに必要な物を持って参りました」
ロカスト・オ・ランタンそう言うと、えい、というかけ声とともに、縦にクルンと一回転した。すると、ロカスト・オ・ランタンの目の前に、ポフンと音を立てて、オリハルコンの板金が現れた。
フワフワと浮かぶオリハルコンの板金を見て、モロコシとミミは目を輝かせながら尻尾とミミをピンと立てた。
「わぁ!ロカスト・オ・ランタンさん、すごーい!」
「みみーみ!」
モロコシとミミがパチパチと送ると、シーマも苦笑を浮かべながらポフポフと拍手を送った。
「す、凄ーい!」
シーマがうわずった声で称賛すると、はつ江がニコリと微笑んだ。
「ありがとうね、ろけっとらんたんさん。これで、本の修理ができるだぁよ!」
はつ江がそう言ってペコリと頭を下げると、ロカスト・オ・ランタンはふるふると震えた。
「いえいえ。正義のマスコットとして、当然のことをしたまでです」
ロカスト・オ・ランタンは名称を間違えられたことを気にもとめずに、クルリと縦に一回転した。そして、バービーに顔を向けると、フワフワと左右に揺れた。
「さあ、凄腕見習い修理師のお嬢さん!これで、本の修理をお願いいたします!」
不意に声をかけられたバービーは、ビクッと身を震わせた。バービーは困惑した表情でロカスト・オ・ランタンを見つめた。しかし、すぐに口の端を吊り上げると、ニッと不敵な笑みを浮かべた。
「任せなさい!正義のマスコットをするようなお偉いさんに、私の腕を見せてやろうじゃない!」
バービーはそう言い放つと、シーマに顔を向けた。
「殿下!その板金に、なくなったページの内容を転写してもらえる?」
「うん!分かったよ!……あ」
バービーに声をかけられたシーマは、咄嗟にロカスト・オ・ランタン向けの返事をしてしまった。シーマは片耳をパタパタと動かしながら顔を洗う仕草をすると、コホンと咳払いをした。
「ああ、分かった。はつ江、ちょっと『よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)』を取り出してくれないか?」
「分かっただぁよ!」
声をかけられたはつ江は、シーマの言い間違いを指摘することなく、元気よく返事をした。
こうして、『月刊ヌー特別号』を修理する準備が、無事に整ったのだった。
一行はひとまず読書室を兼ねた客間に移動したが、オーレルは沈んだ顔をしたままだった。
「気合い入れて、暗号も解いたのになぁ……」
オーレルはテーブルの上に広げた『月刊ヌー特別号』を見つめて、深いため息を吐いた。その目には、大粒の涙が浮かんでいる。
「紙がなかったから、咄嗟に破いて使っちゃったのかねぇ?」
はつ江が困惑した表情で首を傾げると、シーマが尻尾を左右にユラユラと揺らした。
「いや、さすがに一目でオリハルコンと分かる物をトイレットペーパー代わりに使わないだろ。それに、かなり綺麗に切り取ってあるから、焦って破いたとは思えないし」
シーマが答えると、はつ江は、ほうほう、と声を漏らして、コクコクと頷いた。すると、今度はモロコシが尻尾の先をクニャリと曲げて、首を傾げた。
「バービーさん、『月刊ヌー特別号』を修理できない?」
モロコシが尋ねると、手のひらに載っていたミズタマシロガネクイバッタが、パサリと翅を広げてバービーの頭に跳び乗った。そして、ミズタマシロガネクイバッタは、カクカクと首を左右に振ってから、顔を洗う仕草をした。その仕草を見たモロコシは、ふんふんと鼻を鳴らしながらコクコクと頷いた。
「トカゲのねーちゃん、おっさんが泣いてるところは何か見てられないから、俺からも頼むぜ……って、ミズタマシロガネクイバッタさんも言ってるよ!」
モロコシは尻尾をブンブンと左右に振りながら、必死で訴えた。しかし、バービーは困惑した表情で、うーん、と唸りながら首をひねった。
「たしかに、オリハルコンの板金は、家に戻ればいくつかあるんだけど……なくなったページの内容が分からないと、修理のしようがないんだよね……」
「みー……」
バービーが肩を落としながら答えると、ミミも残念そうに声を漏らした。すると、シーマが腕を組んで、尻尾の先をピコピコと動かした。
「記事の内容が分かれば、ボクの魔法で転写することはできるんだけどな……」
