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第二章
言わなきゃいけないこと
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なんとかリグレを捕まえて、はぐれないように手をつないで駅前に向かった。
詳しい場所は聞けなかったけど、駅舎の外壁にある地図のおかげで、迷うことなく図書館までたどり着いた。
「フォルテちゃん、ここに、じしょがあるの?」
「うん。辞書だけじゃなくて、色んな本を読んだり、借りたりできる場所だよ」
「そうなんだね!」
「ただ、中に入ったら静かにしないといけないからね」
「うん! 分かった!」
リグレは大きな声で、勢いよく返事をした。
本当に分かってるのか不安になるけど……、まあ、授業中もムダに騒いだりはしないから大丈夫、かな。
そんなこんなで、口をギュッと閉じたリグレと一緒に、辞書のあるコーナーまで移動した。
えーと、子供向けの辞書は……、あった。
「リグレ、見つかったから、閲覧コーナーに移動しようか」
「うん」
リグレは小声で返事をしながら、勢いよくうなずいた。
まあ、動作の勢いがよすぎるきはするけど、騒がしくする心配はなさそうだ。これなら、トラブルは起きないだろう。
閲覧コーナーに移動すると、ちらほらと人の姿が目に入った。平日の昼間でも、結構利用してる人がいるんだな……。
……あれ?
あの隅の席に座ってる、銀髪で目つきが鋭い人って……。
間違いない。ベルム、さんだ……。
「フォルテちゃん、どーしたの?」
「あ、ごめん。別の席に行こう」
「え? どーして?」
「うん、ちょっと知ってる人がいて……」
「知ってる人? あ、さっきまで見てた、あの髪が銀色のお兄ちゃんのこと?」
「うん」
「知ってる人なら、あいさつにいかなきゃ」
「いや……、ちょっとそういうわけにはいかなくて……」
「えー、どーして……、あ、ケンカしちゃったから?」
「うん、まあ、ちょっと違うけど、そんなかんじかな……」
「それじゃあ、ちゃんと『ごめんなさい』して、仲直りしなきゃ」
「それはまあ、そうなのかもしれないけど……」
……子供って、こういうときに正論を言ってくるから厄介だ。
素直に謝れれば苦労はしない……、というか、謝ったって許してもらえるはずなんてない。
「じゃあ、私がフォルテちゃんが『ごめんなさい』したいって、言ってきてあげるね」
「あ、こら! リグレ……」
待て、という間もなく、リグレはベルムさんのそばに駆け寄っていった。
それから、ベルムさんの袖を引いて、勢いよく頭を下げた。
ベルムさんは、困惑した表情で首をかしげる。
リグレは笑顔でうなずいてから、僕の方を指さす。
当然、ベルムさんは困惑した表情のまま、こっちに顔を向ける。
そして――
「えーと……、その……、どうも……」
――僕は小声で、ベルムさんに気まずい挨拶をすることになった。
……二週間くらい前にも、ルクスさんと同じようなやり取りをした気がする。
なんでリグレと行動すると、こういう目にあうんだろう……。当のリグレは、なんか得意げな表情で、こっちに向かって手招きしてるし……。
ひとまず、事情を説明しにいかないとだめか……。
「……お久しぶりです」
意を決して挨拶をすると、ベルムさんは苦笑を浮かべた。
「ああ、久しぶりだな。ここで話し込むと周りに迷惑がかかるから、談話スペースに行こうか」
「あ、はい。そうですね……、ほら、リグレも行くぞ」
「うん、分かった!」
そんなこんなで、ベルムさんは数冊の本、僕は辞書を持って談話スペースに移動した。ベルムさんはため息を吐きながら、簡素な造りの長椅子に腰掛けた。
「二人も、気にせずかけてくれ」
「あ、はい。どうも」
「うん、分かったー!」
勧められるまま、リグレと一緒に向かいの長椅子に腰掛ける。
ベルムさんは長椅子の間に置かれた小さなテーブルに本を置いて、また苦笑を浮かべた。
「この子が、最近できたっていう弟子なのか?」
「うん! そうだよ! リグレっていうの!」
「そうか、俺はベルム。フォルテの、元上司だ」
「そうだったんだね! うちのフォルテちゃんが、大変お世話になりました」
「ははは、これはご丁寧にどうも」
深々と頭を下げるリグレに、ベルムさんが穏やかに笑いかける。えーと、打ち解けてもらえたのは、いいんだけれど……。
「ん? フォルテ、どうした?」
「あ、いえ。なんで、リグレのこと知ってたのかな、と思って……」
「ああ、ルクスとヒューゴから聞いてな」
「そう、ですか」
あの二人、ペラペラと喋ってくれて……。いや、まあ、本人たちは悪気なく世間話の一環で話したんだろうけど……。
「最近、二人して頑張ってるそうじゃないか」
「うん! 私もフォルテちゃんも、毎日かけっこと魔法の練習、すっごく頑張ってるよ!」
「ははは、そうか、それは偉いな!」
得意げな表情のリグレに、ベルムさんが目を細めて笑う。
なんだか、このまま本題に入らず、世間話を続けられそうなかんじになってきたけど――
「それで、さっきリグレが言ってたんだが、俺に何か謝りたいことがあるんだって?」
――やっぱり、そう甘くはないよな。
ベルムさんは苦笑をしながら、首をかしげてるけど……、何を謝りたいかなんて、もう分かってるんだろうな……。
詳しい場所は聞けなかったけど、駅舎の外壁にある地図のおかげで、迷うことなく図書館までたどり着いた。
「フォルテちゃん、ここに、じしょがあるの?」
「うん。辞書だけじゃなくて、色んな本を読んだり、借りたりできる場所だよ」
「そうなんだね!」
「ただ、中に入ったら静かにしないといけないからね」
「うん! 分かった!」
リグレは大きな声で、勢いよく返事をした。
本当に分かってるのか不安になるけど……、まあ、授業中もムダに騒いだりはしないから大丈夫、かな。
そんなこんなで、口をギュッと閉じたリグレと一緒に、辞書のあるコーナーまで移動した。
えーと、子供向けの辞書は……、あった。
「リグレ、見つかったから、閲覧コーナーに移動しようか」
「うん」
リグレは小声で返事をしながら、勢いよくうなずいた。
まあ、動作の勢いがよすぎるきはするけど、騒がしくする心配はなさそうだ。これなら、トラブルは起きないだろう。
閲覧コーナーに移動すると、ちらほらと人の姿が目に入った。平日の昼間でも、結構利用してる人がいるんだな……。
……あれ?
