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第三話
孤独な女王2 ~攻防~
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ずんと、女王の身体が前に踏み出してきた。
女王の突進は、何の前触れもなく、唐突にやってきた。
気づいた時には、楓の首は、丸太のような右腕によって刈られていた。
力まかせのラリアット。
しかも、その威力は凄まじい。
あっという間に、身体が一回転して、マットに叩きつけられる。
そう、思われた。
だか、楓は回転の力を殺さずに、それを微妙に制御していつのまにか、女王”デビル・クイーン”の背後に回っていた。
そのまま両足を使って、後から首の関節を極めながら、”デビル・クイーン”の巨体を投げ飛ばしていた。
”デビル・クイーン”は、上下さかさまの姿勢で、脳天をマットにしたたかに打ちつけられた。
通常は正面から相手の首を両足で挟んで、脳天からマットに叩きつけるプロレス技であるヘッドシダースドロップのリバースとでも言うべき技である。
一時も止まらない流れるような動きで、楓はうつぶせになっている”デビル・クイーン”の巨体を軽々と持ち上げ、さらに背後に投げ捨てた。
投げ捨て式のジャーマンである。
旋風のような楓の動きはそれでも止まらない。
最初のラリアットの威力を利用したのと同様に、自分の投げ技の力さえ逃がさずに次の技に繋げてゆく。
ジャーマンのブリッジの体勢から、”デビル・クイーン”を投げながらそのままバク転していた。
最後にひねりを加えて着地すると、今度は仰向けに倒れている”デビル・クイーン”の巨体を右肩に担ぎ上げた。
そのまま、助走をつけて、コーナーポストに三角飛びで駆け登る。
セカンド。
トップロープ。
ステップは軽い。
とても、100キロ近い巨体を担いでいるとは思えない動きである。
コーナーポストの上で、ようやく止まった楓は、パワーボムの要領で姫子の巨体をリフトアップした。
おそるべきパワーが楓に宿っている。
頭上には、”デビル・クイーン”の巨躯が振り子の頂点で停止している。
力をためる。
一呼吸ほどの時間が、無限に長く感じられる。
試合はその時、時間を止めていた。
観客が息を飲む音さえ聞こえる。
一瞬の静寂。
最後はこの技で決めようと、思っていた。
神沢恭子の現役時代のフィニッシュ・ホールド、『フライング・パワーボム』で。
楓は飛んだ。
恐いほどの加速と落下の感覚が彼女をつつむ。
そして。
マットに人の体がぶつかる打撃音が会場を震わせた。
確かに、神沢恭子の決め技である『フライング・パワーボム』は威力があり、いい技であった。
しかし、”デビル・クイーン”をマットに這わすには少々力不足であったようだ。
普通の選手なら失神してもおかしくはない。
そんな衝撃が、”デビル・クイーン”を襲ったはずだ。
だが、絶妙のタイミングの受け身は技の威力を半減し、鍛えられた肉体は分厚い鎧と化してさらにダメージを分散させていた。
「わざと受けたのよ。楓さん」
女王は見下したような言葉を放つ。
顔には余裕の笑みが咲いている。
「うぐっ!」
突如、楓の表情が苦痛のために歪んだ。
楓は脇腹を押さえながらマットを転がった。
”デビル・クイーン”の右膝が、落下のわずかな隙にカウンターで入っていた。
皮肉にも、楓は自分のかけた技の威力を十分に味わうことになってしまった。
”デビル・クイーン”はゆっくりと立ち上がりながら、無防備な方の脇腹を爪先で蹴り上げた。
楓はうめきながら、のたうちまわった。
一見、地味な攻撃だが、楓の体力を奪うにはかなり効果的であった。
レフリーはさきほど”レッド”と衝突して、担架に乗って退場していたし、セコンドについていた若手たちはあまりの展開に思考停止に陥っていた。
さらに放送席はおろおろ混乱するばかりで、フロントは見てみぬふりを決め込んでいた。
マットの上ははもう、完全にふたりだけの世界であった。
邪魔者のいない、純粋に力だけが支配する空間である。
何故か、セコンドである神沢恭子はその双瞳をしっかりと見開いて、じっと楓の様子を凝視するばかりである。
全く手出ししようとせず、タオルを投げ入れる様子もない。
”デビル・クイーン”は容赦なく楓の身体に蹴りを叩き込んでいたぶり続けていた。
楓は身体を庇いながら、マットを転がり続けるしか術がない。
一方的なリンチのような展開になっていた。
そして、うずくまる楓の身体をひょいと肩に担ぐと、コーナーポストの最上段に登った。
すでに楓には身動きする力さえ残っていない。
”デビル・クイーン”の決め技『インフェルノ・タワー・スイング・ボム』は、通称インフェルノとだけ呼ばれている。
この技を受けて、そのまま病院送りとなり、帰って来なかった選手は多い。
それは相手選手に地獄の業火、まさにインフェルノと呼ばれるにふさわしい苦しみを与える。
当分、ベットの上を苦痛でのたうちまわることになるだろう。
静寂。
沈黙。
観客の息づかい、かすかな物音がリングに届くばかり。
スイングしながら頭上に掲げられた楓は、その凄まじい遠心力で意識が飛んでいた。
それは幸せなことかもしれない。
次に、身体を砕かれるような衝撃を味合わずに済むであろうから。
”デビル・クイーン”はトップロープを蹴り、空中に飛翔した。
