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第一章 シマシマな日常
ガックリ
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全自動集塵魔導機祝祭舞曲を修理するための補修剤を探し求めるシーマ14世殿下一行は、魔王城地下迷宮の第五階層にたどり着いた。
「殿下ー、すべり台楽しかったね!」
モロコシが目を細めて尻尾をピンと立てながら話しかけると、シーマはニッコリと笑ってモロコシの頭をポフポフ撫でた。
「そうだな、モロコシ。でも最下層だけあって、今回は気を引き締めた方がいいぞ」
そう言うと、シーマは凜々しい表情をして顔を上げた。シーマの視線の先には、きらびやかな宝石が埋め込まれ、精巧なレリーフが施された扉があった。その扉には、中央に魔法陣が描かれた閂がかかっている。
「でもシマちゃんや、このお部屋には何も無ぇだぁよ?」
シーマの隣で、はつ江が辺りをキョロキョロと見渡してから首を傾げた。はつ江の言葉通り、辺りには障害物が何も無く、広々とした部屋になっている。一見すると部屋の奥にある扉にたどり着くのは簡単そうだが、魔王は小さく首を振った。
「いや、むしろ今までの中で、一番危険な部類だ」
緊張した面持ちで魔王が剣の柄に手を掛けると、隣で五郎左衛門も懐から四方手裏剣を取り出した。
「陛下、殿下、これから何が始まるのでござるか?」
厚みのある尖った耳を扉の方に向けて凜々しい表情で五郎左衛門が問いかけると、シーマが尻尾を左右にうねらせながら扉を睨みつけた。
「閂に魔法陣が書いてあるだろ?あれは、宝物庫を護るものを呼び出す魔法陣なんだ」
「ほうほう、そうなのかい」
シーマの隣ではつ江がのんきな表情で相槌を打つと、魔王が剣を抜いて構えながら頷いた。
「ああ。ただ宝物庫担当の従業員は、今は全員別の職業についているから……多分、ゴーレムあたりが来るのだと思う」
「ゴーレムって、あの粘土で作るゴーレム?」
モロコシが尻尾の先をクニャリと曲げてキョトンとした表情で首を傾げると、シーマがコクリと頷いた。
「ああ。材料が粘土だったら、まだ何とかなるんだけど、もしも厄介な物だったら……」
シーマがそう言って息をのんだ瞬間、閂に描かれた魔法陣が輝きだした。そして、部屋の中央からもくもくと煙が立ち上がった。
「っ!?はつ江、モロコシ!ちょっと下がってろ!!」
シーマが二人の前に出て両手を広げると、煙は段々と消えて巨大なゴーレムが現れた。
その色は薄い黄色で、体の至る所に気泡ができている。
頭頂部の色は深緑色で、他の部分より硬そうな材質になっている。
「あれまぁよ!台所のスポンジみたいだね!」
「ほんとだー!スポンジだー!」
「まことにスポンジでござるな!」
はつ江、モロコシ、五郎左衛門が楽しそうにゴーレムの感想を述べると、魔王は剣を鞘に収めた。そして、指をパチリと鳴らし、白い魔法陣を浮かび上がらせた。
「ふぅむ、スポンジで間違い無いようだな……」
魔王が魔法陣をのぞき込んで呟くと、シーマがヒゲと尻尾を垂らして、ガックリと脱力した。
「……まあ、危険なものが出てくるよりはいいけど……何か、こう、釈然としないな」
シーマが脱力していると、スポンジゴーレムは両腕をブンブンと振り回した。しかし、脚は地面に固定されたかのように、ピクリとも動いていない。
「しかも……襲ってくる様子も、全く無いし……」
シーマがため息まじりに呟くと、はつ江がカラカラと笑いだした。