あの隅の席に座ってる、銀髪で目つきが鋭い人って……。
間違いない。ベルム、さんだ……。
「フォルテちゃん、どーしたの?」
「あ、ごめん。別の席に行こう」
「え? どーして?」
「うん、ちょっと知ってる人がいて……」
「知ってる人? あ、さっきまで見てた、あの髪が銀色のお兄ちゃんのこと?」
「うん」
「知ってる人なら、あいさつにいかなきゃ」
「いや……、ちょっとそういうわけにはいかなくて……」
「えー、どーして……、あ、ケンカしちゃったから?」
「うん、まあ、ちょっと違うけど、そんなかんじかな……」
「それじゃあ、ちゃんと『ごめんなさい』して、仲直りしなきゃ」
「それはまあ、そうなのかもしれないけど……」
……子供って、こういうときに正論を言ってくるから厄介だ。
素直に謝れれば苦労はしない……、というか、謝ったって許してもらえるはずなんてない。
「じゃあ、私がフォルテちゃんが『ごめんなさい』したいって、言ってきてあげるね」
「あ、こら! リグレ……」
待て、という間もなく、リグレはベルムさんのそばに駆け寄っていった。
それから、ベルムさんの袖を引いて、勢いよく頭を下げた。
ベルムさんは、困惑した表情で首をかしげる。
リグレは笑顔でうなずいてから、僕の方を指さす。
当然、ベルムさんは困惑した表情のまま、こっちに顔を向ける。
そして――
「えーと……、その……、どうも……」
――僕は小声で、ベルムさんに気まずい挨拶をすることになった。
……二週間くらい前にも、ルクスさんと同じようなやり取りをした気がする。
なんでリグレと行動すると、こういう目にあうんだろう……。当のリグレは、なんか得意げな表情で、こっちに向かって手招きしてるし……。
ひとまず、事情を説明しにいかないとだめか……。
「……お久しぶりです」
意を決して挨拶をすると、ベルムさんは苦笑を浮かべた。
「ああ、久しぶりだな。ここで話し込むと周りに迷惑がかかるから、談話スペースに行こうか」
「あ、はい。そうですね……、ほら、リグレも行くぞ」
「うん、分かった!」
そんなこんなで、ベルムさんは数冊の本、僕は辞書を持って談話スペースに移動した。ベルムさんはため息を吐きながら、簡素な造りの長椅子に腰掛けた。
「二人も、気にせずかけてくれ」
「あ、はい。どうも」
「うん、分かったー!」
勧められるまま、リグレと一緒に向かいの長椅子に腰掛ける。
ベルムさんは長椅子の間に置かれた小さなテーブルに本を置いて、また苦笑を浮かべた。
「この子が、最近できたっていう弟子なのか?」
「うん! そうだよ! リグレっていうの!」
「そうか、俺はベルム。フォルテの、元上司だ」
「そうだったんだね! うちのフォルテちゃんが、大変お世話になりました」
「ははは、これはご丁寧にどうも」
深々と頭を下げるリグレに、ベルムさんが穏やかに笑いかける。えーと、打ち解けてもらえたのは、いいんだけれど……。
「ん? フォルテ、どうした?」
「あ、いえ。なんで、リグレのこと知ってたのかな、と思って……」
「ああ、ルクスとヒューゴから聞いてな」
「そう、ですか」
あの二人、ペラペラと喋ってくれて……。いや、まあ、本人たちは悪気なく世間話の一環で話したんだろうけど……。
「最近、二人して頑張ってるそうじゃないか」
「うん! 私もフォルテちゃんも、毎日かけっこと魔法の練習、すっごく頑張ってるよ!」
「ははは、そうか、それは偉いな!」
得意げな表情のリグレに、ベルムさんが目を細めて笑う。
なんだか、このまま本題に入らず、世間話を続けられそうなかんじになってきたけど――
「それで、さっきリグレが言ってたんだが、俺に何か謝りたいことがあるんだって?」
――やっぱり、そう甘くはないよな。
ベルムさんは苦笑をしながら、首をかしげてるけど……、何を謝りたいかなんて、もう分かってるんだろうな……。
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