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第一章 シマシマな日常
ジットリ
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第二階層の試練を突破したシーマ十四世殿下一行は、ハシゴを下りて第三階層にたどり着いた。
そして、はつ江は辺りを見渡すと、目を丸くして驚いた。
「あれまぁよ!ここもお城の地下なのかい?」
はつ江の言葉通り、一行の周囲には背の低い暗緑色の草が生い茂る草原と赤い空が広がっている。
「ああ、まるで野外みたいだな」
はつ江の隣でシーマも腕を組みながら、尻尾をピコピコと揺らして辺りを見渡した。
「ねーねー、魔王さま。ここにも何か仕掛けがあるの?」
モロコシが魔王の服を引っ張りながら首を傾げると、五郎左衛門がフンフンと鼻を動かしながら周囲を見渡した。
「ひとまず、危険物や恐ろしい生き物の臭いはしないようでござるが、魔王陛下いかがなさるでござるか?」
こんがり色コンビに尋ねられた魔王は、ふぅむ、と呟いてから宙に手をかざし、魔法陣を浮かび上がらせた。そして、眉間にしわを寄せながら魔法陣をのぞき込むと軽く頷いた。
「……柴崎君の言うように、危険な薬品が撒かれていたり、危険生物が潜んでいたり、鋭い刃物等の罠は用意されていないようだな」
魔王の言葉に、一同はホッと胸をなで下ろした。魔王は四人を見回して、うんうんと二回頷いてから口を開いた。
「と言うことで、おやつにするとしよう」
魔王の言葉に、シーマとモロコシはヒゲと尻尾をピンと立て、五郎左衛門はくるりと巻いたフサフサの尻尾をブンブン振り、はつ江はニッコリと微笑んだ。
「じゃあ、ヤギさんや。ポシェットからおやつを出せば良いんだね?」
はつ江が笑顔で尋ねると、魔王はコクリと頷いた。
「ああ、材料と調理器具の入ったおやつセットが入っているから、取り出してくれ」
魔王がそう言うと、はつ江は、はいよ!、と元気の良い返事をしてから、ポシェットを探り出した。
「おやつセット、おやつセット……これかいな?」
はつ江はそう言いながらポシェットから白地に黒猫の模様の描かれた風呂敷包みを取り出し、魔王に差し出した。魔王は頷きながら左手でそれを受け取ると、右手の指をパチリと鳴らした。すると、風呂敷包みはひとりでにほどけながら大きく広がり、ふわりと地面に降りていった。風呂敷の上には、リンゴとサツマイモ、砂糖の入ったツボと油の入ったツボ、小ぶりのフライパンと菜箸、まな板と果物用のナイフ、小皿数枚とフォーク五本が載っている。魔王は屈みながらリンゴを手に取ると、紅く光沢のある皮をしげしげと見つめた。
「モロコシ君にいただいたリンゴは生で食べると酸味が強い種類だから、煮リンゴにしようと思う」
「煮リンゴ!?やったぁ!ぼく大好きなんだー!」
「やったな、モロコシ!」
魔王の提案にモロコシはピョコピョコと飛び跳ねながら喜び、シーマは目を細めながらヒゲと尻尾をピンと立てた。
「しかして、魔王陛下。サツマイモの方はいかようになさるのでござるか?」
