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第一章 シマシマな日常

ペタン

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 図書館の掃除をしながら「月刊ヌー特別号」の捜索をしていたシーマ十四世殿下一行は、本棚と壁の隙間から白銀色に輝くバッタを発見した。そして、隣の部屋へ移動し、バッタの正体を突き止めようとしていた。
 
「前進が白銀色で、光沢があって、翅と後ろ脚に青い水玉模様があって……」

 シーマはバッタの特徴を呟きながら、「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」をポチポチと操作した。はつ江はそんなシーマの様子を見ながら、感心したように、ほうほう、と声を漏らした。

「そのピコピコで、バッタさんの種類が分かるんだねぇ」

 はつ江の言葉に、シーマはコクリと頷いた。

「ああ。『ドキドキ☆魔界・直翅目大図鑑!』に見た目の特徴を入力すると、その特徴をもったバッタを検索してくれるんだ」

「あれまぁよ!それは、すごいねぇ!」

 はつ江が目を見開いて驚いていると、頭に白銀色のバッタをのせたバービーが、ふーん、と声を漏らした。

「そうなんだー。でも、画像を入力して検索できたら、もっと便利なのにね」

「みーみー」

 バービーの隣で、ミミもコクコクと頷いた。すると、オーレルがボリボリとあごひげを掻きながら、二人に目を向けた。

「こらこら、バビ子もミミ子も、あんまり無理言うもんじゃねぇぞ。分厚い『ドキドキ☆魔界・直翅目大図鑑!』の内容が、こんな薄い板に入ってるだけでもすごいことなんだからな」

 オーレルが諭すように告げると、バービーは、それもそうだね、と返事をした。

「殿下、無理言っちゃってごめんね」
 
 バービーはそう言うと、頭の上に乗ったバッタを落とさないようにしながら、軽く頭を下げた。

「みー」

 続いて、ミミもペコリと頭を下げる。二人の様子を見て、シーマは苦笑を浮かべて片耳をパタパタと動かした。

「気にしないでください。それに、バービーさんが言ったとおり、画像で機能があればもっと便利になりますよね……今度、兄貴に相談してみようかな」

 シーマはそう言いながら、「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」の操作をポチポチと続けた。すると、画面には、バービーの頭の上に乗ったバッタとよく似た画像が表示された。シーマは画像とバービーの頭の上に乗ったバッタを見比べると、コクリと頷いた。

「うん、多分、このバッタみたいだな」

 シーマが満足げな表情で呟くと、はつ江も「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」を覗き込んだ。

「どれどれ、私にも見せておくれ」

「私にも、見せて見せて!」

「みー!」

「一体、どんなバッタだったんだ?」


 そして、はつ江に続きバービー、ミミ、オーレルも「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」を覗き込む。

  学名:ミズタマシロガネクイバッタ
  分布:魔界南部※
  全長:20 mm-40 mm
  体色:白銀色、前翅と後脚には青い水玉模様
  食性:オリハルコン
  オリハルコンを主食としているバッタ。その食性から、魔界南部の高山地帯に多く生息する。
  ※稀に、オリハルコンを取り扱う工房付近にも、出現することがある。
 