「まあまあシマちゃんや、危なくねぇならそれで良いだぁよ!ところで、あのスポンジ君はどうすりゃ良いんだい?」
はつ江が首を傾げると、隣でモロコシがフカフカの手を口元に当てて、ふーむ、と呟いた。
「えーとね、この間学校で習ったんだけど……えーと……なんだっけ?」
魔王の真似をしてみたモロコシだったが、肝心の対処方法を忘れてしまったため、助けを求めるような目で五郎左衛門を見上げた。
「ふむ!ゴーレムというものは、体のどこかにおまじないの言葉が書いてあるのでござる!然らば、その言葉を二重線で消して、止まれ!、と書き込めば、動きを止めることができるのでござる!」
不意に話題を振られた五郎左衛門だったが、勤め先が博物館ということもあり、難なく解説をこなした。すると、魔王がコクリと頷いて、五郎左衛門の頭をワシワシと撫でた。
「だから、まずおまじないの言葉がどこに書いてあるかを探す必……」
魔王がそう言った途端、ゴーレムが上体を、上下左右にグルリと回した。その頭には、動け!、という白い文字が描かれている。
「……要があったが、たった今省けたな」
魔王がやや脱力気味に言葉を漏らすと、モロコシはフカフカの手でローブのポケットを探した。そして、割と何にでも書けるペンを取り出すと、胸のあたりで握りしめて凜々しい表情を浮かべた。
「じゃあ、ボクが書いてくるよ!」
そして、決意に満ちた表情で、ゴーレムに向かって歩きだした。
「ちょっと待て!」
「わっ!?」
しかし、すぐにシーマがローブのフードを引っ張ってモロコシを止めた。
「もー!殿下、なにするのー?」
モロコシが鼻の下を膨らませて、尻尾を縦にパシパシと振りながら抗議すると、シーマも尻尾を縦に大きく振った。
「何するの、じゃ無い!そんなことしたら危ないだろ!怪我しちゃったら、どうするんだ!?」
シーマが叱りつけると、モロコシは尻尾を垂らしてシュンとした表情を浮かべた。その表情を見て、シーマは気まずそうな表情を浮かべて、フカフカの頬を掻いた。
「……ごめん、ちょっと強く言いすぎた。でも、危ないから一緒にいこうな」
シーマが諭すようにそう言うと、モロコシは表情を明るくして、うん!、と元気よく返事をした。はつ江はニコニコしながら二人を見て頷くと、魔王を見上げて首を傾げた。
「ヤギさんや、あの二人に任せてやっても大丈夫かね?」
はつ江が尋ねると、魔王は、ふぅむ、と呟いてから、スポンジゴーレムとしましまコンビを見比べた。
「たとえ攻撃を受けたとしても、スポンジだしな……それに、あの高さであれば、振り落とされたとしても全く問題無い防御力の装備をしているし、大丈夫だ」
「それに、高いところによじ登るのは、ネコ科の十八番でござるからな!」
魔王の言葉に五郎左衛門が続くと、はつ江は安心してニコリと微笑んだ。
「なら、良かっただぁよ。じゃあ、シマちゃん、モロコシちゃん、気を付けて行っておいで」
はつ江そう言って微笑みを向けると、二人は目を輝かせながらヒゲと尻尾をピンと立てた。
「ああ!任せてくれ!」
「うん!頑張るよー!」
そして二人は顔を見合わせてると、息ピッタリに頷いた。
「よし、じゃあボクがゴーレムの気を引くから、モロコシはその間にゴーレムによじ登ってくれ」
「うん!分かったー!」
簡単な打ち合わせを行うと、二人はスポンジゴーレムに向かって走り出した。そして、スポンジゴーレムの手前で二手に分かれ、シーマはスポンジゴーレムの正面に、モロコシはスポンジゴーレムの横を通り過ぎて背後に向かった。スポンジゴーレムはブンブンと振り回していた手を止めて、上体をゆっくりと回しながらモロコシの動きを追う。
