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23 <Hシーン注意>

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 それなのに頭の片隅のほんの一部がシンと冷え込み、そこにある昏い瞳が自分を詰るように見ているのだ。

(また、八つ当たりか……)
 自分はいつもいつも鬱屈をぶつけるだけのために、ひとを組み敷いている。いつまで同じことを繰り返す? この愚行にはいつか終わりくるのだろうか。その終わりのときは、自分が朽ち果てるときなのだろうか、それとも昇華するときなのか。

 自分はあとどれだけの人間を抱けばいいのだろうか。あとなんど抱けばいいのだろうか。抱くことが間違いであるのなら、では殴ればいいのか。
 それとも――、抱くのがこの少年であるのならば、また違う結果が得られるのだろうか。

 彼はいままでに恭介の周りにはいなかったタイプの人間だ。馬鹿なふりを装いながら恭介のプライドをギリギリと高めていく。そうしておいてからどうやって見つけるのか、恭介本人でさえ知らない小さな入り口からするっと胸の裡にはいりこんできて、そのなかにある張りつめた琴線をゆるっと撫であげるのだ。腹が立つのに心地よいその彼の所業に、結局は恭介は陥落してきた。

 彼が恭介の緩衝材となって、張りつめた気持ちを宥めてくれるときのように、嫉妬も憎悪も情欲も、おなじように宥めてくれるのならば、どれほど幸せなのだろう。

「んっ……ちょっ、先輩、痛いっ、爪! 猫じゃあるまいしっ、爪を立てないでっ」
 深く合わせたキスから顔を背けた奈緒紀が、顔に添えていた恭介の手を強く払った。もういちど彼の顎を掴んで確かめてみると、恭介の爪が食いこんでいた耳の下あたりから血がでている。舌を伸ばして舐めとると、奈緒紀はちいさく呻いた。

「……猫はお前だろ」
 それもあっちこっちをうろついて、餌と愛情を掠めてとっていくたちの悪い野良猫だ。その愛らしい手を伸ばし、鋭い爪でひとから愛を掠め取っていく。

 引っ掛れたほうには、ちいさな傷ができるのだ。恭介が奈緒紀につけられたそのちいさな傷あとは、みるみるうちに綻んでいった。ならいっそ、そこに指をつっこんで押し開いてみようか。
 なかから出てきたその胞衣えなを、この少年にぶちまけてしまうのもいいかもしれない。そこに生まれたものすべてを、彼に受け止めてもらいたい。

「丈夫そうだし、もうお前でいっか」
「なんか先輩、云ってることチョー失礼じゃない?」
 恭介が貸した服は彼にはぶかぶかで、簡単に裾のなかに手を突っこむことができた。

 温かい滑らか皮膚を手のひらで撫でさすると、彼の肌は一瞬だけ泡立つように手触りを変えた。でもそれは拒否反応ではない。なぜなら奈緒紀も自分とおなじように、下腹部を昂らせていたからだ。
 もっとしっかり密着したくて、奈緒紀の着ていたシャツを胸のうえまでたくしあげた恭介は、彼の胸にぴたっと頬を押しつけた。

 頬に感じるすべすべの質感と体温にうっとりとして息をく。奈緒紀の心臓の音がどきどきと脈打っていることに、こいつも興奮してるのかと恭介嘲 あざけた。

「抵抗しないのか? ちびっ子だって強いんだろ?」
「ちびっ子、云うなっ」
「さすが奈緒紀だな。上等」
「――ふぅっ」

 奈緒紀の胸のうえでこっそりと笑うと、吐息が擽ったかったのか、彼が甘い声をあげた。ついでに目のまえのちいさな胸の突起を抓んで、もういちど奈緒紀を喘がしてみる。
 そしてその肌の手触りを愉しみながら上体を伸びあがらすと、恭介はふたたび奈緒紀の唇に自分の唇を触れあわせた。

 薄暗いなか衣擦れの僅かな音と、ピチャピチャとお互いの唾液の泡たつ水音がする。甘い彼の口のなかを味わう恭介の頬を、潮風がやさしく嬲っていった。
「……んっ……っ……」
 奈緒紀の顔を掴んで口づけながら、胸を弄っていたほうの手を、彼のベルトのバックルへとずらす。しかし片手ではそれを外すことはできず、恭介はキスを断念して上体を起こすことにした。

 逃げられはしないかと焦りながら、戒めるように奈緒紀の顔を睨めつけた恭介は、ベルトが外れると、彼の下着とボトムをまとめていっきに膝までずらした。
 下肢を晒されても奈緒紀は、じっとしていた。彼はずっと恭介の肩越しにあらぬどこかを見つめているのだ。

 それが対岸のイルミネーションなのか月なのか、どこでもない空の一点なのかわからなかったが、そんなことを確かめる余裕なんて恭介にはなかった。これほどに誰かを前にして衝動に突き動かされることは、はじめてなのだ。

 油断してもいいのだろうか。猜疑心もあったが欲には勝てず、恭介は彼の顔から視線をはずして、かわりに彼の腹のした、彼の男の印を見下ろした。

 ついさっきキスで布越しでもわかるくらいに固くなっていたそれは、いまは柔らかそうな薄毛のしたでくったりとしている。

 緊張しているのかそれとも不愉快なのか……。そう思うと加虐心が湧いたが、しかし投げだされた腕のさき、芝を緩く掴むようにしている彼の指が細かく震えていることに気づくと、恭介はたまらずぎっと唇を咬んだ。口では強気なことを云っていても、奈緒紀だって本当は怖いのだ。それでもやめてやれない。
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