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1話
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――唐突に言います。
私は悪役令嬢というものに転生したらしい。
もう一度言います。
私は悪役令嬢というものに転生したらしい。
……とか言ってはみたものの、悪役令嬢がどういうものなのかを私は知らない。
だけど、まぁなんというか……両親揃ってクズしかおらず、転生先であるマリンもその血を継いでいるだろう。
それは、妙によそよそしい使用人の態度から容易に推測できた。
……そういうわけなので、私は悪役令嬢を脱却するべく笑顔を振りまくことにした。
まず、マイナスイメージを払拭するには明るい印象を与えなければならない。
ゆえに、笑顔。
とは言っても、私たちの家系は悪人づらで、パッと見いい人そうには見えない。
だから、それだけでは足りず、身振り手振りを加えて、さらに好印象をプラス。
後は、喋り方かな。
ハキハキと話し、口調を柔らかくする。
これで、完璧だ!
……というわけで、一ヶ月頑張ってみた。
その結果は上々。
だけど、とにかく顔が疲れる。
ふとした瞬間には、表情が崩れそうになるし、口調も元が陰キャだから、ゴニョゴニョしてしまいそうになる。
が、なんとか耐え切って、使用人からはもちろん、屋敷の外からの評判も良くなった。
そのお陰か、貴族との繋がりもできた。
今はその貴族の令嬢である、ソフィアとそのご両親と話をしている。
「――ところで、マリンちゃん。一つ確かめたいことがあるのだが、いいかな?」
「なんでしょうか?」
ソフィアの父親であるウェイン様の問いに対して、私は首を傾げて可愛さをアピールする。
のだが……
「キミのその姿はどっちなのだろうか?」
「どっち、とは……?」
「愛想を振りまくキミが、『素』のものなのか、『作られた』ものなのか……だ」
私の顔が引き攣った。
――というのは心情的な表現で、なんとか表情は保つことに成功している。
……が、もしかして、バレた?
まだ貴族を前にして、偽りの姿を演じるのは難易度が高かったということかな。
流石は貴族、と言ったところか。
普段から人をよく見ているから、微かな違和感でも感じ取れるのかもしれない。
だとしたら、このまま嘘を突き通すのは難しいか。
ならば、
「仮に、今の私が『作られた』ものだとして、ウェイン様になにか不都合でも?」
正面突破あるのみ!
多少、強引ではあるが、下手に出るよりはマシだ。
だが、
「マリンちゃんはなにか勘違いしているみたいだ」
と、なにやら私は選択を間違った様子。
「私はただ、関心しているのだ。
マリンちゃんはまだ10歳と聞いたが、その心構え。
とても子どもとは思えない。
だが、ここでは『素』でいてくれてもいい。
私はそう言いたかったのだ」
……なるほど。
つまり、本音で話してほしい……と。
後、私はもうアラサーである。
「そういうことでしたら、ぜひ――普段の私をお見せしましょう」
そう言って、何重にも貼り付けた『嘘』を放棄した。
「どうですか? この目つきの悪さ。
まさに、悪役貴族にふさわしい見た目です。
幻滅したでしょうか?」
「む? 悪役貴族とは……?」
「ソフィアちゃんには黙っててもらいましたが、私はフィルビス家の娘です。
そう、近ごろ処刑の話が出ているあの……」
「――そうだったのか!
名前が一緒だから、もしかして……とは思っていたが。
ということは、彼女らが頭を下げていたのも頷ける」
……はて? 彼女らというのは誰なのだろう。
それに、てっきりもうダメかと思っていたが、ウェイン様の様子を見るに、そうではないらしい。
私がフィルビス家の娘だと知れば、なにかしらの行動を起こすと思っていたのだが……。
「マリンちゃん、いい使用人を持ったね」
「……使用人?」
「ん? もしかして、知らないのか?
フィルビス家に仕えている者たちが、フィルビス家が関わっている汚職などの情報を密告してきたのだ。
その際、マリンちゃんを助けるように言われてな。
近々、フィルビス家に赴こうと思っていた矢先、マリンちゃんが現れたというわけだ」
「なるほど……。ちなみに、フィルビス家の汚職というのは? 私、そのことをよう知らないのですが」
「……まだ、マリンちゃんには難しい話かもしれないね。
いつかそのことを知るときが来るかもしれないが、今はそのときではないだろう。
それに、フィルビス家の娘とは言え、マリンちゃんには関係のないことで、無理にそれを背負いこむこともない。
もともと、マリンちゃんは処刑の対象になってない。
もっとも、国に出生届けが出されていなかったから、その存在を認知していなかった、というのもあるが」
……うーん、もうよくわかんない。
聞いた感じ、私がどうにかなるわけじゃないみたいだから、まぁいいか。
「そこで、マリンちゃんをアルバード家の養子として迎え入れたいと思っている」
「へ……?」
「なに、マリンちゃんのような子は歓迎だ。
フィルビス家に仕えていた使用人も、むげに扱わないことも約束しよう」
……正直、断る理由が見つからない。
メイドさんたちも、フィルビス家で仕え続けるよりいいだろうし。
当初の目標としてあった、悪役令嬢からの脱却も果たすことができる。
「そういうことでしたら、よろしくお願いします」
こうして、アルバード家の一員として迎え入れられた私は、華やかな令嬢として人生を歩むことになるのでした。
ちなみに、私がアルバード家の養子になった後、フィルビス家は一族みな処刑されることになった。
両親たちは逃走を計画していたようですが、私専属となったメイドさんたちの活躍によって捕らえられ、無事に死をもって今までの罪を償うことになったのでした。
おしまい。
私は悪役令嬢というものに転生したらしい。
もう一度言います。
私は悪役令嬢というものに転生したらしい。
……とか言ってはみたものの、悪役令嬢がどういうものなのかを私は知らない。
だけど、まぁなんというか……両親揃ってクズしかおらず、転生先であるマリンもその血を継いでいるだろう。
それは、妙によそよそしい使用人の態度から容易に推測できた。
……そういうわけなので、私は悪役令嬢を脱却するべく笑顔を振りまくことにした。
まず、マイナスイメージを払拭するには明るい印象を与えなければならない。
ゆえに、笑顔。
とは言っても、私たちの家系は悪人づらで、パッと見いい人そうには見えない。
だから、それだけでは足りず、身振り手振りを加えて、さらに好印象をプラス。
後は、喋り方かな。
ハキハキと話し、口調を柔らかくする。
これで、完璧だ!