「やーい!スポンジー!こっち向けー!」
しかし、シーマが床に落ちていた小石を拾って投げつけると、再び上体を回して正面を向いた。そして、憤慨した表情を浮かべながら、右手をシーマに向かって振り下ろす。
「そんな攻撃、当たらないぞ!」
しかし、シーマはピョンと飛び跳ねて、スポンジゴーレムの拳をかわした。シーマは得意げな表情でフフンと鼻を鳴らすと、スポンジゴーレムの顔を見上げた。スポンジゴーレムは苛立った表情を浮かべて、今度は左手を振り下ろす。シーマは再びピョンと飛び跳ねて拳をかわした。
「ほー。なんだか、反復横跳びを見てるみたいだねぇ」
「確かに、反復横跳びでござるな」
「反復横跳びだな」
奮闘するシーマを遠目に見ながら、大人達三人は感心したように声を漏らした。
そうこうしている間に、モロコシはスポンジゴーレムの背後に回り込んだ。そして、左右に揺れるスポンジゴーレムの背中をキョロキョロと目で追うと、姿勢を低くして尻尾を床と水平になるように伸ばした。それから、尻尾の先をゆらゆらと揺らし、細かく足踏みをすると……
「えいっ!」
かけ声とともに、勢いよくスポンジゴーレムの背中に飛びついた。
不意に背中に飛びつかれたスポンジゴーレムは驚いた表情を浮かべ、モロコシを振り落とそうと上体をグルグルと回した。しかし、モロコシは小さいながらも鋭いかぎ爪でしっかりと背中にしがみついているため、背中から振り落とすことができない。それどころか、パリパリと音を立てながら、どんどん背中を登っていく。
「もうちょっと……もうちょっと……よーし!」
ついに、モロコシはスポンジゴーレムを登り切り、頭頂部にたどり着いた。そして、ポケットから、割と何にでも掛けるペンを取り出すと「動け!」という文字に二重線を引き、「止まれ!」という文字を書き記した。
すると、スポンジゴーレムはフシューという音を立てて、動きを止めた。
「モロコシー!やったな!」
シーマがスポンジゴーレムの足下から手を振ると、モロコシもニッコリと笑いながらペンを握りしめた手を振った。
「うん!やったね、殿下!」
モロコシはそう言うと、ペンをポケットにしまい、スポンジゴーレムの頭からピョインと飛び降りた。
二人は、いぇい!、と言ってプニプニの肉球がついた手でハイタッチをすると、大人達三人のもとに駆け戻った。
「はつ江ー!どうだ!凄いだろ!」
「ぼく達でゴーレム止めたよー!」
二人が嬉しそうに笑いながら駆け寄ると、はつ江はニッコリと笑った。
「そうだねぇ、二人とも、とっても格好良かっただぁよ!」
はつ江はそう言うと、シーマとモロコシの頭をフカフカと撫でた。すると、シーマは得意げな表情で、フフン、と鼻を鳴らし、モロコシは、えへへー、と言いながら嬉しそうに目を細めた。
「お二人とも、まことに素晴らしい活躍でござった!」
五郎左衛門も二人に近づき、尻尾を振りながらしっかりとした肉球のついた手でタシタシと拍手を送った。そして、二人の頭をポフポフと撫でた後、魔王の方に振り返った。
「……しかして魔王陛下、何故お泣きになっているのでござるか?」
五郎左衛門が困惑気味に尋ねると、黒いハンカチで目元を押さえながら口を開いた。
「いや……あんなに小っちゃくて、泣き虫で、すぐ迷子になって、さみしんぼで、右と左をすぐに間違えて、兄ちゃん兄ちゃんと後をついて回っていたシーマが……お友達と協力してゴーレムを倒せるようになったのかと思うと……感慨深くてな……」
魔王が声を震わせながら答えると、シーマが鼻の下を膨らませて尻尾を縦に大きく振った。
「さりげなく色々とばらすなよ!このバカ兄貴!」