五郎左衛門も期待に満ちた目で尻尾をブンブンと振りながら小首を傾げると、魔王は、そうだな、と呟いた。
「折角だから、はつ江にも何か作ってもらおうか。ここのところ作ってもらってるご飯も美味しいし」
「任せるだぁよ!ヤギさん!」
はつ江はカラカラと笑いながら答えたが、不意に何かに気づいた様子でキョトンとした表情を浮かべた。
「ところでヤギさんや、私のいた世界だと猫ちゃんとワンちゃんには、砂糖やらの調味料をあげちゃ体に悪かったんだけど、こっちでは平気なのかい?」
はつ江の言葉に、今度はシーマとモロコシと五郎左衛門がキョトンとした表情で首を傾げた。
「そうなのか?こっちだと、特に問題はないぞ」
「ぼくのおじいちゃんも甘い物が大好きだけど、長生きしてるよ?」
「拙者も甘党でござるが、日々体を鍛えていることもあってか、職場の健康診断では毎回『超健康』という結果をいただいているでござるよ?」
三人がそう言うと、はつ江は感心した表情を浮かべて、そうなのかい、と口にした。
「ふむ、確かに何でも食べ過ぎは良くないが、適度に食べてしっかりと動けば問題無い」
「ほうほう。そんなら安心だぁよ!」
はつ江がカラカラと笑うと、シーマが何かを思い着いた表情を浮かべてフカフカの手をポンと打った。
「はつ江……実はこの魔界だと、ネコはピーマンを食べると病気になっちゃうんだ!」
「あれまぁよ!?それじゃあご飯のときに、ピーマンを使ったお料理は出せないねぇ」
シーマの言葉にはつ江が目を丸くしていると、魔王が盛大な咳払いをした。
「こら、シーマ。ピーマンが嫌いだからといって、嘘を吐くのは良くないぞ」
魔王に叱られたシーマはギクリとした表情を浮かべてから、ヒゲと尻尾をダラリと垂らして肩を落とした。
「これこれシマちゃんや、好き嫌いはよくねぇだぁよ」
ニコニコと笑うはつ江に優しい口調で諭されると、シーマは肩を落としながらも、はーい、と素直に返事をした。シーマの返事を聞いた魔王は、納得したようにゆっくりと頷くと、はつ江の顔をのぞき込んだ。
「ちなみに、はつ江……代々魔王の座に就いた者は、ニンジンを口にすると爆発する、という呪いにかかってしまう。だから、食事にニンジンを取り入れるのは勘弁して欲しい」
「あれまぁよ!?それは大変だねぇ!?」
真剣な表情の魔王に対して、はつ江が再び目を丸くして驚くと、今度はシーマが尻尾を大きく縦に振って憤慨した。
「バカ兄貴こそ、真面目な表情で盛大な嘘を吐くな!はつ江が信じちゃってるだろ!」
シーマに叱られると、魔王はシュンとした表情を浮かべて肩を落とした。
「……すまない、はつ江。ほんの冗談だから気にしないでくれ」
「ヤギさんも好き嫌してると、立派な大人になれねぇだあよ!」
はつ江がそう言ってカラカラと笑うと、モロコシがキョトンとした表情を浮かべてから、五郎左衛門の忍び装束を引っ張った。
「ねーねー。五郎左衛門さんは、嫌いな食べ物はある?」
「ん?そうでござるな……苦い物は苦手でござるが、それでも出された食事はなんでも残さず食べるでござるよ!」
五郎左衛門が笑顔で答えると、モロコシは目を輝かせた!