「オリハルコンを……食べるバッタ?」

 図鑑の内容を読んだシーマは、首を傾げて尻尾の先をクニャリと曲げた。すると、はつ江が感心したように、ほうほう、と声を漏らした。

「こっちには、色んなものを食べるバッタさんがいるんだねぇ」

 はつ江がシミジミとした口調でそう言うと、シーマは訝しげな表情をしたままコクリと頷いた。

「そうだな。ボクもそこまで詳しくないけど、花びらしか食べないバッタとか、宝石を食べるバッタなんかもいるらしいぞ」

「あれまぁよ!それは、めずらしいねぇ!」

 シーマが説明すると、はつ江は目を丸くして驚いた。一方、バービーはキョトンとした表情で首を傾げた。

「この辺だとめずらしいバッタだってのは分かったけど、なんで図書館にいるのかな?」

「みみー?」

 バービーに続いて、ミミもキョトンとした表情で首を傾げた。すると、シーマは、うーん、と唸りながら、片耳をパタパタと動かした。

「オリハルコンを取り扱っている場所に出現することがある、って書いてありますから……オーレルさん、何かオリハルコン製の家具とか、装飾品とかを持っていませんか?」

 シーマは尻尾の先をクニャリと曲げながら、オーレルに問いかけた。しかし、オーレルは下を向いて、黙り込んでいた。そのうえ、手をギュッと握りしめ、肩をワナワナと震わせている。
 オーレルの様子を見たシーマは、耳をペタンと伏せて尻尾の毛を逆立てた。そして、ミミも不安げな表情を浮かべながら耳を伏せて、短い尻尾の毛をポフっと逆立てた。

「お、オーレルさん?落ち着いてください」

「み、みー?」

 シーマとミミは、オーレルを宥めようと声をかけた。しかし、オーレルは勢いよく顔を上げると、バービーの頭の上に乗ったミズタマシロガネクイバッタに、険しい表情を向けた。

「お前が『月刊ヌー特別号』を食っちまったのか!?」

 そして、ミズタマシロガネクイバッタに向かって、大声で怒鳴った。すると、バッタはバービーの頭から跳ね上がり、翅を広げ天井に向かって飛び立った。そして、天井から吊されたシャンデリアの上に足を下ろすと、翅を畳んでじっと動かなくなった。

「やい!バッタ!さっさと降りてこい!」

 オーレルはシャンデリアを見上げながら、地団駄を踏んでミズタマシロガネクイバッタを怒鳴りつけた。しかし、ミズタマシロガネクイバッタは、オーレルの怒鳴り声を気にすることなく、シャンデリアの上で顔を洗う仕草をした。

「この野郎、馬鹿にしやがって……」

 バッタの様子を見たオーレルは、再びワナワナと肩を震わせた。そんなオーレルの姿を見て、シーマははつ江の手をギュッと握り、ミミはバービーの脚にギュッとしがみついた。はつ江とバービーは、それぞれシーマとミミの頭をポフポフと撫でると、オーレルに向かってキッと鋭い目を向けた。

「これ!おおれるさん!そんなに怒鳴ったら、バッタさんと子供達が怖がるだろ!!」

「そうよ!自分でも、殿下とミミちゃんを怖がらせちゃ悪いって言ってたじゃん!!」

 はつ江とバービーに叱られたオーレルは、ハッとした表情を浮かべた。そして、耳を伏せたシーマとミミを見ると、バツの悪そうな表情を浮かべ、あごひげをボリボリと掻きながら頭を下げた。