憤慨するシーマの声が、地下迷宮最下層の部屋に響いた。
ともあれ、一行はシーマとモロコシの活躍によって、スポンジゴーレムを撃破したのだった。
「殿下ー、すべり台楽しかったね!」
モロコシが目を細めて尻尾をピンと立てながら話しかけると、シーマはニッコリと笑ってモロコシの頭をポフポフ撫でた。
「そうだな、モロコシ。でも最下層だけあって、今回は気を引き締めた方がいいぞ」
そう言うと、シーマは凜々しい表情をして顔を上げた。シーマの視線の先には、きらびやかな宝石が埋め込まれ、精巧なレリーフが施された扉があった。その扉には、中央に魔法陣が描かれた閂がかかっている。
「でもシマちゃんや、このお部屋には何も無ぇだぁよ?」
シーマの隣で、はつ江が辺りをキョロキョロと見渡してから首を傾げた。はつ江の言葉通り、辺りには障害物が何も無く、広々とした部屋になっている。一見すると部屋の奥にある扉にたどり着くのは簡単そうだが、魔王は小さく首を振った。
「いや、むしろ今までの中で、一番危険な部類だ」
緊張した面持ちで魔王が剣の柄に手を掛けると、隣で五郎左衛門も懐から四方手裏剣を取り出した。
「陛下、殿下、これから何が始まるのでござるか?」
厚みのある尖った耳を扉の方に向けて凜々しい表情で五郎左衛門が問いかけると、シーマが尻尾を左右にうねらせながら扉を睨みつけた。
「閂に魔法陣が書いてあるだろ?あれは、宝物庫を護るものを呼び出す魔法陣なんだ」
「ほうほう、そうなのかい」
シーマの隣ではつ江がのんきな表情で相槌を打つと、魔王が剣を抜いて構えながら頷いた。
「ああ。ただ宝物庫担当の従業員は、今は全員別の職業についているから……多分、ゴーレムあたりが来るのだと思う」
「ゴーレムって、あの粘土で作るゴーレム?」
モロコシが尻尾の先をクニャリと曲げてキョトンとした表情で首を傾げると、シーマがコクリと頷いた。
「ああ。材料が粘土だったら、まだ何とかなるんだけど、もしも厄介な物だったら……」
シーマがそう言って息をのんだ瞬間、閂に描かれた魔法陣が輝きだした。そして、部屋の中央からもくもくと煙が立ち上がった。
「っ!?はつ江、モロコシ!ちょっと下がってろ!!」
シーマが二人の前に出て両手を広げると、煙は段々と消えて巨大なゴーレムが現れた。
その色は薄い黄色で、体の至る所に気泡ができている。
頭頂部の色は深緑色で、他の部分より硬そうな材質になっている。
「あれまぁよ!台所のスポンジみたいだね!」
「ほんとだー!スポンジだー!」
「まことにスポンジでござるな!」
はつ江、モロコシ、五郎左衛門が楽しそうにゴーレムの感想を述べると、魔王は剣を鞘に収めた。そして、指をパチリと鳴らし、白い魔法陣を浮かび上がらせた。
「ふぅむ、スポンジで間違い無いようだな……」
魔王が魔法陣をのぞき込んで呟くと、シーマがヒゲと尻尾を垂らして、ガックリと脱力した。
「……まあ、危険なものが出てくるよりはいいけど……何か、こう、釈然としないな」
シーマが脱力していると、スポンジゴーレムは両腕をブンブンと振り回した。しかし、脚は地面に固定されたかのように、ピクリとも動いていない。
「しかも……襲ってくる様子も、全く無いし……」
シーマがため息まじりに呟くと、はつ江がカラカラと笑いだした。
「まあまあシマちゃんや、危なくねぇならそれで良いだぁよ!ところで、あのスポンジ君はどうすりゃ良いんだい?」
はつ江が首を傾げると、隣でモロコシがフカフカの手を口元に当てて、ふーむ、と呟いた。
「えーとね、この間学校で習ったんだけど……えーと……なんだっけ?」