「そうなんだー!五郎左衛門さんは立派な大人なんだね!」
「そんな、滅相もないでござるよ」
謙遜しながらも尻尾をブンブンと振って喜ぶ五郎左衛門とは対照的に、魔王はさらにシュンとした表情をして肩を落とした。あまりの落胆ぶりを見かねたシーマがコホンと咳払いをして、「立派な大人」から話題を変えるべくモロコシの顔を見つめた。
「それで、モロコシは?何か、苦手な食べ物はないのか?」
尻尾の先をピコピコと動かしながらシーマが尋ねると、モロコシはフカフカの手を口元に当てて、うーん、と言いながら首を傾げた。
「ぼくも苦いのと……酸っぱすぎるのが苦手かな。給食で出たときは頑張って食てるんだけど、目つきが凶悪になるから怖い、ってみんなに言われちゃうの」
モロコシがそう言ってシュンとした表情をすると、他の四人から驚愕の表情を向けられた。
「あれまぁよ!?」
「も、モロコシ殿が凶悪な目つきになるのでござるか!?」
「兄貴……体に全く害がなくて、もの凄く苦い物とか持ってないか……?」
「そうだな……いや、シーマ。お友達が困ることをするのは良くないぞ?確かに、俺もちょっと見たいけど……」
凶悪な目つきのモロコシ、という想像が付かない言葉に一同が混乱していると、モロコシが鼻の下をプクーと膨らませて、尻尾をパシパシと縦に振った。
「もー!みんなしてそんなに食いつかないでよ!」
しかし、その表情は不服そうではあるが、凶悪な目つき、という言葉からはほど遠く、むしろ可愛らしいとさえ形容できるほどだ。四人は釈然としないといった表情を浮かべながらも、プンプンと怒るモロコシに向かってペコリと頭を下げて、取り乱したことを謝った。モロコシもすぐにニッコリと笑みを浮かべて、いいよー、と答え事態は終息した。
「……では、気を取り直して、おやつを作るとしようか。はつ江、ポシェットの中に調理道具がもう一式入っているから、使ってくれ」
何とか平常心を取り戻した魔王がそう言うと、はいよ!、という元気の良い返事とともに、はつ江はポシェットから調理道具一式が入った風呂敷包みを取り出した。魔王はその様子を見て頷くと、今度はシーマに顔を向けた。
「シーマ、魔術を使ってかまどを作ってくれないか?点火は俺がするから」
シーマは魔王に凜々しい表情を向けて、分かった!、と返事をすると、フカフカの手を地面に向けてムニャムニャと呪文を唱えた。すると、地面が段々と盛り上がりながら輝きだし、 ポンッという小気味のいい音とともにレンガ製のかまどができあがった。
「シマちゃんの魔法は凄いねぇ!」
「殿下すごーい!」
その様子を見たはつ江とモロコシがパチパチと拍手を送ると、シーマはふいっと二人から顔を背けながらも、尻尾をピンと立てた。
「べ、別にこの位は大したことじゃないんだからな!」
照れくさそうにそう言うシーマに向かって、五郎左衛門もタシタシと拍手を送りながら尻尾を振った。
「いやいや!流石は、魔王城のキューティーマジカル仔猫ちゃん、の異名を持つ殿下!素晴らしいお手際でござるよ!」
五郎左衛門が口にした異名を聞くと、シーマはヒゲと尻尾をダラリと垂らして脱力した表情を浮かべた。
「だから、その恥ずかしい異名は誰が広めたんだよ……」
シーマが力なく呟くと、魔王が目を泳がせた。ほんの一瞬の出来事だったが、シーマはそれを見逃さなかった。そして、ジットリとした視線を魔王に向ける。
「……まさか、兄貴が広めたのか?」
「な、ナニヲイウンダー?オニイチャンハナニモシラナイゾー!」
「白々しいことを言うな!変な異名を広めるなよ、このバカ兄貴!」
棒読みになりながら否定する魔王に向かって、シーマは尻尾を大きく縦に振って憤慨した。はつ江は二人のやり取りを見てカラカラと笑うと、シーマの頭をポンポンと撫でた。
「まあまあシマちゃんや、可愛らしいあだ名なんだから良いじゃねぇか!」
