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第一章

ほら見たことか!

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 王都の病院を退院してから二週間が経った。
 傷もふさがって痛みも消えたことだし、そろそろ次のパーティー探しをはじめないとな。仕送りを売った金はまだのこってるけど、使いつくすわけにもいかないから。
 前回はベルムさんが変な根回しをしたおかげで、マルスなんかのパーティーに入る羽目になった。でも、魔の森で助けてくれたってことは、さすが罪悪感があったんだろう。なら、きっと、もう邪魔をしてくることもないだろう。

 今回は、すぐにでも新しいパーティーが見つかるはず――


「不採用」
「残念ですが、今回はご縁がなかったということで」
「なぜこのパーティーに入れると思ったのか、ちょっと分からない」


 ――と、思ってたのに、結果は散々だった。

 次のパーティー探しを始めてから一ヶ月、毎日どこか面接を受け続けた。ただ、今回はぱったりベルムさんが変な根回しをやめたみたいで、面接で落とされることはなくなった。用心してベルムさんのパーティーにいたことは言わないようにしていたから、それも効果があったのかもしれない。
 ただ、今回のパーティー募集は全て、トレーニング用のダンジョンでの入隊試験があった。
 
 だから――

「周りとの連携が全く取れていない」
「当パーティーは、協調性を重んじておりますので」
「こんなんで、よく養成学校を卒業できたね」

 ――他の希望者に足を引っ張られて、実力を充分に発揮できなかった。

 まあ、まだ金銭的な余裕はあるから、そこまで焦る必要なない。でも、さすがこんな状況が続くと、やる気も失せてくる。 
 今日こそは、入隊試験がない募集が見つかるか、あったとしても他の希望者も有能ならいいなぁ……。

 ギルドに着くと、求人コーナーは今日も混雑していた。
 なんだか、一週間ぐらいからやけに混み始めた気がするな……。

「ねえ、あの話聞いた?」

「あ、うん。ベルムさんのパーティー、格付けが下がるかもしれないんでしょ?」

 不意に、女性たちの会話が耳に入った。
 ……え? 格付けが下がる……?

「そうそう、しかも、今まで王宮から直々に依頼を受けてたみたいだけど、それもなくなるかもしれないんだって」

「らしいね。私も友達があそこのメンバーだから、その話聞いたよ」

「最近、依頼も失敗続きだったみたいだしね……」

 依頼が、失敗続き?
 一体、なんで……。

「優秀な人いなくなっちゃたんだから、仕方ないよ……」

「まあ、それもそうだよね」
 
 優秀な人がいなくなったから……、ああ、そうか。
 僕のことを、理不尽にやめさせたんだから、そうなるに決まってるじゃないか!
 むしろ、今までなんともなかったことの方が、不思議だったんだ!
 あはははは! いい気味だ!

「ねえ、なんか一人でニヤニヤしてる人がいるんだけど……」

「うん、ちょっと怖いから、もう行こう……」
 
 ……はしゃぐのは、この辺にしておこう。
 でも、本当にいい気味だ。ああ、この間みたいに、ベルムさんと偶然ぶつかったりしないかな。そしたら、調子はどうですか、って聞いてやるのに。

「すみません、そこちょっといいですか?」

 不意に、背後から男性の声が聞こえた。

「あ、すみません。今どきます……ん?」

 振り返ると、そこには眼鏡をかけたさえない雰囲気の男性が、パーティーメンバー募集の貼り紙を持って立っていた。この人は、たしか、ベルムさんのパーティーで、事務関係の仕事のサポートもしていた、実質ナンバースリーの……

「どうかしましたか?」

「あ、いえ、お久しぶりです、ソベリさん」

 僕が名前を呼ぶと、ソベリさんはかるく眉をよせた。

「えーと、なぜ、私の名前を……、ああ、君はたしか以前パーティーにいた……」

「はい。魔術師のフォルテです」

「ああ、そうでしたね」

 本当はベルムさんに会いたかったけど、この際、ソベリさんでもいいか。この人も、ベルムさんが僕を理不尽にクビにするのを止めなかったんだから。

「なんか、最近色々と大変みたいですね」

「ええ、そうですね」

「今日は、パーティーメンバー募集の手続きに来たんですか?」

「はい、そんなところです」

「へー、やっぱり有能な人間がいなくなると、大変なんですね」

「まあ、そうですね」

 ……この人、なんでこんなに反応が薄いんだよ?
 普通なら、どうか戻って来て下さい、って僕に泣きつくところじゃないのか?
 ああ、そうか。
 この人はひょっとしたら、パーティーの評判が下がったのは僕をやめさせたから、ということをベルムさんから聞いてないのかもしれない。それなら、教えてあげないと。

「でも大変ですよね、『怯み無効』みたいな固有スキルなんて、持ってる人はそうそういませんから」

「ええ、そうで……、固有スキル『怯み無効』?」

 ソベリさんはようやく表情を変えて、こちらを見た。

「そうだ。フォルテさんの固有スキルは、『怯み無効』でしたね」

「はい。その通りですよ。今、パーティーに同じスキルを持ってるメンバーって、いるんですか?」

 尋ねてみたけど、答えは分かりきってる。

「いいえ、いないですね」

 それはそうだ。このスキルを持ってる人間は、この国でも数えるほどしかいないんだから。
 お前らは、そんな貴重で有能な人間をクビにしたから、報いを受けて……。

「フォルテさん……」

「わっ!?」

 いつの間にか、ソベリさんは僕の目の前まで距離を詰めていた。目の下のクマがハッキリ見えるけど、あんまり寝てないのかな……?

「折り入ってご相談したいことがありますので、パーティー事務所まで来ていただけますか?」

「話したいこと? ここで話すのじゃ、ダメなんですか?」

「ええ。長くなる話ですので」

 これは、僕を呼び戻したい、とかそんな話をしたいんだろうな。頼まれたって戻ってやるか、って思っていたけど……。

「ええ、いいですよ」

「そうですか……! ありがとうございます」

 謝りながら懇願するベルムさんとルクスさんに、直接そのことを言ってやるのもいいかもしれない。
 あの人たち、僕の顔を見たら、どんな顔をするんだろうな……。
 今から、すごく楽しみだ。
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