魔王の真似をしてみたモロコシだったが、肝心の対処方法を忘れてしまったため、助けを求めるような目で五郎左衛門を見上げた。
「ふむ!ゴーレムというものは、体のどこかにおまじないの言葉が書いてあるのでござる!然らば、その言葉を二重線で消して、止まれ!、と書き込めば、動きを止めることができるのでござる!」
不意に話題を振られた五郎左衛門だったが、勤め先が博物館ということもあり、難なく解説をこなした。すると、魔王がコクリと頷いて、五郎左衛門の頭をワシワシと撫でた。
「だから、まずおまじないの言葉がどこに書いてあるかを探す必……」
魔王がそう言った途端、ゴーレムが上体を、上下左右にグルリと回した。その頭には、動け!、という白い文字が描かれている。
「……要があったが、たった今省けたな」
魔王がやや脱力気味に言葉を漏らすと、モロコシはフカフカの手でローブのポケットを探した。そして、割と何にでも書けるペンを取り出すと、胸のあたりで握りしめて凜々しい表情を浮かべた。
「じゃあ、ボクが書いてくるよ!」
そして、決意に満ちた表情で、ゴーレムに向かって歩きだした。
「ちょっと待て!」
「わっ!?」
しかし、すぐにシーマがローブのフードを引っ張ってモロコシを止めた。
「もー!殿下、なにするのー?」
モロコシが鼻の下を膨らませて、尻尾を縦にパシパシと振りながら抗議すると、シーマも尻尾を縦に大きく振った。
「何するの、じゃ無い!そんなことしたら危ないだろ!怪我しちゃったら、どうするんだ!?」
シーマが叱りつけると、モロコシは尻尾を垂らしてシュンとした表情を浮かべた。その表情を見て、シーマは気まずそうな表情を浮かべて、フカフカの頬を掻いた。
「……ごめん、ちょっと強く言いすぎた。でも、危ないから一緒にいこうな」
シーマが諭すようにそう言うと、モロコシは表情を明るくして、うん!、と元気よく返事をした。はつ江はニコニコしながら二人を見て頷くと、魔王を見上げて首を傾げた。
「ヤギさんや、あの二人に任せてやっても大丈夫かね?」
はつ江が尋ねると、魔王は、ふぅむ、と呟いてから、スポンジゴーレムとしましまコンビを見比べた。
「たとえ攻撃を受けたとしても、スポンジだしな……それに、あの高さであれば、振り落とされたとしても全く問題無い防御力の装備をしているし、大丈夫だ」
「それに、高いところによじ登るのは、ネコ科の十八番でござるからな!」
魔王の言葉に五郎左衛門が続くと、はつ江は安心してニコリと微笑んだ。
「なら、良かっただぁよ。じゃあ、シマちゃん、モロコシちゃん、気を付けて行っておいで」
はつ江そう言って微笑みを向けると、二人は目を輝かせながらヒゲと尻尾をピンと立てた。
「ああ!任せてくれ!」
「うん!頑張るよー!」
そして二人は顔を見合わせてると、息ピッタリに頷いた。
「よし、じゃあボクがゴーレムの気を引くから、モロコシはその間にゴーレムによじ登ってくれ」
「うん!分かったー!」
簡単な打ち合わせを行うと、二人はスポンジゴーレムに向かって走り出した。そして、スポンジゴーレムの手前で二手に分かれ、シーマはスポンジゴーレムの正面に、モロコシはスポンジゴーレムの横を通り過ぎて背後に向かった。スポンジゴーレムはブンブンと振り回していた手を止めて、上体をゆっくりと回しながらモロコシの動きを追う。
「やーい!スポンジー!こっち向けー!」
しかし、シーマが床に落ちていた小石を拾って投げつけると、再び上体を回して正面を向いた。そして、憤慨した表情を浮かべながら、右手をシーマに向かって振り下ろす。
「そんな攻撃、当たらないぞ!」
