上 下
1 / 1

1話

しおりを挟む
「ごめんね~。お姉ちゃんの婚約者寝取っちゃった。
 でも、私の方がいいって言ったのはルルーシュ様だから、私にいちゃもんつけないでよね」

「えっ……? 婚約者? それ、どういうこと?」

「しらばっくれても無~駄。あんなにいい男、お姉ちゃんにはもったいないから!
 体の相性も抜群だったし~、もう赤ちゃんできちゃったりして」

「赤ちゃん? ってことは、彼の体に触れちゃったの?」

「あ~、お姉ちゃん。ルルーシュ様のこと独り占めしようとか思ってたんでしょ。
 でも、残念でした~! 彼はもう私のもので~す!」

「いや、そうじゃなくて……!」

「は~い、もうお姉ちゃんの負け惜しみは結構で~す! 
 じゃっ、これからまたルルーシュ様に会いに行ってきま~す!
 お母さんたちには、今日戻らないからって伝えておいてね。負け犬のお姉ちゃんっ?」

「ちょ、ちょっと……!」

 行ってしまった……。
 そんなことより、ど、どうしよう。

 私とルルーシュ様が婚約していると勘違いしていることも問題ですが、よりにもよってあの方と……。
 彼は聖女である私でないと、体に触れてはいけない方。

 このことは、彼自身わかっているのに、どうして……。

「何度も言ったのに。私以外の人に触れたら、あなたにかけられた呪いが広がってしまうって……」

 ……まったく、あの人にも困りました。
 たしかに義妹であるアンナは、私と違って女の子らしくて可愛いですけど……。
 
「はぁ……。こうなっては仕方ありません。
 多少、私の力で呪いを抑えてはいますが、アンナは確実に呪われました。
 なので、ここは痛い目に遭ってもらいましょう。
 このままでは、まともな人間に育たないでしょうし。
 人の婚約者を寝取って、それをわざわざ報告しにくるような妹は……ね」



 あれから数日が経過して。
 アンナは自力で動くことすらできなくなっていた。
 なにより、全身が死人のように真っ青で、ところどころが青黒く変色してしまっている。

 これは、まさしく呪いの症状だ。
 後、数日もすれば、衰弱死してしまうだろう。

 私としては別に死んでほしくはないから、今すぐにでも助けてあげてもいい。
 だけど、助けるよりも前に。

「アンナ。私になにか言うことない?」

 ベッドで寝かされている妹に、問いかけた。

 この返答によって、私は助けるか助けないか決める。
 もし、反省していなければ、死のギリギリまで苦しんでもらうつもりだ。

「早く、助けて。お姉ちゃん……」

「え? 助けを求める前に、なにか言うことは?」

「お姉ちゃんの婚約者を、寝取ってごめんなさい……」

「そうだよね。悪いことをしたら、ごめんなさいだよね。
 まぁ、ルルーシュ様は別に私の婚約者でもなんでもないから、怒ってないんだけど」

「……えっ? それ、どういうこと?」

「そのままの意味よ」

「じゃ、じゃあ私はなんのために……。
 私はお姉ちゃんに嫌がらせしたかっただけなのに……」

「アンナ。今回は助けてあげるけど、もし、私に婚約者ができて、その人を寝取ったりしたら、許さないからね」

「……はい。もうしません」

 ……どうやら、反省しているみたい。
 そりゃ、今も全身に激痛が走っているだろうから、反省せざるを得ないのかもしれないけど。

 それにしても、妙に大人しいというか……。

「ねぇ、アンナ。もしかしてだけど、男の人怖くなった?」

「……うん、怖い。
 お姉ちゃんに嫌がらせしたくて強がったけど、もう男の人とあんなことしたくない。
 私、ずっとイキっぱなしでツラくて、もうやめてってお願いしてるのに、やめてくれなくて。
 それで、私頭がおかしくなって、イクのが怖くて……」

「……もういいわ。今後、男の人と付き合うときは、ちゃんと相手を見極めなさい。
 アンナは可愛いんだから、今回のことをちゃんと反省したら、誰とでも付き合えるんだから」

「ううん、もう男の人は嫌……。付き合うなら、女の子がいい……」

「そう、女の子が……って、えぇ!? 女の子……!?
 アンナ、まさか女の子と……!?」

「なに驚いてるの、お姉ちゃん?
 女の子同士で体を触り合うのは普通でしょ?」

「普通じゃないわよ!」

 え、もしかして私がおかしいの?
 女の子同士でそういうことをしてもいいとは思うけど。

「……よし、これで呪いを祓えたかな」

「ありがとう、お姉ちゃん」

「それじゃあ、私は行くわね」

「どこに?」

「どこって、そりゃルルーシュ様のところよ。
 私との約束を破ったんだから、怒りにいかないと」

 それに、今回の一件でわかったことがある。

 男の人は、性欲が高まるとヤバい。
 だから、性欲を抑える魔法をかけておかないと、アンナみたいな子が出てくるかもしれない。

 ……って、待って。

 もしかして、私がアンナみたいにされてた可能性もあったってこと……?

 もし、そうなっていたら、私は……

 

 ……どうなっていたのだろうか?

                   ~完~
 

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

聖女に巻き込まれた、愛されなかった彼女の話

下菊みこと
恋愛
転生聖女に嵌められた現地主人公が幸せになるだけ。 主人公は誰にも愛されなかった。そんな彼女が幸せになるためには過去彼女を愛さなかった人々への制裁が必要なのである。 小説家になろう様でも投稿しています。

聖女はただ微笑む ~聖女が嫌がらせをしていると言われたが、本物の聖女には絶対にそれができなかった~

アキナヌカ
恋愛
私はシュタルクという大神官で聖女ユエ様にお仕えしていた、だがある日聖女ユエ様は婚約者である第一王子から、本物の聖女に嫌がらせをする偽物だと言われて国外追放されることになった。私は聖女ユエ様が嫌がらせなどするお方でないと知っていた、彼女が潔白であり真の聖女であることを誰よりもよく分かっていた。

魔法を使える私はかつて婚約者に嫌われ婚約破棄されてしまいましたが、このたびめでたく国を護る聖女に認定されました。

四季
恋愛
「穢れた魔女を妻とする気はない! 婚約は破棄だ!!」 今日、私は、婚約者ケインから大きな声でそう宣言されてしまった。

今まで国に尽くしてきた聖女である私が、追放ですか? だったらいい機会です、さようなら!!

久遠りも
恋愛
今まで国に尽くしてきた聖女である私が、追放ですか? ...だったら、いい機会です、さようなら!! 二話完結です。 ※ゆるゆる設定です。 ※誤字脱字等あればお気軽にご指摘ください。

本物の聖女なら本気出してみろと言われたので本気出したら国が滅びました(笑

リオール
恋愛
タイトルが完全なネタバレ(苦笑 勢いで書きました。 何でも許せるかた向け。 ギャグテイストで始まりシリアスに終わります。 恋愛の甘さは皆無です。 全7話。

悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。

蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。 しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。 自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。 そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。 一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。 ※カクヨムさまにも掲載しています。

聖女にはなれませんよ? だってその女は性女ですから

真理亜
恋愛
聖女アリアは婚約者である第2王子のラルフから偽聖女と罵倒され、婚約破棄を宣告される。代わりに聖女見習いであるイザベラと婚約し、彼女を聖女にすると宣言するが、イザベラには秘密があった。それは...

石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど

ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。 でも私は石の聖女。 石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。 幼馴染の従者も一緒だし。

処理中です...