……というわけで、一ヶ月頑張ってみた。
その結果は上々。
だけど、とにかく顔が疲れる。
ふとした瞬間には、表情が崩れそうになるし、口調も元が陰キャだから、ゴニョゴニョしてしまいそうになる。
が、なんとか耐え切って、使用人からはもちろん、屋敷の外からの評判も良くなった。
そのお陰か、貴族との繋がりもできた。
今はその貴族の令嬢である、ソフィアとそのご両親と話をしている。
「――ところで、マリンちゃん。一つ確かめたいことがあるのだが、いいかな?」
「なんでしょうか?」
ソフィアの父親であるウェイン様の問いに対して、私は首を傾げて可愛さをアピールする。
のだが……
「キミのその姿はどっちなのだろうか?」
「どっち、とは……?」
「愛想を振りまくキミが、『素』のものなのか、『作られた』ものなのか……だ」
私の顔が引き攣った。
――というのは心情的な表現で、なんとか表情は保つことに成功している。
……が、もしかして、バレた?
まだ貴族を前にして、偽りの姿を演じるのは難易度が高かったということかな。
流石は貴族、と言ったところか。
普段から人をよく見ているから、微かな違和感でも感じ取れるのかもしれない。
だとしたら、このまま嘘を突き通すのは難しいか。
ならば、
「仮に、今の私が『作られた』ものだとして、ウェイン様になにか不都合でも?」
正面突破あるのみ!
多少、強引ではあるが、下手に出るよりはマシだ。
だが、
「マリンちゃんはなにか勘違いしているみたいだ」
と、なにやら私は選択を間違った様子。
「私はただ、関心しているのだ。
マリンちゃんはまだ10歳と聞いたが、その心構え。
とても子どもとは思えない。
だが、ここでは『素』でいてくれてもいい。
私はそう言いたかったのだ」
……なるほど。
つまり、本音で話してほしい……と。
後、私はもうアラサーである。
「そういうことでしたら、ぜひ――普段の私をお見せしましょう」
そう言って、何重にも貼り付けた『嘘』を放棄した。
「どうですか? この目つきの悪さ。
まさに、悪役貴族にふさわしい見た目です。
幻滅したでしょうか?」
「む? 悪役貴族とは……?」
「ソフィアちゃんには黙っててもらいましたが、私はフィルビス家の娘です。
そう、近ごろ処刑の話が出ているあの……」
「――そうだったのか!
名前が一緒だから、もしかして……とは思っていたが。
ということは、彼女らが頭を下げていたのも頷ける」
……はて? 彼女らというのは誰なのだろう。
それに、てっきりもうダメかと思っていたが、ウェイン様の様子を見るに、そうではないらしい。
私がフィルビス家の娘だと知れば、なにかしらの行動を起こすと思っていたのだが……。
「マリンちゃん、いい使用人を持ったね」
「……使用人?」
「ん? もしかして、知らないのか?
フィルビス家に仕えている者たちが、フィルビス家が関わっている汚職などの情報を密告してきたのだ。
その際、マリンちゃんを助けるように言われてな。
近々、フィルビス家に赴こうと思っていた矢先、マリンちゃんが現れたというわけだ」
「なるほど……。ちなみに、フィルビス家の汚職というのは? 私、そのことをよう知らないのですが」
「……まだ、マリンちゃんには難しい話かもしれないね。
いつかそのことを知るときが来るかもしれないが、今はそのときではないだろう。
それに、フィルビス家の娘とは言え、マリンちゃんには関係のないことで、無理にそれを背負いこむこともない。
もともと、マリンちゃんは処刑の対象になってない。
もっとも、国に出生届けが出されていなかったから、その存在を認知していなかった、というのもあるが」
……うーん、もうよくわかんない。
聞いた感じ、私がどうにかなるわけじゃないみたいだから、まぁいいか。
「そこで、マリンちゃんをアルバード家の養子として迎え入れたいと思っている」
「へ……?」
「なに、マリンちゃんのような子は歓迎だ。
フィルビス家に仕えていた使用人も、むげに扱わないことも約束しよう」
……正直、断る理由が見つからない。
メイドさんたちも、フィルビス家で仕え続けるよりいいだろうし。
当初の目標としてあった、悪役令嬢からの脱却も果たすことができる。
「そういうことでしたら、よろしくお願いします」
こうして、アルバード家の一員として迎え入れられた私は、華やかな令嬢として人生を歩むことになるのでした。
ちなみに、私がアルバード家の養子になった後、フィルビス家は一族みな処刑されることになった。
両親たちは逃走を計画していたようですが、私専属となったメイドさんたちの活躍によって捕らえられ、無事に死をもって今までの罪を償うことになったのでした。
おしまい。
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