シーマがそう呟くと、はつ江がハッとした表情を浮かべて、ポンと手を打った。その様子を見たシーマは、尻尾の先をクニャリと曲げた。
「どうしたんだ?はつ江」
「シマちゃんや、前に孫が遊びに来たとき、小っちゃいピコピコをポチポチしてたことがあるんだけどよ、何してるか聞いてみたら、雑誌を読んでるって言ったんだぁよ」
「えーと……いまいち状況が伝わってこないけど、そっちの世界には、本を読むための小さい端末があるってことなんだな?」
シーマが尻尾をダラリと垂らしながら問いかけると、はつ江はコクリと頷いた。
「それでね、シマちゃんの持ってる、えーと……『ニコニコよい子ぼぉど』で、『ぬぅ』を読むことはできねぇかな、って思ってよう。ほら、さっきバッタさんの図鑑も読んでたろ?」
はつ江が問いかけると、シーマは腕を組んで尻尾の先をピコピコと動かした。
「『ニコニコよい子ぼぉど』じゃなくて、『よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)』な。たしかに、『月刊ヌー』にも、通信機で読めるタイプがあるけど……冊数限定の特別号が対応してるかな?」
シーマが首を傾げると、それまでうつむいて涙をこぼしていたオーレルが、ガバッと顔を上げた。
「そうだ!それだ!」
オーレルが突然大声を上げると、シーマ、モロコシ、ミミが尻尾の毛を逆立ててピョコンと跳びはねた。
「ちょっと、おっちゃん!急に大声出したら、子供達がビックリしちゃうでしょ!」
バービーが注意すると、オーレルは袖で涙を拭いながら、悪い悪い、と呟いた。そして、オーレルはパラパラと『月刊ヌー特別号』のページを捲りだした。
「たしか、この辺に……あ、あったぞ!」
オーレルが開いたページには、「通信機で読みたいヒトは、通信機に向かってこの呪文を唱えてね!でも、呪文は他のヒトには秘密だよ!」という言葉と、呪文が記載されていた。その記事を読んだ、シーマ、モロコシ、ミミは驚いて乱れた呼吸を整えながら、オーレルに向かってニッコリと笑いかけた。
「これなら、『よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)』に、『月刊ヌー特別号』の内容を落とし込むことができますよ」
「よかったね、オーレルさん!」
「みー!」
三人に続いて、はつ江とバービーもニコリと微笑んだ。
「よかっただぁね!おおれるさん!バービーさんや、本を直してもらえるかい?」
「まっかせてー♪じゃあ、私はちょっと家に戻って、オリハルコンの板金を持ってくるね!『月刊ヌー特別号』が見つかったから、もう魔法は解けてるんでしょ?」
バービーがそう言うと、オーレルはコクリと頷いた。
「ああ。じゃあ、バビ子、悪いがオリハルコンを持ってきてく……」
持ってきてくれ、オーレルがそう言おうとした。
まさにそのとき!
「その必要はありません!」
読書室を兼ねた客間の中に、年配の男性の声が響いた。一同は驚いて、一斉に声のする方へ顔を向けた。
すると、そこには可愛らしくデフォルメされたバッタの顔をした張りぼてが、ふよふよと浮かんでいた。
「正義のマスコット、ロカスト・オ・ランタン!ここに馳せ参じました!」
ロカスト・オ・ランタンはそう言い放つと、空中でクルンと縦に一回転した。
ファンシーなマスコットが急に登場したことにより……
「あれまぁよ!可愛らしいバッタさんだねぇ!」
はつ江は目を丸くしながら、大げさに驚き……
「わぁ!可愛い!」
「みー!みー!」
モロコシとミミは目を輝かせながら、ミミと尻尾をピンと立てて喜び……
「えーと、その声はビフロ……ん?でも、なぁ……」
オーレルは困惑した表情を浮かべながら、首を傾げ……
「えーと、殿下、知り合いのヒト?」
バービーは気まずそうに頬を掻きながら、シーマに問いかけ……
「えー……まあ、何というか……ちょっと、待っててくれ……」
……シーマは尻尾をダラリと垂らして脱力した。
シーマは席を立つと、トボトボとした足取りでロカスト・オ・ランタンの元に向かっていった。
「すみません、ちょっとだけこっちに来てもらえますか?」
シーマが脱力しながら声をかけると、ロカスト・オ・ランタンはクルリと縦に一回転した。