「悪かった……あのバッタが、『月刊ヌー特別号』を食っちまったのかと思ったら、ついカッとなっちまって」

 オーレルが謝ると、シーマとはつ江はキョトンとした表情を浮かべて、同時に首を傾げた。

「ミズタマシロガネクイバッタが、『月刊ヌー特別号』を食べた?」

「でも、おおれるさんや、あのバッタさんは、紙じゃなくてなんとかなんとかっていうのを食べるんだろ?」

 シーマとはつ江の質問に、オーレルは、ああ、と呟きながら、コクリと頷いた。

「『月刊ヌー特別号』はな、表紙も含めた全ページが、オリハルコンでできてるんだよ」

 オーレルが答えると、バービーが合点がいったという表情を浮かべて、コクコクと頷いた。

「そっか。オリハルコンってすごく薄く加工できるし、軽くて丈夫だから本にもできるもんね」

「みみー」

 バービーが説明すると、ミミも感心したように声を漏らして頷いた。

「ああ。ただ、値段が目玉が飛び出そうなくらい高いから、ここには『月刊ヌー特別号』の他にはオリハルコン製の本はおいてないんだ」

 オーレルがそう言うと、シーマは尻尾の先をクニャリと曲げながら、シャンデリアを見上げた。

「なら、あのミズタマシロガネクイバッタに、雑誌がどこにあるか探してもらいたいところけど……」

「バッタさんとお話をするには、モロコシちゃんがいないとねぇ……」
 
 二人が残念そうに呟くと、バービーがハッとした表情を浮かべた。

「そうだ!じゃあ、モロコシのママに連絡して、学校が終わったらここに来て欲しいって伝えてもらえばいいんじゃん!」

「みー!」

 バービーがひらめきを口にすると、ミミもコクコクと頷きながらピョコピョコと跳びはねた。

「おっちゃん!この図書館にかけた魔法を解いて、外に連絡できるようにしてもらえる!?」

 バービーはウキウキとした表情で、オーレルに問いかけた。すると、オーレルはギクリとした表情を浮かべた。そして、ギョロギョロと目を泳がせると、ボリボリと頭を掻いた。

「あー、その、えーとだな……」

 オーレルが歯切れの悪い返事をすると、はつ江がキョトンした表情で首を傾げた。

「どうしたんだい?おおれるさん」

「ま、まさか、魔法が解けない、なんて言いませんよね?」

 はつ江に続いて、シーマも引きつった笑顔を浮かべながらオーレルに問いかけた。すると、オーレルは再びギクリとした表情を浮かべ、ギョロギョロと目を泳がせた。
 一同が心配そうに見つめていると、オーレルは観念したように深いため息をついた。

「お前ら、すまねぇ……その、魔法をかけたとき、かなりカッカしてたんだ。だから、『月刊ヌー特別号』が見つかるまで、俺にも解けないような強い魔法をかけちまって……」

 オーレルはバツの悪そうな表情を浮かべて、事情を説明した。
 すると……

「あれまぁよ!」

 はつ江は、目を丸くして驚き……

「マジで!?じゃあ、『月刊ヌー特別号』が見つかるまで、外に出られないし連絡もできないってこと!?」

 バービーは焦った表情を浮かべながらオーレルを問いただし……

「み、みみー……」

 ミミは不安げな表情でバービーの脚にしがみつき……

「そうですか……」

 ……シーマは尻尾をダラリと垂らして脱力した。

「お前ら、本当にすまん!」
 
 オーレルは頭を勢いよく下げて、再び四人に謝った。すると、はつ江はカラカラと笑いながら、オーレルの肩をポンポンと軽く叩いた。

「気にすることねぇだよ!おおれるさん!本が見つければいいだけの話さね!」

「そうそう!ミズタマシロガネクイバッタがここにいるってことは、『月刊ヌー特別号』は確実にこの図書館の中にあるってことじゃん!なら、後は見つけるだけでしょ!」

「みー!みー!」

 はつ江に続いて、バービーとミミもフォローの言葉を口にした。そして、シーマも苦笑いを浮かべながら、コクリと頷いた。

「そうですよ。それに、ビフロン長官と兄はボク達がここにいることを知っていますから、もしも日が沈んでも帰れないなんてことがあったら、心配して見に来るでしょうし」

 四人の言葉を受けて、オーレルは穏やかな表情で微笑んだ。

「そうか。ありがとうな、お前ら」

「いえいえ。お気になさら……」

 シーマはオーレルに対して、ニコリと微笑みながら言葉を返そうとした。
 まさに、そのとき!
 シーマのお腹から、くぅ、という可愛らしい音が聞こえた。

「……」
「……」
「……」
「……」
「……」

 一同のもとには、気まずい沈黙が訪れた。

「あー、あれだ。朝から掃除しっぱなしだったし、そろそろ飯にするか」

 沈黙を打ち破ったのは、気まずそうにあごひげを掻くオーレルの声だった。

「そうですね……そうしましょう」

 シーマは尻尾ダラリと垂らしながら、力なくオーレルに同意した。
 こうして、一行は掃除と「月刊ヌー特別号」の捜索を一旦止めて、お昼ご飯にすることになったのだった。
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