死へのダイブによって楓は再び再起不能になるかもしれない。
落下の途中で楓は夢を見ていた。
女王の突進は、何の前触れもなく、唐突にやってきた。
気づいた時には、楓の首は、丸太のような右腕によって刈られていた。
力まかせのラリアット。
しかも、その威力は凄まじい。
あっという間に、身体が一回転して、マットに叩きつけられる。
そう、思われた。
だか、楓は回転の力を殺さずに、それを微妙に制御していつのまにか、女王”デビル・クイーン”の背後に回っていた。
そのまま両足を使って、後から首の関節を極めながら、”デビル・クイーン”の巨体を投げ飛ばしていた。
”デビル・クイーン”は、上下さかさまの姿勢で、脳天をマットにしたたかに打ちつけられた。
通常は正面から相手の首を両足で挟んで、脳天からマットに叩きつけるプロレス技であるヘッドシダースドロップのリバースとでも言うべき技である。
一時も止まらない流れるような動きで、楓はうつぶせになっている”デビル・クイーン”の巨体を軽々と持ち上げ、さらに背後に投げ捨てた。
投げ捨て式のジャーマンである。
旋風のような楓の動きはそれでも止まらない。
最初のラリアットの威力を利用したのと同様に、自分の投げ技の力さえ逃がさずに次の技に繋げてゆく。
ジャーマンのブリッジの体勢から、”デビル・クイーン”を投げながらそのままバク転していた。
最後にひねりを加えて着地すると、今度は仰向けに倒れている”デビル・クイーン”の巨体を右肩に担ぎ上げた。
そのまま、助走をつけて、コーナーポストに三角飛びで駆け登る。
セカンド。
トップロープ。
ステップは軽い。
とても、100キロ近い巨体を担いでいるとは思えない動きである。
コーナーポストの上で、ようやく止まった楓は、パワーボムの要領で姫子の巨体をリフトアップした。
おそるべきパワーが楓に宿っている。
頭上には、”デビル・クイーン”の巨躯が振り子の頂点で停止している。
力をためる。
一呼吸ほどの時間が、無限に長く感じられる。
試合はその時、時間を止めていた。
観客が息を飲む音さえ聞こえる。
一瞬の静寂。
最後はこの技で決めようと、思っていた。
神沢恭子の現役時代のフィニッシュ・ホールド、『フライング・パワーボム』で。
楓は飛んだ。
恐いほどの加速と落下の感覚が彼女をつつむ。
そして。
マットに人の体がぶつかる打撃音が会場を震わせた。
確かに、神沢恭子の決め技である『フライング・パワーボム』は威力があり、いい技であった。
しかし、”デビル・クイーン”をマットに這わすには少々力不足であったようだ。
普通の選手なら失神してもおかしくはない。
そんな衝撃が、”デビル・クイーン”を襲ったはずだ。
だが、絶妙のタイミングの受け身は技の威力を半減し、鍛えられた肉体は分厚い鎧と化してさらにダメージを分散させていた。
「わざと受けたのよ。楓さん」
女王は見下したような言葉を放つ。
顔には余裕の笑みが咲いている。
「うぐっ!」
突如、楓の表情が苦痛のために歪んだ。
楓は脇腹を押さえながらマットを転がった。
”デビル・クイーン”の右膝が、落下のわずかな隙にカウンターで入っていた。
皮肉にも、楓は自分のかけた技の威力を十分に味わうことになってしまった。
”デビル・クイーン”はゆっくりと立ち上がりながら、無防備な方の脇腹を爪先で蹴り上げた。
楓はうめきながら、のたうちまわった。
一見、地味な攻撃だが、楓の体力を奪うにはかなり効果的であった。
レフリーはさきほど”レッド”と衝突して、担架に乗って退場していたし、セコンドについていた若手たちはあまりの展開に思考停止に陥っていた。
さらに放送席はおろおろ混乱するばかりで、フロントは見てみぬふりを決め込んでいた。
マットの上ははもう、完全にふたりだけの世界であった。
邪魔者のいない、純粋に力だけが支配する空間である。
何故か、セコンドである神沢恭子はその双瞳をしっかりと見開いて、じっと楓の様子を凝視するばかりである。
全く手出ししようとせず、タオルを投げ入れる様子もない。
”デビル・クイーン”は容赦なく楓の身体に蹴りを叩き込んでいたぶり続けていた。
楓は身体を庇いながら、マットを転がり続けるしか術がない。
一方的なリンチのような展開になっていた。
そして、うずくまる楓の身体をひょいと肩に担ぐと、コーナーポストの最上段に登った。
すでに楓には身動きする力さえ残っていない。
”デビル・クイーン”の決め技『インフェルノ・タワー・スイング・ボム』は、通称インフェルノとだけ呼ばれている。
この技を受けて、そのまま病院送りとなり、帰って来なかった選手は多い。
それは相手選手に地獄の業火、まさにインフェルノと呼ばれるにふさわしい苦しみを与える。
当分、ベットの上を苦痛でのたうちまわることになるだろう。
静寂。
沈黙。
観客の息づかい、かすかな物音がリングに届くばかり。
スイングしながら頭上に掲げられた楓は、その凄まじい遠心力で意識が飛んでいた。
それは幸せなことかもしれない。
次に、身体を砕かれるような衝撃を味合わずに済むであろうから。
”デビル・クイーン”はトップロープを蹴り、空中に飛翔した。
死へのダイブによって楓は再び再起不能になるかもしれない。
落下の途中で楓は夢を見ていた。
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