「かしこまりました!殿下!」
そして、二人は部屋の隅へ移動した。すると、シーマが小声でロカスト・オ・ランタンに声をかけた。
「えーと、大体の事情は分かりますが、一応聞きますよ……何してるんですか?ビフロン長官」
「な、何をおっしゃるのですか、殿下!わ、私は決して魔界霊魂庁長官のビフロンではなく……ファンシーな正義のマスコット、ロカスト・オ・ランタンです!」
ビフロン……もとい、ロカスト・オ・ランタンが分かりやすく動揺すると、シーマは尻尾をダラリと垂らしてため息を吐いた。そして、視線をチラリと後ろに向けた。シーマの視線の先では、モロコシとミミが目を輝かせながら、ワクワクとした表情を浮かべていた。
「分かりました……ひとまず、子供達が喜んでいるんで、その設定でいきます……」
「ありがとうございます、殿下。実は……陛下から、殿下の気配が感じられなくなったから変装して様子を見てきてくれ、とおおせつかりました。なので、トビウオの夜についての会議を抜け出し、こちらの様子をうかがっていた次第です」
ロカスト・オ・ランタンが事情を説明すると、シーマは脱力しながらもペコリと頭を下げた。
「すみません……兄の過保護と悪ノリに付き合わせてしまって……」
「そんな、とんでもございません!正義のマスコットという大役をおおせつかり、年甲斐もなくワクワクいたしましたから!」
ロカスト・オ・ランタンは嬉しそうにそう言うと、クルンと横に一回転した。
「あと、修理に必要な材料は持って参りましたので、ご安心ください!」
「重ね重ね、ありがとうございます。じゃあ、皆のところに戻りましょうか……」
シーマがそう言うと、ロカスト・オ・ランタンはコクリと頷いた。そして、二人は一同の元に戻っていった。
「お待たせいたしました皆さん!今日は、皆さんに必要な物を持って参りました」
ロカスト・オ・ランタンそう言うと、えい、というかけ声とともに、縦にクルンと一回転した。すると、ロカスト・オ・ランタンの目の前に、ポフンと音を立てて、オリハルコンの板金が現れた。
フワフワと浮かぶオリハルコンの板金を見て、モロコシとミミは目を輝かせながら尻尾とミミをピンと立てた。
「わぁ!ロカスト・オ・ランタンさん、すごーい!」
「みみーみ!」
モロコシとミミがパチパチと送ると、シーマも苦笑を浮かべながらポフポフと拍手を送った。
「す、凄ーい!」
シーマがうわずった声で称賛すると、はつ江がニコリと微笑んだ。
「ありがとうね、ろけっとらんたんさん。これで、本の修理ができるだぁよ!」
はつ江がそう言ってペコリと頭を下げると、ロカスト・オ・ランタンはふるふると震えた。
「いえいえ。正義のマスコットとして、当然のことをしたまでです」
ロカスト・オ・ランタンは名称を間違えられたことを気にもとめずに、クルリと縦に一回転した。そして、バービーに顔を向けると、フワフワと左右に揺れた。
「さあ、凄腕見習い修理師のお嬢さん!これで、本の修理をお願いいたします!」
不意に声をかけられたバービーは、ビクッと身を震わせた。バービーは困惑した表情でロカスト・オ・ランタンを見つめた。しかし、すぐに口の端を吊り上げると、ニッと不敵な笑みを浮かべた。
「任せなさい!正義のマスコットをするようなお偉いさんに、私の腕を見せてやろうじゃない!」
バービーはそう言い放つと、シーマに顔を向けた。
「殿下!その板金に、なくなったページの内容を転写してもらえる?」
「うん!分かったよ!……あ」
バービーに声をかけられたシーマは、咄嗟にロカスト・オ・ランタン向けの返事をしてしまった。シーマは片耳をパタパタと動かしながら顔を洗う仕草をすると、コホンと咳払いをした。
「ああ、分かった。はつ江、ちょっと『よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)』を取り出してくれないか?」
「分かっただぁよ!」
声をかけられたはつ江は、シーマの言い間違いを指摘することなく、元気よく返事をした。
こうして、『月刊ヌー特別号』を修理する準備が、無事に整ったのだった。
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