上 下
1 / 45
第一章

え、クビ? その・一

しおりを挟む
 一年と少し前、僕はずっと憧れてた王都最強と呼ばれるパーティーに入隊した。
 同期との折り合いはあまり良くなかったけど、前回の依頼ではリーダーのベルムさんと一緒に行動することができた。しかも、ターゲットの大型モンスターに、僕がとどめを刺したんだ。
 だから、きっと、リーダーも僕の実力を見て、感動したはずだ。


 それなのに――

「フォルテ、お前は本日付で解雇だ」

 ――リーダーが端正な顔に、わずらわしそうな表情を浮かべて、僕を見てる。
 これは、夢でも見てるんだろうか?
 

 でも、さっきから胃のあたりがキリキリ痛むし、夢じゃないのかも。なら、反論しないと……。

「なんでなんですか!? リーダー!」

 問い正すと、リーダーはわずらわしそうに銀髪の頭を掻いて、ため息をついた。

「なぜも何も、お前はうちのパーティーには必要ないからだ」

 ……必要ない?
 なんで、あれだけ活躍した僕が、そんなことを言われてるんだ?

「一応、言いたいことがあれば、聞いてやるぞ」

 言いたいこともなにも……。
 そうか、リーダーは、同期のやつらから、また何か吹き込まれたのかも。

「お言葉ですがリーダー、同期のやつらが、役立たずなんて言ってたのは、僕の固有スキルを上手く扱えないからじゃないですか! 本当の実力は、前回一緒に行動して、分かっていただけたでしょう!?」
 
「……お前の固有スキルは、ひるみ無効化、だったよな?」

「ええ。たしかに地味ですし、最近流行のスキルではありませんが、どんな攻撃を受けても痛みを感じずに、魔術の詠唱を続けられま……」

「そのスキルに頼りすぎた戦い方をした結果、前回の依頼で何があった?」

 突然、リーダーの声がいつもより低くなった。
 何があった、なんて言われたって……。

「お前は、魔力に敏感なモンスターが多い場所だからメインの攻撃は弓術師に任せてサポートに徹しろ、という命令を無視して、強力すぎる魔術を詠唱した」

 ……だって、弓術師みたいな地味な職にメインの攻撃を任せてたら、いつまで経っても倒せないじゃないか。
 いや、あの弓術師はリーダーと仲が良いから、言い返すのはやめておこう。

「そのおかげで、少し離れた場所にいた中型モンスターまでこちらに集まり、その場にいた全員を危険にさらした」

 ……でも、さすが、この言葉には聞きすごせない。

「なんだ? 不満があるなら言ってみろ」

「……それは、タンクであるリーダーが、もっとしっかり敵を引きつけていれば良かったんじゃないですか?」

「たしかに、敵を引きつけて、お前のような攻撃職や、回復職に攻撃がいかないようにするのは、タンクである俺の仕事だ。だから、装備や日々の訓練で、高い防御力や体力を維持しているさ」

 なんだ、自分の役割を分かってるんじゃないか。なのに、なんで僕のせいにしようとしてるんだよ?

「だがな、限度があるんだよ。想定外に引き寄せられた中型モンスター二十匹の相手まで、できるわけないだろ!」

 ……たしかに、そうなのかもしれない。
 でも……。

「だから……、リーダーの方には、中型モンスターを向かわせなかったじゃないですか……」

「向かわせなかったんじゃなくて、振り切れなかっただけだろ」

 リーダーがまたしても、ため息を吐く。

「それどころか、ターゲットの大型すらお前の方に向かおうとしていたんだぞ」

「……でも、結果的には無傷のうちに、僕の一撃でターゲットを倒したじゃないですか」

「それができたのは、弓術師のルクスがとっさに狙いを中型モンスターに変えたのと、回復術師のアンリが高度な保護魔法をかけてくれたおかげだろ。二人がいなければ……」

 ……また、あの弓術師の話か。
 たしかに、あの人の腕は良いのかもしれない。だけど、魔術の方が狙った場所に正確に攻撃を当てることができるはずだし、なんであんなに重用するんだろう? パーティーのサブリーダーにもなってるし……。
 

 ……ああ、そうだ。あの人も、このパーティーの最古参なんだっけ。
 だから、リーダーは、あの人のことをひいきしてるんだ。


 それなら、僕はどんなに頑張っても、評価されるはずないか。
 だったら……。

「……ん? 今、何か言ったか?」

「……だったら、僕なんて放っておけば、良かったじゃないですか」

 どうせ、サブリーダー以外の攻撃職なんて、人数あわせか足手まといとしか考えてないんだ。なら、わざわざ助けたりしなければよかったのに。
 
「あのな、パーティーで死人なんか出したら……」

 リーダーがため息まじりにまた何か言い出したけど、内容が頭に入ってこない。


「自分が死んだりせず、仲間も死なせないことを最優先にするってのが、このパーティーの掟なんだよ……」


 どうせ僕をけなして、サブリーダーのことを褒めてるんだろう。たしかに、こそこそと戦うのは、僕よりもあの人の方が向いてる。でも――

「俺からは以上だ。法律に則り、三ヶ月分の基本給料はまとめて支払うし、各種事務手続きも速やかに行う。だから、早く新しいところへ……」

「――だって、仕方ないじゃないですか」

 ――言葉が、思わずこぼれてしまった。

「ん?」

「僕の固有スキルを活かすためには、多少の危険があったとしても、あの戦い方をするしかないんですよ!」

 僕だって、スキルがこそこそとした戦い方向きなら、安全地帯から卑怯に戦っていたさ。
 でも、僕のスキルを活かすためには、モンスターの攻撃を顧みず勇敢に戦うしかないんだ。

「……危険があると分かっているなら、固有スキルにこだわった戦い方をしなければいいだけだろ? 固有スキルなんて使わなくても、戦う方法はいくらでもあるんだから」

「うっ……」

 たしかに、リーダーの言うとおりかもしれない。
 
 でも、怯み無効を使わない戦い方をするには――



「本当のところは、モンスターの攻撃を避けながら呪文を詠唱するトレーニングを続けるのがきついから、固有スキルと周りのサポートに頼り切っていただけなんだろ?」



 ――そんなこと、ほんの少ししか思っていない。

 でも、仕方ないじゃないか。僕は魔術は得意だけど、運動神経がいいわけじゃないんだから。
 それなのに、リーダーは軽蔑したように、僕を見つめてる。ずっと、憧れていた人に、こんな目を向けられるなんて……。

 

「違うか?」


「……うるさい! うるさい! ともかく、僕のことを認めないお前らが悪いんだ! 僕がいなくなってパーティーが壊滅状態になっても、もう戻ってやらないんだからな!」

 
 僕が叫んでも、リーダーの表情は変わらなかった。
 ふん、平然としていられるのも、今のうちだ。
 僕みたいな有能な人間を切り捨てたんだから、絶対に痛い目を見るんだからな!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...