上 下
1 / 1

1話

しおりを挟む
「一体どういうつもりだ! 前もって言っておいただろ!
 王太子殿下が屋敷に来るから余計なことはするなと。
 なのにお前は呑気に畑を耕しやがって……!
 お前のせいで俺が恥をかいただろうが!
 あぁ……っ、くそ……! お前みたいな芋女は大嫌いだ! お前との婚約は破棄する。
 今すぐこの屋敷から出て行け!」

 ……と、そう怒鳴られましても…………。
 どうして怒っているのか、まったくわかりません。
 私はただ趣味である土いじりをしていただけだし、別にそれが恥ずかしいわけでもないと思うし……。

 それに、

「婚約を破棄するって言っても、結婚式はもうすぐそこまで迫っているのですよ?
 もしかして、キャンセルなさるのですか? 式場のキャンセル料金も高いでしょうし、招待している方たちにはどのように説明するのです?」

 まぁ、私としては婚約を破棄されても構いません。
 しかし、さっき言ったように、ほかの方に迷惑がかかるようなことはしたくないのですけれど……。

「ハッ、バカかお前は。俺が何の対策もなしに、婚約破棄を言い渡すわけないだろう?
 俺はお前の妹――シスと婚約を結び直し、結婚する!
 これは、前々から2人で話し合っていたことだ。
 お前との結婚式を、2人の式にしようってな!」

「そ、それだけはやめた方がいいです。
 あの子と結婚するのだけは、本当に。
 確かにあの子は可愛いし、表向きはいい子です。
 ですが、あの子は――」

「――あー、はいはい。そういうの、見っともないから。
 俺との婚約破棄が嫌だからって、自分の妹にケチつけるとか、ほんとお前はクズだな。
 これだから芋女は嫌なんだよ!」

 ち、違うのに……。私はこの人のことなんてまったく愛していませんし、事実を言っているだけ。
 あの子は……私の妹はもう首が回らないぐらい、いろいろな所からお金を借りていて。
 そのせいで、何人もの恋人から捨てられてる。

 そして、次の被害者は婚約者のあなただって、言いたかっただけなのに……。

 まさか、もうここまで根回しされていたなんて。

 もう、婚約者はダメです。
 妹は借金すべてこの人に押しつけるつもりだし、結婚した暁にはさらに借金をするつもりです。

 あの子はもの凄い金遣いが荒いから……。

 というか、妹とどこで知り合ったのかしら?
 妹はとっくに、家を勘当されているのに……。



 あれから、本当に私は屋敷を追い出され、婚約者は妹と結婚してしまった。

 風の噂で聞いた話では、元・婚約者の屋敷にあった財産は、すべて借金返済で消えたそう。
 どれだけ借金してたの、あの子……。と、戦々恐々していたのは束の間、やっぱりすぐに借金し始めた……。

 絶対、元・婚約者は破産寸前だから、夜逃げする日もそう遠くないかもしれない。

 ……なんて。

 他人事のように思う、他人になった私は今、あの日屋敷に来ていた王太子と良好な関係を築いています。

 ほら見たことか。やっぱり、土いじりは恥ずかしいことじゃないし、好きだとも言ってもらえた。

 だから、私は今、とても幸せです!

                    ~完~
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】浮気相手の男爵令嬢を妊娠させた?色々と好きにやられたようなので、チョットいたずらしちゃいますね。

仰木 あん
恋愛
ショートショートです。 ノワール伯爵令嬢マリアの婚約者、ブラン侯爵令息のハルトは、浮気をしていた。 そして、相手のヴェール男爵令嬢ソフィアを妊娠させた所から始まる物語。 フィクションです。

やって良かったの声「婚約破棄してきた王太子殿下にざまぁしてやりましたわ!」

家紋武範
恋愛
 ポチャ娘のミゼット公爵令嬢は突然、王太子殿下より婚約破棄を受けてしまう。殿下の後ろにはピンクブロンドの男爵令嬢。  ミゼットは余りのショックで寝込んでしまうのだった。

姉に婚約者を奪われましたが、最後に笑うのは私です。

香取鞠里
恋愛
「カレン、すまない。僕は君の姉のキャシーを愛してしまったんだ。婚約破棄してくれ」  公爵家の令嬢の私、カレンは、姉であるキャシーの部屋で、婚約者だったはずのエリックに突如そう告げられた。  エリックの隣で勝ち誇ったようにこちらを見つめるのは、姉のキャシーだ。  昔からキャシーはずるい。  私の努力を横取りするだけでなく、今回は婚約者まで奪っていく。  けれど、婚約者が愛していたのは本当は姉ではなく──!?  姉も、そんな婚約者も、二人揃って転落人生!?  最後に笑うのは、婚約破棄された私だ。

私が聖女ではない?嘘吐き?婚約者の思い込みが残念なので正してあげます。

逢瀬あいりす
恋愛
私を嘘吐きの聖女と非難する婚約者。えーと、薄々気づいていましたが,貴方は思い込みが激しいようですね。わかりました。この機会に,しっかりきっちり話し合いましょう? 婚約破棄なら,そのあとでお願いしますね?

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

侯爵令嬢は罠にかかって

拓海のり
恋愛
ラシェルは候爵家の一人娘だったが、大人しくて地味な少女だった。しかし、どういう訳か王太子アーネストの婚約者に内定してしまう。断罪もざまぁもない地味な令嬢のお話です。設定は適当でふんわり設定です。 他サイトに投稿していた話です。

処理中です...