しかし、シーマはピョンと飛び跳ねて、スポンジゴーレムの拳をかわした。シーマは得意げな表情でフフンと鼻を鳴らすと、スポンジゴーレムの顔を見上げた。スポンジゴーレムは苛立った表情を浮かべて、今度は左手を振り下ろす。シーマは再びピョンと飛び跳ねて拳をかわした。
「ほー。なんだか、反復横跳びを見てるみたいだねぇ」
「確かに、反復横跳びでござるな」
「反復横跳びだな」
奮闘するシーマを遠目に見ながら、大人達三人は感心したように声を漏らした。
そうこうしている間に、モロコシはスポンジゴーレムの背後に回り込んだ。そして、左右に揺れるスポンジゴーレムの背中をキョロキョロと目で追うと、姿勢を低くして尻尾を床と水平になるように伸ばした。それから、尻尾の先をゆらゆらと揺らし、細かく足踏みをすると……
「えいっ!」
かけ声とともに、勢いよくスポンジゴーレムの背中に飛びついた。
不意に背中に飛びつかれたスポンジゴーレムは驚いた表情を浮かべ、モロコシを振り落とそうと上体をグルグルと回した。しかし、モロコシは小さいながらも鋭いかぎ爪でしっかりと背中にしがみついているため、背中から振り落とすことができない。それどころか、パリパリと音を立てながら、どんどん背中を登っていく。
「もうちょっと……もうちょっと……よーし!」
ついに、モロコシはスポンジゴーレムを登り切り、頭頂部にたどり着いた。そして、ポケットから、割と何にでも掛けるペンを取り出すと「動け!」という文字に二重線を引き、「止まれ!」という文字を書き記した。
すると、スポンジゴーレムはフシューという音を立てて、動きを止めた。
「モロコシー!やったな!」
シーマがスポンジゴーレムの足下から手を振ると、モロコシもニッコリと笑いながらペンを握りしめた手を振った。
「うん!やったね、殿下!」
モロコシはそう言うと、ペンをポケットにしまい、スポンジゴーレムの頭からピョインと飛び降りた。
二人は、いぇい!、と言ってプニプニの肉球がついた手でハイタッチをすると、大人達三人のもとに駆け戻った。
「はつ江ー!どうだ!凄いだろ!」
「ぼく達でゴーレム止めたよー!」
二人が嬉しそうに笑いながら駆け寄ると、はつ江はニッコリと笑った。
「そうだねぇ、二人とも、とっても格好良かっただぁよ!」
はつ江はそう言うと、シーマとモロコシの頭をフカフカと撫でた。すると、シーマは得意げな表情で、フフン、と鼻を鳴らし、モロコシは、えへへー、と言いながら嬉しそうに目を細めた。
「お二人とも、まことに素晴らしい活躍でござった!」
五郎左衛門も二人に近づき、尻尾を振りながらしっかりとした肉球のついた手でタシタシと拍手を送った。そして、二人の頭をポフポフと撫でた後、魔王の方に振り返った。
「……しかして魔王陛下、何故お泣きになっているのでござるか?」
五郎左衛門が困惑気味に尋ねると、黒いハンカチで目元を押さえながら口を開いた。
「いや……あんなに小っちゃくて、泣き虫で、すぐ迷子になって、さみしんぼで、右と左をすぐに間違えて、兄ちゃん兄ちゃんと後をついて回っていたシーマが……お友達と協力してゴーレムを倒せるようになったのかと思うと……感慨深くてな……」
魔王が声を震わせながら答えると、シーマが鼻の下を膨らませて尻尾を縦に大きく振った。
「さりげなく色々とばらすなよ!このバカ兄貴!」
憤慨するシーマの声が、地下迷宮最下層の部屋に響いた。
ともあれ、一行はシーマとモロコシの活躍によって、スポンジゴーレムを撃破したのだった。
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