はつ江に異名を褒められたシーマは、ふん、と言ってそっぽを向きながらも、尻尾を立てて喜んだ。
「まあ、今回ははつ江に免じて許してやるから、美味しいおやつを作るんだぞ!バカ兄貴!」
シーマの言葉に、魔王は目を輝かせながら、そうか、と呟いた。はつ江は魔王に向かってニッコリと微笑むと、クラシカルなメイド服の袖を軽く捲って、やる気に満ちた表情を浮かべた。
「じゃあ、ヤギさんや。頑張ろうかねぇ」
「ああ、そうだな、はつ江」
魔王も決意に満ちた表情で答えると、指をパチリと鳴らして白銀の鎧を割烹着に変化させた。
かくして、凶悪な目つきのモロコシ、という謎を残しながらも、キューティーマジカル仔猫ちゃん、の異名が広がった真相を解き明かした一行は、おやつの準備を着々と進めていくのであった。
そして、はつ江は辺りを見渡すと、目を丸くして驚いた。
「あれまぁよ!ここもお城の地下なのかい?」
はつ江の言葉通り、一行の周囲には背の低い暗緑色の草が生い茂る草原と赤い空が広がっている。
「ああ、まるで野外みたいだな」
はつ江の隣でシーマも腕を組みながら、尻尾をピコピコと揺らして辺りを見渡した。
「ねーねー、魔王さま。ここにも何か仕掛けがあるの?」
モロコシが魔王の服を引っ張りながら首を傾げると、五郎左衛門がフンフンと鼻を動かしながら周囲を見渡した。
「ひとまず、危険物や恐ろしい生き物の臭いはしないようでござるが、魔王陛下いかがなさるでござるか?」
こんがり色コンビに尋ねられた魔王は、ふぅむ、と呟いてから宙に手をかざし、魔法陣を浮かび上がらせた。そして、眉間にしわを寄せながら魔法陣をのぞき込むと軽く頷いた。
「……柴崎君の言うように、危険な薬品が撒かれていたり、危険生物が潜んでいたり、鋭い刃物等の罠は用意されていないようだな」
魔王の言葉に、一同はホッと胸をなで下ろした。魔王は四人を見回して、うんうんと二回頷いてから口を開いた。
「と言うことで、おやつにするとしよう」
魔王の言葉に、シーマとモロコシはヒゲと尻尾をピンと立て、五郎左衛門はくるりと巻いたフサフサの尻尾をブンブン振り、はつ江はニッコリと微笑んだ。
「じゃあ、ヤギさんや。ポシェットからおやつを出せば良いんだね?」
はつ江が笑顔で尋ねると、魔王はコクリと頷いた。
「ああ、材料と調理器具の入ったおやつセットが入っているから、取り出してくれ」
魔王がそう言うと、はつ江は、はいよ!、と元気の良い返事をしてから、ポシェットを探り出した。
「おやつセット、おやつセット……これかいな?」
はつ江はそう言いながらポシェットから白地に黒猫の模様の描かれた風呂敷包みを取り出し、魔王に差し出した。魔王は頷きながら左手でそれを受け取ると、右手の指をパチリと鳴らした。すると、風呂敷包みはひとりでにほどけながら大きく広がり、ふわりと地面に降りていった。風呂敷の上には、リンゴとサツマイモ、砂糖の入ったツボと油の入ったツボ、小ぶりのフライパンと菜箸、まな板と果物用のナイフ、小皿数枚とフォーク五本が載っている。魔王は屈みながらリンゴを手に取ると、紅く光沢のある皮をしげしげと見つめた。
「モロコシ君にいただいたリンゴは生で食べると酸味が強い種類だから、煮リンゴにしようと思う」
「煮リンゴ!?やったぁ!ぼく大好きなんだー!」
「やったな、モロコシ!」
魔王の提案にモロコシはピョコピョコと飛び跳ねながら喜び、シーマは目を細めながらヒゲと尻尾をピンと立てた。
「しかして、魔王陛下。サツマイモの方はいかようになさるのでござるか?」
五郎左衛門も期待に満ちた目で尻尾をブンブンと振りながら小首を傾げると、魔王は、そうだな、と呟いた。
「折角だから、はつ江にも何か作ってもらおうか。ここのところ作ってもらってるご飯も美味しいし」
「任せるだぁよ!ヤギさん!」
