上 下
18 / 45
第一章

全部、お前のせいだ!

しおりを挟む
 マリアンさんのカフェに現れたのは、紛れもなくベルムさんとルクスさんだった

「お久しぶりですね、ベルムさん」

「ああ、久しぶりだな……ん?」

 ベルムさんは、僕の首元に視線を移した。途端に、その顔から血の気が引いていく。

「フォルテ、お前、その首輪は……」

 ああ、ベルムさんもこの首輪を知ってるのか。なら、話が早いや。

「ええ、多分ベルムさんが知ってるものと、同じ物ですよ」

「そう、か」

 返事をしながら、ベルムさんが軽く身震いをする。

「そうです。それで、マリアンさんに解除をしてもらうために、ここまで来ました。でも、ベルムさんにも、お会いできて良かったです。ちょうど、お話ししたいことがありましたから」

「話したいこと?」

「はい。この首輪関連のことで、です。お時間、いただけますよね?」

 僕の問いに、ベルムさんが苦々しい表情で目を伏せる。何の件かは、分かってもらえたみたいだ。

「……ああ。分かっ」
「悪いけど、ベルム、今忙しいから、あとにしてもらえる?」

 突然、ルクスさんが話に割って入ってきた。

「何ですか、急に。僕が用があるのは、ベルムさんだけなので」

「でも、忙しいのは事実だから」

「すぐ済む話ですから」

「それなら、要件だけ教えて、帰ってもらえるかな」

 落ち着いた声をしてるけど、ルクスさんは一歩も譲らない。
 参ったな、今この人と揉めてる場合じゃないのに……。

「ルクス、そのくらいにしてやってくれ。俺なら、大丈夫だから」

「……ベルムが、そう言うなら」

 ベルムさんにそう言われ、ルクスさんは不服そうに引き下がった。やれやれ、これでようやく話が進められそうだ。

「マリアン、少し抜けても構わないか?」

「そうね。まだ混み合う時間帯じゃないから、私とルクス二人でも問題はないわ」

「すまない。じゃあ、お言葉に甘えるよ」

「ええ、分かったわ。私の方は、呪いの解除の準備をするから、終わったら呼びにいくわね」

「ありがとう」

 ベルムさんはそう言うと、苦笑を浮かべて軽く頭を下げた。

「じゃあ、フォルテ。控え室の方で、話をしようか」

「はい。よろしくお願いします」

 ベルムさんは、ああ、と答えて店の奥に移動していった。
 ルクスさんがこっちを見つめてる気がするけど、気にせずにあとを追うことにしよう。

 それから、僕たちは店の奥の控え室へ移動し、テーブルを挟んで向かい合って座った。

「それで、フォルテ、話っていうのは何なんだ?」

 ベルムさんは指を組みながら、そう問いかけた。何なんだもなにも……。

「……よく、そんな白々しいことが、言えますね。この首輪のことをご存知なら、僕の身に何があったかのか、大体の予想はつくでしょう?」

「……ああ、そうだな、すまない。だが、詳しい事情までは分からないから、教えてくれないか?」

「……分かりました。一昨日、ギルドに出かけたら、偶然ソベリさんに会ったんです」

 僕の言葉に、ベルムさんは眉をひそめた。

「ソベリ、に?」

「はい。そのときに、パーティーへ戻ってきて欲しい、と頼まれました。王宮との交渉に、僕の固有スキルが役立つから、と言われて」

「……お前は、その頼みごとを引き受けたのか?」

「ええ。交渉の内容は、詳しく教えてもらえませんでしたから」

「そうか……」

「それで、王宮との交渉に向かって、王女様の遊びに付き合わされて酷い目にあって、こんな首輪までつけられることになったんです」

「……そうか」

 ベルムさんはそう言うと、組んでいた指を解いて机に両手をつき――

「フォルテ、お前がそんな目にあったのは、全部俺のせいだ。すまなかった」
 
 ――鼻の先が机につくぐらい、深々と頭を下げた。
 
 これは、理不尽な理由でクビになってから、ずっと望んでいた光景のはずだ。
 それなのに、なんでこんなに胸がザワザワとするんだろう……、ああ、そうか。
 きっと、ベルムさんが、うわべだけで謝って済まそうとしてるからだ。
 
「……いまさら謝ってもらったて、遅いんですよ」

「そう、か」

「ええ、本当にそうです! 貴方が無責任に逃げ出してくれたせいで、こんな目にあったんですよ!」

「返す、言葉もない」

「まったくですよ! 貴方が、このままここに居れば、また誰か事情を知らないメンバーが、同じ目にあいますよ!」

「……」

「リーダが……、いえ、元リーダでしたね。ともかく、責任ある立場だった人間が、そんな無責任なことをして良いと思ってるんですか!?」

「……そう、だな」

 ベルムさんはそう言うと、机についた手を握りしめて、ゆっくりと上半身を起こした。元々色白の顔からはスッカリ血の気が引いて青いくらいになってるし、目もどこか虚ろになってる。
 これなら、ソベリさんの頼みごとを達成できそうだ。
 ベルムさんが戻ってくれば、また王宮との交渉を任せられる。
 それに、僕の部下になれば、理不尽にクビにしたことを後悔させてやることだってできるんだ。

 ……それなのに、なんでまだ胸がザワザワしてるんだろう?
 
 ……きっと、気のせいだ。
 さっさと、話を進めてしまおう。

「これ以上、不幸になる人間を増やさないためには、どうすれば良いか分かりますよね?」

「ああ、そうだな。俺がまたパーティーに戻れば……」

 よし、これで全部上手くいく……

  シュッ!

「わっ!?」

 突然、何かが猛スピードで頬をかすめて、机に突き刺さった。
 えーと、これは……、ケーキ用のフォーク?
 でも、なんで、いきなりフォークが飛んでくるんだ?

「話、終わった?」

 背後からかけられた声に振り返ると、いつの間にか控え室の扉が開き、無表情なルクスさんが立っていた。

「話、終わったの?」

 いや、話が終わる終わらないじゃなくて……。
 
「なんてことをするんですか!?」

「だって、ノックしたのに返事がなかったから」

「だからって、ケガしたらどうするつもりだったんですか!?」

「ギリギリ当たらないように投げたから、大丈夫だったろ。それよりも、話は終わったの?」

 ルクスさんは表情を変えずに、同じ質問を繰り返した。 
 ……これ以上、抗議しても無駄っぽいな。

「えーと、僕の方の要件は話し終わりましたが……」

「そう。マリアンが、呪いの解除の準備が終わったから、来て欲しいって」

「あ、はい。分かり、ました……」

 返事をすると、ルクスさんは軽く頷いてから、ベルムさんに視線をむけた。

「じゃあ、ベルム。フォルテ借りてくから」

「あ、ああ。分かった」

 ベルムさんの返事を受けて、ルクスさんは穏やかに微笑んでから部屋を出て行った。
 なんだか、調子が狂うな……。

「フォルテ、今は首輪を外すことを優先しておけ。話の続きは、その後にしよう」

 ……ベルムさんの言うことを聞くのはしゃくだけど、こんな首輪をいつまでもつけておくわけにもいかないか。

「そう、ですね。では、行ってきますので、戻ったら話の続きをしましょう」

「ああ、分かった」

 この首輪が外れれば、きっとこの胸のざわつきもなくなるはずだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

処理中です...