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第七章 AIヒューマン

バリュースター

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「あれ、飛騨くんからのメールだわ。何か嫌な予感がするわ」

 ウェブ小説投稿サイト『作家でたまごごはん』の初代運営リーダーの神楽舞は、三代目リーダーに織田めぐみを指名し、作家生活を満喫していた。
 リアルサバゲー軍団に事務所が襲撃され、その後、失踪していた際に、神楽坂舞子名義で書いていた『お嬢様は悪役令嬢』が大ヒットして、人気小説家に転身していた。

 『作家でたまごごはん』には取締役として関わっていたが、生活の大半は原稿執筆に集中していた。
 が、複垢調査官『飛騨亜礼』からのメールによって、今流行りの人間を株式のように評価する《バリュースター》というIT企業に呼び出されることになった。

「で、飛騨くん、用件は何なの?」

 本当は心当りありまくりなんだけど、とりあえず、とぼけて、様子をうかがってみた。
 そこはそろそろ社会現象になりかけている新興IT企業<バリュースター>の会議室である。

「そこは私から説明させて頂きます。<バリュースター>の運営管理をしています、渡瀬紗英わたせさえと申します。結論から申しますと<バリュースター>の複垢問題の捜査協力を依頼したいのです」

 キラキラの笑顔でたぶん二十代前半のショートカット美少女が割り込んできた。今回の依頼人らしい。

「舞さんは今、<バリュースター>のランキング13位にいるじゃないですか。潜入捜査員としては最適なんです」

 何故かメガネくんも割り込んできた。
 二代目運営リーダーで坂本マリア事件などで活躍した『作家でたまごごはん』のバイトリーダーのメガネくんである。が、今は正社員になっている。
 本名は服部信三郎はっとりしんざぶろうとかいうらしいが、飛騨くんとはネットゲー繋がりがある。

 飛騨亜礼がようやく口を開いた。

「舞さん、担当編集の上山さんから聞いたんだが、『お嬢様は悪役令嬢』は第一巻は10万部のヒットだけど、第二巻が三万部に落ちて、三巻の」

「み、み、みなまで言うな――――!た、確かに三巻の発売が微妙で、編集部でもめてるらしいけど、<バリュースター>でのしあがって、ぜったい発売まで漕ぎ着けてやるんだから!二巻打ち切りなんか、断固、阻止よ!ダメ、絶対、打ち切り阻止よ!」

 売名目的であることを自ら告白してしまった。

 異世界転生小説家の本が三巻ぐらいで打ち切りになるのはよくある話である。
 第一巻で打ち切りになることも珍しくない。

「条件は<バリュースター>のピックアップ三ヶ月でどうかな?」

 飛騨がトドメを差した。

「それで、何をすればいいの?」

 背に腹は変えられない。
 ピックアップに取り上げられれば、注目リストの登録者数は飛躍的に増大して、ランキングも一桁に上がるかもしれない。
 『お嬢様は悪役令嬢』の三巻は絶対発売に漕ぎつける。

「とりあえず、<バリュースター>のオフ会に潜入してなりすましとかを調べて欲しい。そこら辺からかな。まずは<バリュースター>コミュティの調査になる」

 飛騨はダークブルーのサイバーグラスに黒のスーツといういつもの出で立ちで、舞を見つめ返した。
 相変わらず考えは読めない。
 
 人工知能と次世代の仮想通貨<バリューコイン>によって成り立つ、人間の株式市場、評価経済社会の実態を舞は知ることになる。

 数々の複垢事件を目撃してきた舞にとっても、それは驚くべき体験になるだろう。







(あとがき)

 「複垢調査官 飛騨亜礼」は第四章~六章が長らく未完になってましたが、何となく〔無理やり?〕終わったので、人工知能✕VALUの小説の第七章に繋がりました。

複垢調査官 飛騨亜礼〔カクヨム版〕
https://kakuyomu.jp/works/4852201425154917720
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