はつ江はカラカラと笑いながら答えたが、不意に何かに気づいた様子でキョトンとした表情を浮かべた。
「ところでヤギさんや、私のいた世界だと猫ちゃんとワンちゃんには、砂糖やらの調味料をあげちゃ体に悪かったんだけど、こっちでは平気なのかい?」
はつ江の言葉に、今度はシーマとモロコシと五郎左衛門がキョトンとした表情で首を傾げた。
「そうなのか?こっちだと、特に問題はないぞ」
「ぼくのおじいちゃんも甘い物が大好きだけど、長生きしてるよ?」
「拙者も甘党でござるが、日々体を鍛えていることもあってか、職場の健康診断では毎回『超健康』という結果をいただいているでござるよ?」
三人がそう言うと、はつ江は感心した表情を浮かべて、そうなのかい、と口にした。
「ふむ、確かに何でも食べ過ぎは良くないが、適度に食べてしっかりと動けば問題無い」
「ほうほう。そんなら安心だぁよ!」
はつ江がカラカラと笑うと、シーマが何かを思い着いた表情を浮かべてフカフカの手をポンと打った。
「はつ江……実はこの魔界だと、ネコはピーマンを食べると病気になっちゃうんだ!」
「あれまぁよ!?それじゃあご飯のときに、ピーマンを使ったお料理は出せないねぇ」
シーマの言葉にはつ江が目を丸くしていると、魔王が盛大な咳払いをした。
「こら、シーマ。ピーマンが嫌いだからといって、嘘を吐くのは良くないぞ」
魔王に叱られたシーマはギクリとした表情を浮かべてから、ヒゲと尻尾をダラリと垂らして肩を落とした。
「これこれシマちゃんや、好き嫌いはよくねぇだぁよ」
ニコニコと笑うはつ江に優しい口調で諭されると、シーマは肩を落としながらも、はーい、と素直に返事をした。シーマの返事を聞いた魔王は、納得したようにゆっくりと頷くと、はつ江の顔をのぞき込んだ。
「ちなみに、はつ江……代々魔王の座に就いた者は、ニンジンを口にすると爆発する、という呪いにかかってしまう。だから、食事にニンジンを取り入れるのは勘弁して欲しい」
「あれまぁよ!?それは大変だねぇ!?」
真剣な表情の魔王に対して、はつ江が再び目を丸くして驚くと、今度はシーマが尻尾を大きく縦に振って憤慨した。
「バカ兄貴こそ、真面目な表情で盛大な嘘を吐くな!はつ江が信じちゃってるだろ!」
シーマに叱られると、魔王はシュンとした表情を浮かべて肩を落とした。
「……すまない、はつ江。ほんの冗談だから気にしないでくれ」
「ヤギさんも好き嫌してると、立派な大人になれねぇだあよ!」
はつ江がそう言ってカラカラと笑うと、モロコシがキョトンとした表情を浮かべてから、五郎左衛門の忍び装束を引っ張った。
「ねーねー。五郎左衛門さんは、嫌いな食べ物はある?」
「ん?そうでござるな……苦い物は苦手でござるが、それでも出された食事はなんでも残さず食べるでござるよ!」
五郎左衛門が笑顔で答えると、モロコシは目を輝かせた!
「そうなんだー!五郎左衛門さんは立派な大人なんだね!」
「そんな、滅相もないでござるよ」
謙遜しながらも尻尾をブンブンと振って喜ぶ五郎左衛門とは対照的に、魔王はさらにシュンとした表情をして肩を落とした。あまりの落胆ぶりを見かねたシーマがコホンと咳払いをして、「立派な大人」から話題を変えるべくモロコシの顔を見つめた。
「それで、モロコシは?何か、苦手な食べ物はないのか?」
尻尾の先をピコピコと動かしながらシーマが尋ねると、モロコシはフカフカの手を口元に当てて、うーん、と言いながら首を傾げた。
「ぼくも苦いのと……酸っぱすぎるのが苦手かな。給食で出たときは頑張って食てるんだけど、目つきが凶悪になるから怖い、ってみんなに言われちゃうの」
モロコシがそう言ってシュンとした表情をすると、他の四人から驚愕の表情を向けられた。
「あれまぁよ!?」
「も、モロコシ殿が凶悪な目つきになるのでござるか!?」
「兄貴……体に全く害がなくて、もの凄く苦い物とか持ってないか……?」
「そうだな……いや、シーマ。お友達が困ることをするのは良くないぞ?確かに、俺もちょっと見たいけど……」
凶悪な目つきのモロコシ、という想像が付かない言葉に一同が混乱していると、モロコシが鼻の下をプクーと膨らませて、尻尾をパシパシと縦に振った。
「もー!みんなしてそんなに食いつかないでよ!」
しかし、その表情は不服そうではあるが、凶悪な目つき、という言葉からはほど遠く、むしろ可愛らしいとさえ形容できるほどだ。四人は釈然としないといった表情を浮かべながらも、プンプンと怒るモロコシに向かってペコリと頭を下げて、取り乱したことを謝った。モロコシもすぐにニッコリと笑みを浮かべて、いいよー、と答え事態は終息した。
「……では、気を取り直して、おやつを作るとしようか。はつ江、ポシェットの中に調理道具がもう一式入っているから、使ってくれ」
何とか平常心を取り戻した魔王がそう言うと、はいよ!、という元気の良い返事とともに、はつ江はポシェットから調理道具一式が入った風呂敷包みを取り出した。魔王はその様子を見て頷くと、今度はシーマに顔を向けた。
「シーマ、魔術を使ってかまどを作ってくれないか?点火は俺がするから」
シーマは魔王に凜々しい表情を向けて、分かった!、と返事をすると、フカフカの手を地面に向けてムニャムニャと呪文を唱えた。すると、地面が段々と盛り上がりながら輝きだし、 ポンッという小気味のいい音とともにレンガ製のかまどができあがった。
「シマちゃんの魔法は凄いねぇ!」
「殿下すごーい!」
その様子を見たはつ江とモロコシがパチパチと拍手を送ると、シーマはふいっと二人から顔を背けながらも、尻尾をピンと立てた。
「べ、別にこの位は大したことじゃないんだからな!」
照れくさそうにそう言うシーマに向かって、五郎左衛門もタシタシと拍手を送りながら尻尾を振った。
「いやいや!流石は、魔王城のキューティーマジカル仔猫ちゃん、の異名を持つ殿下!素晴らしいお手際でござるよ!」
五郎左衛門が口にした異名を聞くと、シーマはヒゲと尻尾をダラリと垂らして脱力した表情を浮かべた。
「だから、その恥ずかしい異名は誰が広めたんだよ……」
シーマが力なく呟くと、魔王が目を泳がせた。ほんの一瞬の出来事だったが、シーマはそれを見逃さなかった。そして、ジットリとした視線を魔王に向ける。
「……まさか、兄貴が広めたのか?」
「な、ナニヲイウンダー?オニイチャンハナニモシラナイゾー!」
「白々しいことを言うな!変な異名を広めるなよ、このバカ兄貴!」
棒読みになりながら否定する魔王に向かって、シーマは尻尾を大きく縦に振って憤慨した。はつ江は二人のやり取りを見てカラカラと笑うと、シーマの頭をポンポンと撫でた。
「まあまあシマちゃんや、可愛らしいあだ名なんだから良いじゃねぇか!」
はつ江に異名を褒められたシーマは、ふん、と言ってそっぽを向きながらも、尻尾を立てて喜んだ。
「まあ、今回ははつ江に免じて許してやるから、美味しいおやつを作るんだぞ!バカ兄貴!」
シーマの言葉に、魔王は目を輝かせながら、そうか、と呟いた。はつ江は魔王に向かってニッコリと微笑むと、クラシカルなメイド服の袖を軽く捲って、やる気に満ちた表情を浮かべた。
「じゃあ、ヤギさんや。頑張ろうかねぇ」
「ああ、そうだな、はつ江」
魔王も決意に満ちた表情で答えると、指をパチリと鳴らして白銀の鎧を割烹着に変化させた。
かくして、凶悪な目つきのモロコシ、という謎を残しながらも、キューティーマジカル仔猫ちゃん、の異名が広がった真相を解き明かした一行は、おやつの準備を着々と進めていくのであった。
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